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自分の避難プランがなければ灰と化す…強風の「火災旋風」、地震後の「電気火災」で焼き尽くされる残酷な事実

プレジデントオンライン / 2023年8月31日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/shaunl

■犠牲者100人超ハワイの山火事は「対岸の火事」ではない

今年8月にハワイのマウイ島で大規模な山火事で多くの犠牲者が出た。世界的なリゾート地の変わり果てた姿を伝える映像が、被害の深刻さを物語っている。こうした大規模な火事が日本でも起こり、大惨事となる懸念はないのだろうか。専門家に話を聞いた。

米国ハワイ州のマウイ島で8月8日に山火事が起こり、短時間に広範囲を焼き尽くし、多くの犠牲者が出た。原因や被害状況はまだ調査中だが、犠牲者は100人を超え、行方不明者が数百人規模とも1000人前後とも伝えられている。山火事は一気に広がって大規模となり、逃げ遅れた人が多数いたようだ。島西部で海辺の町、ラハイナなどに大きな被害が出ている。

火事の原因はわかっていないが、現地では山火事の発生前にハリケーンが通過しており、強風で火があおられたのではないかとみられている。さらに異常な高温で、降水量も少なくなっており、乾燥した状態だったことで、短時間に大規模な火事となってしまったとの見方も出ている。

強風で倒れた電柱の送電線の火花で火事が起きたとして、現地当局が電力会社を相手取り提訴したと報道されている。現地当局は電力会社に対し、火事が起きる可能性があると警告し、送電の停止を求めていたという。

「火災は風次第のところがあり、大規模な火災では避難ができるかどうかが大きい」と指摘するのは、桑名一徳・東京理科大学教授(国際火災学)。マウイ島の火災は「山のほうで始まり、街に到達するころには大きな火災の“前線”がつくられていたのではないか」と話す。

風にあおられて火が巻き上がり、竜巻のように激しく燃え上がる「火災旋風」の起きることがあるほか、飛び火で思ったよりも延焼することもあり得るという。

桑名教授が海外の山火事を調べると、樹木の種類で燃えやすいものがあり、植生で火が広がりやすいことがあるという。「ラハイナの周りは木が茂っているというより、牧草地のような広がりと思う。一気に燃え広がったのではないか」と話す。そこにいた人たちは火に囲まれて逃げ場を失い、被害が大きくなったのではないかとみている。

■年間約1万3000件…日本の山火事の特徴とは

日本でも山火事は毎年、多発している。林野庁が今年7月に公表したところでは、2021年まで5年間平均で年間約1万3000件も発生している。その焼失面積は年平均724ヘクタール、損害額が同3億5000万円。発生件数は短周期で増減を繰り返しながらも、長期的には減少傾向としている。

燃え盛る山火事の炎
写真=iStock.com/ico_k-pax
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ico_k-pax

山火事の発生で国内外の大きな違いは、海外が落雷などの自然発火も少なくないのに対し、国内では焚火や野焼きの火入れ、放火、たばこのポイ捨てなど人的要因が多いのが特徴で、冬から春にかけて空気が乾燥しているときに多いとされる。

林野庁森林保護対策室の担当者は海外の発生事例について、空気が乾燥して、地表の温度が高くなっているところがあり、「落雷で発生することが多い」と話す。

一方、国内では木が密に生えており、日射が地面に届きにくく、林床は湿っていることが少なくないという。

「山火事が日本であっても、下草が燃える程度が多い。海外では木が全体に燃える激しい燃え方になり、日本ではあまり起きていない」(桑名教授)。

さらに、山火事の発生や広がり方は「風の影響もある」と林野庁担当者は話す。海外の山火事は風が強いことが多いと指摘する。日本の山林火災でも、風が強いと火が消えにくいという。

国内でも大規模な山火事は発生している。栃木県足利市で2021年2~3月に起きた山火事では、167ヘクタールを焼失し、305世帯610人を対象に退避勧告が出された。「住宅地に近く、避難された。風が強く、鎮火まで時間がかかった」(林野庁担当者)。

■関東大震災で10万人が犠牲になったワケ

日本の大規模火災は山林からというよりも、地震や失火などで都市部に発生している。

新潟県糸魚川市で2016年12月に発生した糸魚川市駅北大火は、飲食店から出火し、鎮火まで約30時間かかった。南からの強風にあおられて、147棟が焼失したとされ、大惨事となった。

「日本では山火事というよりも、地震の後が心配になる」と話すのは桑名教授で、100年前の関東大震災や、1995年1月に起きた阪神淡路大震災の後の事例を挙げる。これらの地震では「いろいろなところで火災が起こり、あっという間に広がった」という。

1923年9月1日、関東大震災が起きた。

発生したのが昼どきで、火を使って調理している家庭が少なくなかったとされ、木造の家屋が多かったことも被害を大きくした。桑名教授は「火災旋風で被害が大きくなった。避難がうまくできなかった」と指摘する。犠牲者数ははっきりしていないが、10万人を超えるとされ、その9割くらいが火災によるものとされる。

関東大震災の犠牲者
関東大震災の犠牲者(写真=Robert L. Capp/PD-Japan-oldphoto/Wikimedia Commons)

現在の東京・両国駅あたりの本所被服廠跡では、避難していた人たちが火災旋風に巻き込まれ、「そこだけで3万8000人くらいが亡くなられた」(桑名教授)。大規模な火災が発生すると、うまく逃げられるかが生死を分けるという。マウイ島の火災でも「逃げるところがなくなり、被害が大きくなった」と桑名教授はみている。

関東大震災の当時と、現在との大きな違いは、当時の調理場がかまどなどだったのに対して、現在は自動消火機能など安全に設計されているガスコンロが多い。出火の仕方がかなり違うと、桑名教授はみている。

■阪神淡路大震災で多数発生した恐ろしい「電気火災」

一方、現在は「電気火災」が怖いと指摘し、「阪神淡路大震災ではかなりあったと聞いている」という。地震でいったん停電して復電した際に、電気ストーブに可燃物がひっかかっていることもあるほか、家屋倒壊などで電気ケーブルが損傷してショートすると、電気火災が発生する。

阪神淡路大震災の火災
阪神淡路大震災の火災(写真=神戸市/CC-BY-2.1-JP/Wikimedia Commons)

電気ケーブルは多くの銅線が束ねられた状態にある。桑名教授によると、家屋や家具などの倒壊で電気ケーブルの一部の銅線が切れると、残って通電している銅線の電気抵抗が増し、熱が出てくるという。現代の地震では、こうした「半断線」が電気火災につながる恐れがある。

最近の異常気象など、気候変動も火災のリスクを高めているとの指摘も出ている。国際研究グループ「ワールド・ウェザー・アトリビューション」(WWA)は、カナダ東部で今年5~7月に多発した山火事と気候変動との関係を調べた結果を発表。地球温暖化により、火災が起きやすい気象条件になる確率は2倍以上になっているという。今年5~7月の東部ケベック州の気象条件について、気候変動の影響でどれくらい山火事が起きやすいかを分析したもの。

火災のリスクは「日本でも気候変動により、降雨が少なくなり、林床に届く日射が多くなるなどで変わってくる」と林野庁の担当者は話す。

乾燥した気象条件や風が強いかなどの自然条件が、火事の大規模化に大きく影響する。火事が短時間に一気に広がるのは「火の粉による飛び火もある」(桑名教授)。火事が一カ所から広がっていくのか、マウイ島の事例ように、同時多発的に“前線”のような広がり方をするのかで、避難の仕方も違ってくる。

さらに怖いのが火災旋風。そのメカニズムについて、桑名教授は「おおざっぱなことしかわかっていない」と話したうえで、「発生しやすい条件がそろうと次々に出てくる」という。大規模な火事があると起こりやすいとも。関東大震災の本所被服廠跡のように、多くの人が避難しているところで火災旋風が発生し、人々が火に囲まれてしまうと、逃げられなくなるとみている。

火事が起きても、「初期消火ができればかなり違う」と桑名教授は話す。初期消火ができなければ避難を考えることになるが、「あらかじめ避難について考えておくことが大切」という。

たとえば、建物の1階であれば避難もしやすいが、2階にいると逃げる時間が少なくなる。火事にどの時点で気づくことができるか、さらに事前に避難の仕方を考えておくことも重要になる。

大規模な火災は、地震などで日本でも起こり得る。普段からの備えや対策などが大切になる。桑名教授は「少しの気持ちの持ち方でだいぶ違ってくる」と話す。

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浅井 秀樹(あさい・ひでき)
フリーライター
金融・経済系の国内出版社や海外通信社などの報道現場で数十年にわたり取材・執筆。数年所属した『週刊朝日』が2023年5月末で休刊し、フリーとなる。金融・経済のほか、政治や社会・福祉などの分野でニュースや社会的課題、新潮流などを紹介する記事を手がける。

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(フリーライター 浅井 秀樹)

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