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宝塚歌劇団は「パワハラが当たり前の世界」…熱狂的ファンが通い詰めるタカラヅカの"本当の姿"

プレジデントオンライン / 2024年3月3日 10時15分

亡くなった劇団員の妹のコメント全文

■宝塚歌劇団が一転、パワハラを認めたが…

宝塚歌劇団の宙(そら)組に所属していた劇団員Aさん(享年25)が急死した問題で、遺族側の代理人弁護士が2月27日、東京都内で記者会見を開きました。この前日、歌劇団は歌劇団を運営する阪急電鉄の持株会社、阪急阪神ホールディングスの角(すみ)和夫会長が2月29日付で、宝塚歌劇団と宝塚音楽学校の理事を退任すると明らかにしていました。

遺族の代理人弁護士は「交渉経過、現段階を正確にみなさんにお伝えする必要がある」とした上で、「角会長が劇団の理事退任の意向を示したとの報道が(2月26日に)されていますが、遺族側としては、同氏が劇団理事を退任することが、同氏が責任を取ることを意味しないと考えています」と強調しました。

そして、Aさんの双子の妹で、宝塚歌劇団の別の組の劇団員Bさんのコメントが発表されました。そこには「宝塚歌劇団は日常的にパワハラをしている人が当たり前にいる世界です」「姉の命の重さを何だと思っているのでしょうか」など決死の訴えが綴られていました。

■「清く正しく美しく」を掲げる学校で起きた裁判

宝塚音楽学校では過去に「タカラヅカいじめ裁判」が起きています。2008年4月に入学したSさんは、同年11月に音楽学校を退学させられています。

山下教介氏の著書『ドキュメント タカラヅカいじめ裁判』(鹿砦社)によると、Sさんは壮絶ないじめを受けていました。寮や学校でモノがなくなると、Sさんの仕業にされ、コンビニで万引きをしたと犯人扱いされ、宝塚大劇場で観劇中に観客の財布から現金を盗んだと糾弾され、同期生全員から除け者にされ、その末に学校から退学させられました。

裁判所は、退学は不当と判断しましたが、学校側は裁判所の決定に従わず、裁判を長引かせ、13人の生徒を法廷に立たせました。いじめた側の生徒の言い分だけを聞き、第三者の証言は無視。生徒たちの証言に信憑性があるのか確認もせず、証拠もないまま、2008年12月から2010年7月まで裁判を続けたのです。

■「教育機関としての姿をなしていない」

保護者会がSさんの復学に反対していることも理由に、裁判所の決定に基づいて学校に戻ろうとしたSさんに対し、音楽学校の事務長と学校側弁護士は校門を閉ざし、押し問答の末、追い返しました。

最終的に、裁判は音楽学校側が敗れ、裁判所は「宝塚音楽学校は教育機関としての姿をなしていない」「10代の子どもを預かっているので、やるべきことはきちんとやるべきだ」と、学校側を厳しく指弾しました。

「清く正しく美しく」をモットーにする宝塚音楽学校や宝塚歌劇団は、いじめ、パワハラを認めてきませんでした。今回もそれが繰り返されています。それは宝塚歌劇団の経営にも影響を及ぼしています。

■休演で営業利益は70億円予想から39億円に

2月7日に発表された阪急阪神ホールディングスの2024年3月期第3四半期決算では、ステージ事業(宝塚歌劇団関連)の営業利益見込みが39億円となり、期初の予想の70億円から急減しています。

阪急阪神ホールディングスグループ決算説明会資料
阪急阪神ホールディングスの2023年3月期決算説明会資料(23年5月23日発表)(左)と2024年3月期第3四半期決算補足説明資料(24年2月7日発表)(右)

上半期の営業利益は42億円で、前年同期の37億円に対し14%増の増益でしたが、通期予想は大幅に下方修正されました。宝塚歌劇団の公演が相次いで休演に追い込まれ、下半期で31億円以上(70-39+α)の利益が失われたのです。

宝塚歌劇は今年110周年を迎えます。昨年7月10日、宙組トップスターの芹香(せりか)斗亜(とあ)氏は、110周年記念行事の概要発表会で、以下の抱負を語っています。

「110周年を迎えるこの年、宙組は(2024年)5月より、宝塚歌劇ならではの豪華絢爛(けんらん)な日本物レヴューと、人気ゲームシリーズのミュージカル化という大変心躍る演目を上演いたします。110年の間、常に挑戦を続け、伝統を守り続けてくださった先輩方、そして何よりも宝塚歌劇を愛し続けてくださる皆さまに、感謝の気持ちを込めて、宙組全員で取り組んでまいります」

しかし、昨年9月30日に宙組劇団員Aさん(享年25)が亡くなった影響などから宙組のほか、花組、月組、雪組、星組にも公演中止が広がりました。

■宝塚歌劇110周年を大々的に盛り上げる予定が…

阪急阪神HDのグループ経営企画室によると、客席数2550席の宝塚大劇場(兵庫県宝塚市)の下半期(2023年10月~2024年3月)の休演は106公演、客席数2069席の東京宝塚劇場(東京・日比谷)の休演は60公演の見込みです。

さらに今年4月に宝塚大劇場で予定していた宝塚歌劇110周年の記念式典、10月に大阪城ホールで開催予定だった10年に一度の「大運動会」も中止になりました。

2020年から猛威を振るったコロナ禍の影響で、2021年3月期のステージ事業(宝塚歌劇団関連)の営業利益は17億円に落ち込みました。その後、69億円、68億円と回復し、当初は70億円の予想。そして来期、110周年を機に、さらに宝塚歌劇を盛り上げる予定でしたが、それが泡と消えました。今年4月以降も休演が続けば、来期も想定した利益を大幅に下回る可能性があります。

宝塚歌劇団は国内のミュージカル市場を牽引してきた存在ですが、その展望は明るいものとは言えません。市場動向に詳しいぴあ総合研究所の笹井裕子取締役所長によると、コロナ禍の影響が大きかった2020年に、ミュージカル市場は前年の4分の1に縮小。その後、順調に回復し、ステージ市場全体の売り上げ規模1705億円のうち、643億円を占めています(2022年)。

【図表1】ライブ・エンターテインメント市場の推移
【図表2】ステージ市場の構成比率

しかし、今後の動向について笹井氏は次のように話しています。

「シェアの高い劇団四季と宝塚歌劇のミュージカルが回復を牽引し、それに次ぐシェアの東宝ミュージカルも健闘しています。2.5次元ミュージカルもひと足早く回復しました。劇団四季はレパートリー作品に加え新作の『アナと雪の女王』や『バケモノの子』もロングランヒットをしており、スターに依存しない公演体制のため、主演の体調が悪くても、代役で公演を打てます。

その点、宝塚歌劇はスター制を採用していることもあり、出演者等のコロナウイルス感染による休演が多くなる傾向がありました。今後のミュージカルの動向については、帝国劇場(客席数1897席)が来年2月から建て替えのため休館することもあり、劇場の確保が難しく公演できないという従来から抱えている会場不足問題が深刻化します。

観客の固定化・高齢化が進んでおり国内の人口が減ることもマイナス要素で、今後、現状の延長線上ではミュージカル市場の大きな伸びは期待できないでしょう」

■いじめの事実を認めない歌劇団と阪急阪神HD

宝塚歌劇団の昨年10月以降の休演回数の急増は、パワハラ問題への対応の不備によるものです。

今年1月24日の遺族側と宝塚歌劇団との第3回交渉でようやく一部のパワハラ行為について認めたものの、それまでは宝塚歌劇団が依頼した法律事務所による調査報告書を根拠に、いじめやパワハラの事実を認めていませんでした。調査報告書への疑問点や宝塚歌劇団や阪急阪神HDの対応の問題点については、以下の記事で指摘しました。

<参考記事>
なぜ宝塚歌劇団は「いじめ疑惑」に正面から向き合わないのか…阪急阪神HDに共通する「冷徹さ」という大問題
宝塚歌劇団の「清く正しく美しく」はどこで狂ったのか…「女の軍隊」で陰湿いじめが繰り返される根本原因

最初のボタンの掛け違いは、Aさんの訃報についての阪急阪神HD・角和夫会長の対応でした。阪急電鉄役員のゴルフ会に参加し、一報を聞いた後も、角会長はゴルフを続行。10月8日からは、角会長は夫人とともにヨーロッパに旅立っています。

■「伝統を口実に隠蔽へと走っている」

角会長の実兄で、弁護士でもある角源三氏は『週刊新潮』(2023年12月21日号)で、次のように指摘しています。

「和夫はまずパワハラを認め、ご遺族に謝罪して辞任すべきなのに、いずれも実行していない。人間性というのは極端な状況でこそあらわになりますが、彼は逃げるタイプの人間。高校時代も勉強から逃げてエレキにはまっていたし、ちっとも変わっていません。元はといえば、そんな人間をトップに据えた阪急がおかしい。宝塚の生徒さんらを単なる金儲けの手段と見なし、人としての権利を認めていない。それで伝統を口実に隠蔽(いんぺい)へと走っているのです」

角会長の初動とパワハラへの対応が違ったものであれば、宝塚歌劇団側と遺族側の話し合いも早期に解決していたはずです。宝塚大劇場や東京宝塚劇場での各組の公演中止を決定したのは昨年12月。「31億円超の損失」は宝塚歌劇団や阪急阪神HDの経営判断のミスと言えます。ボタンの掛け違いが騒動を大きくし、遺族を傷つけ、阪急阪神HDの利益を奪いました。今後、株主からの突き上げが予想されます。

■ヅカファンの「宝塚離れ」は起きているのか

さまざまなトラブルがありましたが、歌劇団の公演にはいまも客が押し寄せています。休演が多いため、むしろチケットはプラチナ化しています。阪急阪神HDのグループ経営企画室によると「通常と変わらず、多くの方に観に来ていただいています」という状況です。宝塚歌劇には「初日を観て、中日を観て、千秋楽を観る」「地方公演にも出向く」といった熱狂的なファンが多いのです。

宝塚歌劇団のプロデューサーや宝塚総支配人を歴任し、現在は阪南大学教授の森下信雄氏は『宝塚歌劇団の経営学』(東洋経済新報社)で次のように述べています。

顧客(ファン)は同じ組の一定の環境下で成長していく生徒と伴走しながら楽しむのがタカラヅカ流である。そして、宝塚歌劇はいわゆる「スターシステム」を採用しているため、基本的にキャスティングにおける「大抜擢」は存在しない。

このシステムのおかげで、ファンサイドとしては長年支援してきた金銭的、時間的な様々なコストが無駄になる可能性(サンクコスト化)が低くなり、安心感を持ってタカラヅカへの投資を継続できる仕組みになっている。(中略)

宝塚大劇場、兵庫県宝塚市
宝塚大劇場、兵庫県宝塚市(写真=663highland/CC-BY-SA-3.0-migrated/Wikimedia Commons)

■「推し」のために劇場に通う熱心なファンたち

こうした宝塚歌劇ならではの強力な販売チャネルが「ファンクラブ」(ファン会)です。タカラヅカの私設ファンクラブの実態は、以下の論文にも詳述されています。

「制度的叡智による価値共創:宝塚歌劇団と私設ファンクラブにおける、一見非合理な制度」(遠藤麻衣氏、海部由莉氏、樋口玲央氏、松岡映里氏の共著)

私設ファンクラブは、(中略)非公式といっても、生徒名義でチケットを取る権利や劇場前で人垣を作る権利など、実際は多くのことが宝塚歌劇団から公然に認められている。(中略)

私設ファンクラブで力を合わせ、チケットを買いとることによって、応援する生徒をより上に押し上げようと努力している。そのためファンは同じ作品でも何度も足を運び、例え作品に興味がなくても生徒のためを思い、足を運ぶ。(中略)

ファン自身にも劇場に何度も足を運ぶメリットがある。それは足を運ぶほど良い席を配当されるようになることだ。それにより、ファンの熱はさらに高まる。(中略)

自分たちの応援が生徒の「路線」街道入りに確実に繋がっているという保証もない。このような不条理とも思える状況にファンが不満を持てば、ファンが宝塚歌劇団から離れてしまう可能性があると言える。

■盤石なスターシステムが揺らぐきっかけ

宝塚歌劇のファンは、劇団員を「路線」「別格」「脇」の3種類に分けて呼びます。「路線」はトップになると予測される人。「別格」は重要な役を演じているが、トップにはならないと思われる人。「脇」はトップになる可能性が限りなく低い、いわゆる脇役です。

劇団員のヒエラルキーがハッキリしており、推している生徒の格、ポジションによって、ファンクラブ自体の格にも差が出てきます。

私設ファンクラブは生徒(劇団員)が退団すれば解散になり、また、新たなお気に入りを見つけてファンになっていくという循環を繰り返し、宝塚歌劇団は熱狂的なヅカファンを維持してきました。

しかし、著名な人気スターがいじめに加担し、いじめの事実を隠蔽してきたとしたら、タカラヅカのスターシステムは大きく揺らぐのではないでしょうか。

■宝塚歌劇団の理事退任だけでは幕引きにならない

宝塚歌劇団や宝塚音楽学校で行われてきたいじめ、パワハラの実態を明らかにし、Aさんが死に至った問題については、いじめた劇団員の行動の詳細と処分を明らかにすべきです。さらに隠蔽がなぜ起きたのか、コンプライアンス(法令遵守)上、どのような問題があったのかを第三者委員会によって解明しなければ、ファン離れは加速するでしょう。

「清く正しく美しく」と大きく乖離(かいり)している姿が、白日の下にさらされ、幻滅してファンが離れても、タカラヅカの真の再生のためには、問題点を洗いざらい公開することが近道になると考えます。今、宝塚歌劇団は大きな岐路に立たされていると言えます。

2月29日、阪急阪神HDの角会長が宝塚歌劇団と宝塚音楽学校の理事を退任しました。しかし、遺族側も、理事の退任で、角氏が責任を果たしたとは考えていません。角氏は、宝塚歌劇団のパワハラ、過酷な労働現場を放置してきたばかりか、隠蔽を続け、問題解決を長引かせてきた責任を取り、自ら阪急阪神HDとグループ企業の要職からも退くべきでしょう。20年以上もトップにいる弊害が出たと言えます。

宝塚歌劇の公演が減り、チケットがプラチナ化しており、「ファン離れ」は深刻でないように見えます。自らのお金と人生を注ぎ込んできた熱狂的なファンや、現在のファンの「囲い込み」ができても、いじめ、パワハラ、理不尽な上下関係を放置し、隠蔽を続けてきた宝塚歌劇団は、このままでは新しいファンを増やせなくなります。

宝塚歌劇の伝統を継ぐためにも、問題としっかり向き合って、再発防止を徹底し、劇団員に対し、金銭的、肉体的に過酷な負担をかけず、安心して演じられるシステムを構築するべきです。そのためには、宝塚歌劇団の労働組合の復活、働く者の人権と生活を守る組織が必要かもしれません。

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前原 進之介(まえはら・しんのすけ)
ジャーナリスト・作家
出版社に勤務後、フリーで活動し、小説『黒い糸とマンティスの斧』をアマゾンのキンドル出版で上梓。情報サイトの「note」で、メディアやミュージアムなどについて執筆。

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(ジャーナリスト・作家 前原 進之介)

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