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「自分は都心の居住者」という「謎の優越感」が大損を生む…「地方都市移住」にはメリットしかない

プレジデントオンライン / 2024年3月14日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Sean Pavone

田舎暮らしとも首都圏での暮らしとも違う。利便性も快適さも都心での生活以上のクオリティ、豊かな自然と食生活、仕事はリモートでOK……。定年後でもよし、今すぐでもよし。あなたが知らない地方都市移住の魅力とは――。「プレジデント」(2024年3月29日号)の特集より、記事の一部をお届けします。

■「地方は不便」という「昭和」の集団幻想

私自身、今は渋谷区に住んでいるのですが、数年内に地方都市に移住するべく、まず土地を買いました。

移住先は、地方都市の都心に近い住宅地で、車がなくても暮らせます。幹線道路から一歩入った静かな環境で、目の前は自然豊かな公園。空港にも駅にも、今の家から羽田や品川に行くより短時間で、しかも座って行けます。それでも地価は、渋谷区内の10分の1。東京で家を買うくらいなら、地方都市に住んで、浮いたお金で毎月のように東京にでも海外にでも遊びに行ったほうが、合理的ではないですか。

そもそも「地方は不便」というのはあまりにも「昭和」な発想です。

東京でも地方都市でも過疎地でも、どこにでも同じコンビニがあり、本でも何でも通販で買えるのが日本です。

スーパーもどこにでもありますが、生鮮に関しては地方のほうが、新鮮で安いことは間違いありません。デパートに関しては、渋谷区の東急本店のほうが、移住先の地場百貨店より先になくなってしまいました。

それに渋谷区などの東京都心の区は、日本で唯一、ホームセンター空白地帯です。同じ東京でも、環状7号線の外の住人にはあって当たり前の存在ですが、「自分は都心居住者だ」と謎の優越感に浸っている人だけが、ホームセンターの便利さを享受できていない(笑)。

地方は医療水準が低い? 地方都市を過疎地と混同してはいけません。各県の中核的な病院のレベルは、東京の普通の病院に勝るとも劣らないのは常識です。おまけに東京ほど混雑はしていないのが、何よりの魅力。

私の知人は、東京の病院で「数カ月待ち」と言われた癌の手術を、故郷の地方都市ですぐ受け、快癒しました。

私も、ある地方都市に講演に向かう途中、足の靭帯を切ったのですが、講演先の地元病院で、待ち時間ゼロで処置を受けることができました。ところが「帰宅後にあらためて最寄りの病院の診察も受けなさい」と指示され、仕方なく行ったところ、都内の病院の整形外科は高齢者で大混雑。3時間も待たされて、診察はたった3分でした。

介護に関しても、都会のほうが有利という話は聞いたことがありません。地価や人件費が高い東京よりも地方都市のほうが、サービスのコスパは高いです。

地方では車がないと生活できないのでは? そのご指摘は重要です。ですが、そうおっしゃる東京在住のあなたは、車なしで生活しているのですか? 「地方は電車が不便なので車に乗るしかない」という話は、昭和の集団幻想ではないでしょうか。都会こそ、駐車場代が高くて道も渋滞するので、仕方なく段差だらけの鉄道や地下鉄を利用している人が多いだけでは。

そんなわけで、東京でも多くの人が車を持っています。ですが車を使うのなら、地方都市のほうがずっと便利です。家のガレージも公道も広いし、大型店や病院には無料の平面駐車場があって、しかも空いている。

私ども夫婦は雨でも風でも歩くのが好きで、車を持たず、必要なときだけカーシェアを使う生活をしていますが、そういう人は都会でも少数派でしょう。そんな私は、地方の移住先を選ぶにあたっても、バスや電車が便利で、歩ける範囲に店や病院、それにカーシェアもある場所を選びました。過疎地だと難しいですが、そこそこの大きさの地方都市の市街地であれば、そういう場所も必ずあります。

【図表】地方都市に住んだほうがいい12の理由

■「田舎を見下す」という日本特有の偏見を捨てよ

こうやって一つ一つ検証していくと、東京が地方都市に勝っている部分って何なのか、単なる思い込みではないのか、わからなくなってきます。

能登地震の報道を見て、「地方は被災すると大変だ」という人がいますが、同じ規模の揺れを受ければ、過密都市ほど被害は膨大になります。しかも被災者や被害建物が多いほど、救援の手も、食料などの物資も、行き届きません。全員分の避難所を設けるのも至難の業。私が地方移住する動機の大きな一つが、首都圏が地震や富士山噴火などでマヒしたときに、一緒に巻き込まれたくはない、ということです。

都内に家を買ってしまって、地方にもう一つという余裕はない、あるいは、自分の職種は東京にしかないというのなら、仕方ないでしょう。ですが定年を過ぎ、子どもも独立したのに、地方都市移住を選択肢に加えないというのは、もったいない話です。

おそらくそういう人は合理性よりも、「自分は東京に住んでいる」という優越感が大事なのです。そういう人は、近所の人がスイスのジュネーブだとかハワイだとかに移り住むと聞くとうらやましいけれど、松本や那覇だと「自分のほうが勝った」と安心するのかもしれません。確かにジュネーブもハワイも素敵な場所ですが、物価は高いしコンビニもなく、日本の地方都市のように便利で住みやすくはありません。

松本に来たスイス人に、住むならジュネーブと松本のどちらがいいか尋ねたら、言葉の問題がない限り松本を選ぶでしょう。「田舎を見下す」という日本特有の偏見のない外国人の目から見たら、日本の地方都市は、どこに行っても住みやすく、魅力的なのです。「地方都市は教育環境が良くない」という、これまた集団幻想のような思い込みがあります。ですが、東京で「名門」とされる中高一貫校に入ったところで、英語が話せるようにすらなりません。日本の偏差値も、日本というガラパゴスの内側でしか通用しません。結局、有名校を卒業したいというのも、田舎を根拠なく見下すのと同じ、「東京しか知らない田舎者」の発想です。

そういう「謎の優越感」のために高い家賃を払うのはバカバカしいと目が覚めた人は、すぐに準備を始めてください。寒さが苦手か、暑さが苦手か。湿気が苦手か、乾燥のほうが苦手か。このマトリックスに自分や家族をあてはめ、北か南か、太平洋側か日本海側かを選ぶといいですよ。

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藻谷 浩介(もたに・こうすけ)
日本総合研究所調査部主席研究員
1964年、山口県生まれ。東京大学法学部卒。日本開発銀行(現・日本政策投資銀行)などを経て現職。日本全国のほとんどの町を歩いて回り、地域活性化やまちづくりのあり方を提言している。著書に『里山資本主義』など。

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(日本総合研究所調査部主席研究員 藻谷 浩介 構成=山口雅之)

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