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日本人の所得はナイジェリア人の25倍だが幸福感は2分の1…「お金が増えても幸せになれない」科学的根拠

プレジデントオンライン / 2023年9月7日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/marrio31

収入は多ければ多いほどいい。ほとんどの人がそう考えるが、各種調査ではそうではないことが証明されている。心理学者のキャサリン・A・サンダーソンさんは「お金を執拗に追い求めるよりも、喜びを感じられるように日々を過ごすことによって、もっと多くの幸福感を得ることができます」という――。

※本稿は、キャサリン・A・サンダーソン『ポジティブ・シフト 心理学が明かす幸福・健康・長寿につながる心の持ち方』(ディスカヴァー・トゥエンティワン、本多明生訳)の一部を再編集したものです。

■なぜ、旅行者より漁師のほうがリッチなのか

ドイツの作家ハインリヒ・ベルの短編小説に、裕福な旅行者が船の中で昼寝をしている漁師に出会う、素晴らしい物語があります1※。

その物語では、旅行者は漁師に近づいて、もっと頑張れば、何隻もの船を所有して、他の人に漁をさせることができるほどの収入が得られる、と漁を続けるように促します。漁師は、それをゴールとするべき理由を旅行者に尋ねます。その問いに対して旅行者は「そうすれば、あなたは、心置きなく、この港に座って、太陽の下でうとうと居眠りしながら、輝く海を眺めることができるんですよ」と漁師に答えるのです。

ご存じの通り、太陽の下でうとうと居眠りすることは、この漁師がすでにやっていることです。この物語は、現在、数多くの実証的研究が明らかにしていることを示しています。

私たちは、お金を執拗に追い求めるよりも、喜びを感じられるように日々を過ごすことによって、もっと多くの幸福感を得ることができます。裕福な旅行者は、漁師にさらにたくさんのお金を追い求めるように促しますが、賢い漁師は太陽の下で眠る時間が自分にとっての本当の幸せであることをすでに理解しています。

本章では、なぜお金が幸せをもたらさないのか、物質主義的な考え方が危険な理由、なぜ持っているお金を体験に費やすことが幸せへの一番の近道になるのか、について説明します。

■お金が増えても幸せにならない理由

お金があればもっと幸せになれる、と考えてしまう傾向には抵抗しがたいものがあります。結局のところ、私たちの多くは、高級車、大きな家、贅沢な休暇など、様々な高額商品をとてもほしい、と思っています。ですから、このような贅沢なライフスタイルを経験できる人は、きっと幸せなのだろう、と思いますよね?

ところが、お金では幸福を買うことはできない、ということがわかっています。実際、ある研究によれば、1人当たりの所得は過去60年間で大幅に増加しましたが、この期間において「とても幸せだ」と回答した人の割合は、ほぼ一定だったそうです2※。

この直感に反する発見を実証した初期の研究の一つは、宝くじの高額当選者と非当選者の幸福感を比較したものです3※。二つの条件群の間には幸福感に違いは認められなかったものの、宝くじの当選者は、テレビを見る、面白い冗談を聞く、友人と話すなど、様々な普通の行動の楽しさを、非当選者と比べて低く評価していることがわかりました。

お金と幸福感の間には関連性が相対的に欠如していることを示す、このような研究結果は、裕福な国に住む人々がなぜ幸せを感じないのかを説明するうえで手助けにもなります。メリーランド大学のキャロル・グラハム教授(公共政策)は著書『人類の幸福論:貧しくても幸せな人と裕福でも不満な人』の中で「一人当たりの所得水準が高くても、平均的な幸福感の高さに直接つながるわけではありません4※」と指摘しています。

例えば、バングラデシュで暮らす人のうち、幸せだと答える人の割合は、ロシア人の方が4倍以上裕福であるにもかかわらず、ロシア人の2倍です。同様に、日本人の所得はナイジェリア人の約25倍あるにもかかわらず、幸福を感じるナイジェリア人の割合は日本人の2倍です5※。

世界地図
写真=iStock.com/yorkfoto
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/yorkfoto

その後、大規模な標本調査が行われて、所得が高いからといって幸福感が高まるわけではない、ということをさらに強く示す証拠が得られました。50万人近い米国人を対象にしたある大規模な調査では、世帯収入、生活満足感、感情的な幸福感を測定しました6※。

研究参加者は、生活満足感については、現在の生活に全体的に満足しているかどうかを評価し、感情的な幸福感については、幸せや喜びといったポジティブな感情を定期的に経験しているのかどうかを評価しました。

その結果、所得が多くなるほど生活満足感が高くなることがわかりました。つまり、確かに、所得水準が高い人ほど、生活全体に対する満足感が高いことが示されました。しかし、収入が増えるほど、感情的な幸福感が高くなるというのは、ある程度の水準までのことで、

7万5000ドル以上の収入になると、収入が増えても幸福感は高くなることはありませんでした。そして、年収9万ドル以上の人は、2万ドル以下の人に比べて「とても幸せ」と感じる割合が2倍近いものの、5万ドルの人と8万9999ドルの人の間には基本的に幸福感に差異は示されませんでした7※。

ただし、お金が増えても幸せにはならない、という一般的な法則には例外もあります。

貧困層の人々にとって、お金がないことは、健康問題や車の故障など、日常生活のストレスを悪化させる可能性があります。そのような人たちは、衣食住の基本的なニーズを満たすのに十分なお金があるのかどうかを心配するかもしれません。

彼らにとっては、お金が増えることは幸福感を高めることにつながるのです。子どもたちが食べるものに不自由しないか、家族がこの冬に暖房を使えるのかどうか、そんな心配をしていては、幸福を感じることはできないでしょう。そのため、貧困を緩和するためにお金を提供するプログラムは、幸福感の上昇に直結することがあります。これは、経済的に苦しい状況で暮らす人々にとっては、追加的な収入を得ることでストレスが軽減する一因になっています8※。

つまり、基本的な欲求が満たされた後では、私たちが時間をどのように使うのかが幸せの鍵を握っている、と言えます。本を読む、テレビを見る、友人と交流するなど、幸せな時間を過ごす方が、もっと多くのお金を稼ぐために仕事に時間を費やすよりも、幸福感を高めることができるのです。

■物質主義の危険性

もっとたくさん、より良い富を手に入れることが幸せだ、と考える誘惑は、私たちの周囲のいたるところに潜んでいます。商業広告は、素晴らしい車、立派な宝石、大きな家を持つことが、人生に大きな満足を生む、というメッセージを明確に伝えています。

クールなメガネの男、タバコ、ブランデー、フォーマルウェア、赤のネクタイとポケット広場とタキシード
写真=iStock.com/Deagreez
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Deagreez

しかし、実証的な研究はこの考えを否定するだけでなく、実際のところ、単純に物欲を追求することには、幸福感を損なう可能性があることを示しています。事実、物質主義が強い人は、人生満足感が圧倒的に低いのです。さらに、物質主義が強い人は、毎日のポジティブ感情の経験が少なく、抑うつ傾向があること、頭痛、背中の痛み、喉の痛みなど、体調不良を多く訴える傾向があることがわかっています9※。

物質主義は、夫婦の結婚満足感の低さにも関与します。夫婦ともに物質主義が低いカップルは、夫婦の一方、あるいは夫婦のどちらも物質主義が高いカップルに比べて、争いが少なく、コミュニケーションが良好で、結婚満足感も高いそうです10※。そして、結婚生活も長続きする傾向が認められています。

モノを買わずにいられない、ということには、自尊心の低さが根底にあることが多いそうです。自分自身のことをよく思っていない人は、モノを買えば気分が良くなると錯覚してしまいます。そして、モノを買うことで一時的に気分が良くなることはあったとしても、そのポジティブな気持ちはすぐに冷めてしまいます。

豊かさを誇示するために商品を購入しても、他の誰かが必ず自分よりも良い品物をもっているので、勝つことはありません。そのため、裕福な地域に住んでいる人は、モノを買うことにはこだわりますが、幸福にはなれないのです。

一般的に物質的な品物を購入することに重きを置かない人であっても、そのマインドセットを一時的に消費主義に焦点を向けることで、幸福感が損なわれることがあります11※。

ある研究は、研究参加者に、自動車、電化製品、宝石などの高級品の画像を、あるいは、中立的な画像を見せました。その結果、物質主義的な画像を提示された人は、その後、より高レベルの抑うつと不安を報告しました。

この研究結果は、一過性の物質主義的なマインドセットであったとしても、心理的な幸福感が損なわれる可能性があることを示唆します。さらに、物質主義的な画像を提示された人は、社会的な活動への関心も低下することが示されました。

物質主義が幸福感に及ぼす悪影響を考慮すると、物質主義を重視する傾向を減らすためにはどうしたらよいのでしょうか? モノを買うことで幸せを得ようとすることは、損なうことだ、と心に留めておきましょう。実際、仏教徒は、物質的な所有物は真の幸福を得ることを妨げる、と考えています。デューク大学のロジャー・コーレス教授(宗教学)は、著書『仏教の目指すもの(TheVisionofBuddhism)(未邦訳)』において「財産をため込んで幸せになろうとするのは、体中にサンドイッチを貼り付けて空腹を満たそうとするようなものです」と述べています12※。

■お金が幸せと結びつかない理由

お金が増えても期待したほどの幸せが得られない理由の一つは、私たちが新たに得た富に適応してしまうことにあります。最初のうちは、お金が増えたことを嬉しく思いますが、時間が経つにつれて、私たちは高収入や思ってもみなかった遺産を得た状態にただ慣れていきます。そのため、富を得ることが幸せを得ることにはつながらないのです。心理学者は、この適応を「ヘドニック・トレッドミル(快楽のランニングマシーン)」と呼んでいます。

その適応力を示す一例をご紹介しましょう。初めて携帯電話を手にしたときのことを思い出してみてください。おそらく、とても興奮したことでしょう。突然、自動車の中から電話をかけることができるようになったのですから。この新しいデバイスの登場は、初めのうちはスリリングなものでした。

しかし、もし、現在使用している携帯電話が、15年前や20年前にワクワクしたあの携帯電話と入れ替わったらどのように感じるか、今すぐ、想像してみてください。きっと、あの頃のようにワクワクした気持ちになることはない、と思います。

それは、私たちが携帯電話に搭載されている技術の進歩に慣れてしまっているからです。携帯電話には、自動車の中から人に電話をかけるだけでなく、写真を撮ったり、新聞を読んだり、本を買ったりする機能も期待されるようになりました。これは、私たちが時間とともに適応すること、例えば、昇給や携帯電話などのように、当初は幸福感を高めてくれたものが、時間の経過とともにそうでなくなることを明示しています。

さらには、富の増加は、私たちの比較の行い方をも変化させます。私たちは、収入が増えると、高級住宅街に引っ越したり、子どもをプライベートスクールに通わせたりすることができるので、もっと幸せになれるだろう、と予測します。

しかし、実際のところ、新しい環境は、私たちが行う比較の性質を変えるだけであり、その比較は私たちの気分を悪化させます。例えば、引っ越し先となる高級住宅街の住民たちは、高級車に乗っていたり、高額な芝生サービスを受けていたり、新しい学校の子どもの友達はもっと豪華な休暇を過ごしたり、セカンドハウスを持っていたりするかもしれません。そうすると、新しく手に入れた富は、それほど良いものだとは思えなくなってしまいます。このことについて、ベンジャミン・フランクリン(訳注:米国の文筆家、出版業者、発明家、科学者、外交官、政治家)は「お金は人を幸せにしたことがないし、これからもそうすることはないだろう。お金には幸せを生み出す性質はないのだ。お金はあればあるほど、人はそれを欲するのである」と述べています13※。

お金と幸福の関連性が全体的に乏しいことに対する三つ目の説明は、お金が時間の使い方を変える可能性があるということです。皮肉なことに、お金をたくさん持っている人は、幸福につながらないような時間の使い方をしてしまうことがあります。

平均以上の所得を得ている人は、運動やリラックスなど、幸福感を高める活動に費やす時間が少なく、仕事や通勤など、必ずしも幸福感を高めない活動に多くの時間を使っているそうです。例えば、年収10万ドル以上の人は、時間の約20%を余暇活動に費やしているのに対し、2万ドル未満の人は時間の約34%を余暇活動に費やしています14※。

キャサリン・A・サンダーソン『ポジティブ・シフト 心理学が明かす幸福・健康・長寿につながる心の持ち方』(ディスカヴァー・トゥエンティワン、本多明生訳)
キャサリン・A・サンダーソン『ポジティブ・シフト 心理学が明かす幸福・健康・長寿につながる心の持ち方』(ディスカヴァー・トゥエンティワン、本多明生訳)

そして、所得が高い人ほど、夜に社交的な時間をもつことがなく、他者との関わり合いをもつ日々の割合が少ないことも報告されています15※。

このように、収入が多い人ほど、一人で過ごす時間が長くなる傾向は、その人の幸福感にまで影響を及ぼしている可能性があります。最近の研究は、所得が高い人ほど、プライドや満足感など、自己に注目した感情をより多く経験していることを示す研究結果を得ています16※。

一方、所得が低い人ほど、思いやりや愛情など、他者に焦点化した感情をより多く経験しているそうです。カリフォルニア大学アーバイン校のポール・ピフ教授(心理学)は「富は幸せを保証するものではありませんが、例えば、自分自身に喜びを感じるのか、あるいは友人や人間関係に喜びを感じるのか、といった具合に、多様な形の幸せを経験するための素地にはなるかもしれません」と述べています17※。

社会的な関係は幸福感を最もよく予測します。そのため、収入の多い人は、他人と一緒に過ごす時間が減ることによって損をするかもしれません。このような場合、富が増すほど、幸福感がかえって低下する可能性すらあるのです。

(心理学者 キャサリン・A・サンダーソン)

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