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デメリットが大きすぎる…現役医師が「市販の風邪薬を飲んではいけない」と断言するワケ

プレジデントオンライン / 2022年6月30日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Kayoko Hayashi

風邪をひいたら、どうやって治せばいいのか。耳鼻咽喉科医であり、外来感染症診療のスペシャリストである永田理希さんは「市販の風邪薬は『早く飲んで、早く治す』などと宣伝しているが、効果よりもデメリットのほうが大きい。特に子供は風邪薬を飲まずに、ゆっくり静養して治したほうがいい」という――。(第1回/全2回)

※本稿は、永田理希『間違いだらけの風邪診療 その薬、本当に効果がありますか?』(ちくま新書)の一部を再編集したものです。

■もっとも多くの薬が処方されているのは風邪

世界で一番多い感染症は何だと思いますか? それは、日本で医療機関に受診される一番多い感染症でもあります。

答えは、風邪です。海外で医療機関に風邪症状で受診すると数万円かかりますが、日本ではクリニックや病院の開業時間であればどこでも好きな医療機関を受診でき、医療費は海外に比べとても安く済みます。成人では3割負担、高齢者では2割負担、後期高齢者では1割負担(一部は2割負担)、小児に関しては自治体が負担するため無料であり、診察や検査、そして、処方薬などすべての恩恵を患者側は受けることができます。

さて、感染症にかかって受診したら、治療のための薬を我々は医師から処方されることになりますが、日本の外来診療の中で一番多くの薬が処方されている感染症は何だと思いますか?

この答えも、風邪です。風邪には、昭和の頃から対症療法がベストな治療とされ、それぞれの症状に対する薬が選択処方されています。風邪はウイルス性感染症であるため、鼻炎、咳、痰がらみ、のどの痛み、発熱、頭痛など多くの症状が出ます。症状ごとに薬を出していけば、当然多くの処方薬が出される結果となります。

風邪ではなく細菌が原因の感染症の場合には、原則1感染1臓器に症状が出ます。のどに細菌が感染を起こせば、鼻炎や咳がほとんどなく、のどだけがひたすら痛くなり、肺に細菌が感染を起こせば、鼻炎やのどの痛みはほとんどなく、呼吸数が増えて苦しくなり、咳が出ます。細菌性感染症のメインの治療薬は、抗菌薬(いわゆる抗生物質)となります。

■「早く飲んで早く治す!」は正しいのか

風邪薬といえば、「早く飲んで早く治す!」「早めの○○♪」などとCMで謳っている市販の風邪薬があります。病院を受診すれば、「風邪ですね」という診断とともに総合感冒薬や複数の対症療法薬(咳止め、鼻炎止め、炎症止めなど)のオリジナルの風邪薬セット(後述)を処方する医師がいます。

このように身近に、気軽に手に入る風邪薬ですが、それらの風邪薬を「早く」飲めば「早く」治るのでしょうか?

2020年12月に非医療従事者を対象にインターネットで実施された武田コンシューマーヘルスケア・国立国際医療研究センター病院の調査では、「風邪薬には、風邪のウイルスをやっつける効果がある」という回答が65%という結果でした。一般の患者さんの半数以上がこのように理解している可能性が示唆されました。

しかし結論からいうと、風邪に特効薬はありません。早く飲めば早く治る効果などはない、というのが医療業界での昭和の頃からの常識です。医師は誰もが知っています。

そして医師の多くは、1症状ごとに対応した対症療法薬、症状をやわらげる目的の薬が、風邪薬であるとしています。「ウイルスをやっつける」という風邪薬に期待する一般の理解とは少し違う効果になります。

「対症療法薬」。それらの薬の中身は、具体的にはどんな成分なのでしょうか?

■はな風邪に鼻炎止めの薬は効くのか

医療機関で「風邪ですね」と診断された場合、処方されるのは、どこも似たような「風邪薬セット」です。

処方する医師もパターン化して考えていて、電子カルテを使っている医師は、オリジナルの風邪薬セットをパソコンフォルダに作成していたり、紙カルテを使っている医師は、オリジナルの風邪薬セットの薬名を明記したハンコを用意しています。症状の程度や採血の炎症反応の結果によって、小児と成人でそれぞれ2パターンほど作成していることが多いようです(図表1)。

【図表1】医療機関で処方されがちな「風邪薬セット」の例
出所=『間違いだらけの風邪診療 その薬、本当に効果がありますか?』

それでは、これら「対症療法薬」とされる風邪薬を飲めば、症状が楽になるのでしょうか? それぞれの薬を検証していきます。

鼻炎止めから見ていきましょう。患者さん側からすると、風邪の鼻炎症状(くしゃみ、鼻汁、鼻づまり)は一刻も早く治したいものです。

そもそも風邪をひくと、なぜ、鼻炎症状が出るのでしょうか? ウイルスが鼻の奥すなわち上咽頭の粘膜細胞に侵入して感染が起こると、我々が生まれながらに持っている「自然免疫」が反応し、自己防衛を行います。

ウイルスを外部に出そうとして「くしゃみ」が起き、ウイルスと戦うための体内の免疫細胞が多量に含まれている粘液「鼻汁」を出し、炎症が起きることにより鼻腔(鼻の内側の空気の通り道)の粘膜が腫れて通り道をふさぎ、「鼻閉」いわゆる鼻づまりが起きます。これらの鼻症状はすべて、風邪ウイルス感染に対する自己防衛反応なのです。

鼻腔粘膜に侵入したウイルスが粘膜に存在する肥満細胞に作用して、ヒスタミンが分泌され、それがH1受容体に結合し、鼻炎症状が出る、という仕組みです。

風邪による鼻炎の誘因をヒスタミン分泌と想定して、ここをブロック(遮断)しようとするのが「抗ヒスタミン薬」、いわゆる鼻炎止めとなります。理論上は、花粉症などのアレルギー性鼻炎と同様に効果が期待できそうです。実際の効果はどうなのでしょうか?

■わずかに症状を軽減させる可能性はあるかもしれないが…

「抗ヒスタミン薬」には、第1世代、鎮静性第2世代、非鎮静性第2世代の3つがあります(図表2)。この中で第1世代抗ヒスタミン薬は、はな風邪症状の初期の1~2日だけわずかに軽減する可能性があるかもしれないとされ、眠気や口渇などの副作用を抑えた第2世代抗ヒスタミン薬では全く効果がないとされています。

【図表2】抗ヒスタミン薬の分類
出所=『間違いだらけの風邪診療 その薬、本当に効果がありますか?』

結論として、抗ヒスタミン薬には実感できるような鼻炎症状軽減効果はない、ということになっています。

わずかな鼻炎軽減を期待できる可能性のある第1世代抗ヒスタミン薬d-クロルフェニラミンマレイン酸塩(ポララミン®、ネオマレルミン®)の内服には、注意が必要です。副作用として、ウイスキー水割り3杯を飲んだのと等しいくらいの認知機能障害(判断・記憶・思考・理解・集中力などの低下)が見られ、他の第1世代や鎮静性第2世代の薬でも同等に考えた方がよいとされます。

また、第1世代の副作用には、眠気だけでなく尿閉(排尿できない)や眼圧上昇なども見られ、前立腺肥大症や緑内障の患者さんには禁忌の薬です。さらに高齢者においては不整脈や眠気など転倒によるリスクをさらに高めることにもなります。

つまり、メリットよりデメリットがはるかに勝ることになるのです。非鎮静性第2世代抗ヒスタミン薬は副作用が少なくなるように開発されていますが、そもそも風邪の鼻炎症状には全く効果がないため、服用するメリットがありません。

風邪の合併症として、特に乳幼児でよくみられる中耳炎は、鼓膜の奥にある部屋の中耳腔に炎症が起こり、滲出(しんしゅつ)液がにじみ出てきて溜まってしまう病気です。これに抗ヒスタミン薬を投与しても、聴力改善効果や中耳に溜まった液を消失させる効果がないばかりか、貯留液が粘稠(ねんちょう)(ねばねば)になり治癒が遅れるともされ、風邪や中耳炎のある乳幼児への処方は控えた方がよいのです。

■効果がないどころかデメリットのほうが大きい

また、抗ヒスタミン薬は、痙攣を誘発しやすく、特に乳幼児には不整脈や呼吸抑制のリスクも伴います。生後6カ月から5歳未満の乳幼児には急激な体温の上昇(発熱)による熱性けいれんが起こることがありますが、抗ヒスタミン薬によって発熱から痙攣発現までの時間が短くなり、かつ、痙攣発作の持続時間が長くなるともされています。

日本では熱性けいれん患児が多く、その理由に、はな風邪に対する慣習的な抗ヒスタミン薬投与が影響していると考えられ、成長期の脳の発達にも影響を及ぼしている可能性が指摘されています。

永田理希『間違いだらけの風邪診療 その薬、本当に効果がありますか?』(ちくま新書)
永田理希『間違いだらけの風邪診療 その薬、本当に効果がありますか?』(ちくま新書)

鼻炎止めとしてはもう一つ、「去痰薬」がよく処方・内服されています。こちらの効果はどうでしょうか?

結論からいうと去痰薬単剤で鼻炎軽減効果はありません。抗ヒスタミン薬との2剤併用、アスベリン®などの咳止めとの3剤併用でも効果はないとされ、風邪による鼻炎をスッキリさせるような効果は期待できません。

去痰剤は、特に喘息があるような小児では、気管支の筋肉(平滑筋)を攣縮(れんしゅく)(収縮)し粘膜がむくみ、空気が通りにくくなる気管支攣縮を誘発し呼吸困難を招く可能性があり、デメリットが勝ります。2歳未満には、喘息などがなくとも安全性の観点からフランスなどの海外では使用が中止されています。

結論として、「はな風邪」に鼻炎止め(抗ヒスタミン薬、去痰薬)は、効果がないどころか、デメリットのほうが勝る薬と考えられます。

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永田 理希(ながた・りき)
耳鼻咽喉科専門医
1999年、東邦大学医学部卒業。2006年、金沢大学大学院医学系研究科外科系卒、医学博士号取得。高岡厚生連病院、富山労災病院、福井県済生会病院に勤務。抗菌化学療法認定医、感染制御専門医、耳鼻咽喉科専門医。2006年より感染症予備校と称し、「感染症倶楽部」を創設。全国の医療従事者を対象に感染症生講演開催、全国へ出張・WEB講演も開催。2008年、石川県加賀市にて「希惺会 ながたクリニック」を開業。全国でも稀な「かぜ専門外来」を併設。2009年pdmインフルエンザ、COVID-19(2020年~)も含め、地域での新興感染症診療、北陸唯一の後遺症専門外来に率先して従事。2010年よりFacebookにて医療従事者向けの登録制感染症勉強グループを開設、感染症診療における正しい情報をシェアし、学び合える場を提供。2022年より抗生物質(抗菌薬)の正しい使い方の30分レクチャーを毎週水曜日8時にZoom生配信レクチャー【IC-FORCE】を全国の医師、研修医をはじめとする医療従事者500名に向け開催。著書に『Phaseで見極める!小児と成人の上気道感染症』、『Phaseで見極める!小児と成人の風邪の診かた&治しかた』(いずれも日本医事新報社)『間違いだらけの風邪診療 その薬、本当に効果がありますか?』(ちくま新書)などの単著書籍や、他共著などがある。

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(耳鼻咽喉科専門医 永田 理希)

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