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「マスク生活で免疫が低下した」は間違い…今、小児科が疲弊するほど子供の感染症が流行している本当の理由

プレジデントオンライン / 2023年7月13日 8時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/maruco

今、子供の間でさまざまな感染症が流行していて、小児科の発熱外来が混雑しているという。小児科医の森戸やすみさんは「マスクの着用や新型コロナワクチンのせいだといううわさが流れているが、根拠はない。マスクの着用や手洗いなどの感染対策が緩んだことが原因の一つなので、むしろそれらの見直しを」という――。

■例年と違って小児科は発熱した子供でいっぱい

毎年、大型連休であるゴールデンウィークが終わると、小児科外来は患者さんが減ります。小児科は風邪やインフルエンザの流行する冬のほうが患者さんが多く、夏は少ないのが通例なのです。ところが、今年はどこの小児科クリニックの外来も、発熱した子供たちでいっぱいになっています。クリニックだけでなく、病院の小児病棟も満床になっていることが多いようです。

これは今、子供の間でさまざまな感染症が流行しているため。RSウイルス、溶連菌、ヒトメタニューモウイルス、アデノウイルス、インフルエンザウイルス、新型コロナウイルスの感染者が増え、これらは検査キットで特定することができます。他にもさまざまなウイルスや細菌が蔓延しています。小児科では症状からどの感染症かを予想したうえで検査を行いますが、特定できないケースも少なくありません。このほか、ヘルパンギーナ、手足口病、突発性発疹なども増えていて、百日咳や水ぼうそうの子もちらほらいます。

こうした例年にない状況は人を不安にさせるのでしょう。「新型コロナ対策でマスクをつけていたために、子供の免疫力が落ちた」「新型コロナワクチンを接種したから、子供の免疫が低下した」「子供には、もっと風邪をひかせておくべきだった」などという説がまことしやかに広まっています。でも、最初にお伝えしておくと、これは間違いです。今回は、その理由を詳しく説明したいと思います。

■「マスク生活で免疫が落ちる」に根拠なし

先日、ある新聞が、現在のインフルエンザの流行は「コロナ禍のマスク生活で、インフルへの免疫が一斉に落ちたことが原因だ」と断じ、「専門家は『子供にとって怖いのはコロナよりインフル。心配な人はワクチンを打ってほしい』と話す」と書きました。この記事は、さまざまな箇所が間違っています。

まず、この季節にインフルエンザワクチンを接種できる医療機関は、ほぼありません。インフルエンザは、通常12月から翌年の2月ごろに流行する感染症です。そしてインフルエンザワクチンは、WHO(世界保健機関)が次シーズンにはどの型が流行するかをが予測し、それに基づいて各製薬会社が秋までに製造します。そうして各医療機関に供給されたワクチンは、毎年10〜12月ごろに接種され、残ったら春までに返品されるのです。

次に「マスク生活で、インフルへの免疫が一斉に落ちた」というのは、どういう意味でしょうか? インフルエンザに対する抗体を全員が持っていたのに、マスクが習慣になったせいで一斉に減少したということでしょうか? この記事を書いた記者は、実際の抗体検査の結果などの根拠を示していません。インフルエンザが増えた理由が、免疫の低下にあるとは到底いえるはずがないでしょう。

■根拠のないうわさのせいで悩む保護者もいる

こうした根拠のないうわさや報道のせいで、不安を抱く保護者の方もいます。先日、診察室で患者さんのお母さんから「新型コロナの波がひどかったときも、子供には風邪などをひかせたほうが免疫がついてよかったのでしょうか?」と相談されましたが、そんなことはありません。

多くの感染症は、小さな頃に発症したほうがリスクが大きいのです。例えば、百日咳は大きな子供や大人がかかってもつらいことが多いのですが、1歳未満の子がかかると入院することが多々あります。生後6カ月未満では生死に関わりますから、この春は厚生労働省がワクチン接種時期を前倒したほど怖い病気です。飛沫(ひまつ)感染、接触感染をするため、気をつけていてもかかるときはかかります。コロナ禍に「こんなに風邪をひかないなんて、いつか子供にしっぺ返しが来る」と言っている人がいましたが、どんな感染症も予防ができて、かからないで済むならかからないほうがいいのです。

また、別のお母さんから「新型コロナワクチンで免疫が下がると聞いて心配です」と相談されたこともあります。これも全く根拠はないので安心してください。もしも本当だとしたら、発熱した子は新型コロナワクチンを受けているはずですね。ところが、外来で私が確認すると接種率は1割弱で、ほとんどの子が受けていません。しかも子供の新型コロナワクチンの接種率は全国平均でわずか2割程度ですから、むしろ現在の感染症の流行の説明がつかなくなります。

赤ちゃんを診察する女医
写真=iStock.com/key05
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/key05

■今、さまざまな感染症が流行している理由

では、今、さまざまな感染症が流行しているのはなぜでしょうか? それは新型コロナが第5類になって感染対策が緩んだから、そして人流が回復したからです。国内の旅行者も、海外からの旅行者も増えています。当然の成り行きですね。

意外と知らない人が多いようなのですが、ほとんどの感染症は飛沫感染、接触感染します。人流が減り、他人と距離を取り、よく手を洗い、マスクをつけていると伝播しづらいのです。2020〜2022年には新型コロナ対策のために、これらが広く行われました。しかも緊急事態宣言が出たり、保育所や学校、会社などに新型コロナ感染者が相次ぐと休みになることが多々あったため、他の感染症は例年より少なくなったのです。

しかし、現在では人流が再開し、以前ほど気をつけて手を洗わなくなり、マスクを着けなくなったので、感染症にかかる人が増えました。しかも、多くの感染症の患者数は、コロナ禍前よりも増えたわけではありません。2020〜2022年よりも少し増えた、もしくはコロナ禍前と同程度になっただけです。

例えば、図表1の通り、溶連菌(A群溶血性レンサ球菌咽頭炎)の感染者数は、新型コロナのパンデミックが起こった2020〜2022年まで激減し、今少し増えているところです。ただ、いろいろな感染症が一度に増えたので、小児科の発熱外来が混み合う事態になったのだと思われます。

【図表】A群溶血性レンサ球菌咽頭炎(2023年第21週)
図表=厚生労働省/国立感染症研究所「IDWR 感染症週報」

■医療機関や高齢者施設ではマスクの着用を

実際に、新型コロナが第5類になってからは、病院やクリニックにおいてさえマスクをしない人が増えました。うちのクリニックにも、お子さん(2歳以上)にひどい咳や鼻水、高熱があってもマスクをさせず、ご自身もマスクをせずに受診される保護者の方が少なからずいらっしゃいます。

確かにマスク着用は個人の判断が基本となりましたし、無理強いすることはできません。ただ、周囲に感染を広げないためにも、ご自身を守るためにも医療機関や高齢者施設、混雑したバスや電車などでは着用したほうがいいのです。日本医師会も厚生労働省も、それらの場所でのマスクの着用を推奨しています。

先日、マスクをせずに受診される保護者の方にそうご説明したところ、「でも保育園でマスクを取らされてしまうんです」とのことでした。たとえ保育園の中ではマスクを外していても、さまざまな感染症の方が来院される医療機関ではマスクをしたほうがいいでしょう。マスクを着ける目的は、新型コロナを予防することだけではありません。RSウイルス、溶連菌、ヒトメタニューモウイルス、アデノウイルス、インフルエンザなどのさまざまな感染症を予防するためです。

日本医師会WEBサイトより
日本医師会WEBサイトより

■基本の感染予防策をしっかり行うのが最善の方法

こうして現在の感染症の流行状況を考えると、この3年間に私たちが行っていた感染予防対策は効果的だったことがよくわかります。飛沫感染や接触感染を起こすさまざまな感染症は、本気で対策すればかなり予防できるのです。やはり三密を避ける、手を洗う、マスクをすることは有効だったのです。

そして、感染症にどんどん感染して抗体を高めようとする必要はありません。大勢の人が感染症にかかれば、重症化したり亡くなったりする子供が出てしまいます。何らかの感染症にかかっても必ず抗体価が上がるとは限りません。例え何らかのウイルスに対する抗体価が上がったとしても、重症化したり、合併症が起こったりして苦しんだり、後遺症が残ったり、命を失ったりしたら本末転倒です。ヒブ(ヘモフィルス・インフルエンザb型菌)に感染して細菌性髄膜炎になり、重篤な後遺症が残った場合に「それでも抗体がついたからよかった」と思う人はいないでしょう。しかも、新型コロナのように何回でも感染するウイルス、細菌だってあるのです。

今、小さいお子さんのいるご両親は、さまざまな感染症が流行していて、小児科が混み合っていて、とても不安だと思います。ワクチンで防ぐことのできる感染症は、ワクチンで予防しましょう。そのうえでコロナ禍によって習慣化した基本の感染予防対策をしっかり行うのが最善の方法だと思います。

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森戸 やすみ(もりと・やすみ)
小児科専門医
1971年、東京生まれ。一般小児科、NICU(新生児特定集中治療室)などを経て、現在は東京都内で開業。医療者と非医療者の架け橋となる記事や本を書いていきたいと思っている。『新装版 小児科医ママの「育児の不安」解決BOOK』『小児科医ママとパパのやさしい予防接種BOOK』など著書多数。

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(小児科専門医 森戸 やすみ)

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