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性能では日本車に負けている…それでも「ハーレー」が高級大型バイクとして熱狂的に愛されるワケ

プレジデントオンライン / 2023年7月13日 13時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/bizoo_n

アメリカのバイクメーカー「ハーレーダビッドソン」には日本人のファンも多い。経営コンサルタントの菅野誠二さんは「ハーレーがバイク王国の日本で勝ち残れたのは、ホンダ、ヤマハ、カワサキ、スズキといった性能で勝る日本車と勝負しない道を選んだからだ」という――。

※本稿は、菅野誠二、千葉尚志、松岡泰之、村田真之助、川﨑稔『価格支配力とマーケティング』(クロスメディア・パブリッシング)の一部を再編集したものです。

■ただの「顧客」→「得意客」→「強力なファン」

顧客の生涯価値を計算してターゲットを選択し、そうやって獲得した顧客を維持したあとには、さらにその関係を「深化」していくことが大切だ。

アメリカの経営学者フィリップ・コトラーによれば、ゼネラルモーターズでは新規の顧客開拓には既存顧客維持の5倍以上の経費がかかることを発見したそうである。また、B2Bビジネスの場合、経費は概算で20倍から50倍にもなる。

では、顧客を自社ブランドの強力なファンにするにはどうすればよいのか。

まず、「見込み客」を対象にして、最初の購買をしていただく「顧客」を創造する。その際には「返報性の原理」を活用することがひとつのアイデアだ。人は、他人から何か嬉しいことをしてもらうと、何かお返しをしなければいけない心理が働く。無料でサンプルをもらう、あるいは価値を感じられる無料メルマガを配信してくれるサービスを受けると、「ここで買わないと悪い気がする」という心理が働く。

小売店では、相手の好みをカウンセリングしてくれ、「これでもか」というくらい商品をテーブルいっぱいに広げて説明してくれるので、元に戻す手間を想像すると返報性が働くのがよい例だ。そのあとには足繁く通う「得意客」になっていただきたい。

しかし、それで顧客深化の道は終わったわけではない。次には「ファン=支持者」として積極的に自社の商品を周囲に勧めてくれるようなレベルから、事業によっては一緒に商品の販売促進のPRに出演してくれるパートナーにまで深化していただく、という理想の到達点まで想定すべきだ。

■世界131カ国に広がる「ハーレー愛」

彼・彼女はそのブランドの伝道師となって周囲に口コミしてくれるだけに終わらず、時には協業や共同開発/Co-Creationして、商品企画を手伝ってくれる可能性もある。数的にはトップ20%程度の伝道師が80%の売上に貢献してくれるという例はよくある話だ。ネットでのアフィリエイト(※1)を狙って口コミを広げてくれる宣伝者/アドボケーターになることもある。

周囲にハーレーダビッドソンのオーナーがいたら「ハーレーって、乗っていて、どう?」と聞いてみるとよい。きっと彼、彼女の「ワオ!」体験を飽きるほど聞かせてくれるはずである。

ハーレーダビッドソン
写真=iStock.com/ardasavasciogullari
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ardasavasciogullari

彼らの多くは「ハーレー・オーナーズ・グループ/HOG」(※2)というファン組織に入会している。HOGは世界131カ国、100万人以上のハーレーオーナーをつなぐ世界最大のライダーズグループである。日本のメンバーは3万人を超え、全国のハーレーダビッドソン・ジャパンの正規販売網115店舗(2020年時点)の地域会員組織を運営している。

統一された店舗デザインはファンの集合拠点、かつシンボルであり、定期的なツーリングやイベントを開催する。これはハーレー体験を共有する、最大のマーケティング施策だ。

(※1)アフィリエイト:成果報酬型広告
(※2)ハーレーオーナーズグループ:https://www.harley-davidson.com/jp/ja/content/hog.html

■性能で勝てない日本車とは戦わないと決めた

近年「ファン・マーケティング」「コミュニティ・マーケティング」という概念が広がっている。オンライン+オフラインでコミュニティを生成し、強いファンである既存顧客がブランドを支持し、さらに代弁/アドボカシーすることで、ユーザーがユーザーを呼ぶという考えだが、ハーレーダビッドソンはこの発想の先駆者と言える。

ハーレーは1980年代に、一時期、日本車の攻勢を受けて消滅しかかったことがある。しかしその際、性能では日本車に勝てないことを悟った。そこで徹底的にユーザーペルソナを分析したところ、ハーレーの購入目的、および提供価値の本質は実用性や性能そのものではないことがわかった。それはどこまでも「趣味」であり、「アメリカを強く感じるデザイン」+「力強いエンジン音」+「エンジンの振動」を「楽しむこと」だと見極めた。

この瞬間、日本車と戦わないことを決めたのだ。

■日本の大型バイクカテゴリーでシェア1位

このユーザー体験を広める仕組みづくりを1983年に開始して、ホンダ、ヤマハ、カワサキ、スズキというオートバイの主要4大メーカーを擁するバイク王国の日本で、エンジン751CC以上の大型バイクカテゴリーで、一時はシェア1位を奪うまで復活した。

ハーレーの平均価格は日本で200万円以上、最高価格は600万円を超える業界屈指のプレミアム・ブランドである。

■ユナイテッドアローズの顧客管理方法

また、別の事例ではセレクトショップのユナイテッドアローズを取りあげよう。著名なIT批評家の尾原和啓氏のインタビュー(※3)によれば、2022年にECサイトと機関システムをリニューアルし、ECサイトへの「集客」、「接客」、その後の「CRM顧客情報管理」の効果を高めてファンを形成し、LTV/Life Time Value:顧客生涯価値の増進に向かっているそうである。

衣料品店
写真=iStock.com/AnnaStills
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/AnnaStills

デジタルのお膳立てとして、店舗でのアプリ利用者は50%程度を超えている。来店者がブルートゥースやWi-Fiをオンにしている場合には、ビーコン/電波発信機を活用して購入者の25%程度の来店を検知できる体制がある。

加えて、MA/マーケティング・オートメーション・ツールを活用して来店から購買データを参照し、購買後のアンケートを送ってもらっている。これらのデータから、仮説として立てた店舗でのカスタマージャーニーが正しかったかを検証している。

「初回購入でスラックスやデニムのようなパンツを選んだお客様は、LTVが高くなることがわかった」という分析結果が出たとする。「パンツのフィッティングにおいて、よい接客ができた顧客は次につながりやすくなるという洋服店としてのあるべき基礎力がしっかり評価されていると考えられる」という発見があった。ここを踏まえて、次回には何をお勧めすればヒット率が向上するかを、データから導き出す。

デジタルデータの解析と、リアルの融合だ。

(※3)尾原和啓「デジタルの未来を求めて」 第30回ユナイテッドアローズがUXで解明 LTVが高い顧客の共通点とは? 2023年01月17日

■ファンを育てられれば、値下げしなくても売れる

筆者はユナイテッドアローズに20年以上通っているが、それは懇意にしている販売員の佐藤さんがいるからだ。私の好みのみならず、持っている洋服をほぼ把握してくれている。

暑い日にはそっとペットボトルで冷たい水を出してくれる気遣いが嬉しい。佐藤さんは現在、店長に昇進していて、会員の先行特別割引セールの案内が届く。さらに筆者が好きそうな商品を取り置きしておいてくれる。これまで相当数の友人も紹介した。自分自身をファンと表現してよいだろう。

菅野誠二、千葉尚志、松岡泰之、村田真之助、川﨑稔『価格支配力とマーケティング』(クロスメディア・パブリッシング)
菅野誠二、千葉尚志、松岡泰之、村田真之助、川﨑稔『価格支配力とマーケティング』(クロスメディア・パブリッシング)

加えて、佐藤氏だけが特別というわけではなく、他の従業員のサービスレベルも高い。この企業は数あるセレクトショップの中で顧客接客の上位にランクインするが、その接客指導とビジョン教育の仕組みに定評がある。事業ビジョンに共感を持っている従業員が顧客の共感を呼ぶのだ。

昨今、ベースアイテムの価格もあがりつつあり、なによりバーゲンセールの値引き率が低くなっている。アパレル小売店としての生き残りをかけて値上げは必須条件だろう。最近ではネットでも見せ方を工夫して、値下げせずに売れるようシフトしてきた。

価格支配力を持つには、ファンの育成がコアになる好事例だ。

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菅野 誠二(かんの・せいじ)
経営コンサルタント
ボナ・ヴィータ代表取締役、ビジネス・ブレークスルー大学教授(マーケティング)。早稲田大学法学部卒、IMD経営大学院修了(MBA)。ネスレ日本株式会社にて営業・ブランディングの経験を経て、マッキンゼー&カンパニーにて経営コンサルタントとして数々の一部上場企業のプロジェクトを担当。のちにブエナ・ビスタ(ウォルト・ディズニー・カンパニー ビデオ部門)でマーケティングディレクターを務めた。ボナ・ヴィータを設立、コンサルティングによる企業の戦略立案とアクションラーニングを通じた企業変革に関わっている。著書に『外資系コンサルのプレゼンテーション術』(東洋経済新報社)、『値上げのためのマーケティング戦略』(クロスメディア・パブリッシング)、訳書に『マッキンゼー流 プレゼンテーションの技術』(東洋経済新報社)など。

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(経営コンサルタント 菅野 誠二)

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