「プロが運用するファンド」に経済合理性はない…余命3カ月の山崎元さんが大学生の息子に書き残したこと
プレジデントオンライン / 2024年2月28日 6時15分
■手数料とは「確実なマイナスのリターン」
投資は、リスク負担に見合うリターン(「リスクプレミアム」と呼ぶ)を集める行為だが、効果的に分散投資を行うと期待リターンを下げずに、リスクだけを低下させることができる。
判断を加えて集中投資する方が効率良く稼げるように思うかもしれない。しかし、人間の判断力などたかがしれている。やめておく方がいい。
ギャンブルでテラ銭(胴元の取る手数料)が重要であるのと同じく、運用でも手数料が極めて重要だ。
同種のリスクの金融商品の比較はまず手数料で行う。商品Aよりも手数料のより高い商品Bは、相場がいい時は儲けがより小さく、相場が悪い時は損がより大きいと予想されるので、商品Aよりも必ず劣ると評価すべきだ。こうした評価によって、運用商品の9割以上は「はじめから検討に値しない」ことが分かる。手数料が高いだけでもうダメなのだ。
■「高価だけれども高性能な金融商品」は存在しない
売り買いの際に生じる手数料も、運用・管理の対価として取られる手数料(投資信託なら「運用管理手数料」又は「信託報酬」)も重要だ。
なお、運用商品の場合、「手数料は高いけれども、運用はうまい」と事前に言える「高価だけれども高性能な商品」のようなものは存在しない。
考えてみると、夢のない世界だな。
■選ぶなら手数料が安いインデックスファンド
なぜ「インデックスファンド」がいいのかを以下の数項目で説明する。
まず、言葉の定義だが、インデックスファンドとは何らかの「指数」(株式の場合は「株価指数」)に連動するように運用される資金のことだ。個人が利用するのは、公募の投資信託かETF(上場型投資信託)などの投資信託だろう。原則として、指数を構成する銘柄と構成ウェイトをなぞるように運用される。一般に、販売手数料(近年はゼロが主流だ)や運用管理費用が安く設定されている。
一口に株価指数と言っても多くの種類があり、それらの中のいくつかが個人の運用に適している。例えば、S&P500やTOPIX(東証株価指数)はまあまあ運用に適するが、日経平均やニューヨークダウなどは中身の偏りが大きい。運用には適していない。
■アクティブファンドへの投資は経済合理的ではない
一般に投資信託の特徴として、「小口の資金でも分散投資ができること」と「プロが運用してくれること」の2点が強調されることが多い。プロの運用者が投資する銘柄・ウェイト・タイミングなどを操作して株式市場の平均的なリターン以上のリターンを目指す投資信託のことを「アクティブファンド」と呼び、昔も今も数多くの商品が存在する。投資に関わる調査などに手間とコストが掛かるという理由で、手数料はインデックスファンドよりも高く設定されるのが普通だ。
しかし、人生でよくあるように、「目指す」ことと、「できる」こととは別だ。
現実は、
(1)アクティブファンドの平均的な運用成績は市場の平均や市場の平均を表すインデックスファンドに劣る
(2)運用が相対的にうまく行くアクティブファンドを「事前に」(投資する段階で)選ぶことができない
という2点が動かしがたい事実だ。
事実(1)と事実(2)とを組み合わせると、「アクティブファンドに投資することは経済合理的ではない」となる。
しかし、アクティブファンドを運用している会社は「当社のファンドは素晴らしい」と強調するし、金融機関などで投資信託を売る人は「いいアクティブファンドを選んで投資することができる」かのように話す。しかし、これらは、いずれも商売上そう言わざるを得ないだけのセールストークに過ぎない。信じるようでは愚かだ。
君への手紙の中で「一見偉そうな他の投資」と書いたものの代表がアクティブファンドだ。
■「平均投資有利の原則」によって優劣は明らか
最終的には株式市場の平均、現実問題としてはインデックスファンドに、アクティブファンドが勝てない理由は、父が「平均投資有利の原則」と名付けた市場の仕組みにある。
平均投資有利の原則を言葉で説明すると、市場での運用競争にあっては、ライバルの平均でもある「市場の平均」を持ってじっとしていることが有利であるということだ。
余計な取引コストを払わずに平均を持ってじっとしていると、売り買いのたびに売買コストが生じるアクティブ投資家は運用競争上不利であって、平均投資家は有利だというのが、動かぬ原則なのだ。
市場の平均に近い構成のインデックスを参照するインデックスファンドは「平均投資」に近い分、運用上アクティブファンドよりも有利で、さらに商品としての運用手数料が安いので、ますます有利になる。
■大機関投資家の運用に近いのが「全世界株式」
さて、残る説明は、なぜ「全世界株式」のインデックスファンドを選ぶのかだ。
本書執筆時点での全世界株式の大まかな内訳は、米国株式が約6割、日本の株式は6%弱などとなっている。
世界の資産運用は、近年ますますグローバル化が進んでいて、市場間の連動性が強まっている。厳密に閉じた空間での運用競争がはっきり存在するわけではないが、世界の大機関投資家(国家ファンド、大型年金基金、大学基金など)は、世界各国の株式市場に分散投資するようになっている。こうした場合、彼らの運用の平均像は全世界の株式市場を平均した状態に近いものであるはずだ。
仮に、全世界の株式を運用競争の空間だと考える場合、平均的な全世界株式ポートフォリオの中の比率が6割である米国を100%持とうとすることは、かなり極端なアクティブ運用だ。タイミングを図って米国株式への投資比率を増減しようとするような運用も、平均投資有利の原則に照らすと、有利なものとは言えない。
運用競争のトレンドに対して、少し先回りし過ぎかもしれないが、特定の組み合わせよりも世界株式の運用競争の「平均」を表すインデックスをターゲットにするインデックスファンドを選ぶことにした。
■運用資産残高が1兆円を超えている金融商品
なお、全世界株式のインデックスファンドは、日本株も含むものに投資することが好ましいが、日本株抜きの全世界株式、あるいは先進国株式といったインデックスも内容が近い。手数料の十分安いものであれば、投資して構わない。細かい差にこだわる必要はない。
現在、投資していい条件に該当する全世界株式のインデックスファンドは複数あるが、代表的なものを2つ挙げておく。
どちらも三菱UFJアセットマネジメントの商品だが、特にこの会社に義理がある訳ではない。資産残高が大きくて代表的な商品として挙げた。
・「eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)」
・「MAXIS全世界株式(オール・カントリー)上場投資信託」
(証券コードは2559)
前者は、投資家の間で通称「オルカン」と呼ばれている。比較的早くからこの分野の商品に力を入れ、運用コストの引き下げにも熱心だったこともあり、本書執筆時点の運用資産残高は1兆円を大きく超えている。同じく運用管理費用(信託報酬)は年率0.05775%以内だ。
■アクティブファンドに年利1%払うアホらしさ
つまり、現在、おそらく最善の運用商品が、運用資産100万円当たり年間578円以下の手数料で利用できるのだ。運用は、お金を増やそうとする行為だ。例えば、アクティブファンドに年率1%(100万円に対して1万円)もの手数料を掛けることがどれだけアホかは、考えてみなくても分かるだろう。
後者のETFは、一部の投資家には投資しやすいだろうし、東証の上場商品なので、対面営業の証券会社でも取り扱いがある。こちらの信託報酬率は0.0858%(税抜き0.078%)だ。
他社からも、似た属性の商品が出ているし、今後も新しい商品が出る可能性がある。手数料はすでにかなり下がっているので、顕著な改善のある商品が出る可能性は乏しいが、他の商品に投資しても構わない。
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経済評論家
専門は資産運用。楽天証券経済研究所客員研究員。マイベンチマーク代表取締役。1958年、北海道生まれ。東京大学経済学部卒業後、三菱商事に入社。以降、野村投信ほか12回の転職を経て、現職。『山崎先生、将来、お金に困らない方法を教えてください!』(プレジデント社)など著書多数。
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(経済評論家 山崎 元)
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