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"店長ナシ"の美容室が4年で100店舗以上に急拡大…管理職ゼロで圧倒的な事業成長を遂げられた理由

プレジデントオンライン / 2023年10月13日 18時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Satoshi-K

強い組織はどのような形態を取っているのか。美容室Dearsグループ代表の北原孝彦さんは「僕は店長の育成と会社をスケールさせるスピードを天秤にかけ、管理者は不要という結論に至った。そもそも管理者がいることは社員に緊張を生むし、管理者が目指すことと経営者の目指すことに齟齬が生まれたりと意思決定のスピードも落ちる。管理者が必要なのかを疑ったほうがいい」という――。

※本稿は、北原孝彦『たった4年で100店舗の美容室を作った僕の考え方』(横浜タイガ出版)の一部を再編集したものです。

■店長の育成を中心に据えると事業拡大のスピードが落ちる

いち早く業績を伸ばすために、本当に管理者は必要なのでしょうか?

一度、突き詰めて考えてみる必要があると思います。

この点を突き詰めて考えた結果、僕は「管理者はいらない」という結論に至りました。

管理者というのは、経営者にとって、いわば「分身」のような存在です。

自分の分身を育てるためには、それなりの年月をかけなければなりません。

この時、僕が考えたのは「会社を成長させていくスピード」に「管理者を育てるスピード」が追いつかないのではないかということでした。

例えば、1人の店長(管理者)を育てるために2~3年の歳月がかかるとしましょう。

そうすると、店長を育てるのに必要な2~3年のうちは、店舗を拡大できないということになります。

1~2店舗の拡大ならまだしも、100店舗以上のお店に店長を置くとすると、店長の育成にどれくらい時間をかければいいのでしょうか?

僕には、想像がつきませんでした。

少なくともたった数年で、それだけの人数の店長を育て上げるのは事実上、不可能と言えるでしょう。

つまり、店長の育成を中心に据えると、会社をスケール(事業規模を拡大)させるスピードが大幅に落ち込んでしまうことになるのです。

■管理者を置くことで「意思決定」のスピードも落ちてしまう

また管理者を置くと、会社をスケールさせるスピードだけでなく、意思決定のスピードも遅くなります。

以前に勤めていたサロンで、僕は3つの店舗を管理するエリアマネージャーでしたが、たった3店舗であっても、何かを決める際には、必ず各店舗の店長の承認をもらわなければなりませんでした。

「こういうことをやろうと思うんだけれども、意見を合わせられる?」

何をやるにしても、そうした形で必ず店長に意見を聞いていました。

各店舗に管理者である店長が置かれていると、その意見を聞かざるをえませんが、意見の擦り合わせには、どうしても時間がかかってしまいます。

そうすると意思決定のスピードも遅くなり、アイデアを実行するのがワンテンポ、ツーテンポと遅れてしまうことになるのです。

なぜ、ディアーズは時代に取り残されずに、食らいついていくことができるのでしょうか?

それは僕のトップダウンで迅速に決定を下し、全ての案件にリーチをかけていくからです。

僕が他の誰よりも、ディアーズの将来のことを考えています。

誰よりも詳細にデータを分析し、誰よりもディアーズ全体を見渡しているのは、僕です。

■時代の波にのまれずに、食らいついて行くために

たしかに現場の意見というのは、とても貴重です。

ですが、その一方で、現場の店長や従業員というのは、あくまでも店舗経営の「一側面」しか見ることができません。

何が言いたいのかと言うと、店長や従業員が考えつくレベルのことは、僕自身がすでに考えているということです。

従業員時代、僕はマネージャーとして「キッズカットをやめるべきだ」とオーナーに提言しましたが、1人の従業員の意見によって、その提案が却下されてしまいました。

美容室の椅子に座ってこちらを見ている子供
写真=iStock.com/sturti
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/sturti

客観的な数字を見れば、キッズカットをやめるというのが合理的な判断であったはずですが、現場の意見を優先して、経営者が経営判断を下すのはよくあるケースです。

もちろん、僕はその決定自体を否定するつもりはありません。

否定はしませんが、変化の激しい時代において、現場の意見を調整しながら意思決定をしていると、時代の波に取り残されてしまうことになりかねません。

ディアーズでは、僕がトップダウンで全ての決定を下すようにしています。

だからこそ、時代の波にのまれずに、食らいついて行くことができるのです。

■力をつけた部長や課長が会社を辞める可能性

これまでにお話ししてきたとおり、管理者を置くことで、会社をスケールさせるスピードだけでなく、意思決定のスピードも落ちることになります。

それでもなぜ、美容室の経営者がお店に店長を置くのかと言えば、それは「自分の分身」として、自分の代わりにお店の全てを任せたいからでしょう。

店長を置くことでお店がうまく回ればいいのですが、僕の経験上、店長にお店を任せることで、逆にお店がダメになるケースも多いと感じています。

例えば「店長の力量」に依存したお店作りを進めていると、そこにはどうしても「店長の個性」が入り始めます。

そうすると、「経営者が目指す方向性」と「店長が目指す方向性」が食い違う可能性が出てきます。

この乖離(かいり)が大きくなると、店長が従業員をごっそり引き連れて独立するような事態になりかねません。

こうしたケースは美容室に限らず、一般の会社でも十分に起こりうることです。

例えば、力をつけた部長や課長が、経営者の言うことを聞かず、部下を引き連れて会社を辞めてしまうというケースは、一般の会社でも頻繁に起こっているのではないでしょうか?

店長にお店を任せるということは、言い換えれば、「店長の個性」を中心にお店のバランスが作られるということです。

そうすると店長が抜けた瞬間、積み木ゲームの「ジェンガ」のように、全てのバランスが崩れさってしまうケースも少なくありません。

こうなると後釜が大変です。

全てを任せたいから管理者を置くのに、任せることで、逆にトラブルに発展してしまうケースも実は多いのです。

誤解を生まないよう、あえて付け加えておきますが、僕は店長の存在自体を否定しているわけではありません。

実際、店長に任せることでうまくいっているお店はたくさんありますし、僕自身、店長を経験できたからこそ、今があります。

ここで僕が言いたいのは、店長を置くのであれば、メリットだけでなく、デメリットにもしっかり目を向けなければならないということなのです。

美容室で働く美容師
写真=iStock.com/Yagi-Studio
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Yagi-Studio

■部下にとって管理職は緊張を生む存在

さて、以上は経営者の側から眺めた管理者についてですが、逆に従業員の側から、管理者を眺めてみましょう。

例えば、あなたが新入社員だった頃を思い出してみてください。

直属の上司のことを、あなたはどのように感じていたでしょうか?

例えば、上司がずっと自分の仕事を監視していると、仕事がやりにくくて仕方がなかったのではないでしょうか?

社員たちに「僕がもっと現場に行った方がいいかな?」と聞くと、だいたい次のように言われます。

「いや、いいです。緊張するから来ないでください」

僕は、これが答えだと思います。

経営者の中には「管理者を置かないと、従業員が離職してしまうのではないか」と心配する方もいらっしゃいますが、真実はその逆です。

管理者が不在だからといって、従業員が離職することはありません。

従業員の立場からすれば、経営者やマネージャーといった管理者はどちらかと言うと緊張を生む存在で、マニュアルやルール、仕組みがしっかり機能していれば、不在の方がのびのびと仕事ができるものなのです。

もしも管理者を置かないとすれば、経営者に求められるのは、管理者がいなくても問題が起こらないような仕組みを設計することです。

■店舗を「個室サロン」にした理由

では、そうした仕組みは、いったいどのように設計すればいいのでしょうか?

最近、僕が作る店舗は基本的に全て「個室サロン」にしています。

FCの場合、途中加盟の店舗もあるので、個室にならない場合もありますが、今後、僕はできる限り個室の店舗を増やしていこうと考えています。

新型コロナウイルスの影響で、お客様は「非接触」を求める傾向がありますから、今後、個室のサロンはますますクローズアップされることでしょう。

例えば、経営者の中には、次のようにおっしゃる方がいらっしゃいます。

「個室サロンを作りたいから、ぜひ北原さんのお店を参考にさせていただきたい。個室って、お客様目線で最高ですよね」

たしかにおっしゃるとおりで、お客様目線で見ると、個室サロンは非常に魅力的と言えるでしょう。

しかし、僕の本当の狙いは、実は違うところにあります。

ですから「お客様目線で最高ですね」と言われると、生意気かもしれませんが、「大事なことを見落としているな」と感じてしまいます。

なぜ、個室にこだわるのでしょうか?

客の髪を洗う美容師
写真=iStock.com/kokouu
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kokouu

■個々で仕事を完結させる仕組みを

僕が個室サロンにこだわるのは、従業員が「個々で仕事を完結させる仕組み」を作りたいからです。

個室にして、施術のスペースを区切ってしまうことで、「従業員同士がコミュニケーションを取らなくても機能する仕組み」を作り上げています。

先の記事で「人間関係が大事だからこそ、あえて距離を詰めないという考え方が大事である」という主旨の話をしましたが、個室にすることで、従業員同士の「適切な距離」を保つことができるのです。

このスタイルであれば、管理者は基本的に不要です。

また個室サロンにすることによって、従業員のストレスレベルを極限まで削減することもできます。

なぜ個室にすると、従業員のストレスを減らすことができるのでしょうか?

例えば、個室の場合、自分が使ったところだけを掃除して、片づけが終われば帰宅できます。

他人が汚した場所を片づけたり、仕事を終えるのを待っていたりする必要がありませんから、余計なストレスがなくなります。

何より、美容師は技術職です。

隣の人の仕事が目に入ると、「どうしてそんなカットにするの?」といった形で、どうしてもイラッとしてしまうことがあります。

■本来はお客様が喜んでいればそれでOK

僕は出版の世界のことはよく分かりませんが、出版の世界だと、他の編集者が作った本を見て、「何でこんなタイトルにしたの?」とか「違うデザインにした方がもっと売れるのに……」といったところではないでしょうか?

技術職に就いていらっしゃる方は、こうした感覚をご理解いただけるのではないかと思います。

本来、お客様が喜んでいれば、それでOKのはずです。

しかし、技術職の人間というのは、どうしても自分の世界観を他人に押し付けてしまいがちです。

それが、人間関係の悪化に繋がります。

これが個室になれば、他人の仕事は目に見えなくなりますから、そうした余計なストレスからは解放されるというわけです。

なぜ、僕が従業員のストレス削減にこだわるのか?

それはストレスをなくすことによって、従業員の離職が起こりにくい職場環境を整えることが可能になるからです。

重要なので繰り返しますが、会社をスケールさせたい場合、従業員を辞めさせないことが、まず何よりも肝心なのです。

ドライヤーで客の髪をカールする美容師
写真=iStock.com/Zorica Nastasic
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Zorica Nastasic

■そのミーティングは本当に必要なのか

美容室の店長の重要な仕事の1つに「ミーティングの仕切り」があります。

ディアーズは現場でのミーティングを一切しません。

なぜ、ミーティングをしないのでしょうか?

従業員同士であえて結束する必要がないことはすでに述べたとおりですが、何より「ミーティングによってお店の業績が伸びた」と感じたことが、過去に一度もないからです。

本来、ミーティングの目的は、お店の業績を伸ばすことにあるはずです。

にもかかわらず、お店の業績に寄与しないばかりか、意味もなく「経営理念」を復唱させたり、自分の仕事の内容を報告させたりするミーティングに、はたして意味はあるのでしょうか?

通常のサロンでは朝礼や終礼を行うのが一般的ですが、「お店の業績を伸ばす」という目的からはかけ離れて、儀式化してしまっているケースがほとんどではないかと思います。

長々としたミーティングのデメリットは、時間ばかりが取られて、従業員のストレスの温床になりかねない点です。

終礼があると、仮に仕事が終わったとしても、従業員は終礼が終わるまで帰れません。

例えば22時に営業を終えて、「早く帰りたいな」と思っているのに、そこから1~2時間のミーティングを入れられたら、たまったものではありません。

■社員を疲弊させると業績が落ち本末転倒に

それなら早く帰らせて、明日の仕事のための英気を養ってくれた方が、よほどお店の業績に寄与するのではないでしょうか?

疲れ切った姿で接客するよりも、元気な姿を見せた方が、お客様は喜んでくれるはずです。

店長からすれば、慣例として、終礼後のミーティングをやっているのかもしれませんが、そんなに遅い時間まで話し合わなければならないことは、そもそもないはずです。

「ゴメン。今から30分だけでいいから、ズームで話ができる? 残業代は別途で支払うから」

仮に重要な議題であっても、こうした形で十分ではないでしょうか?

繰り返しますが、ミーティングは本来、お店の業績を伸ばすためのものであるはずです。

にもかかわらず、ミーティングを繰り返すことで社員が疲弊して、結果的に離職してしまうようだと、かえってお店の業績が落ちてしまい、本末転倒になりかねません。

そうした観点から、ディアーズでは現場のミーティングは一切行いませんが、会社の業績は右肩上がりです。

ミーティングをしなくても、お店の業績は伸ばせる。

これが僕の結論です。

仕事に疲れた美容師
写真=iStock.com/nicoletaionescu
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/nicoletaionescu

■人を育てる極意「鉄は熱い時に叩け」

さて、こうした形で僕は従業員の管理を行っていますが、本稿の最後に「人を育てる」という点について、僕の持論を述べておきたいと思います。

従業員時代、僕は店長として、必死に部下を育てようとしました。

厳しくすると辞めてしまうので、おだてながら育てようと試みましたが、それだと逆に育たないというジレンマを抱えることになりました。

そうして1周回って気づいたのは、結局のところ、人を育てることはできないということです。根底として、人は変わらない生き物だし、価値観だって、そうそう変わるものではありません。

人が育つのは、その人が勝手に育つのであって、僕らにできることがあるとすれば、成長を後押ししてあげることだけです。

成長を望んでいない人に対して、成長することを押し付けても、それはストレスにしかなりません。

あまりに度が過ぎると、今の時代は「パワーハラスメント」として訴えられかねません。

昔から「鉄は熱いうちに打て」という諺がありますが、僕は「鉄は熱い時に叩け」が正しいと思っています。

「『熱いうちに』と『熱い時に』で、どこがどう違うの?」

そのように思われるかもしれませんが、「熱いうちに」という言葉には、「鉄は熱くなることが前提である」という意味合いが含まれているように感じます。

■鉄が熱くなるかは誰にもわからない

一方、「熱い時に」というのは、文字どおり「熱い時」であって、鉄が熱くなるかどうかは分かりません。

例えば、「成長こそが君の幸せに繋がるんだ」といくら言っても、その言葉に熱くなるか、熱くならないかは、その人次第です。

北原孝彦『たった4年で100店舗の美容室を作った僕の考え方』(横浜タイガ出版)
北原孝彦『たった4年で100店舗の美容室を作った僕の考え方』(横浜タイガ出版)

そもそも成長したいと思っていない人からすれば、「成長こそが君の幸せに繋がるんだ」と言われてもピンと来ないでしょうし、その言葉に揺さぶられて、心が熱くなることもないでしょう。

熱くなるかどうかは分からない。でも仮に熱くなったとしたら、その時には、その人を叩いてあげればいい。「鉄は熱い時に叩け」という言葉には、そうした意味合いが込められています。

「北原さんって、けっこうドライですよね」

最近は、人からそのように言われてしまうことがあります。

たしかに僕の言動はドライに感じられるかもしれませんが、僕からすると「ただ熱ければいいというものではない」という考え方が前提としてあるのです。

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北原 孝彦(きたはら・たかひこ)
Dears(ディアーズ)グループ代表
1983年長野県生まれ。理美容専門学校を卒業後、長野県の美容室へ。入社3年で店長に抜擢され、ブログやメルマガを活用して新規集客を拡大。同時に独自でWEBメディアを運営し、アフィリエイターとしても活躍。勤めていた美容室を退社後、2015年5月に美容室「Dears(ディアーズ)」1号店を地元に開業。2020年12月には全都道府県出店。美容室にとどまらず、エステ、アイラッシュなども展開し、2023年10月時点260店舗出店。その他にも年商8億規模の通販サイト、300社以上が登録するHP事業、美容商品卸事業、シェアオフィスなど、複数の事業を運営。また、160社の顧問でもあり、経営者、起業家に日々様々な助言と改革を行う。現在は新規事業の立ち上げや2000名以上が本気で学ぶビジネス勉強コミュニティ「北原の精神と時の部屋」の運営に注力。

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(Dears(ディアーズ)グループ代表 北原 孝彦)

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