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10歳で大学進学か職人コースかが決まるドイツ…成績が悪くても進学の夢を見られる日本の制度は"優しい"のか

プレジデントオンライン / 2023年8月20日 8時15分

文部科学省「諸外国の後期中等教育及び短期高等教育における職業教育」

小中学校で不登校の子供が急増し、日本は教育システムの見直しが求められている。日本とドイツ、両方の文化に詳しいサンドラ・へフェリンさんは「ドイツでは多くの場合、小学4年の時点で大学を目指しギムナジウムに進むか職業訓練校に進むかが決まる。長く進学を夢見ていられる日本に比べて厳しいシステムとも言えるが、思春期の子が大学をスパッとあきらめ進路に思い悩まないのは合理的だ」という――。

※本稿は、サンドラ・へフェリン『ドイツの女性はヒールを履かない』(自由国民社)の一部を再編集したものです。

■10歳時の才能や個性で進路を決めるドイツの教育システム

日本人が「和」を大切するのに対し、ドイツでは「個」の主張がモノをいうのは、ドイツに長く滞在した人であれば、誰もが認めるところだと思います。

さて、そんなドイツの「個」ですが、それはドイツ人を含む欧米人が「個人主義であるから」という【文化の違い】によるところが大きいです。ドイツの学校のシステムもまたこの「個」を重視しているものです。

ではドイツの学校のシステムはどのようなものなのでしょうか、日本と決定的に違うのは、「10歳で将来の選択をする」というところだと思います。

ドイツでは小学校は1年生から4年生までの4年間ですが、小学校卒業時の10歳の時点で、言わば「道が分かれる」ことが多いです。

将来大学へ行きたい子はギムナジウムという学校に進学し、そうでない子はギムナジウムには進学しません。大学へ進学する必要のない「職人の道」を選ぶ場合、ハウプトシューレ(近年はミッテルシューレともいう)という学校に進学します。その場合は卒業が15歳ぐらいなので、10代半ばでいったんは学校を終了します。それ以降は職業訓練(Lehre)を受けながら職業学校に通い、ゆくゆくは一人前(その一部がマイスター)になるという「職人の道」です。

■批判もあるが、早い段階から将来に向けて準備ができる利点も

この10歳での「選択」は、小学校4年生時点での子供の成績、子供の性格や子供自身の意思、担任の先生や、親の意見など総合的に見て判断しますが、他の国(イギリスなど)と比べ、その選択が早いということに関しては、実はドイツの中でも賛否両論があります。否定的な意見としては、「これから、どうにでも成長するかもしれないのに、10歳で将来を決めてしまうのは早すぎるのではないか」という見方です。

その一方で10歳での選択に関しては、「早い段階から将来に向けて準備ができる」という利点もあります。日本では、全員が中学生になり、多くの人が高校生になりますが、「将来の(職業的な)夢」に関してはまだ分からない10代の子も少なくありません。またそれが許されているシステムでもあります。よく言えば、日本の学校のシステムは「長く夢が見ていられる」システムなのかもしれません。

■思春期前に進路を決めると、子供本人も迷いがなくなる

逆にドイツだと、10歳でハウプトシューレ(またはミッテルシューレ。将来は職人になる。または大学進学が必要ではない職業に就く)を選ぶと、将来大学へ行ったり、大学を出ていないと就けない職業に就くという夢は見なくなります。早い段階での「あきらめ」がそこにはあります。

「あきらめ」と言うと、どうも響きが悪いのですけど、10歳で一つの道へ突き進んでいくやり方は、見方によっては潔いとも言えるわけです。本人はまだ思春期に達しておらず、その段階で将来への(職業的な)準備がスタートする、ということを考えると「迷いがない」状態の「良い意味でのあきらめ」はある意味合理的です。

ドイツでは10歳の子であっても、周囲の大人(先生や親)がその子の才能や資質というものをシビアに見ていて、それに沿った将来設計をします。そこが、子供に関しては、あくまでも「努力」を重視し、「才能」という言葉を使うことに慎重な日本との大きな違いだと思います。

少年少女
(左)写真=iStock.com/romrodinka、(右)写真=iStock.com/ThomasVogel
※写真はイメージです - (左)写真=iStock.com/romrodinka、(右)写真=iStock.com/ThomasVogel

■日本は小学校での成績が悪くても大学進学を考えられる

日本でドイツのシステムを説明すると「え、10歳で……? 早くないですか?」と言われることが多いです。日本には確かに「受験」という難場がありますが、小学校の受験に失敗したら中学校の受験に期待し、その後は高校の受験に期待して、大学受験に期待できる……という「長いあいだ夢が見られる」システムでもあるのです。ただもしかしたら私は受験を経験していないので、このようなのんきなことが言えるのかもしれませんが……。

ドイツだと、「同じ13歳」でも「将来の大学に向けて勉学に励んでいる子」と「早い自立を目指し、早く職業を身につけることを目標としている子」が同じ教室で机を並べて学ぶことはなく、既に「違う種類の学校」で学んでいるというわけです。

ドイツの社会を見てみると……ドイツの大人は、自分の可能性について、日本人と比べ非常に現実的という印象を受けます。そうはいっても、ドイツでも最近は決断を先延ばしにするのも悪くないと考える人も増えてきていて、Gesamtschule(ゲザムトシューレ。総合学校)に子供を通わせ、少し遅めに進路を決めることも珍しくなくなりました。

■小学校から高校に当たるギムナジウムまで3回落第できる

ただ、ドイツの場合は、年齢では厳密に区切られません。

小学校に6歳で入学する子もいれば、親や先生が「この子はまだまだ遊び足りていない」と判断すれば7歳で小学校に入る子もいます。小学校やその後のギムナジウムなどでは「落第」もあるので、卒業時の生徒の年齢もバラバラです。ギムナジウム卒業のときに、18歳の子もいれば、19歳の子もいて、20歳の子もいれば、21歳の子もいます。

例えば7歳で小学校に入り、その後3回落第して卒業すれば(条件を満たせば合計で3回まで落第できるのです)、一番若い子よりも4歳も年上ということになります。当然18歳と22歳では雰囲気や見た目も少し違いますが、そこに言及するドイツ人には会ったことがありません。

このようにギムナジウムの卒業時の生徒の年齢はバラバラですし、その後すぐに大学に入る人もいれば、大学に入る前に1年間世界を放浪する人がいたり、1年間福祉施設でボランティアをしたりと、「何歳だから高校生、大学生」という考え方とは無縁です。大学を卒業する年齢もバラバラです。

これはドイツでは学科によって在学の年数が違うという理由もありますが、中には個人的な理由から「できるだけ長く学生生活をしたい」と考え、10年以上大学生をやる人もいます。もっともドイツの大学に私学は少なく税金で成り立っているので、昔のドイツにいたEwiger Student(何十年も大学生をやる「永遠の大学生」)をやることについて現在は厳しくなってきています。

図書館で本を見ている若者
写真=iStock.com/alvarez
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/alvarez

■「努力は必ず報われる」と信じている社会は日本だけ?

ドイツから日本に来て常々感じているのが、「日本は努力の社会」だということ。日本では努力がとても大事にされていると様々な場面で感じます。

例えば日本のマスコミは、ノーベル賞を受賞した人や、スポーツで成功した人を取り上げるときに、「その裏にある長年の努力」にスポットを当てることが多いです。

子供の勉強に関しても、一生懸命勉強すれば、成績が上がる! 努力すれば受かる! と励まします。「どんな子でも頑張ればできる!」という信念に近いものがあります。

その点、ドイツは前述のように、子供が早い段階で「将来は大学に行くか否か」「将来就くかもしれない職業」を視野に入れながら考えなくてはいけないので、シビアです。場合によっては、わずか10歳で進路の選択を迫られるのです。そして、どの道に進めるかは「小学校4年生の時点での成績」がモノを言うので、これも日本の感覚からしたらかなり酷な気がします。

■ドイツの場合は努力よりも「生まれ持った才能」が重視される

日本の場合、10歳ぐらいの子の成績があまり良くなくても、「これから頑張れば何とかなるかも!」とまだ夢を見ていられる段階なのではないでしょうか。10歳ぐらいであれば、まだまだ「これからの努力」で何とかなるという考え方であるわけです。

このように日本では「努力」が重んじられますが、ドイツの場合は努力よりも「生まれ持った才能」が重視される傾向があります。例えば数学が苦手な子供がいたとして、日本であれば「これから頑張れば苦手を克服できるはず」と考えることもできるわけです。でもドイツの場合は、極論を言うと、「数学に向いていないのかもしれない。職人コースに進んだほうが良いのでは」というような考え方がされがちです。日本のほうが「苦手でも上を目指して努力をする」ことが市民権を得ているというわけです。

勉強する中学生
写真=iStock.com/Milatas
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Milatas

■「努力すれば…」と夢を持ち続けられる日本社会の優しさ

サンドラ・へフェリン『ドイツの女性はヒールを履かない』(自由国民社)
サンドラ・へフェリン『ドイツの女性はヒールを履かない』(自由国民社)

私は子供の頃ドイツ人と日本人の両方に囲まれて育ちましたが、確かに日本人の大人は「人間は『やるか、やらないか』で差が出るだけ。だから努力が大事」というようなことを言う人が多かったです。逆にドイツでは、自分の苦手な分野に関しては早々と諦める人が多かった印象です。

20代で「今から英語を頑張ればアメリカで女優さんになれる!」というような夢を持ち続けるのは非現実的なことかもしれませんが、「10歳でスパッといろいろなことを諦めさせてしまう」よりは優しいシステムと言えるのかもしれません。

スパッと諦めるか、それとも苦手な分野でも努力して夢を持ち続けるか……そんなところにも文化の違いがあります。もちろん、人によるところも大きいというのは言うまでもありません。

※ドイツの学校のシステムは、州によって違いがあります。

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サンドラ・ヘフェリン(さんどら・へふぇりん)
著述家・コラムニスト
ドイツ・ミュンヘン出身。日本語とドイツ語の両方が母国語。自身が日独ハーフであることから、「ハーフ」にまつわる問題に興味を持ち、「多文化共生」をテーマに執筆活動をしている。著書に『体育会系 日本を蝕む病』(光文社新書)、『なぜ外国人女性は前髪を作らないのか』(中央公論新社)、『ほんとうの多様性についての話をしよう』(旬報社)など。新刊に『ドイツの女性はヒールを履かない~無理しない、ストレスから自由になる生き方』(自由国民社)がある。 ホームページ「ハーフを考えよう!」

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(著述家・コラムニスト サンドラ・ヘフェリン)

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