「タヌキが出るところに店を出せ」イオンの成長を支える"驚きの立地戦略"
プレジデントオンライン / 2021年11月13日 10時15分
※本稿は、東海友和『イオンを創った男』(プレジデント社)の一部を抜粋・再編集したものです。
■ショッピングセンターができれば、他の店もできる
立地はつねに変化している。
昔、一等地といえば交差点の角で、あるのは銀行だった。が、今ではそんなところに支店を出しているところはない。
商業立地では、かつては商店街、そこからロードサイドへ、さらに郊外のショピングセンターへと変遷している。また、一方で都心回帰の傾向もある。
イオンの立地戦略の特徴は、「立地創造」である。
現在の繁華街に出店をするのではなく、「キツネやタヌキが出るようなところ」にショッピングセンターを作る。ショッピングセンターが出来上がると、周りには他の店舗や飲食などが出店してくる。もちろん他のサービス業も加わり、新しい商業集団やミニ都市が形成される。
たとえ、近隣に何もなくても、巨大な駐車場を完備したショッピングセンターをよしとする。
それは、新幹線の駅でも同様で、既存の駅につくるよりも地方都市の何もないところに巨大な駐車場付きの駅を新しく作るとしたら、どちらが乗降客が多いか? といったら、駐車場付きの駅だという。
つまり、みんな遠くからでも車でやってきて、新幹線に乗り換えて目的地まで行くからというのである。
■20キロ離れたところも商圏になっていた
キツネやタヌキが人より多いというわけではないが、事実、青森県おいらせ町のイオンモール下田は、八戸や十和田からもお客様がいらっしゃる。つくった当初は20キロ以上離れたところも、十分に商圏となっていた。
当然、キツネやタヌキが出るようなところならば、地価も安い。
経営的には地価が安いことは第一条件である。土地や建物の投資は低いほうがよく、投資回収期間は短い方が良い。PL志向ではなく、BS志向、長期適合志向である。
なによりも、立地では広域を狙う。遠くから一目で見えるといった視認性がよく、駐車場もたっぷりとることができる場所。結果、工場、農地、東北地方では元果樹園だったところも多い。
■「土日に客足が集中する土地」は将来性がある
もうひとつ、立地に関して「高齢か若いか」といった表現もしている。繁閑差の大きいところは立地が若いという。
つまり、平日には客足があるものの、土日には閉店している店が多かったり、客足が少ないというのは、すでに立地としては高齢化していて、将来性は少ない。一方、土日に客足が集中し、平日との売上に差があるようなところは立地が若い。将来性があるといっている。
そして、立地が若いところは、短期的に見れば一週間のうちの二日間、土日しか儲かっていないようだけれど、中期的に見るとそうとも言えないと。こちらでも中長期的な視点で適合するか否かを見ている。
同時に、いま儲かっているところが永久に儲かるわけではないといった、現状に安住しないといった警鐘をも含んでいる。
イオンの出店戦略とショピングセンター戦略はこのように独自性をもち、他社の追随を許さないノウハウと歴史を持っている。したがって、イオンの出店基準のハードルはとても高い。
■「第3セクター」方式のところには出店しない
また、岡田は世間でよくある地方自治体や地元が主導する「第3セクター」方式の店舗には出店しないと決めている。
たとえば、立地は繁華街、施設店舗の設計者は著名ではあるが商業者の使い易さを無視した構造やレイアウトなど、結果としてコストも高いところが多い。加えて施設運営も役所優先で無責任体制となる。
岡田はどうしても出店しなくてはならないところは、共有ではなく、区分所有として自社の自由度を確保するよう指示する。つまり、自社のコントロール不可能領域を最小限に抑えようとしているのである。
今日、このような施設に出店した同業者はすべて退店し、その姿はないのがほとんどである。
■「店になっていない店」はただの建物
出店したらそれで終わりではない。出店した店舗や施設が、お客様にとっての「店」になっているかどうか。お客様にとって便利で、必要とするもの、買いたいと思うものがあるところ、それが店である。
一方、お客様から見て、すでに店ではない店、建物が多いと岡田はいう。
ひとくちでいえば「お客様を無視した店」「お客様のニーズに合致しない店」のことである。
たとえば、お客様の要望を無視して自分の売りたいものを並べる店、お客様にとって不便な店、自分の都合により営業日・営業時間をころころと変えるところさえある。ようは独りよがりの店である。
そういった施設や建物はあっても、「店になっていない店」を岡田は極端に嫌う。
「お客様にとって不便な場所にあり、しかもわざわざ出向くに値しない店は、お客様から見て単なる建物にすぎない」とし、「時代やお客様とともに自ら考えて、自ら変わっていく。そうすることで便利さを提供しつづける」ことが必要だという。
■「店」とは公のものである
岡田は若いころから「店は客のためにある」という精神がしっかりと身についている。
店は「私」のものでなく、その存在は「公」である。だから、「私」の好みや便利ではなく、「公」から見てどうかという視点から見る。
つまり、お客様の視点である。店舗立地、構造、レイアウト、品揃え、棚割り、価格等、そういった細かい点にも具体的でとてもうるさい。店舗巡回時にはそのことしか話題にしなかったと言っても過言ではない。
同時にコスト面では、吹き抜けのエントランス、広すぎる通路、バックルームの広さ、広い事務所、過度な外観等、お客様の利便性に無関係なものには、「なぜあんなもん必要なんや」とまったく興味関心をもたなかった。機能追求型である。
幕張に本社が完成したときに、当時の社長・二木英徳氏に向かって「私の一番の失敗はこの本社をつくったことかもしれんな」と言ったという。
立派な本社に勤める社員は、会社が立派になり、自分も立派になったと勘違いをするからである。お客様(消費者)にとって本社がどうであろうと何ら関係ないにもかかわらず、である。
■「和菓子屋から地域を学べ」
岡田は地域特性についても敏感である。それぞれの地域には、大きな地域特性に加え、そこにしかない限定の商売・商品が存在するものである。
たとえば、これはひとつの例であるが、その地域しかない「和菓子」屋さんである。長年そこで地元に愛され連綿と生きてきた和菓子である。店舗巡回時には、「あの和菓子おいてないな」、「ここの名物和菓子はなんや」という問いかけをすることがままあった。和菓子屋は日本中のどこの商店街にも必ず立派な店がある。
商品はすべてオリジナルブランドで、しかも伝統ものれんもある。そういった和菓子屋から地域を学べという。そうして地域を知るということはどういうことであるか具体的に教える。
■お客様のことを考える企業だけが勝ち続ける
私が奈良県生駒の店長になったとき、夏のそうめん売場に並んでいるのは兵庫県の「揖保乃糸」ばかりであった。
奈良県は三輪そうめんで有名な産地であるにもかかわらず商品部員はそれを知らない。そこで、催し広場で三輪そうめんの生産者による「手延べそうめんの実演」をやったところ、初めてみる手延べの実演で人気を博した。
それを契機に三輪そうめんを定番として品揃えをしたところ瞬く間にメインの商品となった。
話はそれるが、出店の際の店舗名には、地名には歴史があり意味合いがあり地元の人に聞いてみるというのも一つの知恵である。
いずれにせよ、店が店になっていないとは当事者はなかなか気づかないものである。
長年のうちに、特に品揃えでは「わが社基準」、「メーカー基準」になっていることが多い。
それではお客様にとってはもはや店ではない。単なる建物、施設でしかない。
岡田は、歴史から勝ちのこり続ける企業はつねにお客様のことを考える企業であることを知っているのである。
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東和コンサルティング代表
三重県生まれ。岡田屋(現イオン株式会社)にて人事教育を中心に総務・営業・店舗開発・新規事業・経営監査などを経て、創業者小嶋千鶴子氏の私設美術館の設立にかかわる。美術館の運営責任者として数々の企画展をプロデュース、後に公益財団法人岡田文化財団の事務局長を務める。その後独立して現在、株式会社東和コンサルティングの代表取締役、公益法人・一般企業のマネジメントと人と組織を中心にコンサル活動をしている。著書に『イオンを創った女』(プレジデント社)、『イオン人本主義の成長経営哲学』(ソニー・マガジンズ)、『商業基礎講座』(全5巻)(非売品、中小企業庁所管の株式会社全国商店街支援センターからの依頼で執筆した商店経営者のためのテキスト)がある。
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(東和コンサルティング代表 東海 友和)
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