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日本のラグビーはなぜ世界から注目を集めるのか…ラグビー日本代表がW杯決勝に進むために本当に必要なこと

プレジデントオンライン / 2023年9月28日 17時15分

1次リーグ・イングランド-日本。試合前に整列する日本代表=2023年9月17日、フランス・ニース - 写真=時事通信フォト

ラグビーW杯で日本代表が決勝トーナメントに進むために何が求められるのか。神戸学院大学の鈴木洋仁准教授は「前回のイングランド戦は敗れたが、体格差をものともしない日本選手のスクラムは世界トップレベルだった。強みとなり自信を深めたスクラムに、日本人が得意としてきたバックスの俊敏な動きが重なれば、決勝トーナメントに進出できるだろう」という――。

■「惜しかった」とは言えないイングランド戦

覚えているだろうか?

4年前の今ごろ、日本はラグビーW杯に沸いていたことを。

「にわかファン」が日本中に増殖し、わけもわからず「ジャッカル」を使い、年末には「ONE TEAM」が流行語大賞に選ばれたことを。

9月9日(日本時間)に開幕したラグビーW杯で、日本代表は、1次リーグD組の2試合を終えて1勝1敗と、決勝トーナメント進出に希望をつないでいる。

日本代表は、18日早朝(日本時間)のイングランド戦に「大一番」と気合を入れていた。

イングランドは世界ランキング6位、日本は14位と、レベルの差はあったものの、前回大会では当時1位だったアイルランドを、前々回にも同3位だった南アフリカを、それぞれ撃破しており、期待が高まっていた。

結果は12対34、さらに4トライ以上で与えられるボーナスポイントも献上しており、「惜しかった」とは言えない。

まずは次のサモア戦に勝たなければ、決勝トーナメントには進めない。

■日本のスクラムは世界トップレベル

イングランド戦では、相手の強力なスクラムに対して、まったく負けなかった。高く評価されよう。

フォワードと呼ばれるスクラムを組む8名については、先発メンバーの総重量がイングランドの909キログラムに対して日本は892キログラム、ひとり平均で113.6キロに対し111.5キロと、軽い。

さらに、身長2メートルを超える選手が2人もいるため、スクラムを押す際には、体重に加えて重力がかかる。

しかし、日本のスクラム成功率は85.7%(自チームボール7回のうち6回成功)、イングランドの81.8%を上回った。

数字だけではない。

イングランドがスクラムを慎重に仕掛けてきた様子を見ても、スクラムは通用するどころか、相手を恐れさせたのである。

日本はスクラムで2回ペナルティー(反則)を取られたとはいえ、いずれも微妙な判定であり、前回大会に続き、世界に通用する姿を見せてくれた。

これまでにも「日本選手は体格で劣る」と言われてきたし、今回のイングランド戦を前にしても、どれだけスクラムで耐えられるのか、といった論調が多かったように見える。

結果は、どうだったか。

上に示した数字があらわしているように、体重が少なくても、身長が高くなくても、つまり、体格で劣るとしても、十二分に世界トップレベルだった。

前後半40分ずつ合計80分のうち56分までは、1点差(12-13)で肉薄していた。体格差をものともしない、戦術と戦略、選手たち個々の能力、何よりもチームとしての一体感の賜物にほかならない。

56分までは、今大会のチームスローガン=OUR TEAMを地で行く戦いだった。

■イングランド戦で見えてきた課題

では、なぜそのあと、一気に突き放されたのだろうか?

15人で戦うラグビーのうち8人は互角以上だったのだが、残り7人で負けていたからである。

日本人は、体は大きくない反面、敏捷性(すばしこさ)に秀でている。サッカーでもしばしば言われることである。

ただ、サッカー日本代表を見てもわかるように、点を取る選手の体が小さいかと言えば、決してそんなことはない。

当たり負けしないフィジカルを鍛えているからこそ、あれだけ大勢の選手たちが、ヨーロッパリーグでも活躍している。

ラグビーもまた、実は、よく走り、点を取る役割を担う選手たち=残り7人のバックスたちこそ、体の強さが求められる。

イングランド戦では、ここが弱かった。

跳ねるラグビーボール
写真=iStock.com/Thomas Northcut
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Thomas Northcut

たしかに、バックスの中で最も走力に優れ、「スーパーカー」の異名をとる松島幸太朗や、最後尾を固めながら攻撃に参加するフルバックのレメキ・ロマノラバの2人は、よく走ってくれた。

けれども、いずれもトライを取れていない。

本人たちの体格差だけではなく、松島やレメキをサポートして、パスコースを生み出す役割としても足りていなかった。

加えて、フォワードとバックスを繋ぐ役割のハーフ・バックス2人のうちの1人、スクラムハームの流大(ながれ・ゆたか)もまた、前回大会のような輝きには届いていない。

いつもの彼なら、自分でボールを持って突破を試みたり、大胆なパス回しをしたり、といった、相手だけではなく味方すら驚かすプレーが持ち味なのに、イングランド戦では、体格差を警戒したせいなのか、かなり自粛していたのではないか。

■次のサモア戦も厳しい戦いが予想される

収穫も課題も多かったイングランド戦から、次のサモア戦までは10日ほどの間隔がある。

緊張から解き放たれて、どれだけリフレッシュできるのか。もちろん数々の修羅場をくぐりぬけてきた日本代表は、その大切さは百も承知だろう。

次のサモアもまた、イングランドと同じくデカい。

力任せにどんどんと当たってくる。そんな姿は、今年7月に日本で行われた日本代表対サモア代表の試合でも、イヤというほど見せられた。

札幌で行われたその試合の日本代表は、リーチ・マイケルが危険なタックルをしたために前半30分で退場となり、残り50分を1人少ない14人で戦わざるを得なかった。

22対24で敗れたことを善戦ととらえるのか、それとも、ミスの多かった内容面から評価できないと考えるのか。

専門家でも評価は分かれるところだろう。

今大会ではどうか。

世界ランク11位のサモアは、ここまで、チリに43対10と快勝したものの、アルゼンチン(同10位)には10対19で惜敗しており、日本と同じく次戦に勝負をかけてくる。

2試合ともに、後半になると、スタミナも戦術も、ともに荒れてくるのが弱みである反面、勢いは、決して侮れるものではない。

イングランド戦で通用した日本のスクラムへの警戒も、サモアはもちろん怠らないだろうし、それ以上に課題となったバックスへの攻撃を強めてくるに違いない。

では、どうすれば勝てるのか。

■「日本らしさ」を信じてほしい

もはやスクラムが日本の得意技であり、お家芸と言っても良い。

だからこそ、ここで改めて、もともとの日本らしさに立ち戻ってほしい。

敵陣だけではなく、攻め込まれた自陣からでも常にボールを回して走り続ける、そんな日本らしさは、弱かった時代にも世界中から高く評価されてきたのではないか。

28年前のW杯でニュージーランドに145点もの失点で歴史的大敗を喫した時ですら、日本はいつも走り回るから、世界から一目置かれてきたのではないか。

ラグビーワールドカップフランス2023日本代表対チリ代表パブリックビューイングが行われた東大阪市花園ラグビー場メインスタジアムの応援団
ラグビーワールドカップフランス2023日本代表対チリ代表パブリックビューイングが行われた東大阪市花園ラグビー場メインスタジアムの応援団(写真=Mr.ちゅらさん/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons)

バックス陣には、さらなる強みも加わった。

ベテランで、フルバックとして長い距離のキックの名手、山中亮平(35歳)である。

イングランド戦の開始直後に負傷し、チームからの離脱を余儀なくされたセミシ・マシレワに代わり、8月の代表選考では外れていた山中が急遽呼ばれる。

前回大会には全試合に出場し、最後列の守りの砦として、チームの危機を幾度も救った彼の加入は、課題であるバックス陣にとって、大きな戦力アップにつながる。

イングランド戦で多用したキックを、どこまでサモア戦でも使うのか。コーチ陣や選手たちの手ごたえにも左右されよう。

サモア戦では山中はスタメンからもベンチからも外れたものの、今後の期待は大きい。

重要なのは、山中がキックだけではなく、自分で積極的にボールを持って前に進もうとする意思とテクニックを持っているところにある。

強みとなり自信を深めたスクラムに、日本本来のバックスの動きが重なれば、サモアを退けるのは、十分すぎるほど実現可能なのである。

前回大会の大成功を受けて、早くも2035年には再び日本での開催が噂されるだけに、今大会でも、一層の活躍を期待するしかない。

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鈴木 洋仁(すずき・ひろひと)
神戸学院大学現代社会学部 准教授
1980年東京都生まれ。東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(社会情報学)。京都大学総合人間学部卒業後、関西テレビ放送、ドワンゴ、国際交流基金、東京大学等を経て現職。専門は、歴史社会学。著書に『「元号」と戦後日本』(青土社)、『「平成」論』(青弓社)、『「三代目」スタディーズ 世代と系図から読む近代日本』(青弓社)など。共著(分担執筆)として、『運動としての大衆文化:協働・ファン・文化工作』(大塚英志編、水声社)、『「明治日本と革命中国」の思想史 近代東アジアにおける「知」とナショナリズムの相互還流』(楊際開、伊東貴之編著、ミネルヴァ書房)などがある。

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(神戸学院大学現代社会学部 准教授 鈴木 洋仁)

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