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イカサマで相手を負かし、生きたまま皮を剝ぐ…傍若無人な音楽の神・アポロンの「パワハラ伝説」をご存知か

プレジデントオンライン / 2023年7月26日 17時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/LordRunar

ギリシャ神話には「ぶっ飛んだエピソード」が数多く登場する。新刊『ぶっ飛びまくるゼウスたち』(実業之日本社)から、「横暴な理由で下級の神を殺したアポロン」のエピソードを紹介しよう――。

※本稿は、こざきゆう、真山知幸(著)、庄子大亮(監修)『ぶっ飛びまくるゼウスたち』(実業之日本社)の一部を再編集したものです。

■ゼウスの頭部を割ったら生まれてきた戦いの女神

戦いの女神・アテナは、最高神・ゼウスに愛されまくりの娘。だけど、それはアテナがゼウスのたくさんの子の中でも、超優等生の女神ってことだけが理由ではない。アテナの“生みの母”がゼウス自身だからだ。

「ゼウス、男だよね? 何を言ってんの?」ってなるだろうから、くわしく見てみよう。

まず、知恵の女神・メティスはゼウスの赤ちゃんを妊娠していた。これをゼウスはこわがった。「生まれてくる子が、あなたの地位をうばう」と予言されていたからだ。

そうなってはたまらん、とゼウスがとった行動がスゴい。メティスをゴクン! 飲みこんだのだ!

でもこれ、取りこんで一体化したみたいなことで、メティスはゼウスの中で生き続けた。そんなん、あり? さらにメティスのお腹の赤ちゃんは、ゼウスの中ですくすく成長。大きく育ってくると、ゼウスは激しい頭痛を感じた。で。頭を割ってみた(え? 雑すぎん?)結果、出てきたのが完全武装したアテナだった、ってわけ。つまり父・ゼウスは母・ゼウスでもあったってことだ。何でもありだな。

そんなぶっ飛んだ生まれの女神は、その後もぶっ飛ぶ!

■神を畏れぬ傲慢な人間の元へやんわり注意をしに降臨

いつもやりすぎちゃうギリシャ神話の神々の中では、アテナは、かなりまっとうで知的な優等生キャラ……なんだけど、やっぱ神は人間の常識じゃあ測れない。神のプライドが高いもんだから、ごうまんな人や反こう的な者には、ま〜、ようしゃなくやりすぎる! ひどいほど、てってい的に!

オーストリア国会議事堂前の古代ギリシャの女神アテナ
写真=iStock.com/Privizer
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Privizer

そんなアテナの性格をよく表しているのが、「アラクネ事件」だ。

染物が有名な地域・リディアで育った娘・アラクネは、織物名人。彼女が作る織物はレベチ(レベルちがい)な美しさだから、町の人々は、「あんな神がかり的な織物の技、アテナ様から教わったんじゃね?」と、感心しまくり、うわさしまくり。アテナは、技術の女神でもあるからだ。

ところが、これがアラクネには何だかムカつきまくり。

「自分で技術を極めたっつーの! 織物の技はアテナ様よりも上にちがいないわ‼ そうよ、私の技は神をこえているの‼」

悪口には地獄耳なのか、アラクネの言葉が聞こえちゃったアテナは、「!」となり、おばあさんに姿を変えて、やんわりと注意しにいった。

「人間の身分をわきまえなさい、女神さまは、あやまれば許してくれるわよ」と。

■織物対決で父ゼウスをバカにされて激怒

ところがアラクネにしてみれば、何言ってんだコイツ、だ。しかも、「女神と、どっちが織物の技が上か勝負したいくらいだわ」と言い出すしまつ。さすがのアテナもあきれかえって、女神の姿にもどると、織物名人VS技術の女神の、意地とプライドをかけた戦いの火ぶたは切って落とされた! いきなりだな‼

織り進める絵のできは、さすが、どちらもお見事。アテナはアラクネの織物を見て、人間で敵とは言え、そのすばらしさに感心した。だが、絵の内容がいけなかった……。父で最高神のゼウスが、動物に変身して人間の女の人をナンパしている、つまりゼウスを笑いものにした絵だったのだ(まぁ、ゼウスの日ごろの行い通りの絵と言っちゃえば、その通りなんだけど……)。

「これは許せない! 反省しなさい」

アテナはその布を引きさき(ひどい! その1)、頭を織物道具でひっぱたいた(ひどい! その2)。アラクネにしてみれば

「ひっぱたいたね! 母さんにも、ぶたれたことないのに!」

な女神の仕打ちに超ショック! 首をつって自殺しようとしたのだ。

女神に刃向かうぐらい強気なわりに、メンタルは弱かったのね。こうなっちゃうと、アテナは怒りも冷めて、何だかあわれな気持ちになってしまう……。

そこで、「生きなさいアラクネよ。クモとして」。以後、クモになったアラクネは、糸を出して巣という織物を作り続けている、というわけ。

でも、何でクモにしたの? アラクネを助けたって言うより、苦しめ続けていないかい?(ひどい! その3)。

■酒の神のおともをする半獣神が拾った、いわくつきの縦笛

「犬も歩けば棒に当たる」という言葉には「行動するとひどい目にあう」と「行動するとラッキーなことがある」の正反対の意味がある。さて、この話の主人公・マルシュアスが行動した結果がどっちだったのか、見てみよう。

マルシュアスは、にぎやかな飲み会が大好きな酒の神・ディオニュソスのおともをする、サテュロスという半獣神族のひとり。そして、楽器を演奏するのが得意な、音楽好きだ。

ある日、マルシュアスは、アウロスという、根元から2本に分かれた見事なたてぶえを拾った。超がつくほどの音楽好きで楽器の名手だ、「犬も歩けば棒に当たる」、拾えてラッキーってなものだったろう。しかし、このアウロス、いわくつきのヤバい楽器だったのだ。

と言うのも、技術の女神・アテナが発明したもので、とてもいい音色を出す。楽器にはな〜んの問題もない。だが、ある日、アテナが気分良くこのたてぶえをふいていると、結婚の女神・ヘラと、愛と美の女神・アフロディテが笑って言った――。

「あ〜た、ふえをふくとき、ほおをふくらませた顔がおかしくてよ、ホホホ」

■「音楽の神に並ぶ音色だ」高い評判があだとなる

ま〜、そんな余計なひと言で、アテナはアウロスをイヤになって捨ててしまったのだ――「アウロスをふいた者には、災いがふりかかれ!」と八つ当たりの呪いをこめて……(そこまでする⁉ ってとこ、いかにもギリシャ神話的)。

そんなことなど知るはずもないマルシュアス、アウロスのふき方をすぐにマスターすると、ふいてふいてふきまくる。その音色を耳にした精霊たちは、思わずうっとり♪

「マルシュアスのふえは、音楽の神にならぶ」
「世界一の音楽家はマルシュアスだ」

なんて、みんなから大いにほめられまくって、マルシュアスもいい気分。「犬も歩けば〜」で言えば、ふいて聞かせる行動によって、ほめられてラッキー。しかしこの評判が余計だった。ラッキーは、ここまで。アテナの呪いの発動だ……。

■身内に審判をさせてイカサマ勝負を仕掛ける卑劣なアポロン

マルシュアスの評判を耳にして怒った音楽の神・アポロンが、からんできた。

「どっちが世界一の音楽家か、オレはたてごと、お前はふえで勝負だぁ!」と。さらに、「勝者が、敗者に“何してもいい”ことな!」という約束までさせられて……。

しかも、この対決のしんぱんは、ムーサという芸術の女神たち。この時点で、マルシュアスはカンペキ不利だった。なぜなら、ムーサたちはアポロンのおともで、完全にアポロン側の神だからだ。

そんなのイカサマ勝負とわかっていながら、やめられなかった。神ランキングが上の上級神には、さからえないのだ。

それでも2人の演奏は、どちらが優れているのか決められなかった。それだけ、マルシュアスの音楽はすばらしかったのだ。

■『王様の耳はロバの耳』の元ネタもアポロンにある

だが、アポロンは、たてごとを上下さかさに持ちかえてかなでたり、演奏しながら歌い始めた。「お前も同じようにやれ」という、ちょう発だ(大人げない)。もちろん、どちらも、ふえでは無理に決まっている。

こざきゆう、真山知幸(著)、庄子大亮(監修)『ぶっ飛びまくるゼウスたち』(実業之日本社)
こざきゆう、真山知幸(著)、庄子大亮(監修)『ぶっ飛びまくるゼウスたち』(実業之日本社)

この瞬間、マルシュアスの負けは決まった……。泣いて許しを求めるマルシュアスをガン無視で、アポロンはなわでしばりあげ、木にさかさづりにすると――生きたまま皮をはいでいったのだ(!)。ぎゃ〜、ざんこく! マジ、アポロン、頭バグってる!

楽器を拾ったがために、アポロンにからまれ、天国から地獄に落ちたマルシュアス。「犬も歩けば〜」で言えば、アウロスを拾う行動をしたため、痛い目にあったどころか、死んでしまった。ひどい話だ。

ちなみに、アポロンには、似た話が他にもある。

牧畜の神・パンとふえで対決をしたときだ。しんぱんをした、今のトルコ中西部・プリュギアのミダス王が、パンの勝ちを告げると、アポロンがめちゃ怒りだした(ん? 逆ギレでは⁉)。

そして、ミダス王の耳を、ロバの耳に変えてしまった。そう、童話『王様の耳はロバの耳』でおなじみの王こそ、このミダス王なのだ。

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こざき ゆう 児童書ライター、作家
児童書ライター、作家。計14万部の『からだのなかのびっくり事典』シリーズ、4か国で翻訳の『Dr.ちゅーぐるの事件簿』など児童書中心に100冊以上執筆(共著含む)。

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真山 知幸(まやま・ともゆき)
著述家/偉人研究家
1979年兵庫県生まれ。2002年同志社大学法学部法律学科卒業。上京後、業界誌出版社の編集長を経て、2020年独立。偉人や歴史、名言などをテーマに執筆活動を行う。『ざんねんな偉人伝』シリーズ、『偉人名言迷言事典』など著作50冊以上。近刊に『あの偉人は、人生の壁をどう乗り越えてきたのか』(PHP研究所)、『日本史の13人の怖いお母さん』(扶桑社)。

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庄子 大亮(しょうじ・だいすけ)
西洋神話研究者
1975年、秋田県生まれ。西洋神話研究者。現在、関西大学等で非常勤講師を務める。著書に『世界の見方が変わるギリシア・ローマ神話』(河出書房新社)。

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(児童書ライター、作家 こざき ゆう、著述家/偉人研究家 真山 知幸、西洋神話研究者 庄子 大亮)

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