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金持ちの子どもしか大学に行けない…進学率は韓国以下、日本が「子育て地獄」になった根本原因

プレジデントオンライン / 2023年8月30日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Khongtham

なぜ日本はここまで子育てがしづらい国になってしまったのか。元国税調査官の大村大次郎さんは「若者の投票率が低いことが一因だ。投票率が低いと、政治家は有権者全体のことよりも、業界団体や宗教団体のほうを向いた政治を行うようになる。そういう政治が行き着いた先が、いまの日本だといえる」という――。

※本稿は、大村大次郎『日本の絶望ランキング集』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。

■韓国より低い大学進学率

教育というのは、国の根幹である。

教育が行き届いている国、教育が進んでいる国のほうが、産業は栄えているし、国力は充実している。それは古今東西の国々の状況を見れば明らかである。

特に高等教育というのは、国の行く末を左右するとも言える。

国民が充実した高等教育を受けられているかどうかが、その国の未来を表しているのだ。

その高等教育の充実度をはかる基本的な指標、「大学進学率」を見てみたい。

大学進学率において、日本はOECDの調査対象30カ国の中で21位で48%である(図表1)。これはOECDの平均よりも約10ポイントも低く、隣国の韓国よりも低い。日本人は、いろんな面において「韓国よりは上だ」考えているようだが、国の根幹である教育分野においても、日本は韓国に劣り始めているのだ。

【図表】大学進学率(OECD30カ国)
出所=『日本の絶望ランキング集』(中公新書ラクレ)

このデータにはフランス、アメリカが含まれていないが、両国とも大学進学率は60%を超えており、日本よりは高い。またドイツは日本より低くなっているが、それは伝統的に大学と同等の専門学校が多いためである。統計によっては、この専門学校も大学に含まれることがあり、ユネスコの統計ではドイツの大学進学率のほうが日本より高くなっている。

しかも正確な比較はできないが、日本は中国からも抜かれていると推測されている。

日本は急速に少子高齢化が進んでおり、子どもは少なくなっているのだ。にもかかわらず、その少ないはずの子どもたちにまともに教育を受けさせることさえしていないのだ。

■高等教育に国がお金を出してくれない

図表2は、高等教育費(義務教育以上の教育費)に国や自治体がどれだけ費用の負担をしているのかの割合である。

日本はOECD33カ国の中でワースト2位であり、高等教育費の32%しか財政による支出はされていないのだ。

OECDの平均が66%なので、なんと半分以下である。

【図表2】高等教育費の財政負担率(2015年、OECD33カ国)
出所=『日本の絶望ランキング集』(中公新書ラクレ)

またイギリスやアメリカをはじめ欧米の場合、寄付の文化があり、大学などの高等教育機関に寄せられる寄付金も多い。しかも、キリスト教など宗教団体が、大学などを運営しているケースも非常に多い。そのため純然たる家計による支出は、かなり抑えられているのだ。

日本の場合、寄付の文化もなく、宗教団体運営の大学なども少ないので、国が負担しなければすぐさま家計による支出の増大に結びつく。

日本の大学進学率が低いことを前述したが、その要因の一つにこの公的負担の少なさが挙げられるのだ。

■4人に1人がローンを抱えて社会に出る

高等教育への公的負担の少なさは、日本の大学教育に大きな影響を与えている。すなわち近年、授業料が高騰しているのだ。

国立大学の授業料は、1975年には年間3万6000円だった。しかし、1989年には33万9600円となり、2005年からは53万5800円にまで高騰している。

50年間で、15倍に膨れ上がったのだ。バブル期と比較しても、現在は約2倍である。

この授業料の高騰のため、大学に行けない若者が激増している。

また大学に行くために、多額の借金をする若者も増えている。現在、70万人近くの大学生が「有利子の奨学金」を受けて学校に通っている。この「有利子の奨学金」というのは、奨学金とは名ばかりで、実際はローンと変わらない。厳しい返済の義務があり、もし返済を怠れば、法的措置さえ講じられる。

この「有利子の奨学金」を受けている70万人近くという数字は、大学生全体の約4分の1である。彼らは大学卒業時には、数百万円の借金を抱えていることになる。

木製ブロックで「奨学金」の文字
写真=iStock.com/Seiya Tabuchi
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Seiya Tabuchi

■金持ちの子しか大学には行けない

日本では大学の授業料が高額なうえ、進学するためには、学校のほかに塾などに行かなくては難しい。既存の学校があまり充実していないからだ。

となると、裕福な家庭の子弟しか、いい大学に入れないことになる。それは実際にデータとしても表れている。

東京大学が行っている「学生生活実態調査」によると、2021年の東大生の親の70%以上が、年収750万円以上、50%以上は年収が950万円以上なのである。

親にそれだけの高収入がないと、いい大学には入れないということである。

東京大学は言うまでもなく、高級官僚のシェア率が断トツに高く、一流企業に就職できる確率も非常に高い。ざっくり言えば、将来、国家の中枢を担う可能性が高い学生たちである。東大生になるには、金持ちの家に生まれないと難しくなっているのだ。

■子どもの自殺が多い

図表3は、主要先進国における10代の子どもの自殺率である。

これを見れば日本は他の先進国に比べて、子どもの自殺が多いことがわかる。銃社会で簡単に自殺ができるアメリカと同レベルであり、若者の死因としては日本だけ自殺が1位となっている。イギリス、フランス、ドイツなどの子どもたちと比べれば、倍以上の数値になっている。

【図表】若者(10~19歳)の死因に占める自殺死亡率(人口10万人あたり)
出所=『日本の絶望ランキング集』(中公新書ラクレ)

子どもの自殺が多いということは、それだけ追いつめられている子ども、希望を見いだせない子どもが多いということである。

■若者の自殺も多い

図表4は、主要先進国における20代の若者の自殺率である。

前項で日本では子どもの自殺が多いことを述べたが、若者の自殺も非常に多いのだ。

【図表4】若者(20~29歳)の死因に占める 自殺死亡率(人口10万人あたり)
出所=『日本の絶望ランキング集』(中公新書ラクレ)

若者の自殺が多いということは、日本は、若者が夢を見ることができない社会ということである。収入の格差が広がり、金持ちの子どもしか大学に行けなくなっているような現状が、自殺率にも表れていると言えるだろう。

ちなみに韓国の若者の自殺率も非常に高いが、これにはもちろん理由がある。

韓国では、経済の大半を財閥が握っており、財閥企業に勤めない限りまともな給料を得るのは難しい。大企業と中小企業の賃金格差がきわめて大きいのだ。

そしてもちろん、財閥企業に就職できるのはほんの一握りの人しかいない。2013年の調査では、中小企業で働く韓国人の割合は、87.5%だった(2015中小企業現況より)。つまり、大企業で働ける人は12.5%しかいないのである。

■韓国は完全に「子どもが生めない社会」になっている

日本の場合は、大企業で働く人の割合は、約31%である。いまの韓国の若者で、まともな給料をもらえるところに就職できる人は10人に1人ほどしかいないのである。

韓国ではまともな働き口が少ないので若者の就業率が低く、韓国統計庁の「経済活動人口調査」によると、2014年の25歳から29歳までの男性の就業率は69.4%にすぎなかった。つまり3人に1人が就業していないのである。

先進国ではこの世代の就業率はだいたい80%を超えるので、韓国は10ポイントも少ないことになる。しかも韓国統計庁によると韓国の若者は、働いている人の3割以上が非正規雇用である。これらの状況を加味すると、韓国の若者は6割近くがフリーターかニートという計算になる。

そして韓国では、2022年の合計特殊出生率が日本よりもはるかに低い0.78である。韓国は完全に「子どもが生めない社会」になっているのだ。

昨今、韓国の若者の間では、「ヘル朝鮮」という言葉が流行している。この言葉の意味は、そのまま言葉通りに「韓国は地獄だ」ということである。

その“地獄”に住んでいる韓国の若者たちと、日本の若者の自殺率はほぼ同じなのである。両国の若者とも、地獄に住んでいるのかもしれない。

ミニチュアの日章旗と太極旗
写真=iStock.com/MicroStockHub
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/MicroStockHub

■選挙に行かないから政治がどんどん悪くなる

これまで、日本の政治の愚かさを示すデータを多々紹介してきた。

最後に、選挙の投票率の国際比較データをご紹介したい。

図表5は、OECDの38カ国における選挙の投票率を低い順にランキングしたものである。国によって選挙の種類には若干違いがあるが、原則として国政選挙の投票率である。このランキングにおいて、残念ながら日本は第4位(同率3カ国)である。

【図表5】選挙の投票率のワーストランキング (OECD38カ国、2023年現在公表データ)
出所=『日本の絶望ランキング集』(中公新書ラクレ)

日本が「子育て地獄」になったのも、この投票率の低さがかなり影響している。というのも、日本の投票率を引き下げているのは、若い世代だからだ。

2022年7月に行われた第26回参議院議員選挙では、全体の投票率は52.05%だったが10代は35.42%、20代は33.99%、30代は44.80%である。結婚する世代、子育てする世代である20代で、3人に1人しか投票していないのだ。

■「投票したい候補者がいない」場合でも選挙に行くべきか

選挙に行かない若者の中には、「投票したい候補者がいない」ということを理由にする人が多い。

大村大次郎『日本の絶望ランキング集』(中公新書ラクレ)
大村大次郎『日本の絶望ランキング集』(中公新書ラクレ)

著者としてもその気持ちは非常によくわかる。与党は利権のしがらみでがんじがらめになっており、野党は頼りなさすぎて危なっかしい。

しかし、だからといって投票に行かなければ、日本の政治レベルは下がっていく。

投票率が低くなると業界団体、宗教団体などの「組織票」の力が大きくなる。そうなると、政治家は、有権者全体のことよりも、業界団体や宗教団体のほうを向いた政治を行うようになる。そういう政治が行き着いた先が、いまの日本だと言えるのだ。

若者の投票率が低ければ、当然、政治は若者のほうを向かなくなる。子育て世代の投票率が3割台となれば、子育て政策がなおざりにされてしまうのが、いまの政治システムなのである。

食指の動かない候補者リストでも、どうにかして自分の意思に近い人を選びだし、一票を投じ、投票率を上昇させれば、政治家も有権者全体のほうを向かざるをえなくなるのだ。

それが日本の将来を明るくするために、われわれがしなければならない第一歩なのである。

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大村 大次郎(おおむら・おおじろう)
ビジネスライター
1960年生まれ。調査官として国税局に10年間勤務。退職後、出版社勤務などを経て執筆活動を始め、さまざまな媒体に寄稿。『脱税のススメ』『お金の流れでわかる世界の歴史』など著書多数。近著に『お金で読み解く世界のニュース』。

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(ビジネスライター 大村 大次郎)

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