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だから奇跡の再建ができた…経営の神様・稲盛和夫がJALの「ファーストクラスの値引き」をやめさせた理由

プレジデントオンライン / 2023年10月28日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Teka77

会社の業績を立て直すには、どうすればいいのか。経営コンサルタントの小宮一慶さんは「経営の神様と呼ばれた京セラ創業者の稲盛和夫さんは、JALの再建で効率的なコストカットを断行した。稲盛さんは『お客さま第一』を徹底しながら、コストカットを進める達人だった」という――。(第2回)

※本稿は、小宮一慶『だから、会社が倒産する』(PHPビジネス新書)の一部を再編集したものです。

■「コストカット=リストラ」には要注意

コストカットという言葉から、人員の整理を連想する方もいるでしょう。もちろん、いざというときにはリストラも考えなければいけませんが、認識しておくべきなのは、もしも業績が回復したとしても、一度雇用契約を切った従業員に戻ってきてもらうのは現実的ではないということです。とくに日本の場合、「出戻り」は稀(まれ)であると考えたほうがいいでしょう(ただし、良い会社では出戻りがあります)。

人員整理の判断が遅くなって会社が潰れては元も子もありませんが、それでも従業員の人生にも大きな影響を与えるため、きわめて慎重に考えるべき問題です。そんな状況を招かないためにも、普段から「お客さま第一」を徹底することで稼ぎ、そして、つねに手元にお金が十分ある状況をつくっておくことです。

生産性の向上とは何かと具体的にいえば、働く人一人当たりの付加価値額を増やすことです。インフレを契機に賃上げが少し進んでいますが、そのなかでも5~6%も簡単に上げている企業があります。その会社の生産性が高いからです。そして、良い人材はそうした企業へと向かいます。

ドラッカーはかつて、21世紀は「知の時代」だと語りました。知の時代を生き残るためには優秀な人材を確保することが第一です。そのためには高い給料を払える構造にしなくてはいけません。そんな企業が好循環で業績を伸ばす時代なのです。

■重要なのは「一人あたりの付加価値額」

世の中には、少し儲かるようになると、すぐに贅沢(ぜいたく)をするようになる経営者も少なくありません。しかし、余裕ができたのなら、お客さまの視点で独自のQPSを考えられる、良い人材を会社に入れるために使うべきです。

当たり前の話ですが、一人当たりの付加価値額を増やさなければ、企業の利益が増えて従業員の給料が上がることもなく、良い人材が集まることもありません。良い人材を集めれば、一人当たりの生産性も上がり、余計に良い人材を集めることができるという好循環に入れます。

ビジネス戦略のイメージイラスト
写真=iStock.com/metamorworks
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/metamorworks

企業は、来るべき危機に備えて、大企業であれば最低でも月商1カ月分、中小企業であれば月商1.7カ月分の資金をつねに手元に置いておくべきです。危機時だけでなく、資金に余裕がないと、経営者の意識が「お客さま第一」ではなく「資金繰り第一」になりがちなものです。

私が思うに、こうしたお金のリテラシーは、経営者はもとより、ビジネスパーソン全般に必要不可欠ですが、実際に備えている人は少ないかもしれません。同様に、コストカットの重要性も、誰もが分かっているものの、適切に実行に移されるケースは多くありません。

しかし、それではダメなのです。そうした企業は、結局のところ、たとえ少額でもお金を大切にするというリテラシーが欠けていると指摘せざるを得ません。

■「意識を変える」ではなにも変わらない

近年の日本で、コストカットの成功例としてもっとも有名な事例の一つがJALの再建でしょう。2010年、戦後最大の負債額を抱えて経営破綻したJALですが、稲盛和夫さんが会長に着任して以降、奇跡的に再生しました。

成功の理由を端的にいえば、「考え方」を変え、統一したということが挙げられますが、同時に「何をすれば、どれだけのコストが削減されるか」を、それぞれの部署はもちろん、一人ひとりが考え始めたからです。作業で使う軍手一つまで、使い方や仕入れを見直したと聞きました。

こういうとき、往々にして「意識を変える」という言葉が用いられますが、意識などそう簡単に変わるものではありません。無駄をしているということは分かっていても、「自分たちの部署だけやっても仕方がない」「波風を立てないほうがいい」という風潮があるものだからです。

そこで、とにかく何でもいいから行動に移すのです。たとえば、毎日100円でもいいから節約できることがないか、部内で話し合ったうえで実践する。この「実践」が重要です。稲盛さんもJALに着任した後に、従来のパターンを変えないと立ち直れないという旨の言葉を社内に向けて発信しています。

■メスを入れるのは「非付加価値活動」から

会社のお金を大事に使うことへの意識を高めるのは、その企業の規模が大きければ大きいほど「言うは易く行なうは難し」です。

中小企業であれば、とくに経営者には良くも悪くも「会社のお金は自分の金」という意識がありますが、大企業に勤めている人は、そうした感覚はどうしても持ちにくい。だからこそ、具体的な改革を重ねて風土をつくるほかありません。各部署に責任者を置くなどすることからスタートしてもいいでしょう。

その際、注意しないといけないのが、お客さまに対しての活動にメスを入れるのは「最後の手段」だということです。

管理会計の言葉に「付加価値活動」と「非付加価値活動」というものがあります。付加価値活動とは、お客さまに対する価値を高める活動のことで、製造や営業などがこれに当たります。一方で非付加価値活動とは、経理事務や内部で会議をしたり書類を作成したりする活動を指します。製造や営業部門でも非付加価値活動は存在します。

コストカットは、まずは非付加価値活動から着手するのが鉄則です。

■サービスに関するコストカットは本末転倒

ふたたびJALのケースをお話しすると、経営不振に陥っていたとき、私がヨーロッパにビジネスクラスで出張した際、希望した食事がすでに在庫切れだと断られた体験があります。もちろん、さまざまな事情があったことは推察しますが、苦境に立たされたときに、このようにお客さまに対する活動から削減していく企業は、意外と少なくありません。

しかし、お客さまはQPS、すなわちQuality、Price、Serviceの組み合わせでどの会社を選ぶかを決めているわけで、そうした一度の体験から、その会社が見放されても不思議はありません。

無論、フードロスの観点から無駄なストックを持てとはいいませんが、とくに高いサービスを求めてその分の高い金額を支払っている乗客に対しては、相応のサービスを提供しなければいけませんし、その本分を忘れてコストカットしていれば本末転倒というものです。

その後、JALは改革の末、私から見ても非常に素晴らしいサービスを行なう会社へと甦りました。やはり、稲盛さんが「外の目線」を採り入れたからでしょう。

たとえば、そのころ、私は頻繁に東京―大阪間を往復していたので、少しでも時間を節約するために飛行機を利用していたのですが、JALのファーストクラスでは、温かいものと冷たいものは分けて、きちんとした食器に盛られた食事が提供されました。コーヒーはコーヒーカップ、ワインはワイングラスです。食事は弁当、飲み物は紙コップで提供する競合よりも、はるかに付加価値が高いサービスでした。

高級な機内食の写真
写真=iStock.com/Aureliy
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Aureliy

■ファーストクラスの値引きをしなくなった理由

それとともに、ファーストクラスのチケットの値引きもなくなりました。以前は、購入する時期などによってはエコノミーと同程度の値段で買うこともできたのですが、それをしないようになったのです。ファーストクラスに乗って、それだけのサービスを受けたい人は、それでも乗るのです。

お客さまから見て付加価値が高ければ、価格は高くできます。付加価値活動のコストを削減して、付加価値を下げてしまっては、利益を圧迫するだけです。

私が経営者の方によくお話しするのは、「一番厳しいお客さまの目になって、自分の会社を見ないといけない」ということです。とくに航空は新規参入がそれほど簡単な業界ではありませんから、どうしても内部志向になりやすい。だからこそ、経営者はつねに外部志向を意識しないといけないし、それがひいては従業員全体の経営やお金のリテラシーを培(つちか)うことにもつながります。

値段を下げて客数を増やそうと、提供する食事をつくるコストを削減した結果、味が落ちて客離れを起こしてしまったファミリーレストランなど、付加価値活動のコストカットによって経営が悪化した例は数多くあります。コストカットの大原則は、非付加価値活動から行なうということです。

■経営状態が良くても銀行員とは定期的に会うべき

会社全体としてコストカットの意識を高めることは、経営危機の際に銀行からお金を借りるうえでも必要不可欠です。

たとえば、資金繰りが厳しいときに新規事業を立ち上げるといっても、銀行は首を縦に振りません。新しい商品を開発するにも資金的余裕がなければいけないわけで、かえって火の車になると判断するのは当然です。そうなると、まずはとにかくできるかぎりコストカットすると銀行側に説明するべきです。あわせて経営者は自分の給料を減らすなど、率先垂範して行動するのは当然の話です。

小宮一慶『だから、会社が倒産する』(PHPビジネス新書)
小宮一慶『だから、会社が倒産する』(PHPビジネス新書)

銀行が融資するか否かを判断するうえで、大前提として経営者が必死かどうかを見ます。もちろん、すべてが人情の世界とはいいませんが、危機を前にしても依然として偉そうに構えて身の回りにもメスを入れないような経営者では、銀行員の心を動かすことは難しい。

ついでにいえば、経営者は普段から金融機関と接しておくべきです。経営状態が良いときも悪いときも、たとえば最低でも3カ月に一度は銀行の支店長を訪問して現状を報告しておけば、いざというときに忌憚(きたん)なく相談できます。

雨の日になってから「傘を貸してください」と頼んでも、とくに経済危機の折には他の企業も同じように銀行に相談しているわけで、そう簡単にはいきません。

■経理任せでは経営はできない

銀行はよく悪し様に語られがちですが、彼らは彼らで預金者から大事なお金を預かっているわけです。それも非常に薄い利ザヤのビジネスをしています。そうした銀行との折衝は、普段から経理の人間に任せるばかりでは不十分なケースがあります。

ただし、銀行からお金を借りるために事業を考えるのでは本末転倒です。銀行の審査を通らないような事業では話になりませんが、事業はお客さまや社会のほうを向いて考え、マーケティングとイノベーションに思考を集中させなければなりません。

ホテル業のように先行投資が必要な事業もありますが、いまはさまざまなもののソフト化が進んでいますから、お金を借りなくてもできる事業が増えています。

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小宮 一慶(こみや・かずよし)
小宮コンサルタンツ会長CEO
京都大学法学部卒業。米国ダートマス大学タック経営大学院留学、東京銀行などを経て独立。『小宮一慶の「日経新聞」深読み講座2020年版』など著書多数。

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(小宮コンサルタンツ会長CEO 小宮 一慶)

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