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「スマホを持っているなら、受信料を払え」の恐れ…NHKがネット進出を急いでいる本当の理由

プレジデントオンライン / 2023年5月12日 13時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/takasuu

なぜNHKは受信料を徴収できるのか。『NHK受信料の研究』(新潮新書)の著書がある早稲田大学社会科学部の有馬哲夫教授は「現在の議論では、NHKの必須業務が放送からネットへ移っても、受信料を取り続けるということになりかねない。NHKはそう疑われてもしかたがないことをしてきている」という――。

■スマホを持っているだけで受信料を取られる?

4月27日付で産経新聞が「NHKの財源として、スマートフォンなどを含めて受信できる環境にある人に費用負担を求める『受信料収入』が望ましいとして意見が一致した」と報じた。

これを受けて5月1日にSmartFLASHは「『NHK受信料』『スマホ所持』がトレンド入り『スマホ持っているだけで受信料?』有識者会議は否定もSNSで集まる疑心暗鬼の声」というタイトルの記事を掲載したが、きちんと次のようなコメントを紹介していた。

「ただWG(公共放送ワーキンググループ)では、第1回会合から、『スマホを持っているんだから、NHK受信料を負担してください、なんていうのはまったくの問題外』など、スマホを所持するだけで受信料を徴収することには、否定的な意見が大勢です」

産経新聞の記事はミスリーディングで、Flashがそれを是正している。にもかかわらず、たしかに国民の多くは疑心暗鬼になっている。その疑念はこのようなものだ。

「そうはいっても、NHKは、将来、テレビを持たない人々からも受信料を取るようになるのではないか」言い換えれば「スマホやパソコンを持っているだけで受信料を取るようになるのではないか」

■1社のみが契約を義務付け、料金を求める異常

ちょっと聞いただけでは、これはとうてい無理な話に聞こえる。にもかかわらず、国民の胸にこのような疑念が広がるのは、NHKはそう疑われてもしかたがないことをしてきたからだ。

現在、NHKはテレビ(放送を受信できるチューナー付きの)を持っているだけで、半ば強制的に受信料を取っている。正確にいうと、放送法で受信契約を義務付け、NHKの受信契約規定で受信料の支払いを義務付けている。

国民はテレビで日テレ、TBS、フジ、朝日など民放の番組も見ているのに、NHKにだけ受信料を払っている。NHKのプロパガンダのせいで、当たり前のように思われているが、これを新聞に置き換えると異常さがわかる。読売、朝日、毎日、産経、その他地方紙があるのに、朝日新聞だけ購読契約を義務付け、料金を支払えといっているようなものだ。

イギリスでは許可料(受信料に当たる)は、放送業者全体に支払われ、BBCが独占しているわけではない。オーストラリア、ニュージーランド、フランスは、受信料に当たるものを廃止している。

■「国民の理解を得て徴収する」を裏切った

しかも、今年4月になってからは、受信料の不払いに対して割増金を取り、罰則を科すという暴挙に出ている。これまでは、このような罰則はなかった。今までは、これは訓示規定だった。つまり、守るに越したことはないが、破ったからといって罰するまでのことはないと規定されていたのだ。それを、支払わなければ罰するという罰則規定に変えた。これは、「あくまでも国民の理解を得て徴収する」というこれまでの暗黙の了解を踏みにじるものだ。

NHKは、国民が望んだわけでもないのに、勝手に業務を増やし、放送事業を拡大し、組織を肥大させて、その費用を半ば税金化した受信料の徴収という形で国民に負担させてきた。

テレビ放送が始まった1953年に200円だった受信料は、現在1260円とおよそ6倍になっている。前回の記事でも述べたが、そもそも国民の資産である電波を使わせてもらっているのだから無料であってしかるべきなのに、である。

だから、「NHKは将来、スマホやパソコンを持っているだけで受信料を取るようになるのではないか」という話が少々無理に聞こえても、国民は「NHKならやりかねない」と思うのだ。

そして、事実、これまでの経緯を見ても、やりかねないのだ。

■そもそもなぜNHKは受信料を徴収できるのか

そもそも、一体、なぜ現在のような形の受信料が取られるようになったのだろうか。その際に、どんな根拠が挙げられてきたのだろうか。

現在の放送法が国会で議論され、受信料も問題とされていた1950年に、当時の網島毅電波監理長官は国会で次のように述べている。

今後民間放送が出て参りましたときに、放送協会の事業を継続する。しかもこの放送協会がもうかるともうからないとにかかわらず、全国的に電波を出さなければならないという使命を負わされた放送協会といたしまして、この聽取料の徴收ができない場合には、協会の事業は成立って行かないことは明らかでありまして、従ってぜひともこういう聽取料を強制的に徴收するということが必要になって参るのであります。

(中略)

無料の放送ができて来るということになると、日本放送協会がここに何らか法律的な根拠がなければ、その聽取料の徴收を継続して行くということが、おそらく不可能になるだろうということは予想されるのでありまして、ここに先ほどお話いたしましたように、強制的に国民と日本放送協会の間に、聽取契約を結ばなければならないという條項が必要になって来る。

第7回国会衆議院電気通信委員会議録第4号6頁(1950年2月2日)

■アメリカの放送局は「受信料なし」が普通

ここで、網島は、NHKの事業を継続するために、受信料を強制的に徴収することが必要だと説明している。その事業とは、もうかるともうからないとにかかわらず全国的に電波を出すということだ。

この発言を理解するためには、当時のコンテキストを理解する必要がある。彼のこの国会答弁はGHQによる占領が終わる2年前になされている。つまり、網島は、国会で承認を得る前にGHQのOKを取らなければならなかった。

GHQはNHKが受信料を取ることに反対していた。アメリカと同じにすれば、受信料は必要ないと思っていたからだ。アメリカの放送局は、広告を流し、寄付をもらい、地方自治体の交付金を受けて、受信料なしで放送している。

リビングで家族そろってテレビを観ている
写真=iStock.com/Phynart Studio
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Phynart Studio

また、NHKのように直営局によるネットワーク放送ではなく、ニューヨークにキー局があり、その番組を経営上は独立のローカル局が系列契約を結んで放送していた。この形ならば、それぞれのローカル局は収入に見合った規模で事業をしていけばいいので、受信者から強制的に料金を取る必要がない。現在、日本の民放もこのような形でネットワーク放送をしている。

■強制徴収が必要だと主張する“大義名分”

GHQの考えにしたがえば、受信料を取る理由はない。そこで、NHKは受信料を強制的に取るための理由を探した。それが、網島のいうように「全国的に電波を出す」というものだ。

GHQのいうように、NHKの各県にある直営局をそれぞれ経営上独立のバラバラのローカル局にしたのでは、受信料は取る必要はない。各局が収入に見合った規模でやっていけばいいだけだからだ。だが、直営局のネットワークによって「あまねく全国に放送する」とすれば、組織が巨大になるので、受信料が維持費として必要になる。

そこで放送法の最初のバージョンにはなかった「あまねく全国に放送する」をNHKの目的として加えた。こうすれば、直営局を通じての全国放送を行うために、受信料は必要だと主張できると思ったのだろう。(詳しくは拙著『NHK受信料の研究』に譲る)

とはいうものの、網島のいっていることは、現状を追認してくれ、ということでもあった。戦前からNHKは直営局によってネットワーク放送し、その維持費として受信料を強制徴収していたからだ。要するに、網島はGHQの進めようとする、受信の自由化と無料化という改革(あるいはアメリカ化)に抵抗したのだともいえる。

■受信料廃止は「放送の民主化」の根幹だった

これが決して褒められないのは、国民の利益(受信料無料)を犠牲にして利己的利益(自己保存)を優先したからだ。私はGHQの占領政策について批判的だが、この放送に関わる部分は国民の利益になるという点で評価している。

GHQの考え方、すなわち「放送業者は、国民のものである電波を使うのだから、その代価として国民に公共性の高い放送サービスを無料で提供しなければならない。受信料をとれば、お金を払う人にだけ受信の自由を認め、払わない人には認めないということになるので望ましくない」という考え方は、網島の考え方と比べてたしかに民主主義的だといえる。受信料の廃止は、彼らの目指す「放送の民主化」の重要な一部だったのだ。

結局、放送法によってNHKと受信契約を義務付けるが、受信料の支払いはNHK受信契約規定で義務付けることになった。この当座の便法が現在も続いている。

■「憲法に違反しないのか」には踏み込まず

この後、NHK受信料のことが本格的に議論されたのは、1962年から1964年にかけて開かれた「臨時放送関係法制調査会」においてであった。以前に放送体制と受信料を議論したときは、日本には民放がなく、NHKだけがラジオ放送していた。だが、このときは、すでに各県にNHKの他に民放が2局かそれ以上の拠点を持っていた。そして、放送もラジオからテレビに主役が移っていた。もっとも重要な点は、改革を迫るGHQがいなくなっていたことだ。

答申は、全国的ネットワークのNHKと地域社会に密着し、経営も独立している民放ローカル局のネットワークが並立体制を築き、両者が補い合っている現体制が望ましいとした。これは当時の現状の追認だ。

そして、受信料については、次のように規定した。

受信料は、(中略)NHKの業務を行うための費用の一種の国民的な負担であって、法律により国がNHKにその徴収権を認めたものである。(中略)国家機関ではない独特の法人として設けられたNHKに徴収権が認められたところの、その維持運営のための「受信料」という名の特殊な負担金と解すべきである。

テレビの時代になって、NHKの業務も変わり、組織も肥大し、予算も巨額になっているのだが、それがいいことか、悪いことかは一切考えず、現状を追認し、追認した現状に合わせて受信料を取るという考えをこの答申は示している。

なぜ国家機関でもない独特の法人であるのに法律によって徴収権を認められているのか、それは憲法に違反していないのか、といったことには一切踏み込もうとはしていない。

■「受信料義務化」「罰則化」が改革案に

当時は高度成長期なので、事業規模を適正に保ち、民放のように広告を流せば、受信料など取らずにやっていけたはずだが、受信料をなくそうという発想がないので、そちらの方面に話が進むことはなかった。

地上波の放送に衛星放送が加わり、それらがデジタル化され、ブロードバンドも全国に広がり、放送とインターネットなど通信との融合も視野に入ってきた2006年、総務省の「通信・放送の在り方に関する懇談会」は、受信料制度の改革について次のように述べている。

公共放送の維持のためには、不祥事の続発の結果生じた大規模な受信料不払いの問題を解決することが必要不可欠である。また、大量の受信契約の未契約等のまま視聴する事例が余りに多い現状を看過することはできない。

そのためには、上述の様々なガバナンス強化やチャンネルの削減、組織のスリム化等の措置によりNHKの公共性を絞り込んだ上で、過大な水準にある受信料徴収コストを出来る限り削減するとともに、現行の受信料を大幅に引き下げ、NHKの再生に対する国民の理解を得ることが必要である。それを前提に受信料支払いの義務化を実施すべきである。その後更に必要があれば、罰則化も検討すべきである。

通信・放送の在り方に関する懇談会 報告書(2006年6月6日)

■国民の問題意識が共有されていない

文中に「不祥事」とあるが、これはNHKのプロデューサーが番組制作費を横領したスキャンダルのことをいい、これがもとで大きな受信料不払い運動が起きていた。

懇談会のメンバーは、完全にNHKの側に立って受信料の問題を述べている。何の疑問も持たずにNHKを「公共放送」とみなし、それを維持するために、受信料不払い問題を解決することが必要不可欠だといっている。

国民の多くはスキャンダルによって、受信料はどう使われているのか、受信料制度そのものに問題があるのではないかと気が付いたのに、そのような問題意識は共有されていない。それどころか、不払いに対して「義務化」とか「罰則化」など強硬な態度で臨むべきだとすらいっている。

しかし、その一方で、チャンネルの削減や組織のスリム化、受信料徴収コストの削減により、受信料を大幅に下げることも提言している。衛星チャンネルを2つ加え、その後も野放図に肥大し、そのコストを受信料として国民に負担させようとするNHKに対し、ノーといってはいる。これは現状を追認せず、組織の縮小を求め、併せて受信料の値下げを求めている点では評価できるだろう。

■「本当に公共放送といえるのか」はスルー

ところが、翌年の2007年に設置された「公平負担のための受信料体系の現状と課題に関する検討会」、2015年に設置された「放送を巡る諸課題に関する検討会」では、現状追認したうえで、いかにNHKの維持費を国民に「公平負担」させるかということが議論される。これには唖然とする。なぜなら、放送史をひもとけば、もともとNHKは「私設無線電話施設者」、つまり勝手に放送を始めた事業者だからだ。勝手に、事業を始め、それを拡大し、野放図な経営をしているのに、そのコストをなぜ国民が「公平負担」しなければならないのか。まるでプロパガンダだ。

東京・渋谷にあるNHK放送センター
写真=iStock.com/mizoula
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/mizoula

■ネット配信と放送の主客が入れ替わる重要局面

そして、最後に、冒頭でも紹介した現在進行中の「公共放送ワーキンググループ」がくる。ここでの議論は、これまで放送の補完業務としてきたネット配信の業務を、必須業務にすべきか、ということだ。言い換えれば、これまでNHKは放送によって「あまねく全国に」コンテンツを届けることを業務としてきたが、これをネットで行ってもいいかということだ。

これは、NHKのインターネット活用と業務の拡大を提言した2013年の「放送政策に関する調査研究会」の答申を踏み越えるものだといっていい。この答申は「放送を目的に設立された特殊法人という性格から(インターネット活用の)無限定の実施は不適切」と述べ、基本的に放送の補完の範囲での任意業務として実施できるとしていた。

今回のワーキンググループの議論は、ネット配信を必須業務とし、放送をその補完業務とする方向に進むことをNHKに許そうとしている。つまり、主客が入れ替わり、放送から通信に移ろうとしている。

そうしたいのはよくわかる。放送は時間に縛られ、操作性がない。つまり、放送時間にテレビの前にいなければならず、番組コンテンツも早送り、巻き戻しができない。通信とメディアの発達によって仕事場と自宅の区別がなくなり、若者だけでなく、ほぼすべての年代の日本人がスマホ中毒になりつつあるのに、これでは番組コンテンツを見てもらえない。

ネットに移しても、魅力のない番組コンテンツが人気を博すことはないが、ずっと見られる状態に置かれているので、見る機会が増えることはたしかだ。イギリスをはじめ、先進諸国でも番組コンテンツを放送からネットに移行させている。

■ネット配信なら受信料を取る根拠はなくなるが…

問題は受信料だ。放送からネットに移行したあとも、受信料はなんの変更もなくこのまま取り続けるのか、ということだ。

従来の議論では、受信料は放送をするNHKを維持する「特別な負担金」なのであって、ネット配信するNHKの維持費ではない。「あまねく全国に」放送するためには、自前の全国的放送インフラを維持しなければならないので巨額のコストが必要となるが、ネットで「あまねく全国」に配信するためには、それほどコストはかからないし、そもそもその通信インフラはNTTのものだ。

放送の範疇にとどまっている限りは、これまでの議論からいけば(もちろんその議論も正しくないのだが)、NHKはその事業の維持費として受信料を取ることができる。だが、放送が主体でなくなるのなら、受信料を取る根拠はなくなる。

今回のワーキンググループは、NHKはネット配信を必須業務にすべきかという論点を議論する一方で、受信料はどうするのかという論点は後回しにしている。これでは、NHKの必須業務は放送からネットへ移るが、受信料はいまのまま取り続けるということになりかねない。まさしく「スマホをもっているだけでNHKは受信料を取るようになる」が現実になってしまう。

■国民の理解なんて得ずにごり押しされる懸念

民放連もこれに気が付いていてワーキンググループに質問するという形で牽制している。つまり、ネット配信を必須業務にする議論が先行して、受信料の問題が議論されていないが、これでは受信料の問題をそのままにして、NHKにネット進出だけを許すことになりはしないかということだ。

ご存じのように民放はいち早くネット配信に進出し、そこから少ないながらも利益を出そうと奮闘している。そこに受信料という税金同様の絶対的収入源をもったNHKが出てくるのは迷惑きわまりないし、不公平でもある。

有馬哲夫『NHK受信料の研究』(新潮新書)
有馬哲夫『NHK受信料の研究』(新潮新書)

冒頭でも見たように、ワーキンググループのメンバーは「スマホを持っているんだから、NHK受信料を負担してください、なんていうのはまったくの問題外」といっているそうだが、もちろん、それは正しい。だが、これまでのNHKの自己保存ファーストの振る舞いをみると、国民の反発など顧みず、またしてもごり押ししてくるのではないかという危惧を抱いてしまう。

この問題を解決するもっともよい解決策は、受信料を廃止してしまうことだ。徹底的に規模縮小したうえで、ネットに移って、サブスク料と広告料と寄付と国からの交付金でやっていけばいい。地方の直営局は、経営上独立の放送局となり、広告料と寄付と自治体からの交付金で経営をまかなえばいい。それしか道はないように思える。

なお、受信料を巡るこれまでの議論を知りたいという人には、わかりやすさという点で以下のものを推奨する。

総務省「インターネット活用業務の財源と 受信料制度に関する論点」(2023年4月27日)

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有馬 哲夫(ありま・てつお)
早稲田大学社会科学部・社会科学総合学術院教授(公文書研究)
1953(昭和28)年生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。東北大学大学院文学研究科博士課程単位取得。2016年オックスフォード大学客員教授。著書に『原発・正力・CIA』『歴史問題の正解』『日本人はなぜ自虐的になったのか』『NHK受信料の研究』(新潮新書)など多数。

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(早稲田大学社会科学部・社会科学総合学術院教授(公文書研究) 有馬 哲夫)

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