「顔で笑って心で泣く」がベスト…自律神経の名医が教える「医学的にやってはいけない」5つのNG行動
プレジデントオンライン / 2023年7月13日 9時15分
※本稿は、小林弘幸『自律神経が10割』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
■自律神経は、わたしたちを24時間365日支えている
わたしたちの生命活動を、時間365日支え続けているもの──それが「自律神経」です。
自律神経は、わかりやすくいえば内臓器官のすべてを支えていて、とくに血管をコントロールしています。
たとえば、わたしたちが意識しなくても心臓はしっかりと自律的に動いていますが、それは自律神経の働きのおかげです。
また、呼吸も自律神経がコントロールしていることを思えば、まさに、わたしたちの生命活動の根幹を支えていると見ることができるでしょう。
自律神経は、「交感神経」と「副交感神経」で構成されています。わかりやすく車の機能にたとえましょう。
まず、交感神経はアクセルです。交感神経の働きが優位になると、血管が収縮して血圧が上昇し、気分までアグレッシブな状態になります。
一方、副交感神経はいうなればブレーキ。副交感神経の働きが上がると、血管が適度にゆるんで血圧が低下し、体は穏やかなリラックスの状態になります。
心身の健康にとって理想的なふたつの神経のバランスは1対1。つまり、それぞれの神経が高いレベルで活動しながら、同時にバランスがとれているときに人間の体はもっともいい状態となります。
逆にこのバランスが崩れたときは、心身に様々な不調が現れるようになるのです。
■男性は30歳、女性は40歳をめどに自律神経が乱れる
わたしたちの心身を健康な状態に保つためには、交感神経と副交感神経のバランスがとれていなければなりません。
しかし、仕事や日常生活での忙しさや、情報過多をはじめとする現代社会特有のストレスにより、現代日本人の多くは「交感神経が優位」になっています。
また、それらの影響からストレスを感じることが増え、副交感神経の働きを下げていきます。
その結果、ますます自律神経のバランスが乱れ、内臓器官の働きの低下をはじめとする不調が次々と現れるわけです。
さらに、個人差はありますが、男性は30歳、女性は40歳をめどに副交感神経の働きが下がっていきます。
かくいうわたしも、30歳を超えたときに急に体力の衰えを感じました。大学でラグビーをしていたこともあり、それまでは体育会系の勢いそのままに仕事で徹夜をしてもまったく平気だったのですが、それが極端につらくなりはじめたのです。
「これが年齢というものか......」
そう感じて寂しくなったものですが、いま思えば副交感神経の働きが下がっていたことが原因でした。
逆にいえば、自律神経のバランスをきちんと整えれば、その低下の進行を緩やかにしていくことができるのです。
ここで、自律神経のバランスを乱すNG行動をいくつかご紹介したいと思います。
■NG行動①朝食を食べない
自律神経のバランスにとって、朝はとても重要な時間帯。朝の過ごし方によってつくられた自律神経の状態は長く持続する傾向があり、その日1日のパフォーマンスを左右するからです。
たとえば、朝に余裕を持って起床し、歯磨きや朝食、ネクタイを締めたり、忘れ物がないか確認したりするすべての行動を「ゆっくり」行えば、あなたの自律神経は最高の状態で1日をはじめることができます。
逆に、ベッドから飛び起きて、朝食もろくに食べないまま満員電車に飛び乗ればどうなるでしょう? 交感神経が極端に優位になり、一度乱れた自律神経のバランスは、相当意識した方法を駆使しない限りそのまま戻らず1日中引きずってしまいます。
そもそも、意識で制御できないのが自律神経なのですから。
そこで、ぜひいつもより1時間早く起きることを習慣にしてみてください。これだけでゆっくりと行動する余裕ができ、あなたのパフォーマンスは劇的に向上します。もちろん、自律神経が整うと血液がサラサラと全身に流れていき、頭も冴えわたるでしょう。
1時間早く起きることは、これまでの生活で乱れた自律神経のバランスを整えていくための大いなる一歩です。2週間も続ければ心身がみるみるうちに変化していきます。
時間は誰にでも平等に与えられていますが、1時間早く起きるだけで午前が長くなり、1日が25時間もあるように感じられるはず。時間は、使い方によって長くも短くもなり得るのです。
■NG行動②顔をこわばらせる
ふだんの生活を送るなかで、知らないうちに眉間にシワを寄せていたり、あごに力を入れて歯を噛み締めていたりしていませんか?
顔をこわばらせていると、交感神経の働きが上がるため血流が悪くなり、呼吸が浅くなって余計に緊張してしまいます。
そして、脳に血流が十分に行き渡らないため頭の働きも鈍くなっていきます。
でも、これと逆の状態をふだんから心がければ、気分は落ち着いて頭も冴えてきます。逆の状態とは、まず口角をしっかり上げて笑顔をつくること。
よく、気分が悪いからしかめ面をしていると思われがちですが、不機嫌な表情をしているからこそ気分が悪くなっていくのです。
ストレスフルな時代ですから、気分が悪くなるきっかけがあったのかもしれません。でも、不機嫌な表情をしていることでますますイライラは募っていきます。
気分を変えるよりも、表情を変えるほうが数段簡単。まずは、口角を上げて笑顔でいること。
それを習慣にするだけでも気分が落ち着き、あなたのパフォーマンスはもちろん、人生がよい方向へと向かっていくことでしょう。
■NG行動③つい怒鳴ったり怒ったりする
はらわたが煮えくり返るようなことが起こって、つい怒鳴ったり、激しく怒ったりしてしまうことは誰にでもあると思います。そこまで至らなくても、静かな怒りやイライラが晴れない日もあるでしょう。
しかし、自律神経を乱さないために気をつけたいのが、この「怒り」です。怒りの感情はまさに一瞬で爆発しますが、それによって乱れた自律神経は3時間戻りません。そして、血管が収縮して心拍数が上がり、どろどろになった血流が全身の臓器に悪影響を与えます。
しかも、これが朝に起きたら、その日のパフォーマンスにとってもっとも貴重な午前中のゴールデンタイムで交感神経が異常に優位になってしまい、大切な時間が台なしです。
ただ、朝はそうした怒りを引き起こす機会に満ちてもいます。その代表が通勤タイム。満員電車のなかで他人ともみくちゃになり怒鳴ったり、舌打ちをしたりするといったイライラを目にしたことがあると思います。
たとえ自分が怒らなくても、こうしたまわりの怒りの影響を受けないようにすることも大切なのです。
わたしの場合、つねに30分の余裕を持って行動しているので、そうしたときはさっさと下車し、次の電車に乗り込むようにしています。
とにかく、怒ってもいいことはなにひとつありません。自分の健康と仕事のためを思い、「怒らない」ことを心がけてください。
■NG行動④愚痴や悪口を言い合う
会社や保護者同士の集まりなどで、どんなときも仲間でグループをつくって行動している人たちを見かけます。お互いに励まし合える、独立心のある人同士ならいいのですが、つるんで愚痴や悪口をいい合うようなグループだったら要注意。
そうしたグループでは、あなたを仲間の一員として認める代わりに、そこから出ることも許しません。
そして、自分たちよりもレベルが高い(と勝手に思っている)人たちの足を引っ張り、レベルが低い(と勝手に判断している)人たちを見下します。いつの間にか、あなたもそんなグループの一員にされてしまうのです。
愚痴や悪口をいうとそのときは気分が晴れてストレスが解消されているようですが、ネガティブな思いは心から消えることはなく、いつまでも残るうえに、嫉妬や怒りの感情に変わります。
もちろん、交感神経がつねに高い状態になり、血液もどろどろで、大切な健康がどんどん蝕まれていきます。人とつるんでよいことなどまったくないのです。
さらに、そんなグループ内でも、やがて誰かがわずかな出世や得などをして差が生まれていくため、ますます激しい嫉妬や怒りの感情にさいなまれるようになるのです。
現実には、どんな人でも腹が立つことはあるでしょう。しかし、そうしたときこそ人とつるまず、少しでも自分でリフレッシュの時間をつくって、自分のために質のいい休息を取ることが必要なのです。
■NG行動⑤気乗りのしない誘いを断らない
出る必要のない会議、得るものがない上司との飲み会、愚痴だらけのママ友会……など、わたしたちのまわりには、イライラする人間関係があふれているようです。
本当はやりたくないことも、自分をだまして続けていれば、どんどん自分を追い詰めてしまいます。
だからこそ、そんな誘いはすぐに断ってしまいましょう。大切なのは、「すぐ」ということです。相手を気づかって迷うそぶりなどを見せていると、余計に断りにくくなるだけです。
「そんな断り方をしたら、みんなから仲間外れにされる」
「上司の誘いを断れるわけがない! 仕事や昇進にも支障が出る」
その気持ちはわからないでもないですが、断ったら本当にそのような事態になるでしょうか? 実はそう思い込んでいるだけで、自分の時間を管理できていない責任を相手に押しつけているだけとはいえないでしょうか。
あなたが守るべきは、まず自分の健康と時間です。この最優先事項を、どうか心に刻んでください。
やりたくなければ、断ってしまえばいいのです。こんなに「やりたくない」と思っているあなたをしつこく誘う相手は、あなたのことなどたいして考えてはいません。
迷わず毅然(きぜん)と、即、断ってしまいましょう。
■結論:怒らなければ人生は10割よくなる
怒ることに、ほとんどよいことはありません。
わたしは、「怒らなければ人生は10割よくなる」とまで思っています。
怒ると一時は気が晴れるかもしれませんが、怒ることでものごとは必ず悪い方向へと進んでいきます。人間関係においては、ただ怒っていても相手はまったく納得しません。それどころか、心の底であなたを軽蔑することでしょう。
また、怒ると緊張します。これが交感神経の働きを極端に上昇させます。
そして、怒ると後悔します。結末がよい方向へ向かわないので、自分のとった行動に自信がもてなくなるのです。
その結果、ストレスでますます怒る人も……。こうなると血液はどろどろになって脳に酸素が行き渡らず、頭がもっと働かなくなります。血管も傷ついて酸化が進み、体の調子がおかしくなっていきます。怒りのスパイラルのはじまりですね。
世の中に健康法と呼ばれるものは数多くありますが、怒ることほど体を蝕むものはないといっても過言ではありません。
怒らなければ、本当に10割よくなる。これはわたしの人生訓です。
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順天堂大学医学部教授
1960年、埼玉県生まれ。順天堂大学医学部卒業後、同大学大学院医学研究科修了。ロンドン大学付属英国王立小児病院外科、トリニティ大学付属小児研究センター、アイルランド国立小児病院外科での勤務を経て、順天堂大学医学部小児外科講師・助教授などを歴任。自律神経研究の第一人者として、トップアスリートやアーティスト、文化人のコンディショニング、パフォーマンス向上指導にも携わる。順天堂大学に日本初の便秘外来を開設した“腸のスペシャリスト”としても有名。近著に『結局、自律神経がすべて解決してくれる』(アスコム)、『名医が実践! 心と体の免疫力を高める最強習慣』『腸内環境と自律神経を整えれば病気知らず 免疫力が10割』(ともにプレジデント社)『眠れなくなるほど面白い 図解 自律神経の話』(日本文芸社)。新型コロナウイルス感染症への適切な対応をサポートするために、感染・重症化リスクを判定する検査をエムスリー社と開発。
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(順天堂大学医学部教授 小林 弘幸)
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