「平均年収2000万円」はこうして生み出される…キーエンスの営業部門が朝礼と夕礼を毎日欠かさず行う深い理由
プレジデントオンライン / 2024年1月26日 6時15分
※本稿は、岩田圭弘『数値化の魔力』(SBクリエイティブ)の一部を再編集したものです。
■キーエンスを支える「数値化マネジメント」
キーエンスは、営業利益率は脅威の55%超、社員の平均年間給与は2000万円超という、「利益率の高さ」と「給与の高さ」で注目を集めています。
その背景にあるのが「数値化マネジメント」です。
キーエンスでは、「数値化マネジメント」が徹底されています。
この記事では、マネジャーが組織の成果を最大化するために数値化を活かす考え方とノウハウについて解説していきます。
マネジメントにおいて最も危険なことは変化に気づかないことであり、これを回避するためにこそ、数値化によりマネジメントの透明性を確保する必要があります。
また、数値化しているにもかかわらず成果が出せていない企業や組織においては、数値化の精度が低いことと、数値化で明らかになった変化の原因を追究しきれていないことが問題としてあります。それではここからは、実際にチームでキーエンスの数値化を実践する手順について見ていきましょう。
■「マネジメントの数値化」をする3つのステップ
キーエンスの「マネジメントの数値化」には、大きく3つのステップがあります。「行動を見える化」して「行動の量のボトルネック」を明らかにし、そして「行動の質のボトルネック」を明らかにするという3つのSTEPです。
たとえば図表1のような折れ線グラフに表して確認します。これらのグラフは面談の件数や商談の件数、受注の件数などをモニタリングするために視覚化したものです。
チームをマネジメントする場合には、メンバーの合計値の進捗(しんちょく)状況をリアルタイムで視覚化してモニタリングする必要があります。計画どおりに達成されていない数値を見つけたら、すぐに改善する必要があります。
まず量の面から確認して改善し、次に質の面から確認して改善します。そのために、チーム内の数字を合計して視覚化するツールの導入が必要になります。スプレッドシートを共有することから始めてもいいですし、CRMを導入できればより効率よく視覚化できます。
このようにチームの合計数字を確認するためには、チームとしてのKGIとプロセスごとのKPIを設定しておく必要があります。それがSTEP1となります。
■STEP2では「行動の量」STEP3では「行動の質」を見る
チームの合計数字が良好かどうかを判断するためには、目標とするためのチームとしてのKGIと各プロセスのKPIを設定し、それらから、各メンバーが目標とすべきKGIとKPIを割り出しておきます。
STEP2では、個人の数値化と同様、チームの「行動の量」のボトルネックを見つけ出します。ボトルネックを見つけ出す方法も個人の数値化と同様で、KPIに対して実績が乖離(かいり)していないか、あるいは過去の実績に対して落ちていないかを見ます。
そしてSTEP3では、チームの「行動の質」におけるボトルネックを見つけます。ここでも個人の数値化と同様に、転換率に注目してKPIとの乖離を見つけたり過去の実績と比較したりします。
それでは各STEPを具体的な数字の例で見ていきましょう。
■STEP1:「チームの行動」を見える化する
STEP1では、チーム全体のKGIとKPIを設定します。チーム全体のKGIは、通常は経営戦略に基づいた会社全体の目標から割り出された数値が各チームに割り振られることになります。
もし会社から割り振られることがなかった場合は、マネジャーが自らチーム全体のKGIとKPIを設定する必要があります。今期の売上目標と過去のチームの実績から、今期に自分のチームが担うべき数値を割り出して、それを月次のKGIに換算します。
たとえば営業であれば図表2のようになります。同様に人事の採用であれば図表3のようになります。
これらのチームのKGIとKPIを各メンバーに割り振りますが、このとき、単純にメンバーの数で割れるとは限りません。たとえば営業であれば、担当しているクライアントの業界や規模、地域によって実際に受注できる件数が異なってきます。
この辺りはマネジャーの判断で調整します。したがって、KGIとKPIを各メンバーに割り振る場合は、各メンバーの現在の業務内容と過去の実績を考慮した上で、各自が担えるKGIとKPIの割合を考慮します。
■「朝礼」と「夕礼」で行動記録を書く
このようにして設定したチームのKGIとKPIが、チームの行動目標となります。そして、マネジャーはこのチームの行動目標が達成されているかどうかを日々視覚化してモニタリングします。
そのためにも、各メンバーの行動結果は日々記録されて共有されている必要があります。
ここで最初の壁があります。それは、メンバー全員が毎日行動状況を入力することがなかなか定着しないことです。
忙しさを言い訳にして入力しなかったり、個人的には手帳などに記録していながらもデータ入力はどこかでまとめて行えばいいと考えてしまったりするメンバーが出てくるためです。
このような事態を回避するためには、毎日行動記録を入力することを仕組み化してチームの文化として定着させるしかありません。たとえば、キーエンスの営業部門では、朝礼でその日の行動目標を入力させて、夕礼で行動結果を振り返りながら入力させる仕組みになっていました。
■STEP2:チームの「行動の量」のボトルネックを見つける
STEP1でチームの月次の行動目標を設定しましたので、次に日々のモニタリングを行うために日次の行動目標、つまり日次のKPIを割り出します。
このKPIと実際のチームの行動結果を比較することで、チームの「行動の量」のボトルネックを見つけます。月次のKGIとKPIから日次のKGIとKPIを割り出すには、営業日数で割るだけです。図表4はSTEP1で設定した月次の行動目標を営業日数で割って日次のKPIを割り出したものです。
この日次のKPIと比較するためにチームの日々の実績を記録していきます。図表5のような実績が記録されたとき、たとえば10月2日の「DM」と「電話」は90件とKPIの100件を下回っていますので、ここで何が起きたのだろう、と注目します。
この日は「アポ」と「面談」もKPIに達していませんが、これは前段階の「DM」と「電話」の量が不足していることが原因だと考えられます。まずは上流の「行動の量」から対処することが優先されます。
■「DMと電話」は自分たちで努力できる
特にチームの場合は、「DM」や「電話」の量を増やすことは難しくはありません。現に前日と翌日にはどちらもKPIをクリアしていますので、物理的に困難なことはないと考えられます。
一方、「アポ」や「面談」は相手があることですから不確実性が出てきてしまいます。その点、上流の「DM」と「電話」を増やすことは自分たちが如何ようにも努力することができます。
同様にSTEP1で設定した人事の月次の行動目標から日次の行動目標を図表6のように割り出してみましょう。そしてこちらもチームの日々の実績を図表7のように記録していきます。
営業の場合と同様に、KPIと実績を比較します。すると10月1日と10月3日の「応募」と「書類選考」がKPIに達していないことがわかります。
■「施策」は職種や部門によって柔軟に考える必要がある
ただ、人事における「応募」と「書類選考」は、営業における「DM」と「電話」に対して、不確実性が高くなります。
営業における「DM」と「電話」は自分たちの努力次第で量を増やすことが容易ですが、人事における「応募」と「書類選考」は相手があることですので、不確実性が高いのです。
したがって人事における「応募」と「書類選考」を増やすためには、媒体の使い分けの見直しなどを行う必要があります。
たとえばエージェント経由の応募のほうが求人サイト経由の応募よりも割合が大きいのであれば、エージェントの数を増やすことで「応募」と「書類選考」の量を増やせる可能性があります。
このように、「行動の量」を増やすための施策は職種や部門によって柔軟に考える必要があります。ただし、まずは上流から改善していくことがセオリーとなります。
■STEP3:チームの「行動の質」のボトルネックを見つける
STEP3ではチームの「行動の質」のボトルネックを見つけるために、転換率を確認します。チーム全体の転換率の中で問題があるプロセスを特定できてから、各メンバーの転換率を確認します。
図表8には、KPIを達成した場合の目標転換率と今日までの転換率を追記しています。
今日までの転換率と目標転換率を比較すると、「アポ」と「商談化」の転換率が低いことがわかります。
そこでまず「アポ」の転換率がなぜ目標転換率より低いのかを考えます。このとき上流の「DM」と「電話」の量を見ると、3日の合計は300件とKPIをクリアしていたことがわかります。
つまり、上流の「行動の量」には問題がなかったと判断できるので、やはり「アポ」の取り方に問題がありそうだと目処をつけます。目処をつけたということは「Where」が特定できたわけです。
そこで次に「Why」を掘り下げる必要があるのですが、この段階になりましたら、各メンバーの「アポ」の転換率を確認します。その結果、たとえばメンバーが3人であったとき、各メンバーの「アポ」の転換率が6%、3%、1%であることがわかったとします。
■転換率6%のメンバーと1%のメンバーの背景を探る
すると1%だったメンバーの「アポ」の転換率が、なぜ、目立って低かったのかを調べることになります。その結果、アポを取る際のトークスクリプトが守られていなかったことがわかれば、トークスクリプトを守るように指導する必要があります。
つまり、転換率が低かったメンバーに対して「アポ」の取り方を再教育することが改善方法となります。しかし、「アポ」の転換率にばらつきが出ていた理由が、各メンバーが担当している企業の規模の違いであることがわかった場合は対処方法が変わってきます。
たとえば転換率が6%だったメンバーが担当している企業は小規模で、3%だったメンバーの担当している企業が中規模、そして1%だったメンバーが担当している企業が大規模だとわかれば、転換率の高い小規模の企業にリソースを集中させることでチーム全体の転換率を高めることができると予想できます。
したがって、この場合の改善方法は、大規模な企業を担当していて転換率1%だったメンバーと3%だったメンバーにも小規模の企業を担当させることになります。このように、「行動の質」に問題が見られた場合の原因はいつも同じとは限りませんので注意が必要です。
場合によっては原因が複数の場合もあり得ます。
この例で言えば、「アポ」の転換率が低かった原因が該当メンバーのトークスクリプトが正しくなかったのに加えて、担当企業の規模が大きかったためであるとも考えられるのです。
■「行動の質」の改善は「量」の改善よりデリケート
ですから、チームの「行動の質」に問題があった場合の原因追究は、注意深く行う必要があります。単純に転換率が低かったメンバーのスキルの低さや努力不足だと決めつけるのは危険です。
このことから、「行動の質」の改善は「行動の量」の改善よりもデリケートであると言えます。また、マネジャーの仕事や戦略を立てることはリソースを配分することであると言われる理由もここにあります。
営業の場合でも転換率が低かった場合に原因を追究するための切り口は他にもあります。
「アポ」を取った先がこちらから能動的にアプローチしたのか、それとも相手から引き合いが来たのかで転換率が大きく変わってしまうことです。
このことをキーエンスでは「動機と規模」と呼んで区別します。以上のように、チームにおける「行動の質」の問題の原因追究にはいくつもの切り口があることに留意しておいてください。
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アスエネ共同創業者 兼 取締役COO
慶應義塾大学経済学部卒業後、2009年にキーエンスに新卒入社。マイクロスコープ事業部の営業を担当。2010年新人ランキング1位を獲得。その後、2012年下期から3期連続で全社営業ランキング1位を獲得し、マネージャーに就任。その後本社販売促進グループへ異動、営業戦略立案・販売促進業務を担当。2015年、三菱UFJリサーチ&コンサルティングに転職。小売、医薬、建設業界の戦略策定、新規事業戦略策定に従事。2016年にキーエンスに戻り新規事業の立上げに携わる。2020年アスエネに参画。
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(アスエネ共同創業者 兼 取締役COO 岩田 圭弘)
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