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現代自動車、サムスン電子、LG化学…文在寅政権で「韓国企業の韓国脱出」が相次ぐワケ

プレジデントオンライン / 2021年12月6日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Mrinal Pal

■米シティグループが韓国リテール事業から撤退

足許、韓国から撤退する海外企業が増えている。カナダの大手銀行であるノヴァ・スコシア銀行が韓国からの撤退を決めた。また、米シティグループ(シティ)は韓国リテール事業の撤退によって最大15億ドル(約1695億円)が発生すると発表した。

韓国から脱出しているのは海外の企業だけではない。韓国の大手企業は海外への直接投資を増やしている。例えば、サムスン電子は米国に加えて、インドやベトナムなどのアジア新興国でスマートフォンなどの生産能力を引き上げている。韓国最大の企業である同社の海外事業の強化は、他の韓国企業や金融機関の海外進出を加速させる要因だ。

韓国を去る企業の増加の背景には、文政権の労働関連規制の強化、家計の債務リスクなど複合的な要因が影響している。短期間で韓国の労働市場の規制が緩和される展開は期待しづらい。新型コロナウイルスの変異株の出現など韓国経済の不確定要素も増えている。

中長期的な目線で考えると韓国では人口が減少し経済が縮小均衡に向かうだろう。より高い成長期待や従順な労働力を求めて韓国から撤退する海外の企業や、拠点を海外に移す韓国の企業は一段と増える展開が予想される。

■シティ撤退の一因となった「増え続ける家計の債務残高」

2019年以降、韓国の対内直接投資は減少傾向だ。足許では、外資系の金融機関による韓国撤退が目立つ。その一方で、韓国企業による対外直接投資はコロナ禍の影響による落ち込みはあるものの、増勢を維持している。サムスン電子をはじめ財閥系大手企業では、先端分野を中心に海外直接投資を増やす方針が鮮明だ。

外資系の金融機関が撤退する背景には、韓国の硬直的な労働市場や金融規制、韓国の家計部門の債務リスクがある。その中でも、家計の債務問題の影響は大きい。韓国では所得の減少によって借り入れに頼らざるを得ない人が増え、家計の債務残高はGDPの規模を上回った。その状況は持続可能ではない。徐々に家計部門の不良債権は増えるだろう。不良債権が増える中で景気減速が鮮明となれば、韓国の金融システム不安が発生する可能性は排除できない。

そうした懸念は、米シティの韓国撤退から確認できる。2021年4月にシティはグローバルな個人金融事業のリストラの一環として韓国事業の撤退を発表した。シティは韓国事業の売却を目指したが買い手が見つからず、最終的に韓国事業を清算し、費用を計上する。

■現代自動車、サムスン電子、LG化学も…

債務残高の増加などを理由に、韓国の個人金融ビジネスのリスクを取りたくないと考える海外の金融機関は多い。非金融分野でも、韓国での事業運営を慎重に考える企業が増えている。例えば、米GMは販売市場としては韓国を重視しているが、韓国での生産に慎重な姿勢を強めている。

一方、韓国の企業は、海外直接投資を積み増している。足許ではベトナムに加えて、インドネシアに直接投資を行う韓国企業が多い。現代自動車はEV完成車工場を建設し、自動車部品や金融機関も進出している。また、米国にてサムスン電子は最先端の半導体工場を建設する。LG化学などは米国、欧州、東南アジア新興国などで車載バッテリーの生産体制を強化し、成長期待の高い市場への進出をより重視している。

■なぜ企業の“韓国脱出”が増えているのか

逆に言えば、国内外の企業にとって、韓国で成長を目指すことが難しくなっている。その最大の原因は、文在寅(ムン・ジェイン)大統領の経済政策だ。文政権は、重要な支持基盤の一つである労働組合の意向を重視して経済政策を実施した。その結果、企業は事業運営の効率性を高めることが難しい。

2021年11月21日、韓国ソウルで開催された公共放送KBS主催の全国放送タウンホールミーティングに出席した文在寅大統領
2021年11月21日、韓国ソウルで開催された公共放送KBS主催の全国放送タウンホールミーティングに出席した文在寅大統領(写真=EPA/時事通信フォト)

2022年1月に施行が予定されている“重大災害処罰法”はその象徴といえる。重大災害処罰法は、死者が1人以上発生する、あるいは負傷者の発生を重大災害と定め、企業の代表取締役などに、下請け業者を含む事業の従事者と、材料や製品などを利用する市民を保護する責任を課す。

重大災害処罰法に関して、韓国内外の企業からは対応しなければならない範囲が非常に広く、どのような取り組みを行えば経営者の責任が問われないかも明確ではないとの懸念が表明されている。それに加えて、2021年9月に施行令が公表されてから施行までの期間も短い。韓国で事業を運営する企業にとって重大災害処罰法の遵守は難しく、企業の事業運営にかなりの負担が生じるとの懸念は強いようだ。しかし、文政権はそうした企業サイドの要望に応え、労使の協調が目指されやすい環境を整備する姿勢を示していない。

■このままでは長期の事業運営が見込めない

それに加えて、韓国では労使の対立が厳しさを増している。11月に入り、韓国で移動規制が緩和された。その結果、感染の再拡大が深刻化したにもかかわらず、労働組合は待遇改善を求めてデモを行っている。

労働関連規制が強化され、労働組合が賃上げなどの要求を強める状況において、韓国内外の企業経営者が従業員との信頼関係を強化し、長期の視点で事業運営を目指すことは難しい。内外の企業は韓国での採用にも慎重にならざるを得ない。その結果、企業が長期の視点で人材を確保し、OJTなどの実施によって製造技術や組織運営のノウハウを伝承することは難しい。

そうした考えを背景に、人件費が低く、従順に指示に従ってくれる労働者を確保するために韓国から撤退する、あるいは事業拠点を海外に移す内外の企業が増加している。

■ヒト・モノ・カネの海外流出が増える

今後も、韓国から脱出する内外の企業は増えるだろう。秋口以降、韓国株の上値が重い背景の一つには、企業の脱出によってヒト・モノ・カネの海外流出が増えるとの主要投資家の懸念がある。

目先の展開を考えると、韓国経済の不確実性要因が増えている。感染再拡大が続く中で新たな変異株が韓国経済にどう影響するかは今後の感染動向などを確認しなければならない。

韓国の街並み
写真=iStock.com/Marco_Piunti
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Marco_Piunti

その一方で、不動産価格の高騰によって家計の債務残高は増加する可能性がある。今のところ韓国銀行は不動産価格の高騰を抑えるために追加利上げを重視しており、金利は上昇する可能性がある。金利が上昇すれば家計の利払い負担は増加し、デフォルトに陥る家計は増えるだろう。その状況下、韓国事業の縮小や撤退を重視し、より安定した事業環境を海外に求める内外の企業は増えるだろう。労働市場の規制改革に関しては、韓国政府が迅速に、国内外の企業の要望に答える展開が期待しづらい。

■韓国の“産業空洞化”が起きる恐れ

世界的なサプライチェーン再編の影響も大きい。米中対立や中国経済の成長懸念の高まりを理由に、生産拠点を中国からベトナムなどに移す企業が増えた。さらに2021年夏場に東南アジアで新型コロナウイルスの感染が再拡大した結果、ベトナムでの自動車部品の生産が停滞した。サプライチェーンのリスクをさらに分散しようと、ベトナムから別のアジア新興国などに生産拠点を移す企業が増えている。そうした変化は、韓国企業の海外直接投資を増加させ、韓国金融機関の海外事業強化にもつながるだろう。

やや長めの目線で考えると、人口減少の影響が懸念される。2020年の韓国の合計特殊出生率は0.84に低下し、統計が開始されて以来で初めて人口は減少に転じた。労使対立などを背景に若年層の雇用・所得環境が厳しい状況下、若い人が将来に希望をもって家族を養育することは一段と難しくなるだろう。人口減少は勢いづき、韓国経済の縮小均衡ペースは加速する恐れがある。中長期的に韓国内外の企業にとって、より成長期待の高い国や地域に拠点を移す意義は一段と高まる。韓国の産業空洞化と社会と経済の閉塞感の上昇が懸念される。

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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
法政大学大学院 教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。

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(法政大学大学院 教授 真壁 昭夫)

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