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落ち込んだときに反省するのはバカの所業…日本人の9割に当てはまる「前頭葉バカ」を予防する習慣

プレジデントオンライン / 2023年7月28日 19時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/mapo

いつまでも脳を健康に保つためにはどうすればいいのか。医師の和田秀樹さんは「人間の脳は記憶を司る海馬よりもずっと先に、前頭葉からバカになっていく。前頭葉を鍛えるためには、マジョリティの意見をうのみにせず『それは本当なのか』と疑問を持つことが大切だ」という――。

※本稿は、和田秀樹『前頭葉バカ社会』(アチーブメント出版)の一部を再編集したものです。

■前頭葉は40代から衰えはじめる

日本という国では、前例踏襲、現状維持、事なかれ主義、極端に失敗を怖れる認知バイアスなどが人々の思考や判断にとても大きく作用していると感じます。精神科医として、高齢者医療に35年以上携わった経験から、わたしはその原因が、日本人の「前頭葉」にあるのではないかと考えています。

前頭葉の主な働きには次のようなものがあります。

前頭葉の主な働き

○思考する
○創造性を発揮する
○やる気を出す
○行動や感情をコントロールする
○コミュニケーションをとる
○集中力
○応用力
○変化に対応する

前頭葉は、人類が自然界の厳しい生存競争に勝ちぬき、生き残るために進化したといわれています。変化に対応するうえで重要な役割を担い、人間を人間たらしめている大切な部位なのです。他の動物と比較して人間の前頭葉が異常に大きいことからも、それは明らかです。

前頭葉を正しく使えていない状態を、本稿では「前頭葉バカ」と表現することにしますが、前頭葉を正しく使えないと、どんな状態になるかというと、「自分の頭で考えない」「変化をきらう」「前例を踏襲する」「創造性を発揮できない」「意欲がわかない」「新しいチャレンジをしない」といったことがあたりまえになります。

さらに、前頭葉は40代ぐらいから画像診断でわかる程度に縮み始めます。前頭葉が司る感情のコントロール機能や自発性、意欲、創造性が歳をとるごとに衰えていき、ますます前頭葉を使わないように、前頭葉にラクをさせるようになります。

■日本人が変われないのは「前頭葉バカ」が増えたから

前頭葉にもっともラクをさせる方法が「前例踏襲」です。たとえば、行きつけのお店にしか行かなくなること。話の筋がだいたいわかる同じ著者の本しか読まなくなること。選挙で同じ政党にしか投票しないこと。一度うまくいった成功パターンをずっと続けること。これらはすべて、前例を踏襲した前頭葉バカの状態です。

また、自分自身を振り返って、「すぐにイラッとする」「昔の成功体験にすがっている」「怒りがなかなか収まらない」「新しいことに挑戦しなくなった」「守りに入った」「感情の切り替えができない」と感じたなら、前頭葉バカが始まっているサインだと思ってください。

前頭葉を使わなくても、側頭葉や頭頂葉で情報処理や知的活動ができるため、前頭葉が老化していることに本人は気づきにくいのです。「最近、物忘れが激しくて……」と心配する高齢者の方も多いですが、人間の脳は記憶を司る海馬よりもずっと先に、前頭葉からバカになっていきます。

言語理解を司る側頭葉や計算能力に関係する頭頂葉は、かなり高齢になるまで老化しません。平均的に70代ではあたりまえに言語能力や計算能力を維持することができます。

日本人が変われないのは、前頭葉をうまく使えない前頭葉バカが増えたからだ、とわたしは考えています。そこには、ふたつの要因があるでしょう。ひとつは日本人の高齢化。そして、もうひとつが日本の高等教育の貧困です。

■自分がバカになっていることに気づけない

わたしは、医師として「前頭葉バカは治すことができる」と信じ、信念を持って、本稿を執筆しています。

次のような視点を持つことが「前頭葉バカ」を予防・改善する処方箋になります。

①変化を楽しむ
②自己モニターをする
③アウトプットする習慣をつける
④「より現実的な議論のしかた」を身につける
⑤前頭葉を元気にするために「ただ動く」

わたしも含め、誰でも前頭葉バカになることがあります。9割の人が前頭葉バカだというのは、そういう意味です。

「誰もが前頭葉バカに陥る危険がある」ことを肝に銘じておかないと、自分がバカになっていることに気づけません。その前提として、はじめにみなさんと共有しておきたいことは次のふたつです。

常識やマジョリティがすべて正しいわけではないことを知る。

呼吸していることを普段は忘れているように、前頭葉を使うことを忘れがち。だから前頭葉の存在を強く意識する。

「みんな、そういっている」「そんなの常識だ」といった言葉や同調圧力を押し付けられる場面が世の中にはたくさんあります。その圧力は非常に強く、ともするとすぐに押しつぶされます。

■思考、意欲、感情、理性を司る「自分らしさ」の源

しかし、マジョリティの意見や、テレビで有名な学者やコメンテーターがいっていることが、すべて正しいとはかぎりません。それは、物事のひとつの側面にしかすぎないかもしれません。何も考えず、そのままうのみにしてしまうと、間違いなく前頭葉バカになってしまいます。

外からインプットする情報、つまり見る、聞くあらゆる情報、そして自らの内から湧き上がってくる感情をそのままスルーせず、一度立ち止まり、前頭葉を働かせて問いかけてみることが大切です。

「それは本当なのか」
「別の選択肢はないか」
「他の可能性もあるかもしれない」
「なぜあたりまえのようにいわれているのだろうか」
「反対の立場からはどんな意見がある?」
「この意見が多数なのは誰にとってメリットがあるのか」
「その発言に対してなぜ自分は簡単に納得してしまうのか」
「なぜこんなに不安な気持ちにさせられるのだろうか」
「その確率はどのくらいなのか」

こんなふうに一度立ち止まって、自分の「前頭葉フィルター」を通します。疑問を持つことによって、物事への理解を一段階、深める作業をしなければいけません。これをしないと、他者をいたわることも、自分自身を理解することすらできません。

会議室で3人のビジネスマンが会う
写真=iStock.com/Yagi-Studio
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Yagi-Studio

思考、意欲、感情、理性などを司る前頭葉は「自分らしさ」の源というべき場所です。その前頭葉を使わずにいることは、自分らしく生きることを放棄するのに等しいのです。

■自分の前頭葉の存在をつねに意識すべき

多様性が礼讚される時代へ大きくシフトし、情報があふれる毎日を生きながら、わたしたち大人はみな、もがいています。なぜなら、これまで「自分らしさ」を封じ込める、前頭葉を使わない教育をされてきたからです。小・中・高校であれば、基礎学力を身につけるために知識を詰め込む教育でいいのですが、残念ながら、今の日本の大学で、その先の教育ができているところは少ないといっていいでしょう。

前頭葉は、微妙に変化する繊細な感情をコントロールし、自分が過去にインプットした多種の知識を比較対照しながら高度な判断を行ないます。そこから意欲や自発性が生まれ、わたしたちの性格と行動を決定づけます。前頭葉がわたしたちの人生を導いているといっても過言ではないので、正しく舵を切らないと、とんでもない方向に流されてしまいます。

そうならないためにも、深呼吸しながら自律神経をコントロールするように、自分の前頭葉の存在をつねに意識するようにしてください。

他人に流されず、あふれる情報に踊らされず、より自分らしい選択をしていきたい、とわたしは思うのです。もちろんそれは直感によるものでなく、あれこれ考え、しかもそれは試してみないとわからないと言い聞かせながら、自分で出す答えです。なぜならそれが「幸せに生きること」だからです。

■「こだわり」には「とどこおる」という意味もある

あなたは何か「こだわり」をお持ちですか。

ひとつのことを成し遂げるためには「こだわり」を持ち、物事に妥協せず、とことん追求することが大事です。それによって問題が解決し、科学が前進することもあります。

一方で「こだわり」には、「とどこおる」という意味もあります。ちょっとしたことを必要以上に気にして心がとらわれると、頑固になり、柔軟性を失い、自分とは違う考え方を受け入れられなくなります。これは前頭葉バカの状態です。「こだわりすぎかな」と思ったら、いったん自分を振り返ってみたほうがよいでしょう。

前頭葉の機能が落ちると、同じことを繰り返す「保続」という現象が起こります。たとえば、わたしが診察室で年老いた患者さんに次のような質問をします。

高齢者に説明する男性医師の手
写真=iStock.com/kazuma seki
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kazuma seki

「今日は何月何日ですか」

すると、○年○月○日です、と答えます。次に、別の質問をします。

「あなたの生年月日を答えてください」

すると、まったく同じように○年○月○日です、と答えます。さらに別の質問をします。

「次の大事な予定はいつですか」

すると、また同じように○年○月○日です、と答えるのです。

■質問の変化に対応できない「保続」

質問が変わっているのに、前頭葉が働かず、同じ答えを繰り返してしまいます。前頭葉に出血や腫瘍があると、質問の変化に対応できないのです。これが「保続」です。最初の質問にはちゃんと答えられているのですから、理解力や記憶力に問題はないことがわかります。

前頭葉がバカになると、ここまで極端ではないにせよ、感情や思考にも「保続」が起こります。いったん何かのことで頭に血がカーッとのぼると、時間がたっても怒りがなかなか収まらないとか、シチュエーションが変わっても考えが変わらないとかです。

通常は、誰かと会話したり、車の運転や食事をするなど、その場その場で感情のスイッチが切り替わり、怒りは徐々に薄れていきます。ところが前頭葉バカはうまくスイッチを切り替えることができません。

あるいは、コロナウイルスが弱毒化して政府が規制を解除しても、コロナが危険だという考え方が変えられないのも同様です。

「保続」の現象が起こるのは、前頭葉の老化した老人だけにかぎりません。

些細なことで不安になり、同じことばかり考える負のループにはまってしまうことは誰にでもあります。

仕事で何かミスをしたとします。そのミスを何度も振り返っては「自分はやっぱりダメだ」と落ち込み、同じ場所をぐるぐるしてしまいます。すると、ますます落ち込んで、さらに不安になり、脳も体も疲弊します。

■「落ち込んだときは反省しない」

この悪循環を断つためには、「落ち込んだときは反省しない」とキッパリと決めることです。

反省しようとすると、自分の弱点や失敗点を探しがちで、自己批判が起こるからです。ここで必要なのは反省ではなく、多様な思考です。

この場合、自分を批判したり責めたりするのでなく、他の可能性を考えられるだけ考えてみるのです。そこにネガティブな感情や非難は必要ありません。むしろ次に何をするべきかを考えます。

しかし前頭葉がバカになっていると、判断力が鈍り、どんなことも悪いほう悪いほうに受け止めがちです。

大切なことなので、もう一度いいます。「落ち込んだときは反省しない」。

和田秀樹『前頭葉バカ社会』(アチーブメント出版)
和田秀樹『前頭葉バカ社会』(アチーブメント出版)

同じ場所をぐるぐるしている自分に気づいたら、いったんリセットして、他の可能性に気づくように仕向けましょう。

ぐるぐる過去のことを考える→過去のことばかり考える自分に気づく
→過去のことを考えても現状は変わらないので考えるのをやめよう→
リセットを行なう → 今できることを考える

考えをリセットする方法は、たとえば深呼吸する、コーヒーを淹れる、歯を磨く、トイレに立つなど、何でもいいのです。

前頭葉バカの人は、「自分は切り替えが下手だから」「どうせ無理だから」と決めつけがちですが、これを何度も繰り返すことで、リセットして別のことを考える習慣が身につきます。はじめはどんなに下手でも、練習さえすれば、誰でも思考のリセットができるようになります。

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和田 秀樹(わだ・ひでき)
精神科医
1960年、大阪市生まれ。精神科医。東京大学医学部卒。ルネクリニック東京院院長、一橋大学経済学部・東京医科歯科大学非常勤講師。2022年3月発売の『80歳の壁』が2022年トーハン・日販年間総合ベストセラー1位に。メルマガ 和田秀樹の「テレビでもラジオでも言えないわたしの本音」

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(精神科医 和田 秀樹)

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