九州大学が新事実を発見…飲めばひきこもりの症状が良くなる可能性がある、店で簡単に手に入るサプリメント
プレジデントオンライン / 2023年9月28日 11時15分
※本稿は、中尾篤典・毛内拡(著)、ナゾロジー(協力)『ウソみたいな人体の話を大学の先生に解説してもらいました。』(秀和システム)の一部を再編集したものです。
■ひきこもりが血液検査でわかる⁉
本稿では「もっと知りたい人体のこぼれ話」をご紹介します。まずは血液のお話。ひきこもりは、オックスフォード辞書でも「hikikomori」と表記されており、和製英語として普通に使われる言葉になっています。定義としては、「仕事や学校に行かず家族以外の人との交流をしないまま6カ月以上自宅にとどまり続ける状態である」とされており、日本では146万人以上のひきこもりがいると推定されています。
そういうと、ひきこもりは日本特有のものかと誤解されますが、COVID-19が世界で猛威を振るい、外出や渡航が制限される中、世界中でもhikikomoriが急増し大きな問題になっています。
そんなひきこもりについて最近、九州大学の研究チームが新事実を発見しました。日本人のひきこもりは健常者と異なる特徴的なパターンを示すことが血液検査でわかり、それがひきこもりの重症度と関係することが示されたのです。①
私たちの救急外来にも、多くのひきこもり状態にある患者さんが運ばれてきます。社会との関係を完全に断ち切っているわけではなく、インターネットなどでつながっている人もいます。「ひきこもり」とは病名ではなく状態です。発達障害、適応障害が原因である場合もあり、精神科的介入が必要なうつ病や統合失調症が原因である場合もあります。したがって、治療には多方面からの介入が必要となりますが、これまでは主に社会的・心理学的アプローチが取られてきました。
しかし、血液成分の変化があるのであれば、医学、生物学的な要因が根底にあるかもしれず、内科的にアプローチができる可能性が出てきました。
九州大学の研究チームは、日常的な内服薬を使っていないことを条件に選ばれた、ひきこもり状態にある42人と健常者41人の血液を採取し、成分の比較を行うことにしました。
結果、特にひきこもり男性の血液では、アルギニンの値が低く、アルギニン分解酵素とオルニチンの値が高くなっていました。
アルギニンは主に鶏肉や豚肉、エビ・カニなどの魚介、大豆などに多く含まれ、体内で一酸化窒素を作り出し、血流をスムーズにする重要な栄養成分です。体内ではアルギニン分解酵素によってオルニチンと尿素に分解されることが知られています。
ひきこもり男性の血液ではアルギニン分解酵素が増え、アルギニンがどんどん分解されてしまい、分解産物のオルニチンが増加していると予想されます。アルギニンがなぜひきこもり患者でどんどん壊されるのかはわかっていませんが、サプリメントなどでアルギニンを補給すれば、ひきこもりの症状が良くなる可能性があります。
■ひきこもりに効く栄養療法の開発が可能
また、ひきこもりの人は、血中のビリルビンの値が低く、脂質の代謝に関係する長鎖アシルカルニチンの値が高いことも判明しました。
これらの血液成分の変化にどのような意味があるのかについては、まだまだ研究が必要です。ひきこもって日光にあたらないために、二次的に起きてくる変化なのかもしれませんし、偏った栄養が原因かもしれません。しかし、血液成分のパターンをひきこもりの重症度と共にAIに学習させたところ、AIは血液成分の情報のみで、採血した人間がひきこもりであるか、またひきこもりである場合の重症度を高い精度で予測できるようになりました。
この結果から、ひきこもりの背景には共通した医学的・生物学的な変化が存在していると結論づけられそうです。
これまでひきこもりは「甘えているだけ」「怠けている」「人間的に弱い」など精神論の犠牲になることもあり、国家的な社会構造の問題にすり替えられてきた面もありますが、医学的にきちんと治療ができる疾患である可能性も捨てきれません。
研究者たちは今後、ひきこもりと血液成分の関係を調べていくことで、ひきこもりに効く栄養療法の開発が可能であると述べており、今後に大きな期待が持てます。
出典
①Setoyama D, et al. Blood metabolic signatures of hikikomori, pathological social withdrawal. Dialogues Clin Neurosci. 2022;23(1):14-28.
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医師、岡山大学大学院医歯薬学総合研究科救命救急・災害医学講座教授
1967年京都府生まれ。岡山大学医学部卒業。ピッツバーグ大学移植外科(客員研究員)、兵庫医科大学教授などを経て、2016年より現職。著書に『こんなにも面白い医学の世界 からだのトリビア教えます』『こんなにも面白い医学の世界 からだのトリビア教えますPart2』(共に羊土社)がある。
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脳神経科学者、お茶の水女子大学基幹研究院自然科学系助教
1984年、北海道函館市生まれ。2008年、東京薬科大学生命科学部卒業、2013年、東京工業大学大学院総合理工学研究科博士課程修了。博士(理学)。日本学術振興会特別研究員、理化学研究所脳科学総合研究センター研究員などを経て2018年より現職。同大にて生体組織機能学研究室を主宰。専門は、神経生理学、生物物理学。著書に、第37回講談社科学出版賞受賞作『脳を司る「脳」』(講談社)、『面白くて眠れなくなる脳科学』(PHP 研究所)、『脳研究者の脳の中』(ワニブックス)などがある。
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(医師、岡山大学大学院医歯薬学総合研究科救命救急・災害医学講座教授 中尾 篤典、脳神経科学者、お茶の水女子大学基幹研究院自然科学系助教 毛内 拡)
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