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結局、「新卒入社の男性」にしかチャンスをわたさない…日本の大手企業が海外市場で勝ちきれない根本原因

プレジデントオンライン / 2022年7月6日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/metamorworks

なぜ日本企業は海外市場で勝ちきれないのか。経営コンサルタントの太田信之さんは「自分たちを今の規模にした運営の手法や体制を疑う気がない。だから、『新卒入社の男性』を中心とした企業文化が温存され、海外市場でつまずいてしまう」という――。

■なぜ日本企業は海外市場でうまくいかないのか

国際協力銀行(JBIC)の2020年度の調査「わが国製造業企業の海外事業展開に関する調査報告」によると、日本の製造業企業における海外生産比率は33.2%(2020年度見込み)、海外売上高比率は35.6%(同)と、ほぼ3分の1を占めている。また、業種にもよるが、大手メーカーの多くは売上高の半分以上が海外市場だともいわれている。

縮小を続けている日本市場を考えると、今後の海外売り上げの維持、成長が、企業存続の生命線といえるだろう。しかし実際のところは、多くのメーカーが海外での事業展開には苦労しているのが現状である。それはなぜなのか。

海外市場において日本企業同士が競合する時代はとうの昔に終わった。日々の競争相手が海外企業になって久しい。それにもかかわらず、大手メーカーでも、競合企業について尋ねると、いまだに同じ業界の日本企業の名前が挙がってきて驚かされることがよくある。

1980年代まで自分たちが国内で切磋琢磨(せっさたくま)してきた同業界同士での競争が、今なお記録映画の残像のように残っているのだろう。

しかし、現場での競争は今や海外企業との競争だ。海外での競争で勝ち続けるためには、海外市場での競合企業の考え方、仕事の進め方に合わせていく必要がある。

そのためには、なにも特殊なことをする必要はない。市場や顧客の求める価値を理解し、作り、提供して、フィードバックをもらいながら信頼を勝ち得るという基本的な業務を設計し、磨き上げるだけのことだ。

しかし、日本の大手企業はなかなかそれができない。その理由の一つは、自分たちの意思決定の仕方、仕組みが変えられないからだ。

変えられない理由、それは自分たちを今の規模にした運営の手法や体制そのものにある。

それが、日本企業が海外における事業展開で苦戦している大きな要因となっている。

■日本企業だけが持つ「強烈な免疫力」

現在、「大手」と呼ばれる日本企業の多くは、終身雇用制度で守られた生え抜き社員たちが、個ではなく組織の一員として自らを周りに同調させながら、部長、役員、社長となって組織を維持・成長させてきた。

こうしてつくり上げてきた組織に、日本人以外の社員は参加できない。もっと言えば、同じ日本人でも、女性社員でさえなかなか参加できていない。

そうしてできた組織体の維持には、強烈な免疫力が働く。女性や外国人社員、男性中途採用社員は異物であるとみなされ、はじき出される。

「ある試作品を3週間で納入したかった。数年くらいで数十億円のビジネスになる可能性があった。しかし、試作品の作成を了承してもらうためのやりとりだけで1カ月かかった。競争する前の段階だ。競争にすらならなかった」

そう言い残して、あるエース級人財が退職した。日系部品メーカーのフランス人エンジニアだ。

彼は将来の本社役員候補とも期待されていた。来日し、本社や研究開発部門で、数カ月滞在するなどの研修経験もあった。本社や、日本人生え抜き社員とのネットワークも相当できていたはずだった。

生え抜きの日本人社員にとって、自分たちが慣れ親しんでいる自社の仕事の進め方や価値観は空気のように当たり前で、それを中途採用の社員や外国人社員に押し付けているということにさえ気がつかないでいることが多い。

■価値を生み出さないことに時間をかけ過ぎる

これは特殊な実例ではない。日系企業の現地法人で長期間働いているスタッフの多くは、結局のところ、会社の文化に馴染むことができた人間だ。

それとて、本当に意思決定の中枢にあるラインへの信頼を得たり、影響力を行使できたりするようになるためには、相当の時間がかかる。そうした時間は、必ずしも市場や顧客に感じてもらう価値を生み出す時間ではない。

その間、市場では競争が続いている。そのために、顧客の声を聞き、変化を先取りし、製造拠点の采配や研究開発の資源配分が、市場で勝つために必要なスピードやスケールで進められない。

こうして、日本企業の海外での事業展開は苦戦が伴い、時間がかかり続けているのだ。

■市場の違いに素早く対応したメルカリ

ここまで日本の大手企業を中心に説明してきたが、ここで、日本のスタートアップ企業の一つであるメルカリのアメリカ事業(メルカリUS)について見てみたい。

メルカリUSのホームページ
画像=メルカリUSのホームページ

2013年に創業したメルカリは、翌2014年にはアメリカ市場に進出してメルカリUSを設立。2021年6月決算においてメルカリUSは初めて黒字化した。その経緯を伝える報告書を見ると、自社の日本でのビジネスモデルが通用しないと分かったアメリカ市場で成功するために、結局は事業モデル自体を書き換えている。

これが、日本企業の海外展開に関連した課題だ。これは海外市場に限られた話ではないが、自社の事業を成長させるためのモデルを考え、市場に適応(変化)させることは、全ての企業にとって生存競争での生き残りに関わる能力だ。

メルカリUSの黒字化に向けた対応スピードの速さは、さすがスタートアップ企業だ。日系大手流通企業であれば、資源配分など含め、恐らくここまで速い対応はできなかったのではないだろうか。

■異なる市場で事業を推進するために必要なモノ

市場が異なる=異なるビジネスモデルが必要だとすると、それを推進していくために必要なものは何だろうか?

それには資金も必要だが、それよりもむしろタレント(人財)のほうが重要となる。そして、市場が海外ということを考えると、そこにうまく対応していくためには、日本人の人財だけではおかしい、という結論になる。「日本人」という国籍的な区別だけではなく、リスクへの許容度や異なる思考や価値観を持った人も内包していく必要があるということになる。

そう考えたとき、自社でつくり上げた免疫に守られ、旧態依然とした経営を続ける大手企業が、その組織体をそのまま継続していくのであれば、遅かれ早かれ競争力が失われていくことは必然であり、すでに起こっている現実である。

■日本を単なる一地域の市場として経営するべき

ここまでの内容を要約してみよう。

・多様性を受け入れられない企業体は、硬直化して徐々に競争力が失われる
・海外展開とは、事業モデルをその市場に適応させ続けるということ

日本以外の市場が伸びていて、今後もその傾向が続くような事業をしている企業は、日本を自社のビジネスの中心と考えるのではなく、単なる一地域の市場として扱うべきだ。

■資生堂が行った改革の中身

実際、資生堂では魚谷雅彦社長が2014年に就任して以来、そうした改革を推し進めてきた。同社は世界120カ国の国・地域で事業展開しており、海外売上高比率は6割を超える。化粧品には、文化や価値観の異なる顧客への対応が必要になる。

そのために地域本部制を置いて、きめ細かくローカルニーズに対応すると同時に、日本を「一地域事業」という扱いにした。それと同時に、経営の重要要素となるデジタルや特殊領域である香水等についてはCoE(センター・オブ・エクセレンス)を設け、それぞれ米国やフランスを中心にして、本質的な提案や発信を可能にした。

同社の公表資料にも、「本社中心の日本人駐在員による国際事業の管理体制」から「グローバル経営体制」、さらに「Connected Multi-Value Creation」と、経営体制を変え続けていることが示されている。

「Connected Multi-Value Creation」とは、同社の資料によると「日本の本社が各地域を管理・コントロールするのではなく、それぞれの地域本社が、単なる販売拠点としての役割を越え、価値創造の拠点になることを目指」すことだとしている。

こうした体制を作るためには、世界事業をやりくりする本社スタッフが、異質なものを排除するのではなく、取り入れて、新しいことを生み出し、止めるべきは止めるというケイパビリティが必要になる。

■事業運営に欠くことのできない2つの課題

世界の中では、ドイツ人気質は日本人気質と合うとよく聞く。そして自動車産業が国の経済基盤となっている点でも似ている。しかし、そんなドイツの企業でさえ、自国ドイツは一市場であり、リーダーにはドイツ人ではない中途の人財を採用している。それは、世界で戦うことを意識していることの反映にほかならない。

大手日本企業には、複数の事業を抱えており、一概に日本を一市場にして、ということが難しいこともある。その場合でも、事業ごとに自分たちで必要な事業モデルを見極めた事業運営を設計することは可能だ。

筆者が関わったある会社では、売上高は1兆円を超えていたが、成長率は数%という状態だった。そんな中で、売上高が約1200億円の部材事業だけは海外市場の成長のおかげで2ケタ成長を続けており、さらなる成長のためには、日本での意思決定や試作開発業務がボトルネックとなっていた。

半年の議論を踏まえ、事業部長は事業の世界レベルでの企画・意思決定機能を欧州に移し、そのためにスタッフ人事も大幅に変えるという変革を断行した。同事業はこの移行期を終え、今はこれからの成長の基盤が機能し始めている。

海外展開で苦労する日本企業、という表現には、実は事業運営に欠くことのできない2つの課題が含まれている。

多様性を取り入れた組織体と運営の実現、その上で自分たちの事業のモデルが今どのような形である必要があるかを見極め、適応させていく、という2つだ。

日本企業が海外展開で成功し、世界でもう一度影響力を出すだけの存在になるためには、逆説的だが、多様性があり、日本は一市場であり、男性や日本人だけでがんばるのではない、という前提での新たな運営へのシフトが必要である。

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太田 信之(おおた・のぶゆき)
OXYGY代表取締役/アジアパシフィック代表パートナー
1966年、東京都出身。国際基督教大学卒業後、ソニーに入社。その後、GEにて事業開発や事業統合の業務を経験。複数のコンサルティングファームを経て、外資系コンサルティングファームのValeocon Management Consultingのアジア代表に就任。同社経営陣の一員として、英国系国際法律事務所、Bird & Birdの経営コンサルティング部門とのM&AによりOXYGYを設立、アジアパシフィック代表を務める。2019年から現職。

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(OXYGY代表取締役/アジアパシフィック代表パートナー 太田 信之)

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