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スライド1枚に「1000万円以上の価値」がある…敏腕コンサルが作る「業界マップ」の実物を公開する

プレジデントオンライン / 2023年8月11日 13時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/cherezoff

新規事業を立ち上げるには何が必要か。ドリームインキュベータ(DI)の三宅孝之社長は「規模の大きなビジネスを立ち上げるには、自社以外の企業や行政機関と連携することが不可欠だ。立場の違う者同士が同じ目的意識を持てるように、業界を俯瞰できるマップスライドを作成することが肝となる」という――。

※本稿は、三宅孝之『「共感」×「深掘り」が最強のビジネススキルである』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。

■新規事業創造の肝は「マップ」作り

マップは、数百億、数千億円規模の新規事業を創造する「ビジネスプロデュース」の肝と言えるものです。ビジネスプロデュースの成否は、このマップの出来で決まると言っても過言ではありません。

私は常々、「1枚1000万円以上の価値のあるマップスライドを作れ」と言っています。逆に言うと、それだけの価値のあるマップが必要で、それがないと大きな構想を作ることはできないということです。

マップが構想となり、構想からビジネスモデルを考え、戦略を立てていきます。ビジネスプロデュースの礎となり、そのテーマの全体像を表現するのが、マップです。

マップには、社会課題を解決するために、関係者全員が認識しておくべき共通の情報を集約します。なので、マップを見た人たち全員が、その社会課題を解決するという目標を共有できます。

ビジネスプロデュースは1社ではできません。社会課題の解決は1人ではできませんし、1社でもできません。自分たちだけでできることは限られており、「他力」が絶対に必要となるのがビジネスプロデュースです。多くの人や企業といった「他力」を借りる必要があります。マップは「他力を借りるために作る」と言うこともできます。

こうしたことから、マップの質をいかに高めるかが、ビジネスプロデューサーの当初の最大の注力ポイントになります。

■色々な人が言うバラバラなことを1枚に整理する

マップの作り方の説明の前に、まず完成形のマップを見ていただきましょう(図表1)。約10年前に作ったマップです。マップとはどういうものか、イメージを持っていただければと思います。

【図表1】医療機器の業界マップ
図版=『「共感」×「深掘り」が最強のビジネススキルである』(PHP研究所)より

このマップは、私と、過去に医療業界で仕事をした経験があるメンバーとの2人で作りました。きっかけは、そのメンバーの問題意識でした。

彼は、「日本の医療機器メーカーが海外企業に負けている」という問題意識を持っていて、その理由を色々と私に説明してくれました。しかし、当時はまだ医療機器の知識が乏しかった私にはなかなか理解できませんでした。とにかく色んな話がぐちゃぐちゃに語られていると感じたのですが、当の業界にいると、すべてが常識的に理解されて前提を飛ばして議論するので、普通の人にはわかりにくいのだろうと思いました。

そこで、ホワイトボードを使って、「それって、こういうこと?」と順番に彼の言っている話を整理していくと、「そうなんです」と言うので、「本当だったら凄いことだけど、そのままじゃ伝わらないから、何がどのくらいなのか定量化していこうよ」と、ひとつひとつ紐解くように定量化していきました。

何度も繰り返すうちに、少しマップらしくなってきたので、マップを持って様々な有識者に話を聞きに行って、マップを進化させていき、完成させました。

「なぜ、日本の医療機器メーカーは海外企業に負けているのか?」という疑問を、厚生労働省、経済産業省、医療機器メーカー、医療関係者などにぶつけると、会う人、会う人が違うことを言います。中には「負けていない」と言う人もいます。

それは、それぞれが自分の専門分野のことだけを話すからです。例えば、ある人はMRIやCTの話をします。またある人は人工関節や人工血管の話をします。手術の糸や注射針の話をする人もいました。

色々な人が色々なことを言うのは当然です。それぞれ自分が大事だと思うことを話してくれるからです。専門家にはそれぞれの立場があり、専門にしている分野は細かく分かれています。

それら全部の話を聞いて、自分たちなりに捉え直し、構造化して、1枚の紙の上に表現したものが、マップです。

■マップがあると対話が深まる

マップができると、一見矛盾するように思える色々な人たちの話が理解できるようになります。

「Aさんは全体の中のこの部分について話していて、Bさんは別のこの部分の話をしているのだな」ということがわかるようになるからです。すると、相手とより深い話ができるようになります。全体像を示しながら、「あなたの話はこのあたりのことですね」と共通認識を持ったうえで、その部分の議論ができます。

また、このマップを見せながら話をすると、相手にとっても気づきが得られます。「この人と議論をすると得られるものがある」と相手に思ってもらえると、関係が深くなりますし、その後のビジネスプロデュース実現に協力してもらいやすくもなります。

■マップ上でグルーピングする

このマップでは、多種多様な医療機器の全体像を把握するために、横軸に「製品単価」、縦軸に技術レベルをとっています。技術レベルは1つの指標で数値化するのが難しいので、「性能差別化」と表現し、「高」「中」「低」の3つに大きく分けることにしました。語弊があるかもしれませんが、「高」は先進国で必要とされる医療機器、「中」は新興国でも必要とされる医療機器、「低」はそれほど重要ではない医療機器というイメージです。

また、日本製品のグローバル競争力を「勝てている、勝てそう」「負けていない」「負けている」の3つに分けて、円の色の濃度で表現しています。円の大きさは、国内市場規模です。

そして、円の縁取りで「生体リスク」を表わしています。例えば、身体に埋め込む人工関節は生体リスクが高く、簡単に取り外しができるコンタクトレンズは相対的に生体リスクが低い、という具合です。

つまり、様々な医療機器について、「製品単価」「性能差別化」「グローバル競争力」「国内市場規模」「生体リスク」の5つの情報を表現しているのが、このマップです。

このように、マップは縦軸と横軸の2軸で構成されていますが、円の大きさ、色やその濃度、縁取りの線などで、表現できる情報は5~7種類詰め込めます。

■グループごとの課題を抽出する

このマップを見ると、確かに、ほとんどの医療機器で日本企業は海外企業に負けています。

しかし、マップの真ん中あたりには、勝っている医療機器、負けていない医療機器があることがわかります。オリンパスが強い「医用内視鏡」や、シスメックスが強い「生体機能制御装置」などのグループ④です。製品単価が中程度で、技術レベルも中程度のものについては、日本企業のグローバル競争力は高いのです。

次に、日本企業が負けている医療機器の分布を見ると、技術レベルが高いグループ①と、技術レベルは中程度で製品単価が高いグループ②、技術レベルは高くなくて製品単価も安いグループ③に分けられます。

グループ①については、テルモの「チューブ・カテーテル」が何とか勝負になっているぐらいで、それ以外はほぼ全敗です。残念ながら、日本企業の製品開発力は高くないということが見えてきます。これが、日本企業が負けている理由の1つではないかと推測できます。

次にグループ②を見てみましょう。MRIやCTといった高額医療機器の領域です。

この領域で勝っているのは、フィリップスなどの海外企業です。その勝因を深掘りしてわかったのは、医療機器単体を販売しているのではなく、病院システム全体の最適化をビジネスとして行っているということでした。「機器そのものの性能」ではなく、「システム全体でのデータ連携や使いやすさ」を武器に戦うことで勝っているのです。

MRI検査
写真=iStock.com/simonkr
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/simonkr

一方、日本企業は機器を単体で販売しています。これがグループ②における敗因のようです。

グループ③は、製品単価が安い医療機器です。「注射器具」や「歯科用金属」のように日本企業が負けていない医療機器もいくつかありますが、圧倒的に強いのが、ジョンソン・エンド・ジョンソンです。安価な医療機器のほとんど全部を自社内にそろえており、それらをまとめて病院に購入してもらう営業力やチャネルの力が、その勝因です。

日本企業は医療機器ごとに扱っている企業がバラバラです。買う側の医療機関にしてみれば、医療機器ごとに別の会社と契約しなくてはなりません。それよりも、1社からまとめて購入できるほうが利便性が高く、時間もお金も節約できます。

グループ③の敗因は、海外企業の品ぞろえと営業力に太刀打ちできていないことだと言えます。

■業界全体を俯瞰できている人材は少ない

このように、マップを作ることによって、「医療機器で日本企業が海外企業に負けているのはなぜか」という疑問を深掘りできます。

例えばグループ①については、「日本企業の製品開発力が高くないのはなぜか」という、一段深い疑問が生まれてきます。

日本では、厚生労働省が決めた診療報酬の点数で医療費が決まります。病院の収入はほぼ診療報酬で決まってしまうので、医療機器の購入に使える金額に限りがあります。高い値段の医療機器は買えません。

医療機器メーカーとしては、高額な医療機器を作っても回収に見合う金額設定ができないとなれば、開発投資が巨額でリスクも高い先端医療機器を作るのを渋るようになります。その結果、日本企業は総じて製品開発力が弱くなっていったのではないでしょうか。

三宅孝之『「共感」×「深掘り」が最強のビジネススキルである』(PHP研究所)
三宅孝之『「共感」×「深掘り」が最強のビジネススキルである』(PHP研究所)

つまり、グループ①については、診療報酬の決め方という国の施策に問題があるのではないかという仮説が立てられます。とするならば、その解決のためには国に動いてもらう必要があります。

グループ②については、国というよりも、企業のビジネスモデルの問題、グループ③は、企業の商品ラインナップや営業力の問題でしょう。

このように、グループによって、課題解決のために打つべき手が違うこともわかります。

この医療機器マップを作ってから、政府、医師会や研究機関、医療機器メーカーなどに呼ばれて講演をする機会が多くなりました。専門家から信頼され、専門的な話ができる相手だと認められた証拠だと自負しています。

皆、自分の専門とする領域については詳しく知っているのですが、専門領域を超えた全体像を見渡すことは意外にやりません。だからこそ、マップを作ると、新しい発見があるのです。

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三宅 孝之(みやけ・たかゆき)
ドリームインキュベータ社長
京都大学工学部卒業、京都大学大学院工学研究科応用システム科学専攻修了(工学修士)。経済産業省、A.T.カーニーを経てドリームインキュベータ(DI)に参加。経産省では、ベンチャービジネスの制度設計、国際エネルギー政策立案に深く関わった他、情報通信、貿易、環境リサイクル、エネルギー、消費者取引、技術政策など幅広い政策立案の省内統括、法令策定に従事。DIでは、環境エネルギー、まちづくり、ライフサイエンスなどをはじめとする様々な新しいフィールドの戦略策定及びビジネスプロデュースを実施。また、個別プロジェクトにおいても、メーカー、医療、IT、金融、エンターテインメント、流通小売など幅広いクライアントに対して、新規事業立案・実行支援、マーケティング戦略、マネジメント体制構築など成長を主とするテーマに関わっている。共著に『3000億円の事業を生み出す「ビジネスプロデュース」戦略』『3000億円の事業を生み出す「ビジネスプロデュース」成功への道』(ともにPHP研究所)、『産業プロデュースで未来を創る』(日経BP社)がある。

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(ドリームインキュベータ社長 三宅 孝之)

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