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食べるだけで「太りにくい体」に変わる…脳内の遺伝子スイッチを切り替える"ある穀物"

プレジデントオンライン / 2022年4月18日 17時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/isa-7777

「太りにくい体」に変わるには、どうすればいいのか。内科医の奥田昌子さんは「肥満しやすいかどうかは、母親のお腹の中にいるときの環境や乳児期の栄養状態が影響すると考えられている。だが、成人後の生活習慣を変えることで、体質を変えることもできる」という――。

※本稿は、奥田昌子『日本人の「遺伝子」からみた病気になりにくい体質のつくりかた』(講談社ブルーバックス)の一部を再編集したものです。

■「肥満しにくい体」を手に入れる4つの関門

現代型の高脂肪、高カロリーの食事は、人が近代まで摂取していた食事とは質が大きく異なります。生きものは環境が変化しても絶滅をまぬがれることができるように、多様性という戦略を編み出しました。同じ遺伝子でも一部が微妙に異なる遺伝子多型、いわゆる遺伝子のタイプの違いがその一つです。また、遺伝子のスイッチがどう入るかも人それぞれで、ここから体質の違いが生まれます。

けれども、近代以降の生活の変化は人が適応できる速度を超えていました。その代表が食の欧米化であり、近代化にともなう運動不足であり、その結果もたらされた肥満率の上昇です。

生活習慣の問題が大きいとはいえ、背景にある遺伝子の状態を含めて考えると、現代人が「肥満しにくい体」を手に入れるには、少なくとも4つの関門を無事に通過する必要があると考えられます。

■人間の「設計図」は受精卵ができる瞬間に決まる

最初の関門は受精卵ができる瞬間に訪れます。このとき、どんな「設計図」を持って生まれるかが決まるからです。遺伝子のタイプは生まれつきのもので一生変わりませんし、両親、さらには祖父母の生活習慣や経験が遺伝子のスイッチを変え、そのまま子どもに伝わることがあります。

とはいえ、仮に基礎代謝が低くなるタイプの遺伝子を持って生まれた人も、若いうちは基礎代謝が低くないという話があります。こういう人の基礎代謝が実際に下がるのは40歳を過ぎてからで、しかも必ずしも太るとは限らないようです。

2017年に発表された研究結果(*1)によると、遺伝子が肥満に与える影響は30%に過ぎず、残りの70%は生活習慣で決まります。

40代になると基礎代謝が下がり始めるのは、積もり積もった不適切な生活習慣によるものでしょう。太りやすい体質を自覚して生活習慣に気をつけることで、多くの人が遺伝によるハンデを乗り越えているのです。

■お腹の中で起きる遺伝子スイッチの切り替え

第2の関門が、お母さんのお腹にいるときの環境です。お腹にいるときと、生後間もない時期の環境が赤ちゃんの脳や体に影響を及ぼすという考えかたがあり、DOHaD仮説(Developmental Origins of Health and Disease)と呼ばれています。

妊婦さんが飢餓やストレスに見舞われると、お腹にいる赤ちゃんは遺伝子のスイッチを切り替えて生き延びようとするのですが、これにより、赤ちゃんは成長してから生活習慣病や肥満、心の病気の発生率が上がります。

これに対して、日本で実施され、2020年に結果が報告された研究によれば、妊娠中に食物繊維を多く食べた母マウスから生まれた子マウスは、そうでない子マウスとくらべ、人でいうと成人にあたる生後16週での体重が約20%少ないことがわかりました(*2)

ここに関与しているのが、善玉菌が食物繊維を分解してできる短鎖脂肪酸という物質です。短鎖脂肪酸はお母さんの栄養になるだけでなく、お腹にいる赤ちゃんの体に入ってさまざまな臓器に働きかけることで子どもの肥満をおさえ、メタボリックシンドロームを予防する役割を果たしていると考えられています。妊婦さんが食物繊維をしっかり摂取すると、子どもが太りにくくなる可能性があるということです。

■粉ミルクより母乳で育てた方が太りにくい

第3が、生まれてから成人するまでの時期です。欧州5カ国で1000人以上の乳児を対象に実施された調査によれば、粉ミルクで育った子どもは、母乳で育った子どもとくらべて6歳の時点で肥満になる確率が2.4倍高かったのです。この原因は、通常の粉ミルクに母乳より高い濃度で蛋白質が含まれていることです(*3)

蛋白質を多く摂取すると成長が速くなるため、粉ミルクを飲んでいる子は母乳で育つ子とくらべ、同じ量のミルクを飲んでも満腹感が平均67%しか得られないようです。その結果、おそらくは脳の報酬系にエピジェネティクス変異(遺伝子スイッチの変化を通じて遺伝子の働く強さが変わること)が起きて太りやすくなると考えられています。

その逆に、母乳で育った子どもは太りにくいことを示す報告があります。マウスを使った実験ながら、母乳に含まれる物質の働きで、子マウスが持つ、脂肪を燃焼させる遺伝子のスイッチがオンになり、活発に働くようになります(*4)

赤ちゃんに母乳をあげる母親
写真=iStock.com/Aliseenko
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Aliseenko

乳児期の栄養は大人になってからの健康にも深くかかわる可能性があるわけです。

ただし、ここでお伝えしておきたいのは、母乳が十分出ない、お母さんが仕事を休めない、赤ちゃんが母乳を飲みたがらないなどの理由で母乳を十分にあげられなかった場合でも、それだけで子どもが将来肥満するとは限らないということです。この時期までに遺伝子のスイッチが不利な状態になっていても、その後の人生でいくらでも挽回できます。

■成人後の生活習慣で遺伝子スイッチはオン・オフできる

それを決めるのが第4の関門、成人になってからの生活習慣です。体の「設計図」であるゲノムや幼いころの環境を自分で選ぶことはできませんが、成人後の生活習慣次第で悪い遺伝子のスイッチを切ったり、健康に役立つ遺伝子のスイッチを入れたりできることが明らかになってきています。

動物性脂肪を食べ過ぎると脂肪を多く含む食品への依存が発生します。これを聞いて、「どうやら自分も依存症みたいだ。今さら抜け出すことはできないんだろうか?」と感じた人がいるかもしれません。

抜け出すための鍵はすでにみつかっています。動物性脂肪の依存症になって肥満したマウスの脳ではエピジェネティクス変異が起きていて、ドーパミンを受け取る構造を作るよう指令を出す遺伝子のスイッチがオフになっていました。

そのため、遺伝子のスイッチが切れるのをじゃまする物質を使って遺伝子をオンにしたところ、マウスは動物性脂肪を多く含む餌を以前ほど食べなくなりました。取りつかれたように動物性脂肪を食べていたのが嘘のようです。

■動物性脂肪への依存症をやわらげる玄米

もちろん、こんな危険な物質を人に使うわけにはいきません。2021年の時点で遺伝子のスイッチを切り替える技術に関する明確な規制はないため、使用しただけで罰せられることはありませんが、スイッチがオフでなければいけない他の遺伝子までオンにしてしまう恐れがある以上、投与は慎重に検討すべきです。

でも大丈夫、もっと安全な選択肢があります。玄米です。玄米に含まれるγ-オリザノールという成分は脳で起きた好ましくないエピジェネティクス変異を修正して、動物性脂肪への依存症をやわらげると報告されています(*5)

【図表1】高脂肪食への依存が玄米で改善する
出所=奥田昌子『日本人の「遺伝子」からみた病気になりにくい体質のつくりかた』

図表1の上に描いたように、稲の籾を包む固い籾殻を除いたものが玄米で、ここからさらに糠と胚芽をはがすと白米になります。γ-オリザノールは稲の糠に含まれているため、白米からは摂取できません。

人での研究も始まっています。メタボリックシンドロームに該当する日本人男性を2つのグループに分けて、白米と玄米を2カ月ずつ食べてもらう実験を行いました。

他の食品の摂取量は同じで、白米だけを同じカロリーの玄米に置き換えています。

■玄米を2カ月食べると体重とBMI、内臓脂肪が減少

すると、白米を2カ月食べたあとで玄米を2カ月食べると体重とBMIが減少し、インスリンの効き目がよくなるとともに、総コレステロール値と悪玉コレステロール(LDL)値が改善しました。さらに、玄米を食べているあいだだけ内臓脂肪が明らかに少なくなった一方で、皮下脂肪の量は変わらなかったこともわかりました。図表1のグラフは体重の変化をまとめたものです。

内臓脂肪は皮下脂肪とくらべてやっかいな脂肪で、生活習慣病やがんを引き起こします。玄米は有害な内臓脂肪に集中的に働きかけてくれるわけです。

ところが、玄米を2カ月食べたあとで白米を2カ月食べたグループは、体重が増加しただけでなく、玄米を食べているあいだに起きた望ましい効果が消えて、実験開始時の状態に戻ってしまいました。

最近は玄米の健康効果が知られるようになり、産地や栽培方法にこだわって購入する人もいます。しかし歴史を振り返れば、精米技術が進歩した江戸時代以降、玄米を含む雑穀は白米より軽んじられる傾向が続いていました。

そんななかでも、「いや、健康のためには玄米を食べるほうがよい」という思想が受け継がれ、実践していた人が少なくありませんでした。医学的な知識はなくとも、玄米と白米のどちらを食べるかで体調が違うことを肌で感じていたのでしょう。

■食物繊維が多い玄米はとにかく健康に良い

肥満防止にはγ-オリザノールだけでなく、白米とくらべて玄米に6倍多く含まれる食物繊維も大きな役割を果たします。その主役は先ほども述べたように、食物繊維を分解してできる短鎖脂肪酸です。

奥田昌子『日本人の「遺伝子」からみた病気になりにくい体質のつくりかた』(講談社ブルーバックス)
奥田昌子『日本人の「遺伝子」からみた病気になりにくい体質のつくりかた』(講談社ブルーバックス)

短鎖脂肪酸には他にも健康効果があり、大腸でのカルシウム、マグネシウム、鉄の吸収を促すとともに、肝臓でコレステロールが作られるのをおさえ、さらには大腸の粘膜に発生した異常な細胞にアポトーシスを起こさせて、がんになりにくくすると考えられています。アポトーシスは細胞死ともいい、細胞を破壊して体を守るためのしくみです。

妊婦さんが食物繊維をしっかり摂取すれば子どもの肥満防止に役立つ可能性があるだけでなく、東アジア人は食物繊維を多く摂取すると糖尿病の数値が改善し、日本人は心臓病や高血圧を発症しにくくなります。

日本で食物繊維の摂取が減った大きな原因が、玄米や大麦、雑穀に代表される穀物をあまり食べなくなったことです。日本人の腸には諸外国の人とくらべて善玉菌が多くいるのに、その餌となる食物繊維が不足していたら善玉菌も働きようがありません。

*1 Genome-wide association study identifies 112 new loci for body mass index in the Japanese population, Akiyama M et al., Nature Genetics, 49, 2017
*2 Maternal gut microbiota in pregnancy influences offspring metabolic phenotype in mice, Kimura I et al., Science, 367(6481), 2020
*3 The Impact of Human Milk Feeding on Long-Term Risk of Obesity and Cardiovascular Disease, Singhal A, Breastfeeding Medicine, 14(S1), 2019
*4 Role of DNA methylation in the regulation of lipogenic glycerol-3-phosphate acyltransferase 1 gene expression in the mouse neonatal liver, Ehara T et al., Diabetes, 61(10), 2012
*5 Impact of brown rice-specific γ-oryzanol on epigenetic modulation of dopamine D2 receptors in brain striatum in high-fat-diet-induced obesity in mice, Kozuka C et al., Diabetologia, 60(8), 2017

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奥田 昌子(おくだ・まさこ)
内科医
京都大学大学院医学研究科修了。京都大学博士(医学)。医学部卒業後、博士課程に進み基礎研究に従事。生命とは何か、健康とは何かを考えるなかで予防医学の理念にひかれ、健診ならびに人間ドック実施機関で30万人近くの診察/診療にあたる。海外医学文献と医学書の翻訳もおこなってきた。現在は産業医を兼務し、ストレス対応を含む総合診療を続けている。愛知県出身。著書に『欧米人とはこんなに違った日本人の「体質」』『日本人の「遺伝子」からみた病気になりにくい体質のつくりかた』(ともに講談社ブルーバックス)、『内臓脂肪を最速で落とす』(幻冬舎新書)、『日本人の病気と食の歴史』(ベスト新書)など多数。

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(内科医 奥田 昌子)

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