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「頑張って」「よろしくね」のニュアンスで"肩を軽く叩く"上司が10年来の部下にセクハラ告発された衝撃の理由

プレジデントオンライン / 2024年3月6日 7時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Yuto photographer

職場の人間関係トラブルを防ぐことはできるのか。外資系企業で年間1000人以上の社員と面談をしている産業医の武神健之さんは「職場で起こる人間関係のトラブルの背景には、コミュニケーションの欠如や誤解がある。身体的接触は行わないことはもちろん、職場は職場であるという意識を持つことが大切だ」という――。

■本人と上司の認識がズレている

こんにちは、産業医の武神です。

面談ではクライエント社員のココロとカラダの健康をサポートすべく、どのような相談も全身全霊で対応していますが、そんな私が完全に脱力してしまうような類の相談もあります。その類の1つが、ハラスメントだと思ったけれども、結果として職場の人間関係のゴタゴタだったというものです。

今月はそんなお話をさせていただきます。

Aさんは20代の女性、約1年前に私のクライエントに転職してきました。産業医面談に来るようになったのは、入社半年以上たってからでした。Aさんは、新しい職場に上手に溶け込めない、先輩たちに聞いても仕事のやり方等を丁寧に教えてくれない、特に意地悪する人もいるなどの悩みを教えてくれました。結果として、仕事がなかなか覚えられない、いい評価がもらえないとクビになってしまう……と不安を抱いていました。

悩みや不安に加え、出社前の億劫感、そして遅刻などもあり、睡眠障害も出始めていました。心療内科に通うことを了承してもらい、本人の許可のもと人事に職場での様子を私が確認すると、「彼女はローパフォーマーで間違った採用だった」と上司は評価しているようだとのことでした。

■「会社のエントランスで先輩に殴られた」

そんなAさんですがある時、泣くような顔で面談に現れました。聞いてみると、「先週、会社のエントランスで先輩の1人に殴られた」とのことでした。それ以降、通院内服治療で落ち着いていた症状が悪化。睡眠障害と恐怖感で3日ほど休んだとのことでした。

Aさんから状況を一通り聞いた後私は、早急に主治医を受診し、休職を含めて相談するようにお伝えしました。結果、診断書の提出があり翌日から休職となりました。

このことは、Aさんの了解のもと、会社のハラスメントホットラインに上げることとなりました。担当者が関係者にヒアリングするものの、殴ったとされる先輩女性とAさんのいうことに食い違いがあるため、最終的に人事がエントランスの防犯カメラの映像も確認することとなりました。

■映像を確認してみると、意外な状況が…

そこに映っていたのは、先輩が夕食後残業しに帰社する姿とすれ違うのに気がつかず退社するAさんでした。すれ違った後、先輩はAさんの肩を軽く叩いて気がついたAさんにバイバイと手を振ったように見えたようです。

Aさんはこの場面を私に、「すれ違いざま先輩に肩を殴られ、振り向くと手を上げてさらに殴ってきそうだった。怖くなって泣いて走って帰宅した」と説明してくれていました。

最終的にハラスメントとは会社は認定しなかったものの、身体的接触があったことと、Aさんはそう感じたという事実が重視された結果、この先輩は会社から注意を受けました。そして先輩には復職したAさんとは関わらないよう異動処置が取られました。

ちなみにAさんは、復職するも成果も出ず、また、周囲とも打ち解けられず、数カ月後に退職となりました。

オフィスを離れる
写真=iStock.com/SeventyFour
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/SeventyFour

■「頑張って」のニュアンスでみんなの肩を叩く上司

2例目の30代女性社員Bさんは、上司がしょっちゅうBさんの肩をなで回すと訴え産業医面談にきました。特に睡眠障害や抑うつ症状はなく、むしろ上司に対する怒りと嫌悪感を強く持っていたのを私は覚えています。Bさんはこの件を社内のハラスメントホットラインに上げたため、関係者へのヒアリング調査が始まりました。

そこで分かったことは、Bさんとその上司はBさんが入社時から10年来の上司と部下の関係(男女の関係なし)であること。1年前に上司が職場結婚してからは、休日に上司の家のバーベキューにBさんも参加するなど、家族ぐるみの付き合いもあるほど良好な関係であると周囲には映っているとのことでした。

「肩をなで回す」との行為について。部署のメンバーからは、その上司は「頑張って」や「よろしくね」というニュアンスでみんなの肩をよく軽く叩くが、誰もそれをセクハラとは思っていませんでした。Bさんの肩を叩く時も周囲は特別なものを感じず、また、その行為は昔から行われていたから、なぜ今になってセクハラと訴えるのかという声も聞こえてきました。上司自身も肩叩きの事実を認めましたが、突然のセクハラ告発に戸惑うばかりでした。

■そもそも身体的接触なしでコミュニケーションをすればいい

本件も最終的には会社はハラスメントとは認定しませんでした。しかし、上司や周囲がセクハラと認識はしなくても、Bさんはその身体的接触をネガティブに感じたことにより、上司は誤解を招く行為を今後はしないよう注意を受けました。その後両者は同じ部署で働いています。上司は誰の肩も叩かなくなりました。

ヒアリングの中で人事が聞いたことを後で私にいろいろ教えてくれました。上司の奥さんは数年前に部署に配属された人でBさんの後輩に当たること。この結婚を素直には喜べないというBさんの愚痴を複数人の同僚が聞いたことがあること。また、Bさん自身は最近婚活をするもうまくいっていないこと。購入したマンションが耐震性偽造建築の物件と判明したことなどなど。

私の推測になりますが、当初は気にならなかった肩ポンポンが、Bさんの心の状態が変わったために、気持ち悪いと感じるようになってしまったのだと思われました。上司が戸惑ったことは想像にやすいですが、そもそも身体的接触なしで部下とコミュニケーションをすればよかっただけの話だとも思います。

会議
写真=iStock.com/kazuma seki
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kazuma seki

■「そのふたり、犬猿の仲で有名です」

そのほかにもパターンとしては、Cさんが職場の特定の人(Dさん)に対する人間関係ストレスを訴えて産業医面談に来て、翌月か翌々月に今度はDさんが同じように職場の特定の人(Cさん)に対する人間関係ストレスを訴えて産業医面談に来るという類のものがあります。共通しているのはどちらも人事部に、“人間関係ストレスがあるので対処してほしい”と伝えてほしいということです。

その場合、産業医としては「職場の人間関係が心理的負荷になっているようで、人事からもヒアリングをお願いします」と伝えます。が、担当人事からは、そのふたり、犬猿の仲で有名です、上司や同僚たちに言わせるとどっちもどっちでした、という内容をよく聞かされました。

そして多くの場合、上司や人事の気持ちとしては、職場だからこそ、(けんかでなく)仕事をしてほしいということです。

■コミュニケーションの欠如や誤解、嫉妬心がきっかけになる

以上、産業医面談でハラスメントかと思ってしまったけれど、調べた結果、当事者だけがヒートアップしている場合や、本当にハラスメントなのかと感じてしまう症例についてお話しさせていただきました。

ニュースに上がるような、殴る蹴るなどの暴力や性被害とも言えるようなハラスメントは私のクライエントでは遭遇したことはありません。実際は、今回のようにハラスメントとは認定されなかったハラスメント訴えケースが中心です。しかし、中には本当にひどいケースもあり、調査の結果ハラスメントと認められるものもわずかながらあります。

ハラスメントと認定されなかったケースたちですが、いずれも、コミュニケーションの欠如、ささいな誤解やジェラシーがきっかけとなっていることが多いと思います。時には、全く関係ないことでいっぱいいっぱいな精神状態の社員が、たまたまその(加害者とされる)同僚をはけ口としてしまったように思えるものもあります。

■「合わない人」ともやっていくのが職場

職場におけるストレスの原因は、人間関係がほとんどの調査でトップ3に入っています(他は、仕事の量・質、責任など)。職場の人間関係に高すぎる期待を持たず、現実的に対処対応できれば職場のストレスの大きい部分は対処可能なのです。

学生時代は気の合わない人とは接する時間を少なくすることができました。しかし、職場は学校ではありません。仲良し友達に会いにいくところではありません。職場は、仕事という共通目的を達成するための集団です。合わない人とも、上手に仕事仲間としてやっていくことが求められます。

人間の形をした紙
写真=iStock.com/patpitchaya
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/patpitchaya

職場の人間関係のゴタゴタを自分が起こさないためには、自分が心身ともに“健康”であること。同じく、巻き込まれないためには、“職場だ”という意識を常に持って行動することです。また、身体的接触は誤解のもとになりかねないので行わないことも大切です。

合わない人とやっていくために、時には上司や人事を巻き込み、相手とのルールづくりをする必要があることもあります。また、職場でためてしまったストレスを発散するためには、積極的に趣味や気分転換をして過ごすことも大切です。

仮に何か起こってしまった場合は、産業医としては、喧嘩騒動の後にはお互いの理解を深め、より良い関係を築くことができるようになってほしいものです。しかし、漫画や青春ドラマの世界とは違い、私の経験では両者とも、人事から要注意人物としてしばらく見られてしまうようです。

ぜひ皆様、職場の人間関係のゴタゴタには、お気をつけくださいませ。

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武神 健之(たけがみ・けんじ)
医師
医学博士、日本医師会認定産業医。一般社団法人日本ストレスチェック協会代表理事。ドイツ銀行グループ、BNPパリバ、ムーディーズ、ソシエテジェネラル、アウディジャパン、BMWジャパン、テンプル大学日本校、アプラス、アドビージャパン、Wework Japanといった大手外資系企業を中心に、年間1000件以上の健康相談やストレス・メンタルヘルス相談を実施。働く人の「こころとからだ」の健康管理を手伝う。2014年6月には、一般社団法人日本ストレスチェック協会を設立し、「不安とストレスに上手に対処するための技術」、「落ち込まないための手法」などを説いている。著書に、『職場のストレスが消える コミュニケーションの教科書』や『不安やストレスに悩まされない人が身につけている7つの習慣』『外資系エリート1万人をみてきた産業医が教える メンタルが強い人の習慣』などがある。公式サイト

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(医師 武神 健之)

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