84歳まで生きる自信があるなら"年金は68歳から"がベスト…「手取りが最も多くなる年金の受け取り方」
プレジデントオンライン / 2023年8月10日 13時15分
※本稿は、頼藤太希『大きな文字でとにかくわかりやすい 定年後ずっと困らないお金の話』(大和書房)の一部を再編集したものです。
■自営業やフリーランスが年金を増やす方法
日本の公的年金には国民年金と厚生年金があり、加入する人や保険料の納め方、もらえる金額が異なります。公的年金は、老後の収入の柱となるお金です。原則として65歳から亡くなるまで、一生涯もらえます。
国民年金は、原則20歳から60歳まで40年保険料を納めた場合、満額もらえます。2023年度の満額は79万5000円(67歳以下)、79万2600円(68歳以上)です。この金額は、毎年改定されます。厚生年金の金額は、加入期間中の給与や賞与の金額も踏まえて計算されます。
自営業やフリーランスとして働く人が年金額を増やすためには、大前提として、老齢基礎年金が満額もらえるように、「国民年金の任意加入」制度を利用しましょう。これは、60歳以上65歳未満の人が国民年金保険料を納め、国民年金の加入期間を延ばすという制度です。何らかの理由によって加入期間が40年に満たない人などは利用しておきたい制度です。
国民年金基金や付加年金もフリーランスの年金を上乗せする心強い味方です。国民年金基金は毎月掛金を納めることで、会社員・公務員の厚生年金にあたる年金を用意できます。
付加年金は、国民年金保険料に月400円上乗せするだけで、65歳からの老齢基礎年金が月200円×納付月数分プラス。付加年金保険料を2年で回収でき、その後は年金をもらうほどお得になる制度です。
どちらの制度も掛金は全額、社会保険料控除として所得控除になるため、税金を減らしながら年金の上乗せができます。ただし、国民年金基金と付加年金の併用はできません。「国民年金基金とiDeCo」「付加年金とiDeCo」の併用はできます。
■ねんきん定期便に「誤り」がないか、しっかり確認
日本年金機構「事務処理誤り等(令和3年4月分~令和4年3月分)の年次公表について」によると、2021年度は事務処理の誤りが1347件あったと報告されています。そのうち約半数にあたる644件が「金額に影響のあった誤り」で、未払いが228件。合計約1億8000万円の年金が正しく支払われていませんでした。
国民の約3割、約4000万人が年金受給者と考えれば、誤りの数はそれほど多くないといえるかもしれませんが、国側が間違えることも意外とあります。万が一年金の記録に誤りがあって年金がもらえなかったら大変です。よって、ねんきん定期便が間違っていないか必ず確認しましょう。
とくに「転職した(何度もしている場合はとくに)」「結婚・離婚で苗字が変わった」「名前の読み方が複数ある」場合には誤りが発生している可能性があります。先の誤り1347件のうち、日本年金機構への問い合わせを機に判明した誤りは588件。疑問点がある場合は問い合わせましょう。
■年金は何歳から受け取るのが得か
年金の受給開始は原則65歳ですが、希望すれば60歳~75歳の間で受け取りを開始できます。60歳~64歳までの「繰り上げ受給」では、1か月早めるごとに0.4%ずつ受給率が減り、60歳まで年金の受給開始を早めると受給率は76%(24%減額)となります。
一方、66歳~75歳までの「繰り下げ受給」では、1カ月遅らせるごとに0.7%ずつ受給率が増え、75歳まで遅らせると受給率は184%(84%増額)となります。年金は一度受け取りを開始すると、その受給率が一生続きます。
年金の繰り下げ待機中にまとまったお金が必要になった場合は、年金を最大5年分さかのぼって一括で受給できます。5年以上繰り下げ待機した人の場合は、最大5年分の年金を一括受給できるうえ、5年前に繰り下げの申し出があったとみなされて、以後の年金受給額が増加します。
なお、繰り上げ受給は国民年金・厚生年金セットで同時に行うしくみですが、繰り下げ受給は国民年金・厚生年金の片方だけを繰り下げることができます。
■繰り上げ、繰り下げで注意すべきポイントは
年金額は、多いに越したことはありません。その点では、繰り下げ受給でなるべく年金額を増やし、万が一の際には一括受け取りをすることをおすすめします。しかし、何らかの事情で働けない人や、病気などであまり長生きしないと考えている人、若いうちにお金を受け取りたいと考える人などは、繰り上げ受給をしたほうがいいと思うでしょう。
年金の繰り上げ受給にも繰り下げ受給にも、デメリットはあります。どちらを選ぶと合計で得られる年金額が多くなるかは、死んだときにしかわかりませんので、最後は自分自身で判断して決めましょう。
なお、厚生労働省「令和3年度厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、繰り上げ受給を選んだ割合は11.2%、繰り下げ受給を選んだ割合は1.8%。個人事業主やフリーランスなどの「国民年金(老齢基礎年金)のみ」に絞ると、繰り上げ受給27.0%、繰り下げ受給1.8%となっています。
■何歳まで長生きできるかで損得が変わる
年金の繰り上げ受給・繰り下げ受給の受給率は生涯続くため、何歳まで生きるかで年金の「損益分岐点」が変わります。年金からは、税金・社会保険料が天引きされるので、損益分岐点も手取りベースで考えましょう。
年金の繰り下げ受給の目安は68歳。寿命が84歳~86歳のときに手取りがもっとも多くなります。ただ、平均寿命も延びるため、68歳以降も働けるならば働いて年金を繰り下げ、仕事を辞めてから受け取るのもひとつの手です。
■「加給年金」が加算されると、年間約40万円もプラス
加給年金とは、厚生年金に20年以上加入している人が65歳以上になって老齢厚生年金を受け取る場合に、65歳未満の配偶者や18歳の年度末を迎えるまでの子を扶養しているときに支給される年金です。加給年金の該当者にはハガキが届きますので、見逃さないようにしましょう。
ただし、老齢厚生年金の繰り下げをしている間は、加給年金を受け取れません。そのため、夫婦の年齢差によって繰り下げと加給年金のどちらが有利になるかが変わります。ひとつの目安は「5歳差」。
妻より5歳年上の夫が65歳から加給年金をもらわずに、厚生年金を70歳まで繰り下げた場合、「増額した老齢厚生年金」>「加給年金の金額」となる年齢は86歳~87歳と、65歳男性の平均余命(約85歳)を少し超えたところになります。
したがって、夫婦の年齢差が5歳超ならば加給年金を選び、5歳以下ならば自身の厚生年金を繰り下げしたほうが、もらえる年金の総額が多くなる可能性が高いでしょう。
■働きながら年金をもらうと年金が減ることも
60歳以降も厚生年金に加入しながら働く場合、同時に厚生年金をもらえます。この年金を在職老齢年金と呼びます。ただ、在職老齢年金は、60歳以降の年金額(月額)と給与の合計が48万円を超えると、年金の一部がカットされます。
たとえば、65歳の人が月10万円の年金と42万円の給与をもらった場合は、月2万円カットされてしまう計算に。年金額は月8万円になってしまいます。しかも、在職老齢年金をもらわずに繰り下げたとしても、在職老齢年金によって支給停止されるはずの部分は増額の対象外です。
この例の場合、繰り下げ受給の対象になる年金額は「10万円」ではなく「8万円」になってしまいます。たとえば、70歳まで繰り下げ受給した場合(受給率142%)、毎月の年金の受給額は「10万円×142%=14万2000円」ではなく「10万円+8万円×42%=13万3600円」にしか増えない点に注意が必要です。なお、年金額を減らさずに済む働き方もあります。
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Money&You代表取締役
中央大学客員講師。 慶應義塾大学経済学部卒業後、外資系生保にて資産運用リスク管理業務に6年間従事。2015年に(株)Money&Youを創業し、現職へ。女性向けWebメディア『FP Cafe』や『Mocha(モカ)』を運営。資産運用・税金・Fintech・キャッシュレスなどに関する執筆・監修、書籍、講演などを通して日本人のマネーリテラシー向上に注力している。著書は『1日5分で、お金持ち』(クロスメディア・パブリッシング)、『はじめてのNISA&iDeCo』(成美堂)など多数。日本証券アナリスト協会検定会員。ファイナンシャルプランナー(AFP)。YouTubeチャンネル「Money&You TV」配信中。
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(Money&You代表取締役 頼藤 太希)
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