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「岸田降ろし」はいつ始まるのか…最大派閥・安倍派の凋落で「2024年の政界」で予想される大変化

プレジデントオンライン / 2023年12月22日 8時15分

記者団の取材に応じ、首相官邸を出る岸田文雄首相=2023年12月20日、東京・永田町 - 写真=時事通信フォト

■安倍派「5人衆」が政権から退場

自民党の屋台骨である安倍派による政治資金規正法違反の裏金化疑惑が、「選挙対策減税」批判などで支持率低迷にあえぐ岸田文雄政権を追撃している。捜査に入った東京地検特捜部のリークなどによって、連日のように安倍派幹部らの名前と裏金額が報道され、党としても対応を迫られている。岸田首相は、解散・総選挙を打つ政治力と体力をさらに奪われ、2024年9月の総裁選に再選出馬することは困難だとの見方が広がっている。

首相は12月14日、安倍派による政治資金パーティー収入の裏金化疑惑をめぐって、同派に所属する松野博一官房長官、西村康稔経済産業相ら4閣僚、5人の副大臣を一斉に退場させた。党幹部では、萩生田光一政調会長、高木毅国会対策委員長、世耕弘成参院幹事長も辞表を提出した。安倍派「5人衆」と呼ばれている有力者が政権運営から身を引いたことになるが、いずれもパーティー券の販売ノルマを超えた分のキックバック(還流)を受けながら、政治資金収支報告書に記載しなかった疑惑を持たれている。

■「捜査中なのでお答えは差し控える」

事後対応も拙劣だった。松野氏の場合、12月8日、直近5年間で1000万円超のキックバックを安倍派から受け、政治資金収支報告書に記載していない疑いがあるとの朝日新聞報道について、記者会見や国会答弁で「政治資金の取り扱いについては刑事告発がなされ、それに関連して捜査が行われているものと承知しており、お答えについては差し控える」と繰り返すばかりだった。岸田政権を守るよりも、自身や安倍派を守ることを優先するかのような態度を取ったことが、更迭の引き金になったとみられる。

官房長官を辞任した松野博一氏
官房長官を辞任した松野博一氏(写真=内閣官房内閣広報室/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons)

首相は、官房長官に岸田派座長の林芳正前外相を充てるなど、後任閣僚はいずれも無派閥か安倍派以外の閣僚経験者を起用した。

林氏については、9月の内閣改造の際、首相が「もう閣僚はいいよね。宏池会(岸田派)の面倒を見てほしい」と閥務を依頼したのだが、事態の急変でリリーフ登板することになる。首相は12日、側近の木原誠二幹事長代理を通じて浜田靖一前防衛相(無派閥)に官房長官就任を打診したのだが、固辞されるのを見越していたフシがある。岸田派としては、内閣官房報償費(官邸機密費)を握る政治的意味も小さくない。

国会対策委員長には、その浜田氏が就く。これまで政権内で松野・高木ラインが機能していなかっただけに、林・浜田ラインで国会運営の立て直しを図りたい。

■赤旗の裏金疑惑報道は1年前から

安倍派については、12月12日の朝日新聞や共同通信が、直近5年間で所属議員にキックバックした裏金の総額が約5億円に上る疑いがあると報じている。規模や組織性、継続性は際立っており、特捜部は安倍派を最大の標的に立件を目指すものとみられる。

ことの発端は、2022年11月に共産党機関紙・しんぶん赤旗が、自民党主要5派の政治資金パーティーの収入のうち3年分計約2500万円が政治資金収支報告書に不記載だった疑惑を報道し、上脇博之神戸学院大教授が政治資金規正法違反の疑いで告発したことだ。

東京地検特捜部がこれを受けて捜査を始め、23年の通常国会閉幕後の6月下旬から各派事務局長らに事情聴取し、安倍派の「闇」を概ね把握していたという。

見方を変えれば、これらの事情聴取の内容は自民党の顧問弁護士に報告され、岸田首相や党執行部にも上っていたはずだが、危機管理の観点からの対応はなぜか取られていない。これが衆院の年内解散見送りという首相の判断ミスにつながっている。

自民党内では、安倍派ほどの規模ではないが、二階派や岸田派でも、パーティー収入の過少記載の疑いが指摘されている。

12月19日には、安倍、二階両派の事務所に東京地検特捜部が捜索に入った。派閥の資金疑惑に踏み込むのは、2004年に発覚した日本歯科医師連盟から当時の橋本派(平成研)への1億円闇献金事件以来のことだ。

■なぜ収支報告書に記載しなかったのか

首相は12月14日の認証式後、政治資金をめぐる疑惑について、記者団に「実態を把握し、原因と課題を抽出していかねばならない」「党全体として信頼回復に向けて努力していく覚悟だ」と強調した。後は実行あるのみだ。

派閥が政治資金パーティーを開催することも、所属議員にキックバックすることも、政治資金収支報告書に記載さえすれば、適法の範囲内にある。なぜ記載しなかったのか。誰が指示したのか。ここがポイントだろう。だが、党も派閥も所属議員も、説明責任を果たそうとしていない。

暴走老人も登場した。安倍派の谷川弥一衆院議員が、12月10日に4000万円超のキックバックがあったとの報道を受け、地元・長崎市内のテレビカメラの前で「事実関係を慎重に確認している。適切に対応する」などと用意された原稿を読み上げた後、記者の重ねての質問に「頭悪いね。言っているじゃないの。質問してもこれ以上、きょう言いませんと言っているじゃない。分からない?」と逆切れした。記者も有権者も虚仮にされたものだ。

安倍派の谷川弥一衆院議員。記者からの質問に「頭悪いね」と発言し、批判が相次いでいる
安倍派の谷川弥一衆院議員。記者からの質問に「頭悪いね」と発言し、批判が相次いでいる(写真=谷川やいち事務所/CC-BY-SA-3.0/Wikimedia Commons)

自民党執行部は谷川氏に注意もしない。党として事実関係を調査し、説明するつもりがあるのか。信頼回復に向けて何をするのか。その覚悟と手順が見えない。

■「これは清和会の問題なんだ」

首相が主導した対応は、12月6日に各派閥の政治資金パーティーを当面、自粛するよう指示し、7日に自ら首相(総裁)在任中は岸田派を離脱するという程度ではなかったか。

しかも、派閥離脱は、自民党が1988年のリクルート事件などで高まった政治不信に対応するために策定した「政治改革大綱」(1989年5月)に「総裁、副総裁、幹事長、総務会長、政調会長、参院議員会長、閣僚は、在任中派閥を離脱する」と明記されている。首相がこれに反して派閥会長を続けていたのを改めたに過ぎない。問題解決への方途ではないだろう。どこか方向感覚がずれている。

その首相が突如、「安倍派排除」に踏み切ったのは、12月9日夜に首相公邸で麻生太郎副総裁と会談したのがきっかけだった。関係筋によると、麻生氏は「これは清和会(安倍派)の問題なんだ」「派閥の資金パーティーを止めたり、(首相が)派閥を離脱したりしても、大した効果はない」と説いたらしい。

自民党の麻生太郎副総裁
自民党の麻生太郎副総裁(写真=財務省/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons)

■「安倍派排除」への恨みと不満

首相は翌10日午後、都内のホテルで萩生田氏と会い、安倍派4閣僚の交代を切り出しつつ、「税制、予算、大切な仕事にしっかり対応してほしい」と政調会長留任を要請した。萩生田氏は「政調会長の責任も、閣僚と同じか、それ以上に重い」と断ったという。

首相はその後、首相公邸で森山裕総務会長、宮沢洋一税制調査会長、茂木敏充幹事長、木原氏と順次会談したが、首相が「安倍派政務3役全員交代」を検討しているかのように朝日新聞などに誤報され、安倍派との無用な摩擦を招いたのは想定外だった。

結局、安倍派の政務官6人中5人は職にとどまったが、派内には「安倍派排除」への恨みや不満は強い。首相が今後、政権運営や次期総裁選において安倍派のまとまった支持を受けるのは難しくなるだろう。

■自己保身に走る議員が出始めている

一方で、それ以前に痛手を被るのは安倍派だ。裏金化疑惑の事件化に対する党内外の反応は厳しく、派としての統率力や危機管理、自浄能力も問われるからだ。

防衛副大臣を辞任した宮沢博行氏
防衛副大臣を辞任した宮沢博行氏(写真=防衛省/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons)

防衛副大臣を交代させられた宮沢博行衆院議員は13日、派閥側から3年間で140万円の還流を受け、政治資金収支報告書に記載しないでいいとの指示があったこと、この件について口止めされたことを、国会内で記者団に明らかにした。これは議員本人が派閥事務所で派閥の会計責任者から現金でキックバックされ、収支報告書への不記載を指示されたことを意味するのではないか。

宮沢氏は「派閥が皆そろって身の潔白を証明していこう、ちゃんと修正していこうとリーダーシップを早く取ってもらえれば、私も仲間を裏切って説明することはなかった」と述べ、安倍派上層部に責任を転嫁した。これは、自身の違反行為は派閥からの指示に従ったものだとし、自己保身に走る議員が出始めたことを意味する。

鈴木淳司前総務相(安倍派)も15日、これまで否定していた還流を実は受けていた、と記者団に明らかにした。5年間で60万円の還流を受けていたという。鈴木氏は政治資金規正法の所管閣僚だったにもかかわらず、「巨額の裏金は受け取っていないという認識だった」「派閥から自動的に戻ってくるお金は(政策)活動費だと思っていた」と弁明した。

政策活動費は、党から議員に支出される政治資金で、収支報告書に使途を記載する必要はないが、派閥を経由して渡されることはない。言い訳になっていないではないか。

■派から30人抜けても不思議はない

安倍派は正念場を迎えている。「5人衆」ら所属議員は今回、要職を外れたが、何をどうしたら復帰できるのか、無罪か不起訴が確定するまで待たないといけないのか、その辺りのルールやメドは立っていないからだ。

安倍派幹部が当面、要職に就けないとなると、派閥運営にも支障が出てくる。派閥の資金パーティーでの収入が望めず、総裁選に自派候補を擁立できない、中堅・若手にポストも提供できない、という苦境が続く。

今回、仮に無罪や不起訴になっても、市民団体から検察審査会に審査を申し立てられてしまう。そこで略式起訴され、罰金刑から公民権停止になる可能性も否定できず、政治活動が制限されてくる。

派内では当初から5人衆による集団指導体制に対する中堅幹部の不満がくすぶる。何でも5人衆だけで決定し、その内容を派内に伝えないというのだ。その5人衆も一枚岩ではない。岸田首相との距離感も異なる。事件の進展次第では、5人衆や派閥に亀裂が入る可能性もあるだろう。

中堅・若手から見れば、安倍派から資金もポストも得られなければ、派にとどまるメリットがほとんどない。国政選挙で安倍派を名乗るよりも無派閥で戦うほうが有利だと判断すれば、現在99人が在籍している安倍派から20~30人が抜けても不思議はない。

■首相が指導力を発揮しているは2割

岸田政権は今後、どうなるか。12月の読売新聞世論調査(15~17日)では岸田内閣の支持率は25%で、自民党の政権復帰以来、最低だった前回11月調査の24%から横ばいだった。

政治資金を巡る一連の問題で、首相が指導力を発揮していると「思う」は19%にとどまり、「思わない」が73%に上った。安倍派4閣僚が交代する事態になったことについて、首相の責任が大きいと「思う」は59%で、「思わない」の32%を上回った。

自民党内には、派閥の解消は無理だとしても、政治資金の流れについて透明性をより確保するための政治資金規正法の改正などを求める声があるが、首相ではこれに対応できない、と世論に見透かされていることになる。

国会議事堂
写真=iStock.com/Free art director
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Free art director

政党支持率は、自民党が28%で政権復帰以降初めて3割を下回った前回調査から横ばいだった。立憲民主党は5%(前回5%)、日本維新の会が5%(同7%)に沈んだままで、無党派層は48%(同48%)に積み上っている。

自民党内では、現時点で解散・総選挙があれば、政権を維持できても、自民党30議席減、公明党10議席減との観測がささやかれている。

■「岸田降ろし」はすぐには始まらない

内閣・自民党支持率が、所得税減税をめぐる混乱などによってこれほど下落しているのに、党内に「岸田降ろし」が起きないのはなぜか。首相に辞任する気が全くない、まともな次期総裁候補がいない、野党の支持率がさっぱり上がらない、国政選挙が当面ない、と見込まれているからだ。

岸田首相はその間に解散・総選挙を打てるまでに政権を浮揚できるのか。24年1月からの通常国会は、「所得税減税」など不興を買っている経済政策や政治資金の裏金化疑惑などで、防戦一方になるのは目に見える。

自民党の石破茂元幹事長は11日、BSフジ番組で、首相の責任の取り方について、「(24年度予算)成立後、首相が『辞める』というのはありだ」「心中密かに決意していればいい」と述べ、首相の退陣時期に言及した。政権に後ろから鉄砲を撃つのは恨みを買うだけだが、一つの考え方なのかもしれない。

いずれにせよ、25年夏に参院選を控え、岸田首相の下で戦えば、「衆参ねじれ」を引き起こしかねないと判断されれば、その1年前くらいから退陣に向けてのカウントダウンが始まる。指標になるのは、24年の通常国会での論戦、内閣支持率の回復度、4月の衆院島根1区などの補選、地方の首長選などの結果だろう。誰が値踏みするのか。党内では、岸田政権を作った一人で、首相の後ろ盾となっている麻生氏ではないかとみられている。

首相は、24年の総裁選に再選を期してきたが、その可能性は日々萎んでいる。

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小田 尚(おだ・たかし)
政治ジャーナリスト、読売新聞東京本社調査研究本部客員研究員
1951年新潟県生まれ。東大法学部卒。読売新聞東京本社政治部長、論説委員長、グループ本社取締役論説主幹などを経て現職。2018~2023年国家公安委員会委員。

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(政治ジャーナリスト、読売新聞東京本社調査研究本部客員研究員 小田 尚)

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