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もしも歴史上の人物で最強犯罪集団『オーシャンズ11』を作るなら…英歴史学者が選んだ「9人の天才」とは

プレジデントオンライン / 2023年7月12日 8時15分

映画『オーシャンズ11』の出演者 - 写真提供=●●

歴史上の人物の中から映画『オーシャンズ11』のような犯罪スペシャリスト集団を作るとすれば、誰が適任だろうか。歴史学者で英BBCの人気ポッドキャスターのグレッグ・ジェンナー氏が子供たちの質問に答える『ロンドン大学歴史学者の「歴史のなぜ」がわかる世界史』(かんき出版)より、一部を紹介しよう――。

■暴力的な人間や本当の犯罪者は除外

『“オーシャンズ11”みたいな強盗チームを結成するなら、歴史上のどの人物に声をかけますか? 匿名より』

『オーシャンズ11』とは、2001年に公開されたアメリカ映画で、犯罪スペシャリスト集団がカジノの金庫室にある大金を狙う話だ。あれこれ考えるのはとても楽しく、共犯者リストの作成にずいぶん時間がかかってしまった。ほとんどの人間は基準を満たさなかった。

たとえば18世紀の泥棒ジャック・シェパードは、牢屋からなんと4回も脱獄したことで非常に有名になった。もちろん彼の持つ技術は、どこかに忍び込む場合にも役立つことは間違いない。しかしシェパードには、すぐに再逮捕されてしまうという困った習慣があった。魅力的な愚か者がわが家に警察官を連れてくるというのは願い下げだ。

暴力的な人間も、チームには加えたくない。温厚なペテン師集団がいいんだ! ということは、歴史上最も悪名高い銀行強盗の1人である、ヨシフ・スターリンも除外される。恐怖の専制君主となるずっと以前、若いスターリンは数々の強奪事件を指揮したが、その1つが1907年にチフリス(現在のジョージアのトビリシ)の広場で発生した銀行強盗事件だった。

革命を目指すボルシェヴィキのための資金調達策として、スターリンが計画をまとめあげたのだ。結果的にこれは流血事件となり、爆弾が使用されて多くの死者が出た。そんな手間をかけたにもかかわらず、奪った金は結局使えずじまいだった。紙幣の通し番号が当局に把握されていたからだ。

ということは、悲劇的なことだが、多くの死は無駄だったということだ。また恐るべき精神病質者であるスターリンは、僕の求めるような陽気で図々しい犯罪者の気質などは持ち合わせない。彼の役どころは間違いなく、映画の終わりに仲間全員を裏切るというものだ。お引き取り願おう!

というわけで、僕の空想上の歴史人物犯罪集団に迎え入れるのは誰か? 際限なくあれこれ考えた挙げ句に決めたのは次の面々だ。

■天才的な頭脳を持つチェスの達人

●首謀者:ムハンマド・イブン・アンマル(1031~1086)

優れた頭脳を持つこの男は11世紀の有名な詩人で、セビリア・タイファ国の文化的な支配者として名高いアル=ムータミド・イブン・アッバードの顧問だった。なぜ彼を?

中世モロッコの歴史家アブデルワヒド・アル=マラクシによると、イブン・アンマルは優れた詩人、優秀な行政官、そして最強のチェスの達人だったらしい。チェスといえば、忍耐心、先見の明、それに物事が計画どおりにいかない場合、臨機応変に計画変更するための適応力が欠かせない。そう、チェスの達人なら、襲撃を警戒するカジノの強奪作戦を立案する首謀者としてうってつけだ。

また、チェス・プレイヤーとしての彼の実績もすごい。カスティリア王アルフォンソ6世とのチェスの勝負に勝利して、都市セビリアを侵略される運命から救ったといわれているんだ。

伝説によると、彼は手彫りの豪華なチェス・セットでアルフォンソに勝負を挑んだらしい。アルフォンソが勝ったらチェス・セットは彼のもの、もしイブン・アンマルが勝ったら、アルフォンソは彼の望むどんなことでもかなえなければならない。

もちろんイブン・アンマルが勝利し、カスティリア軍の完全な撤退を要求した。物語の真偽は疑わしいが、正直なところ、僕にはどうでもいい。イブン・アンマルは、追い詰められた状況でも冷静でいられる、優れた戦略家だったようだ。チームにようこそ! 早速計画を立てよう……。

■エジソンを上回った機械学者

●技術担当:蘇頌(そしょう)(1020~1101)

カジノの防犯システムを破るには最高レベルのオタクが欠かせない。もちろん歴史上、科学の天才はいくらでもいる――天才発明家のニコラ・テスラにトーマス・エジソン、鉄道や蒸気船を設計したイザムバード・キングダム・ブルネル、暗号学者のアラン・チューリング、「コンピューターの父」ともいわれるチャールズ・バベッジ、世界初のコンピューター・プログラマーとして知られるエイダ・ラブレスなど。

蘇頌
蘇頌(写真=CC-PD-Mark/Wikimedia Commons)

僕の歴史上のお気に入りが誰か知りたいなら言うけど、僕は驚異的な万能の天才、レオナルド・ダ・ビンチの大ファンで、彼のこととなると興奮を抑えられなくなる。ただしレオナルドは締め切りを守らなかったことでも有名だ。僕が金庫室への侵入を試みている間、彼が隅のほうで機械じかけのライオンを組み立てていたりしたら!

そこで僕は同じくらい輝かしい万能の天才だけど、遅延することはあまりなかった人物を選んだ。11世紀の中国北宋の官僚だった蘇頌は、詩、薬学、天文学、数学、地図制作、芸術論を含む多くの分野で優れた業績を残したが、とりわけ天文時計の制作で知られている。彼が制作した水運儀象台(ぎしょうだい)(水運渾天儀(こんてんぎ))は、脱進機(時計などで、振子などの振動体の振動が持続するように、それらの振動体に間欠的に力を与える装置)の動力源として自動水車を利用した。非常に洗練された装置で、現代の研究者も縮尺モデルを制作するのに苦労したほどだった。たしかにWi-Fiが発明されるより1000年も前の人間かもしれないが、それでも彼ならカジノの監視カメラを欺くことができると、僕は確信している。

■キング牧師の前に演説を行ったアメリカの踊り子

●陽動作戦:ジョセフィン・ベーカー(1906~1975)

映画『オーシャンズ8』(2018年に公開された『オーシャンズ』シリーズのスピンオフ作品)でアン・ハサウェイが演じる大物女優は、当初はターゲットだったが……以下、ネタバレ注意……高価な宝飾品に近づけるというそのセレブぶりのおかげもあって、最後には一味に加わる。

ジョセフィン・ベーカー
ジョセフィン・ベーカー(写真=Paul Nadar/CC-PD-Mark/Wikimedia Commons)

僕もこのアイデアをパクりたいが、そのさらに上をいくことにする。なんといっても僕の選んだスーパースターは本物のスパイだったのだから。ジョセフィン・ベーカーは20世紀の最も驚くべき人物の1人で、ミズーリ州出身の貧しいアフリカン・アメリカンの踊り子はパリの伝説的なジャズの女王となったのだ。

ベーカーは非常にひょうきんで美しく、きわどくて、ダイヤモンドで飾り立てたペットのチーターを連れて映画を見に行くかと思えば、センセーショナルな歌手そしてダンサーでもあり、ナチスがフランスを占領すると、高い知名度を利用してフランスのレジスタンスのためにスパイを務めた。

検問所で秘密の通信文をまんまと通過させた――なにしろジョセフィン・ベーカーの所持品検査をする勇気のある者などいるか? それだけでは足りないとばかりに、彼女はその後、アメリカの公民権運動を導く光となり、マーティン・ルーサー・キング・ジュニアが登場して「わたしには夢がある」と言う前に群衆の前で心を揺さぶる演説を行った。どこに行こうと彼女は注目を集めた、ということは、チームが警備員の監視をすり抜けて侵入するときにも注意をそらしてくれるだろう。採用!

■南北戦争の女スパイ

●変装の名人:メアリー・ジェーン・リチャーズ(1840頃~1867)

計画を完璧に成功させるには、内通者が欠かせない。そこで僕のひそかな目と耳になってくれるのは、誤ってメアリー・ボウザーと呼ばれることが多いメアリー・ジェーン・リチャーズだ。彼女も才能に恵まれた黒人女性だった。

奴隷として生まれたメアリーは、解放され、教育を受けて、南北戦争中には勧誘されてエリザベス・ヴァン・ルー(1818~1900、奴隷解放運動家、博愛主義者。もともとヴァン・ルー家の奴隷だったメアリーも彼女に解放されたと思われる)のスパイ・ネットワークに参加している。彼女はアメリカ連合国大統領のジェファーソン・デイヴィスの住む官邸に雇われ、少なくとも一度は重要な軍事機密を求めて彼の書類を探っている(アメリカ連合国は奴隷制存続を求めて1861年にアメリカから分離独立を宣言し、その結果南北戦争が勃発した。デイヴィスは連合国の唯一の大統領だった)。

メアリー・ジェーン・リチャーズについては誇張された伝説がいくつも伝わっている。たとえば写真のような正確な記憶力を持っていたとか、官邸を焼こうとしたなど。しかしはっきりしているのは、彼女が任務をうまく遂行し、また一度もスパイだとばれなかったことだ。僕にとってはそれで十分!

■自らを台湾人と偽ったフランス人著述家

●ペテン師:ジョージ・サルマナザール(1679頃~1763)

非公開エリアに侵入するには、口のうまい詐欺師がいる。そこでジョージ・サルマナザールも一味に加えようと思う。

1703年にロンドンに現れたサルマナザールは当時ヨーロッパでほとんど知られていなかったフォルモサ島(台湾)の出身だと主張した。ロンドンっ子を煙に巻くために彼は偽の言語、偽のカレンダー、偽の宗教、偽の文化習俗をでっち上げて、当時の最も学識豊かな紳士でさえも騙すことに成功した。

ベストセラーとなった彼の著書には多くの詳細な情報が詰め込まれていたが、すべてまったくのでたらめだった。たとえ誰かが疑惑を抱いても、サルマナザールは巧みな話術でうまく話をそらした。やがて化けの皮がはがれ、実はフランス人であることが判明したあとでさえ、彼の名声は失われなかった。危機をうまく回避できる人間がいるとすれば、それはジョージ・サルマナザールだ。

■ナチスに「白ネズミ」と呼ばれた女エージェント

●コミュニケーション担当:ナンシー・ウェイク(1912~2011)

完璧な犯罪計画は、人を動かす力を持つマネージャーを必要とする。そして組織の敏腕統括者として、ナンシー・ウェイク以上の適任者は思いつかない。ニュージーランド生まれの彼女はフランスのレジスタンスとイギリスのSOE(特殊作戦執行部)の両方で重要な役割を果たし、フランスのナチス占領軍を混乱に陥れ、そして敵地に墜落した連合軍のパイロットを国外脱出させた。

ナンシー・ウェイク
ナンシー・ウェイク〈オーストラリア戦争記念館のオンライン カタログより〉(写真=PD-Australia/Wikimedia Commons)

ウェイクはとにかくおもしろい人だった。ひょうきんで、激しく、頑固で、また状況がまずくなると優れた射撃能力を披露した。彼女の担当はロジスティクスと通信だったが、危険な戦闘を計画して自ら参加することもあり、必要とあれば敵兵を殺した。また敵兵の監視をくぐり抜けるために彼らといちゃついてみせることもあった。

ロンドンに重要なメッセージを届けるべく、自転車で500キロメートルをわずか72時間で走破したというのは有名な話だ。ナチスどもが彼女の正体に気づき、「ホワイト・マウス(白ネズミ)」と名づけて後を追いはじめたときでさえ、彼女は驚くほど巧妙に国外に脱出することに成功している。ナンシー・ウェイクはとにかくすごい女性で、彼女が僕のチームを動かしてくれることを確信している。

■奴隷解放運動のヒーロー奇術師

●潜入スパイ:ヘンリー・「ボックス」・ブラウン(1815頃~1897)

僕は敏腕強盗とはとてもいえない。実はこれまでに、欲しいものを盗んだことなど一度もないという犯罪歴のわびしさだ。でも、映画『グランド・イリュージョン』(2013年に公開された、奇術師が登場するアメリカの犯罪映画)を見て、華を添えるためだけにも奇術師がいるんじゃないかと気がついた。

たちまち思いついたのはもちろん、偉大なるハリー・フーディーニ(1874~1926)――驚くべき強靭(きょうじん)さ、敏捷さ、呼吸調節力、それに集中力を併せ持つ「脱出王」――だ。ただし彼の虚栄心もまた相当なものだった。しかし僕が求めているのはチームの和を乱さない人物だ。

それからジャスパー・マスケリン(1902~1973)がいる。彼は第二次世界大戦中にイギリス軍に参加した奇術師で、アレキサンドリア港を消滅させたり偽の軍隊を出現させたりしてナチスを翻弄(ほんろう)したと主張している。本当だとすれば大したものだ。しかし現代の研究者は、実は彼は無節操にほとんどの話をでっち上げたと疑っている。なんて恥知らずな! こいつはお断りだ……。

そんなわけで僕が選んだのはヘンリー・「ボックス」・ブラウンだ。ブラウンは1815年頃、ヴァージニア州で奴隷の子として生まれた。妻と子が奴隷として売られたことを知って逃亡を決意し、奴隷解放運動家の助けを得て、小さな木箱のなかに隠れて州を脱出した。

窮屈な箱に閉じ込められた彼は、水入りの小瓶とビスケット(アメリカ風ビスケット、つまりイギリスでいえばスコーン)だけを手に、汽車や荷馬車を何度も乗り継いで移動したのだ。こうして彼は安全と自由を手に入れた。

ブラウンは奴隷解放運動を象徴するヒーローとなり、やがてイギリスに渡って各地で箱に隠れるパフォーマンスを行って観衆を喜ばせた。その後、巡回奇術師となり、観客を幻惑させて欺く技術を磨いた。そこで、――もし彼が同意してくれるなら、僕たちも快適性に気を配ることを約束する――彼を箱に詰めてカジノの金庫室に送りつけようと思う。そうしたら箱から飛び出して、盗みを始めてくれるだろう!

■賄賂も使う墓泥棒

●金庫破り:アメンパヌファ(紀元前2世紀頃)

ときには常習犯が役に立つ場合もある。盗みの手際がいいだけでなく、警察への対処方法も知っているからだ。歴史上、名高い大泥棒は何人もいるが、金庫破りの大任はこの古代エジプト人労働者にまかせたい。

3000歳になるアメンパヌファは常習的な墓泥棒だった。彼のことが知られているのは、紀元前1108年に書かれたマイヤー・パピルスにその自白が記されているからだ。つまり最後には裁きの場に引き出されたということだが、自白によると、彼は多くの墓で盗みを働き、捕まると役人に袖の下をつかませて自由を取り戻し、次の墓を盗みに行ったという。頼んだよ!

■通算4257勝の戦車乗り

●逃走運転手:ガイウス・アプレイウス・ディオクレス(104~146頃)

状況がまずくなって急いで逃げなければならなくなったら、俊敏で強気で、迫りくるどんな障害物でもかわせる人間が必要だ。そこで登場するのが古代ローマの有名な戦車乗り、ディオクレスだ。

グレッグ・ジェンナー『ロンドン大学歴史学者の「歴史のなぜ」がわかる世界史』(かんき出版)
グレッグ・ジェンナー『ロンドン大学歴史学者の「歴史のなぜ」がわかる世界史』(かんき出版)

獲得した賞金を現代の通貨に換算すれば、彼は史上最高額を獲得したスポーツ選手となる。1462回も勝利した、非常に優れた戦車乗りだっただけではない。きわめて危険なことで知られるこの競技を生きのびたということ自体、驚くべきなのだ。

4257勝をあげたのちに引退したが、ほとんどのライバルたちはそれよりずっと前に事故死していた。ディオクレスは天才だったのか、はたまた信じられないほど幸運だったのか。どちらにしても、車の鍵を預ける相手は彼しかいない。

これでドリーム・チームが完成した。犯罪計画を持ってこい! ただし、ヨシフ・スターリンにだけは知らせないでほしい。さもなければ、僕たちみんな死ぬことになるから……。

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グレッグ・ジェンナー 歴史学者、キャスター、作家
ロンドン大学ロイヤル・ホロウェイ校の名誉研究員。BBCの子ども向け歴史番組「Horrible Histories」のコンサルタントを務める。軽妙な語り口から、イギリスでは歴史の面白さに目覚める子どもや大人が続出している。著書に『A Million Years in a Day: A Curious History of Daily Life』『Dead Famous: An Unexpected History of Celebrity from Bronze Age to Silver Screen』がある(いずれも未邦訳)。

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(歴史学者、キャスター、作家 グレッグ・ジェンナー)

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