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「一人暮らし」より「家族と同居」のほうが自殺率が高い…老年医学の専門家が「孤独は悪くない」というワケ

プレジデントオンライン / 2023年8月6日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/byryo

老後の一人暮らしは避けたほうがいいのか。医師の和田秀樹さんは「よく『一人暮らしは孤独』だと言われるが、家族と同居している高齢者のほうが自殺率が高いことが分かっている。『ひとに迷惑をかけたくない』という気持ちが高齢者を追いつめているのではないか」という――。

※本稿は、和田秀樹『65歳から始める和田式心の若返り』(幻冬舎)の一部を再編集したものです。

■「お金があるゆえの不幸」も存在する

お金がもっとあれば、幸せなのに……。そんなふうに思っている人は多いことでしょう。しかし、私は、たくさんの高年者と向き合うなかで、「お金があるがゆえの不幸」があることを知りました。

高年者にもときどき、こんな人がいます。高級老人ホームに入居し、設備や調度品も立派な個室に住んでいるのに、いつも不機嫌そうにしています。1日3回、栄養バランスの整ったおいしい食事が、何もいわずとも出てくるにもかかわらず、「おいしい」と顔をほころばせることはありません。

彼は会社の社長でした。老後の資金は潤沢にあります。ですが、参照点が社長だった頃の自分にあります。現役時代には、社員が自分にひれ伏していたのに、今や自分を慕って会いに来る人はいません。参照点が高いぶん、「あんなに可愛がってやったのに、裏切りやがって」と人に対して不満を持ちやすくなっています。

老人ホームのスタッフはよく教育されていて、素晴らしい仕事をします。でも、どんなに親切にしてくれても、自分にひれ伏すことはありません。こうなると、「ここのスタッフはなっていない。オレは大金を払っているんだぞ!」と怒りが湧いてきます。

食事も同じです。現役時代に、料亭や高級レストランで豪勢な食事をしてきたのだとしたら、ホームの1食5000円の食事も、みすぼらしく感じてしまいます。つまり、どんなにお金があったところで、いや、お金があるからこそ、参照点も高くなりやすく、自らを不幸にしやすい思考を持つ人たちは、珍しくないのです。反対に、「お金がないがゆえの幸せ」もあります。

■財産がない人のほうが幸せな場合もある

若い頃から、家族のため、会社のため、と身を粉にして働いてきたけれども、貯金はまるでない、という人がいます。年金だけでは足りないので、生活保護を受けて特別養護老人ホームに入居している人もいます。こうした人は、世間からは不幸に見えるかもしれません。

しかし、本人は違う見方をしているかもしれないのです。

毎日、おかずが3品もある食事をなんの苦労もなく食べられて、スタッフもまめに世話をして優しく声をかけてくれる。このことに、「この歳になって、こんなによくしてもらって、私はなんて幸せなのだろう」と思うこともできるのです。

多くの人は、「老後の資金は足りるだろうか」と不安を抱えています。人間、お金さえあればなんでも手に入る。引退後も貯金がたっぷりあればあるほど、悠々自適な老後を暮らせる……。そう思っている人は多いものです。

しかし、「お金持ち=老後は幸せ」とは限らず、むしろ、財産がない人のほうが幸せを感じやすいことがあります。私はこの現象を、「金持ちパラドックス」と呼んでいます。実際、少ない年金をやりくりしながら、気ままな老後を謳歌している高年者は多いものです。そうした人は、現役時代から参照点が低いというのも事実です。

■大事なのは「幸せを見つける方法」を知ること

大事なのは、お金があってもなくても、幸せを見つける方法を知ることです。その一つが、過去の自分に参照点を置くのではなく、今の自分に見合ったところに参照点を置くこと。

くり返しになりますが、参照点は低いほうが幸福度は高まります。そもそも、高年者は人生経験が豊かなので、たくさんの選択肢を持っています。判断の基準もたくさん持っているはずなので、自由に参照点を決められるのです。

太陽を浴びる男。
写真=iStock.com/AH86
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/AH86

それなのに、参照点をわざわざ高いところに設定して、人や社会に不満を抱えながら生きることほど、もったいないことはありません。昨日までの生き方を、今日からひっくり返したっていい。変化を自由に楽しめるのも、成熟した高年者の強みです。

通常、「心」という言葉に対してイメージされるのは、「喜怒哀楽」の感情です。高年になると、前頭葉の働きが低下することで、どうしても感情的になりやすい一面が現れます。「感情失禁」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。

たとえば、テレビを見ていて、特別に悲しいシーンでもないのに突然、ポロポロと泣き出してしまう高年者がいます。あの状態が、感情失禁の一例です。また、ささいなことでカッとしたり、見ていて「そんなに怒らなくても」と思うほど激怒したりするのも、感情失禁の状態です。

■怒りを我慢するほうが早死にしやすい

怒りの感情は、相手を傷つけやすく、自分にもストレスとなるため、「コントロールしたほうがよい」とよくいわれます。そう思って、怒りをため込んでしまう人がいますが、これは健康上、大変よくありません。

こんな研究があります。192組の夫婦を対象に、17年間にわたって行ったミシガン大学の研究チームの結果です。この研究では、対象の夫婦を「不当に攻撃されたと感じた際、お互いに怒りをあらわにするグループ」「お互いが怒りを我慢するグループ」「妻だけが我慢するグループ」「夫だけが我慢するグループ」の4つに分類しました。結果、怒りを我慢した人たちは、怒りをあらわにした人たちよりも、早く死亡する確率が2倍にもなったのです。

つまり、健康長寿においては、怒ったもの勝ちで、我慢するほうがバカを見る、ということになってしまうのです。

怒りは抑え込めば抑え込むほど、心の中に悶々(もんもん)とため込まれます。すると、ふとした拍子にカッとなり、怒りが爆発しやすくなります。とくに、高年者にこの傾向が見られます。前頭葉の老化により、感情のブレーキが利きにくいからです。

■「暴走老人」はつねに怒っているわけではない

よく、役所やお店のスタッフの対応に腹を立てて、大声で怒鳴りつけている高年者がいますね。高年者が衝動的に人を殴って逮捕されるニュースも増えてきました。いわゆる「暴走老人」と呼ばれる人たちです。ああいう人たちを見ていると、さぞ怒りっぽく、普段から怒りまくっているのだろうと思うことでしょう。

テーブルにぶつかる男の拳のイメージ
写真=iStock.com/liebre
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/liebre

けれども彼らは、おそらく、普段はわりといい人で、あまり怒らない人たちです。ところが、日頃から小さな怒りを頑張って抑えているために、いったん爆発すると我を忘れ、相手を傷つけるほど攻撃的になっている可能性が高い、と考えられます。あんなふうになりたくない。そう思うなら、普段からいいたいことは言葉にして伝え、怒りたいときにも怒りの内容を言葉で表現していったほうがよいのです。私も、怒りは我慢しないことにしています。

「いわずとも察しろ」というのは単なる甘えただし、我慢したほうがよい怒りもあります。

たとえば、夫が仕事で嫌なことがあり、帰宅すると、妻が笑いながらテレビ番組を見ていたとします。イライラした夫は、「いつまでくだらないテレビを見ているんだ!」と怒る……。これは、我慢したほうがよい怒りですし、防げる怒りです。その裏には、先述した「かくあるべし思考」があります。

■「老害」は差別用語以外の何ものでもない

「妻ならば自分の変化を察し、優しくすべき」という夫の思考に問題があります。

「いわずとも察しろ」とは単なる甘えで、長年連れ添った夫婦であっても、双方の気持ちを完全には理解できません。人の感情は、言葉にして初めて相手に伝わるのです。そもそも、夫は怒る相手が違います。怒りの対象者にその思いを伝えられないのだとしたら、妻に「ちょっと聞いてくれないか」と怒りの内容を話す。そうすれば自分の怒りも昇華でき、理不尽に怒って妻を嫌な気分にさせずに済むはずです。

ストレスのたまった女性
写真=iStock.com/kumikomini
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kumikomini

私も怒りっぽい人間です。だからこそ、怒りは丁寧に言葉にしています。最近は、「老害」という言葉にも怒っています。この言葉が最初に出てきた頃は、おそらく、年を取って判断力が落ちているにもかかわらず、権力の座にしがみついて、社会や組織にデメリットを与える政治家や経営者に対して使われていたと思います。ところが、最近は、人が迷惑だと思うことを高年者がすると、「老害」という言葉が使われるようになりました。

害をなす人間は、どの世代にもいます。それなのに、「少年害」「青年害」「中年害」という言葉はありません。「少年害」「青年害」「中年害」がないのと同様に、実のところ、「老(年)害」なんてものはないのです。ただ、「そうした人がいる」というだけのこと。それなのに、高年者にだけ「老害」という言葉を使う。これは、差別用語以外の何ものでもありません。

■家族と同居している高齢者のほうが自殺しやすい

皆さんは、こんな事実をご存じですか。2022年、日本ではおよそ2万1000人の人が自殺したと公表されました。そのうち、8000人以上が60歳以上だったのです。なかでも自殺率が高いのは、家族と同居している人だといいます。

一人暮らしの高年者より、家族と一緒に暮らしている高年者のほうが自殺しやすいのです。二分割思考で考えてしまうと、「家族と同居していれば寂しくなくて幸せ」で、「一人暮らしは寂しく孤独」となりますが、現実はそうではない、ということです。

「家族に迷惑をかけている」、もしくは「家族の重荷になりたくない」という思いが、高年者は強くなりやすい傾向にあります。その思いが「自分には生きている価値がない」という深い悩みにつながり、老人性うつ発症の契機にもなります。それが、「子どもたちに迷惑をかけるくらいならば」と自ら命を絶つ選択につながりやすいのです。

「老害」という言葉には、高年者は社会のお荷物で、自分たちに不利益をもたらす存在、とする高年者蔑視が隠されています。そんな高年者を差別する感性が、政府を含めた日本社会全体を覆おおっています。その差別は、真っすぐに物事を捉える真面目な人たちに「老害になって、人に迷惑をかけたくない」という強い不安を与えています。何よりよくないのは、政府が失政を罪なき高年世代に責任転嫁していることです。

■根本的な問題は政府の失政にある

日本の借金は1000兆円を超えて、世界ダントツの額です。その原因を、「高年者が増え、年金や福祉予算が膨ぼうだい大になったため」と、高年世代に押しつけています。しかし、膨大な財政赤字の大部分は以前に作られ、その原因は明らかに失政にありました。政府は、その失政を謝らないどころか、高年者の責任にしているのですから、実にけしからん話です。

和田秀樹『65歳から始める和田式心の若返り』(幻冬舎)
和田秀樹『65歳から始める和田式心の若返り』(幻冬舎)

現在の高年世代は何も悪いことをしていません。ほとんどの人は、きちんと所得税も消費税も払い、年金保険料と健康保険料を納め、介護保険料まで支払っています。つまり、国にずいぶんと貢(みつ)いできているのです。それなのに、国の借金の原因とされ、老害とまでいわれる。こうした理不尽に、私たちはもっと声を上げましょう。社会の矛盾に対する怒り、理不尽なことに対する怒りは、極めて正当な怒りです。

そうした怒りは生のエネルギーとなり、心身の健康にも必ずよい効果をもたらします。というわけで、私は声を大にしていいます。老害なんていわれ、政府の失政の責任を負わされ、黙っているのは、もうやめようではありませんか!

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和田 秀樹(わだ・ひでき)
精神科医
1960年、大阪市生まれ。精神科医。東京大学医学部卒。ルネクリニック東京院院長、一橋大学経済学部・東京医科歯科大学非常勤講師。2022年3月発売の『80歳の壁』が2022年トーハン・日販年間総合ベストセラー1位に。メルマガ 和田秀樹の「テレビでもラジオでも言えないわたしの本音」

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(精神科医 和田 秀樹)

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