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輸入パネルを使うのは売国、東京は曇りが多い…「太陽光義務化」への批判10項目を、東大准教授が完全論破する

プレジデントオンライン / 2022年6月17日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/U. J. Alexander

東京都が整備を進める、新築住宅に太陽光発電の設置を義務付ける条例案について、多くの疑問や批判が寄せられている。東京大学大学院の前真之准教授は「具体的な代替案のない批判は国民を問題だらけの化石エネルギーに縛り付けるだけ。太陽光も完璧ではないが、デメリットよりもメリットがはるかに上回っているのは明らかだ」という――。

■太陽光アンチによるヘイトの凄まじさ

東京都の太陽光発電設置義務化に関する先の記事について、多くのコメントが書き込まれ、図らずも、太陽光をめぐる議論の凄まじさを可視化することになりました。

筆者は別に太陽光発電をビジネスにしていませんし、シガラミもありません。ただひたすらに、日本のみんなが「冬暖かく」「夏涼しく」「電気代の不安なく」暮らせる家造りを研究しています。本稿では、その続編として、よくある疑問を題材に、よりよい家造りを考えてみましょう。

疑問1:太陽光パネルのほとんどは輸入品だ。輸入品の普及をゴリ押しする政策は売国行為だ

現状、日本に流通する太陽光パネルの多くが輸入品なのは事実です。貿易統計によるとその輸入金額は2014年に8167億円とピークに達した後、2021年には2500億円にまで減少しています(図表1)。

【図表1】太陽光(光電池)の輸入金額

一方、図表2に示したように、化石燃料の輸入金額は2021年に16兆8000億円と、太陽光パネルとは比較にもならないほど巨額です。しかも、2008年と2014年には30兆円近くまで高騰しました。資源高と円安が進行する現在、輸入金額がどこまで膨らむのか、全く見通しがつきません(注1)

注1:「貿易赤字2兆3846億円 5月、資源高で過去2番目」

化石燃料の輸入総額の推移

日本国民みんなが燃料費の高騰に苦しむ中、かのロシアを含め資源輸出国が大儲けしているのはもちろん、日本の輸入商社も空前の利益を上げています(「商社3社、資源高で利益8000億円超」)。

化石ファミリーにとって、国民を化石エネルギーに縛り付けておくことが、一番手っ取り早く儲かるのです。

一部の論客が唯一絶対の正義かのようにふれまわる石炭火力発電が、国民の電気代を安くしてくれる保証はどこにもありません。石炭のほとんどは輸入であり、その単価は現在急上昇しています(前稿参照)。今後、CCS(二酸化炭素回収・貯留)などを真面目にやればコストは否応なく膨れ上がります。化石燃料を使い続けることだけが唯一の正解のようにふれまわり、国民に他のチョイスを示すことなく、どんどん高額になる化石電気を売りつけて搾取を続ける。これこそ憎むべき売国行為ではないでしょうか。

ドイツやイギリスの例を挙げるまでもなく、ヨーロッパは自然エネルギーを急速に拡大させています。ウクライナ問題で一時的に混乱はあるでしょうが、むしろ海外依存を減らし、再エネ普及を加速させる好機に転換しようとしています(「ドイツ ベルリンにおける太陽光発電設備の設置義務化に関する政策と条例」)。

日本では、海外の再エネへの取り組みに伴う課題をことさらに触れ回り、大失敗かのように吹聴する論客がいますが、海外の人たちが揃いも揃ってみんなバカなどということがありうるのでしょうか? 海外では自然エネルギーこそが、すでに安価で経済的であり、海外依存を減らして国を安らかにし、地域の雇用を増やすのに役立つ「切り札」だからこそ、多少の困難があっても推進し続けているのです。

回答1:化石燃料輸入こそ国富流出の主因であり国民を貧しくする。国民を化石エネルギーに縛り付ける行為こそ売国である。一部の既得権を死守する論客に惑わされず、日本国民の利益を真剣に考えるべき。

■メガソーラーと住宅屋根載せを一緒に考えてはいけない

疑問2:太陽光発電は格差を助長する。太陽光バブルで一部業者が大儲けしたのはおかしい

太陽光発電などの再エネを普及させるために、その発電分を割高な売電単価で買い取るのが固定価格買取制度(FIT)です。その割高な買取の原資は「再エネ賦課金」として電気代に加算されています。この金額は年々増加しており、電気代高騰の一因になっています(図表3)。

【図表3】家庭用の電気代の推移と再エネ賦課金の割合

このことをもって、太陽光発電全般を非難する人が多いのですが、このFITによって買い取られている再エネのほとんどは発電容量10kW以上の太陽光、主に「メガソーラー」の発電分です(図表4)。2012年のFIT導入において、メガソーラーについては20年間という長期にわたり40円/kWh+税という非常に高額な買取を保証したため、「国が保証したから絶対もうかる」投資案件として太陽光バブルを引き起こしてしまいました。

【図表4】固定価格買取制度(FIT)による買取電力量(左)・金額(右)の推移

メガソーラー関係では他にも、未稼働物件問題や出力制御未設置問題など、多くのトラブルがつきまといました。一部の不良業者の極めて不適切な振る舞いのせいもあり、再エネ全般のイメージは急激に悪化。なにより電気代の高騰が国民みんなを苦しめているのは大問題です。

FIT制度の検討期間がごく短く準備が十分でなかった部分はあるにしても、当時の制度設計者や太陽光発電業界は、反省を求められるのは当然です。その後にメガソーラーの売電単価は大幅に引き下げられ、現在では入札で適正に決定されることとなりました。しかし一度ついた悪いイメージは容易に剝がすことができません。

メガソーラーは昼間に大量の電気を供給できるので、地域で上手に使えばエネルギーの地産地消につながって経済の活性化に役立ちます。太陽光発電業界は地元の利益を大事にしながら、地道な普及に取り組んでいく必要があります。

回答2:普及を焦りすぎた制度によりメガソーラーのバブルが引き起こされ、再エネ賦課金増加による電気代高騰を招いたのは事実だが、現状では制度も改善されている。太陽光発電業界も反省して、地元の利益を大切にし、地道な信頼回復に努める必要がある。

■屋根載せ太陽光は自家消費優先なら他人に負担を押し付けない

疑問3:太陽光はどれもダメ! もちろん住宅の屋根載せも論外‼

メガソーラー問題のせいで、太陽光全般、いや再エネ全般に、ベッタリとダークなイメージがついてしまいました。しかし、太陽光の問題を、メガソーラーと住宅屋根載せとで一緒くたに議論するのは適切ではありません。そもそも、FITの買取金額に占める、住宅用の10kW以下の太陽光の割合は全体の1割以下とわずか(図表4参照)。住宅の屋根載せ太陽光は、再エネ賦課金高騰の主犯ではないのです。

【図表5】メガソーラーと屋根載せ太陽光

かつては住宅の屋根載せも、FIT買取の売電単価が高く設定されていたため(2012年には42円/kWh)、できるだけ大きな太陽光パネルを載せて目一杯発電して、系統に売電しまくるのが一番オトクでした。

しかし、結局は売電狙いなので、メガソーラーと同じように、太陽光を載せていない人に負担を押し付けてしまうものでした。結局、メガソーラー(①)でも売電狙いの屋根載せ(②)でも、売電メインのままでは太陽光を載せる人と載せない人の間の不公平を解決できないのです。

現在では売電単価が引き下げられたので(2022年度17円/kWh)、むやみに売電するのではなく、発電した分を自家消費する方が得になりました。自家消費した分だけ、系統から高い電気(約32円/kWh 前稿参照)を買わずに済むからです。自家消費の割合を増やすのに一番強力なのは昼間の電気を貯めて夜に使える蓄電池ですが、昼間沸き上げ型のハイブリッド給湯機やエコキュートも十分に効果があります。

筆者も以前は、こうした不公平の問題が気になっていたため、必ずしも太陽光の推進に前向きではありませんでした。しかし、今では太陽光の初期コストが大幅に下がり手頃になったこと、売電単価が下がり自家消費優先にシフトしたことから、安心して広く普及させるべきと考えています。

自分の家の電気代はしっかり減らしつつ、他人にも負担を押し付けない。系統停電時にも電気が使え、系統の託送料金を負担する必要もない。大事な国土を痛める危険もない。自家消費優先の屋根載せ(③)こそ、これからの再エネ普及の主役となるべきです。

回答3:メガソーラーの問題と住宅の屋根載せは全く別モノとして考えるべき。自家消費優先の屋根載せなら不公平の問題も解決しており、安心して広く普及させることができる。

■太陽光パネルは国産を選択することも可能

課題4:住宅屋根載せだって、どうせパネルは輸入品だからムカツク

2000年代前半まで、日本は太陽光発電の生産世界一でした。国内で生産したパネルを国内では主に住宅用に出荷するとともに、海外へも大量に輸出していたのです。しかし2012年から普及策として固定価格買取制度(FIT)が導入されると、太陽光バブルでメガソーラーが急増するとともに、輸出が激減する一方で海外生産品の輸入が激増しました(図表6)。

太陽光パネルの輸出率(上)・国内生産率(下)

その後、バブルがはじけて出荷が急減する中で、国内生産も急減していますが、まだギリギリ踏ん張っています。パネルの多くが海外生産なのは事実ですが、現状ではまだ国内生産も選べるということです。

一方で、国内出荷に占める日本企業の割合をみると、メガソーラーなどの非住宅用では4割を切っているのに対し、住宅用では7割のシェアを保っています(図表7)。日本の住宅事情に合わせた細かい配慮が必要な住宅用は、やはり日本企業に強みがあるようです。

【図表7】国内出荷に占める住宅(上)・日本企業(下)の割合

筆者はモノを買う時、少し高いくらいだったら日本製・日本メーカーのものを選ぶようにしています。できれば国産品を選びたいという人は少なくないと思いますが、太陽光パネルについても、国産のものを選ぶことはまだ可能です。しかし吹き荒れる太陽光ヘイトを放っておけば、国内生産も早晩トドメを刺されるでしょう。

期待されているペロブスカイト型など国産技術による次世代型太陽電池の芽も、根こそぎ残酷に踏みにじられてしまいます。需要拡大の見通しが立たない産業など、立ち上がるはずがないからです。その時こそ、海外に100%依存するしかない、チョイスのないみじめな立場に追い込まれてしまうのです。

回答4:日本はかつて太陽光世界一。今でもパネルの国内生産を続けている日本企業が確かにある。ヘイトを放置して需要を殺したあげく、次世代太陽電池の芽まで摘み取っていいのか?

■化石ビジネスこそ多くの人権侵害や環境破壊をまき散らしている

疑問5:パネルは国産でも、セルは全部輸入だろ! セルを作っているウイグルの人権問題はどうするんだ!

太陽光パネルを構成する「セル」のほとんどは海外、特に中国からの輸入であり、その多くは人権問題が取りざたされるウイグル自治区で生産されているのは事実です。筆者は人権問題の専門家ではありませんが、現地の人たちの人権が侵害されている懸念には心が痛みます。国際的な圧力によって解決されていくことを切に希望します。

一方で、世界には、リアルで深刻な人権侵害・環境破壊がたくさんあります。私が何気なく生活する中でも、様々な食べ物や生活用品、そしてエネルギーを通して、否応なく世界とつながっており、悪気はなくても見ず知らずの人たちの人権を侵害し、環境を破壊し、ひどく苦しめている可能性は十分にある、いや、間違いなく苦しめています。ついつい食べたくなるアボカド・ハンバーガー(注2)とか、本当に良くないなと自戒します。

注2:「アボカドブームの“不都合な真実” 環境問題や誘拐事件まで?」
「畜産と環境問題」

一方で、こうした「太陽光は人権侵害」「ジェノサイドを加速する」という言説をやたら一生懸命に吹聴する論客は、他にどのような人権問題に関心があり、解決に取り組まれてきたのでしょうか? まさか、太陽光を論じる「トキダケ人権論者」なはずはないでしょう。人権活動家としての実績を、ぜひ伺いたいものです。これほど一生懸命に化石ビジネスを擁護して回る熱意の源泉、その活動を支える資金源とスポンサーも含めて。

太陽光は決して完璧ではなく、改善していくべき点があります。しかし化石ビジネスこそ、太陽光とは比較にならないほど多くの人権侵害・環境破壊を今リアルにまき散らしています。それがなぜか許容されているのは、昔から害悪をまき散らし続けているから、みんなが当たり前だと思って諦めてしまっているだけです。

「地球温暖化ウソ論」もそうですが、「小さなアラをほじくり出して繰り返し叩く」姿勢は、社会の今ある大きな問題を解決することにつながりません。かつては、こうした頑なな姿勢が大気や水質汚染などの悲劇的な公害問題の解決を遅らせ、たくさんの立場の弱い人を苦しめることになりました。新しい解決策をことごとく踏みにじるヘイトの嵐は、既得権者にとって最高の守護神なのです。

太陽光については、他にも「パネルの廃棄が~」などと騒ぐ人がいますが、パネルの再利用やリサイクルへの取り組みも始まっています(注3)。元々「スジが良い技術」なのですから、残る課題は順次みんなで改善していけばよいのです。

注3:「太陽光発電業界 太陽光発電設備の廃棄に関する情報」
「使用済み太陽光パネルを再資源化 環境省、義務付け検討」

人権問題に真面目に取り組んでいる人ほど、脱炭素の潮流に正面から取り組むべきです。SDGsやESG投資といった世界のファイナンスの潮流は、人と地球に悪いことにどんどん罰金を科し、投資を引き揚げてしまうことで、経済的に成り立たないよう干上がらせることが目的なんですからね。

回答5:太陽光に伴う人権・環境問題は存在し解決されていくべきだが、化石ビジネスのまき散らす害悪よりははるかにマシ。人と地球に害をもたらすものに罰金を科し、投資を引き揚げることで、経済的に成り立たなくさせるのが、脱炭素に向けた世界金融のメインストリームである。

■「日陰が多い家にも義務化」という勘違い

疑問6:家は好き勝手に建てるのが一番! なんでオレが東京都に太陽光設置を押し付けられるんだ?

これまでも、太陽光発電はFIT制度や補助金などの誘導策により、普及が後押しされてきました。しかし、それだけでは遅々として進まないため、普及策の一環として、世界でも実施例が増えている設置義務化を、日本では東京都が最初に導入しようとしています。

非常によく誤解されますが、東京都の設置義務化は、家を建てる個人に設置義務を課すものではありません。あくまで大手のハウスメーカーに、販売する住宅全体で一定量の太陽光設置を義務付けるものです。日陰になるなど条件が悪い家に無理に設置する必要はなく、条件がよいところだけ設置すれば十分です。

【図表8】東京都の太陽光設置義務化を正しく理解しよう

東京都は従来から太陽エネルギーに熱心で、「東京ソーラーマップ台帳」を作って家の日当たりを分析してきました。今回の制度も、こうした地道な努力が反映されています。批判する前に、まず現状案や周辺資料をよく読むことをおすすめします。

義務化の対象となる大手ハウスメーカーの多くは「ネツレツ反対」というところが多いようですが、まあ建築業者というのは、面倒なことが増えることには条件反射的に猛反発するのがお約束。お施主さんにとって、家は一生に一度の買い物であり、そこで一生をすごす大事な器です。ただ建設業者がやりやすければそれでよしという新自由的な発想では、心もとないのは当然です。大事なことは、お施主さんが住んだ後の安心が確保されることですからね。

東京都義務化で巻き起こった反対意見の多くは、太陽光全般を潰すこと自体が目的の「ヘイト系」ですが、制度の理解不足に基づく「誤解系」も少なからずあります。そして東京都の説明が、こうした誤解を招きやすい、説明が丁寧でない面が多分にあることは筆者も否定できません。政策提案側はもっと心を砕いて、「みんなにとって良いことを分かりやすく伝える」努力を重ねなければなりません。

■義務化されれば競争が働いてコスパも機能も良いものが生まれる

載せなければならないとひとたび義務化が決まってしまえば、それをどうやって安くキレイに載せるかの競争は、日本企業が大得意。設置義務化が決まれば、彼らは工夫を重ねてコスパ抜群、雨漏りなんて絶対おきない見事な屋根載せを実現してくれるでしょう。義務化の恩恵は、住む人みんなに広く届くのです。

【図表9】設置義務化前後のイメージ

ちなみに、「太陽光を載せると雨が漏る」という動画も拡散されていますが、保証関係の人に聞くと、太陽光が原因の雨漏りはほとんどなく、天窓の方がよっぽど問題だそうです(笑)。

2020年の時点ですでに、ハウスメーカーの建てる家の56.9%は、ゼロエネルギー住宅(ZEH)になっています。今でもハウスメーカーの建てる家の半分以上はすでに太陽光が載っているのですから、そもそも大したハードルではありません。

そもそも、国土交通省は2030年目標として「新築戸建住宅の6割に太陽光設置」を明言しています(注4)。エネルギー基本計画にも取り入れられ、閣議決定もされています。戸建住宅を供給する業者は早晩、大概の家に太陽光を載せなければならないのですから、まずは東京都で補助金をもらいながら、トレーニングを始める方がよっぽど建設的です。

注4:「脱炭素社会に向けた住宅・建築物における省エネ対策等のあり方・進め方の概要」

えっ、「あの」国土交通省はそんな太陽光6割の目標なんて忘れてるって? あの省は「私たちの“暮らしに欠かせないもの”を“より良く”していく」のがお仕事なんだそうです(注5)。国民の暮らしを良くすることがお仕事の立派な省庁が、電気代も安心な家造りの基本を忘れるなんて、ありえないじゃないですか(笑)。

注5:「国土交通省の業務」

回答6:東京都の設置義務化は個人ではなく大手のハウスメーカーに責任を課すもの。国の目標からもハウスメーカーは太陽光を増やす必要があり、東京都の義務化は対応するのが当たり前。

■東京の日射量は年間を通して安定しており太陽光発電に最適

疑問7:東京はアメリカやヨーロッパと比べて晴れの日が多くない。単純比較をするんじゃない!

海外では、アメリカのカリフォルニア州を先頭に、ニューヨーク市やドイツで太陽光の義務化が進んでいます。東京はこうした太陽光義務化の先輩都市に比べて、日射に恵まれていないから不利なのでしょうか?

それでは、米エネルギー省が公開している世界の気象データに基づいて、カリフォルニア(ナパ)・ニューヨーク・東京・ベルリンの日射量(南正対・傾斜角30度の屋根面を想定)を「単純」に比較してみましょう(図表10)。

【図表10】南正対 傾斜角30度の屋根面にあたる面積あたりの平均日射量[W/㎡]

さすがにカリフォルニアは、春~夏の日射量が非常に多く、年間平均でもトップです。ただし、秋~冬には日射が大きく落ち込んでしまうのがウィークポイント。

一方、肝心の東京は年間平均では2位のニューヨークに次いで僅差の3位ですが、冬も含めて通年で安定した日射が得られます。この東京など日本の太平洋側の「晴れの日が多い」気候は、実は太陽エネルギー利用に非常に有利です。

特に、エネルギー需要が一番多い冬に、しっかり発電してくれるのは好都合。前述のように、売電ではなく自家消費優先の屋根載せが今後のメインになる中で、どの季節でも自分で発電分を使いきれるくらいの「ほどほどサイズ」の太陽光を載せるには、通年で安定した日射がある方が有利。東京の日射は、自家消費優先の屋根載せに最適なのです。

それにしても、気の毒になるのはベルリンの日射量の弱さ。通年でも断トツでビリですが、特に冬の落ち込みは目も当てられないほど。これほどプアな日射にもかかわらず、背に腹は代えられないとドイツはがんばって義務化を進めているのです。彼らはどれほど、東京の冬の恵まれた日射をうらやんでいることでしょう! さすが、日本は「日の本の国」。恵まれた太陽エネルギーを活用しなければバチが当たるというものです。

回答7:東京の日射量は通年ではカリフォルニアより少ないが、冬も含めて通年で安定している。自家消費優先の屋根載せにはもっとも向いている東京の日射を活用しない手はない。

■太陽光の発電実績は都の想定を上回っている

疑問8:太陽光のコスパ試算が胡散臭い。本当にちゃんと発電するのか?

前稿のように、東京都の試算では太陽光発電の設置コストは10年で回収、補助金込みだと6年で回収とされています。とはいえ、これはあくまで試算。本当に東京都の試算前提のように発電するのでしょうか?

【図表11】太陽光発電のコストパフォーマンス試算

日本中のゼロエネルギー住宅(ZEH)に載せた太陽光が、容量1kWあたり年間でどれだけ発電したか。その実績値を経産省が公開しています(注6)。それによると、東京での実績は全国では中程度の1125kWh/年。東京都の想定している1000kWh/年を1割以上も上回っています。東京でも太陽光はしっかり発電しているのです。

注6:「ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス実証事業 調査発表会2021」

【図表12】太陽光パネル1kWあたりの年間発電量[kWh/年]の実績値

太陽光のコスパ計算で他に重要となるのは、売電と自家消費の割合。売電単価が安くなる一方で買電単価は急上昇しているため、なるべく売電ではなく自家消費を増やす工夫は重要です。

さらに、太陽光の設置コストも重要なのは当然です。近年ではだいぶ安くなっていますが、設置義務化に伴う住宅業者の競争により、さらなるコストダウンが期待できます。東京より日射が豊富な地域はたくさんあります。東京から日本中に、電気代も安心な住まいが普及していくことが期待されます。

回答8:実績値からも東京の太陽光はしっかり発電しており、都の想定を上回っている。

■「晴れた夏の昼間」こそ太陽光発電が最も活躍する

疑問9:政府がこの夏は冷房を我慢しろとか超ムカツク。これもあれも脱炭素のせいだ!

「脱炭素のせいで火力発電所が閉鎖されて電気が足りない。この夏はみんな節電に協力を」。政府がこんな要請を出しているようです。わざわざ脱炭素のせいで電気が足りなくなったかのような書きぶりですが、実際のところは、太陽光発電のように一度設置したら燃料費ゼロでどんどん発電できる再エネの電気が増加し、燃料費がかさむ火力発電の採算がとれなくなり撤退に追い込まれた、というのが実態です。

ところで夏の節電といえば、エアコン冷房の「こまめなON/OFF」と「設定温度は28度」が定番ですが、なんとも面倒で不快です。そんな政府の要望なんて聞きたくもない。「オレは冷房をキンキンに効かせて甲子園を見るんだ!」という人にこそ、太陽光発電はベストマッチです。

冷房が一番必要なのは、晴れた夏の昼間。その時は太陽光もバリバリに発電しているので、そのままエアコンをバンバン動かすことができ、相性は最高です。好きなだけエアコンを効かせて全く問題ないのです。

一方、暖房は冬の夜に必要なので、太陽光発電だけだと不足しがちです。そのため、家の断熱・気密をしっかり確保した上で、屋根や窓から集めた「太陽熱」を利用する手もあります。筆者は本来、こっちの方が本業です。

【図表13】太陽熱の使い方

太陽熱は有効な技術ですが、使い方によっては効果的な「桂馬」といったところでしょうか。前回述べた通り、銀将の「断熱気密」・金将の「高効率設備」・飛車の「太陽光発電」が、ゆるぎない主役です。

回答9:冷房と太陽光発電の相性は最高。太陽光を屋根載せしていれば、夏の昼間に冷房をキンキンに効かせてもノープロブレム。

■政府の施策は化石ビジネスへの忖度が伺える

疑問10:ゴチャゴチャ屁理屈をこねるな! 政府と大企業のいうことをひたすら信じていればいいんだよ!

筆者も大概はめんどくさがり屋なので、電気代の心配なんかしたくありません。丸投げして政府でも大企業でも、誰でもいいから解決してくれることを期待したいところですが、住宅の省エネを専門にする立場からは、そうも言っていられません。

これから150兆円ともいわれる膨大な投資が始まろうとしている、グリーン・トランスフォーメーション「GX」。てんこ盛りの中間整理が公開されていますが、筆者には一部の重工系企業への極端な偏重に思われます。しかも国債を20兆円も発行してまで、いまだ実現もしていない「ぶっ飛びイノベーション」に大枚を賭けようという計画です。

そんなに日本の化石技術が世界に誇れる素晴らしいものならば、みんなにブーブーいわれて面倒な国債なぞ当てにせず、堂々と世界の金融市場にアピールして、ガッツリ資金を稼いできてほしいものです。まさか、他の海外メーカーが早々に撤退してしまったので、ただ残存者利益を狙っているだけということはありえませんよね(「世界トップでも喜べない三菱日立」)。

現状のGXの中で、住宅の扱いはごく小さなもの。「カーボンニュートラルポート」などと突如出てきた壮大なインフラ計画の隅っこに、こじんまりと追いやられています。住宅の脱炭素化に必要な手段は完成されており、後は普及だけ進めればよいだけなのに、国民みんなに恩恵を届けるための計画は全く示されていません。

GXと似た言葉に、デジタル・トランスフォーメーション「DX」がありますが、日本における悲惨な実情を赤裸々にまとめた『アカン!DX』(日経BP 木村岳史著)という非常に面白い本があります。その表現を借りれば、現状のグリーン(笑)政策は、まさに「アカン!GX」です。

■いわれのない太陽光ヘイトは化石ファミリーの利権を守る

現在のGX計画においては、国民の電気代負担についての記述はもちろんありません。こうした大企業の願望をただ寄せ集めた計画においては、失敗のツケは国民に押し付けられるのが常套手段。そもそも現状でも、電気を配る系統の使用料金(託送料金)は、企業より家庭の方がはるかに重く負担させられています(「東京電力 託送料金の算定」)。

この先、人口減少が本格化すれば、化石社会の維持コストが一人ひとりに重くのしかかることは避けられません。このGX計画が粛々と進められた20XX年、日本国民にどれほどの負担が押し付けられるのか、我々の暮らしはどうなるのか、筆者は正直なところ、見当もつきません。

本来はこうした偏重政策を攻撃すべき野党ですが、先の「憲政史上最も軽い」内閣不信任案を必要もなく提出して無様に自爆する野党に、そうしたチェック機能は期待するだけムダなのかもしれません。次の参院戦で与党は圧勝し、「アカン!GX」計画は国民の支持を得たものとして強力に推進されていくでしょう。

本当の省エネ・脱炭素は、明治以来の中央集権的で重工長大産業中心の現システムから、分散・自律的な新しいシステムへの転換につながるものであり、家造りは本来その中心となるべき存在。しかし、今の日本を牛耳る化石ファミリーは、一度手に入れた利権を手放すことは決してないでしょう。太陽光ヘイトが吹き荒れ、まともな議論ができない現状が、彼らの利権死守のために何より大きな助けになることは間違いありません。

回答10:現状の「アカン!GX」推進が国民の暮らしを守ることにつながるとは到底思われない。野党が当てにならず、ヘイト蔓延でまともな議論ができない現状、化石ファミリーの利権が守られるのは確実。国民は自力で自己防衛するべき危機的状況。

■技術もコスト問題もクリアした太陽光に残っているのは「普及」のみ

ここまで、太陽光に関するよくある10の疑問について考えてきました。建設的な議論につながることにわずかな期待を残しつつ、まあ「結論が決まっている」人たちには意味がないかと諦めてもいますが。

筆者は今の日本を見ていて、1930年代はこんなだったのかなと想像することがあります。汚職がはびこる政党政治へのヘイトが吹き荒れる中、革新官僚と軍部・財閥が日本を牛耳り、国のためと言いつつ世界の潮流に逆らい、国民を破滅へと導きました(注7)

注7:山崎雅弘『1937年の日本人』(朝日新聞出版)

筆者としてはせめて、日本のどこでも誰もが、冬暖かく夏涼しく、健康快適に電気代の心配なく暮らしを続けられることを願っています。幸いにして、その実現に必要な技術は完全に確立され、コスパも十分です。今から家を建てる人は、ものすごく幸運なのです。無責任な放言に惑わされず、自分と家族を大事にしてください。

国民一人ひとりの利益についてキチンとした議論が行われ、東京都など意識のある自治体の試みが成功し日本全体に広がっていくことで、誰もがその幸運の恩恵から取りこぼされることがないことを、心から祈ります。

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前 真之(まえ・まさゆき)
東京大学大学院工学系研究科建築学専攻 准教授
1975年生まれ。2003年に東京大学大学院工学系研究科建築学専攻博士課程修了後、日本学術振興会特別研究員として建築研究所に勤務。2004年4月より独立行政法人建築研究所研究員、同年10月より東京大学大学院東京電力寄付講座客員助教授。2008年4月より現職。博士(工学)。専門分野は建築環境工学、研究テーマは住宅のエネルギー消費全般。著書に『エコハウスのウソ』『エコハウスのウソ2』(ともに日経BP社)がある。

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(東京大学大学院工学系研究科建築学専攻 准教授 前 真之)

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