ますます眠れなくなる…精神科医が力説する「寝る前の2時間」にやってはいけないこと3つ
プレジデントオンライン / 2022年4月25日 8時15分
■若い人ほど睡眠時間が必要
睡眠障害はメンタルヘルス不調の代表的な初期症状の一つです。逆もまた然りで、質の良い睡眠をとることは、うつ病などのメンタルヘルス不調の予防にもつながります。
睡眠をととのえるために、まず考えたいのが「睡眠時間」です。「睡眠時間はどれぐらいとればいいのですか?」とよく聞かれますが、正解は「人によって異なる」としか言いようがありません。一概には言いにくいのですが、一般的には7時間ぐらいは寝たほうがいいといわれます。
若い人ほど睡眠時間は多く必要です。高齢になるほど必要な睡眠時間は減少していき、60歳代で平均6.5時間ぐらいといわれます。20代なら8時間ぐらいは必要です。
■睡眠時間、足りているかをチェック
さきほど、必要な睡眠時間は人によって違うと言いましたが、今の睡眠時間が、自分にベストかどうかを判定する方法は2つあります。
一つは朝起きてから4時間後に、しっかりと目が覚めているかどうか。人間は朝起きてから4時間後が最も覚醒度が高く、その時間に眠気があるのは問題です。たとえば朝6時に起きて10時に眠くなるのは、睡眠時間が全く足りていないことになります。
二つ目は、昼食後に眠くならないことです。ただし、だれしも「アフタヌーンディップ」といって、昼食後1時間くらいは覚醒レベルが少し低下してウトウトしやすくなります。その解消のために「パワーナップ」といわれる、短時間の昼寝は効果的です。しかしそれが、「横になって1時間以上寝ないと耐えられない」などになると、明らかに睡眠不足です。
適切な睡眠時間を確保していても、寝つきが悪かったり、途中で目が覚めたりしているようでは、良質な睡眠をとっているとはいえません。では質のよい睡眠をとるには、どうしたらよいのでしょうか。
■朝日を浴びて朝食をとる
まず朝は起きたら、すぐに顔に朝日を浴びます。1分ぐらい、しっかりと顔に浴び、目に日の光を入れることで、体内時計がリセットされて、睡眠を誘発するホルモンであるメラトニンの分泌がストップします。気持ちがいいからと背中に浴びる人がいますが、顔に浴びるのがポイントです。
体内時計をリセットさせるには、朝食をとることも大切です。食欲がないときや時間がとれないときも、軽いものでいいのでお腹に入れましょう。バナナ・ヨーグルトは手軽でお勧めです。この2つには、幸せホルモンと呼ばれるセロトニンのもとになるトリプトファンとビタミンB6が豊富に含まれています。
日中はコーヒーや紅茶など、カフェインをとる人が多いと思いますが、カフェインの覚醒効果が半減するのが、だいたい6時間後です。夜寝る時にカフェインの覚醒効果を残さないためにも、16時以降はカフェインはとらないほうがよいでしょう。疲れがたまって18時や19時に何か飲みたくなったら、ノンカフェインのものを選びましょう。
■良質な睡眠のための夜のルーティン
夜は就寝時間から逆算して、ルーティンを決めていきます。仮に23時に寝るとしたら、理想のルーティンは以下の通りです。
就寝3時間前(20時):夕食をすませる
胃腸の消化吸収活動は睡眠を妨げるので、夕飯は就寝3時間前までにすませます。夕食の定番は低脂肪で消化のいいもの。鶏肉や豆腐、キャベツ、大根などがいいといわれます。
本来、夕食の後は活動することが少なく、あとは寝るだけになるので、あまり食べないほうがいいでしょう。食べ過ぎると、翌朝あまり食べられず、朝食がとれなくなって悪循環になってしまいます。
就寝2時間前(21時):スマホやパソコンはスイッチオフ
夜寝る前に激しい運動をすると、交感神経が優位になってしまい体が休まらなくなるのでよくありません。リラックスを促す副交感神経を優位にするよう、ウォーキングやストレッチなど、おだやかな運動にしておきましょう。その場合も、就寝の2時間前までに終わらせておきます。
そして、スマホやパソコンのスイッチをオフにし、朝まで触らないようにすると、よい睡眠につながります。そもそもスマホから流れてくる情報は、楽しかったり、驚いたり、悲しかったりと、感情をゆさぶる情報です。でも、そういった感情を高ぶらせる情報は、夜は必要ありません。よりよい睡眠を妨げてしまいます。
またスマホやパソコンが発するブルーライトの影響もあります。ブルーライトを浴びると、メラトニンの分泌が減る一方、覚醒度が上がるコルチゾールというホルモンの分泌が増えて、目がさえてしまいます。2時間前には見るのをやめて、心身を休める準備に入りましょう。
■42度以下のお湯に約10分入る
就寝1時間半前(21時半):入浴
お風呂は、寝る1時間半前に入りましょう。入浴には汚れを落とすだけでなく、体温を上げる目的もあります。ですからシャワー浴ではなく、しっかりと10分程度湯舟に入ります。
5分湯舟に入って、体を洗ってからまた5分入る、と分けて入ってもOKです。熱いお湯が好きな人もいますが、お湯の温度は42度以上にならないように注意しましょう。交感神経が優位になり、体がなかなか休まりません。
42度以下のお湯に約10分入ると、深部体温(体内の内部の温度)が1度ぐらい上がります。こうして上がった体温は、1時間ぐらいかけて、ゆっくり下がっていきますが、この下がるプロセスで自然な眠気がやってきますから、ここでベッドに入るとスッと眠れます。
■「ウトウト」を逃さない
ですから、おふろから上がってベッドに入るまでは、十分にリラックスして過ごすことが大切です。音楽を聴く、アロマをたく、あたたかいものを飲む、本を読む、日記を書く……。リラックスして好きなことをしていると、ウトウトしてきますので、その瞬間に布団に入って寝ることです。
アロマの中で高いリラックス効果が証明されているのが、ラベンダーです。ただ香りには好き嫌いがありますので、ラベンダーにこだわらず、好きな香りを選べばよいと思います。ティッシュに一滴垂らして枕もとに置いておくだけで、部屋の雰囲気が変わったり、今までと違うリラックス感が出たりするので、おすすめです。
もちろん就寝時間を23時と決めていても、その前にウトウトし始めたら、そこを逃さないようにしましょう。このウトウトを逃すと、またウトウトがくるのに時間がかかりますので、この瞬間をキャッチすること。これが夜のルーティンの理想です。
■お酒は睡眠の質を下げる
眠れないときにお酒の力を借りる人もいるかもしれませんが、アルコールは睡眠の質を下げてしまいます。一番の理由は利尿作用です。寝ていてもトイレに行きたくなり起きてしまうので、ぐっすり眠れません。
また、お酒は寝つきがよくなると勘違いされることも多いのですが、お酒自体に寝つきがよくなる作用はありません。ただリラックス効果は働くので、それによって、もともとの睡眠不足があらわれて寝つきがよくなる気がするということですね。
アルコールを飲んではダメということではありません。問題は量と時間です。量は日本酒で1合、ビールは500mlのロング缶1本程度でとどめましょう。夕飯と同様、飲む場合は就寝の3時間前までにします。
またタバコに含まれるニコチンにも覚醒作用があるので、吸うなら寝る1時間前までにします。23時に寝る場合は、22時がギリギリセーフということです。
ベッドに入っても、「明日はこれとこれをやらなくちゃ」「今週中にこれをやらないと、明日もまた怒られるのかな……」など、翌日のことを考えて不安になり、眠れなくなるということもあるでしょう。その場合は、「気を紛らわせる方法」をとりましょう。
なんでもいいのですが、テレビやスマホのように視覚的な刺激の強いものは避けます。ラジオを聴いたり、本を読んだり、タイマーをかけてオーディオブックを聴いたりするのも良いと思います。最近はポッドキャストで、眠りをさそう音楽やお話などの番組もあるようです。
私はよく患者さんに、眠れないときは自分の病気の本を読むことをすすめています。たとえば躁うつ病なら、躁うつ病に関連する本を読む。一応、自分の病気なので、全く興味がないわけではないと思いますが、内容が難しいので、読んでいるとすぐに眠くなってしまうと思います。
■休日は4つの時間を固定する
連休など、まとまった休みがあるときには、生活リズムが乱れがちです。そんな時は、朝起きる時間と3食の時間を固定させれば、睡眠に悪影響を及ぼしにくくなります。週末も、この4つの時間を固定させるように心がけましょう。
朝起きる時間は、平日の起床時間プラス2時間までなら大丈夫です。たとえば、平日朝6時に起きているなら、8時までは寝ていてもOKです。それ以上寝てしまうと、時差ボケのようになってしまい、次に出社する日に6時起床に戻すのが大変になります。
連休明けに、急に出社の朝から通常モードに戻すのは、精神的にも身体的にも大変です。休み最後の1日は、起床時間を元に戻し、通常モードに体を慣らしておきましょう。そうすれば、連休明けからまた元気に働くことができるでしょう。
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産業医・精神科医
島根大学医学部を卒業後、様々な病院で内科・外科・救急科・皮膚科など、多岐の分野にわたるプライマリケアを学び、2年間の臨床研修を修了。その後は、産業医・精神科医・健診医の3つの役割を中心に活動している。産業医として毎月約30社を訪問。精神科医・健診医としての経験も活かし、健康障害や労災を未然に防ぐべく活動している。また、精神科医として大阪府内のクリニックにも勤務。
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(産業医・精神科医 井上 智介 構成=池田純子)
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