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「ほめるところが一つもない社員」はどうすればいいか…敏腕人事コンサルが教える"すごいメソッド"

プレジデントオンライン / 2024年3月16日 8時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/sompong_tom

「ほめるところが一つもない社員」にはどう対応するべきなのか。人事コンサルタントの難波猛さんは「『ほめるところがない』のは、『こいつはダメだ』と決めつけている上司のスタンスやバイアス(偏見)の問題であることが多い」という――。(第2回/全2回)

※本稿は、難波猛『ネガティブフィードバック 「言いにくいこと」を相手にきちんと伝える技術』(アスコム)の一部を再編集したものです。

■ポジティブなフィードバックの重要性

ネガティブフィードバックの効果を高めるのが、日常のポジティブなフィードバックです。ポジティブフィードバックとは、「ほめる」「認める」「注目する」「感謝する」などですが、わざわざ面談の時間をとる必要はありません。

仕事をしているときや仕事が終わったときに、「今回の企画書、よく整理されていてわかりやすいね」「昨日は急な対応ありがとう」「さっきのミーティングでのあの質問は良かったね」などと、上司から見て、いいなと思ったことに「良かったです」「感謝しています」と声をかけるだけでいいのです。イメージとしては、部下の言動について「イイね」ボタンを押すイメージです。

それだけで、自分の行動により承認欲求と帰属欲求が満たされた部下は、心が前向きになり、その行動をくり返したくなります。行動の強化だけでなく、上司に対する親近感や信頼感も増すことになります。

■部下が素直に耳を傾けてくれる「ゴットマン率」

私は、フィードバックの割合は、ポジティブ4以上、ネガティブ1以下の割合を意識してください、とお伝えしています。ワシントン大学名誉教授ジョン・ゴットマン博士が研究した、人間関係におけるポジティブ・ネガティブの適切な比率「ゴットマン率」によると、「親子3:1」「上司部下4:1」「夫婦5:1」「友人8:1」と言われています。

コンサルティング現場の実感値としても、4:1くらいの比率が適切だと感じています。これよりネガティブが増えると部下が委縮して不信感が増えて、離職や意欲低下のリスクを招きます。普段、部下の良い面をしっかり見てポジティブな評価を伝えている上司であれば、必要なときに厳しい指摘を伝えても部下は素直に耳を傾けてくれます。

■日常のコミュニケーションも含めて考える

4:1は、1回の面談のなかでの割合ではなく、日常のコミュニケーションも含めた全体での割合です。ちなみに、1回の面談で「1個指摘して他4個ほめる」というハイブリッドをすると、「結局、この面談で何が言いたかったのか?」「私はほめられたのか? 叱られたのか?」と論点がブレて効果が低くなります。また、わざわざ指摘する必要がない部下へ「4回ほめたから1回は指摘しないと」と義務的にやるものでもありません。

向かい合って仕事をする人たちのイメージ
写真=iStock.com/JohnnyGreig
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/JohnnyGreig

減点主義で気になったときやミスしたときだけ指摘するのではなく、上司はもっと、「あなたのことを気にしていますよ」「あなたのことを応援していますよ」「あなたの行動は良かったですよ」というポジティブ(肯定的)なメッセージを部下に送り続けるコミュニケーションが重要です。

日常的にポジティブなメッセージを8割くらい送りながら、どうしても足りない部分や改善してほしい点があったときに、「今日は改善してほしいところについてお話ししたいと思っていますが、今話しても大丈夫ですか?」と声をかけると、部下も受け入れやすくなります。

■「機械のような上司」になってはいけない

ポジティブなコミュニケーションは、必ずしも業務や成果に対するフィードバックに限りません。「相手に肯定的な感情やメッセージを伝える」こと全体を指します。

「ほめる」「承認する」「信頼する」「感謝する」「任せる」「微笑む」「喜ぶ」「明るく声をかける」「意見を求める」「興味をもって質問する」「仕事に意味づけする」「理想や目的を語る」「理解を示す」「仕事以外の会話を楽しむ」「イイねボタンを押す」「部下の投稿にコメントする」「注目する」「話を最後まで傾聴する」「誠実な関心を持つ」「喜怒哀楽の感情に共感する」「受け止める」「受け入れる」「達成を支援する」「夢を応援する」「気づきを促す」「寄りそう」「一緒に考える」「うなずく」「目を見る」……。

バーバル(言語)・ノンバーバル(非言語)の総体が8割以上ポジティブであれば、部下との関係性は良好になっていくはずです。逆に、こうした肯定的なコミュニケーションをまったく行わない機械のような上司であれば、部下にすれば生成系AIとチャットをしているほうがよほどマシです(最近のAIは、寄り添った表現も得意になっています)。

■人間の幸福感を向上させる5つの要素

「ポジティブ心理学」で有名なマーティン・セリグマン博士が、「ウェルビーイングを高める5つの要素」として「PERMAモデル」を提唱しています(マーティン・セリグマン『ポジティブ心理学の挑戦』、ディスカヴァー・トゥエンティワン)。

Positive emotion:前向きな感情
Engagement:仕事や趣味への没頭・没入
Relationship:良好な人間関係
Meaning:取り組むことへの意味づけ・意義づけ
Accomplishment:目標の達成

部下と良好な人間関係を構築し、前向きな感情・仕事への意味づけ・熱中できる業務体験・達成経験の積み重ねを促すことで、部下の幸福感は向上していきます。

理論的に正しいフィードバックであっても、常に自分を否定してくる嫌な相手の言葉は刺さりません。だからこそ、日頃から手練手管ではなく真摯(しんし)な興味を部下に持ち、良い言動を見つける、ほめる、認めるなどのポジティブフィードバックを心がけることが大切です。

■プレイヤーとして優秀だった上司ほど要注意

ポジティブ4、ネガティブ1が理想と言いましたが、実際の現場ではポジティブ1、ネガティブ4になっている上司はたくさんいます(たまに、ポジティブ0:ネガティブ10の上司もいます)。

特に「プレイヤーとして優秀だった」「現在、自分もトッププレイヤー兼務」のプレイングマネージャーや、「ミスが許されない」「数字や納期のプレッシャーが大きい」部門の上司、「部下のミスや失敗など、できないことばかりが気になる」減点主義や完璧主義タイプの上司が陥りがちです。

様々なプレッシャーに日々さらされている上司としては、部下の行動の足りない点・変えて欲しい点が目につきやすいのは仕方ないことです。ただし、気に入らないことが目に入ってくる度に、重箱の隅をつつくようにネガティブな言葉を投げ続けると、部下のモチベーションに確実に悪影響を与えます。

人は自分の言動を否定され続けると、「私は何をやってもダメなんだ」「何をしても意味がない」「この人には何を言っても無駄」と「学習性無力感」が生まれます。学習性無力感を感じた部下は、自分から変わろうとする意欲が失われ、上司から言われなければ動かなくなります。

「指示待ち部下が多くて困る」という会社には、指示待ちの部下を量産する「細かい指示とダメ出しを続ける」上司や経営者がいます。細かい指示を出せば出すほど、会社が望まない指示待ち人間が増える悪循環が生まれます。

■部下の意識や行動を変えるための大きなポイント

ネガティブフィードバックで部下の意識や行動が変わるかどうかの大きなポイントは、部下が伝えられたギャップを自分事として捉えて自発的に取り組めるかどうか。自ら考えたり、動いたりするようにならなければ、何も変わらないのです。

苗を植えるイメージ
写真=iStock.com/okugawa
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/okugawa

上司からすると、部下の「できない点」は目につきやすいものです。しかし、「できない点」だけでなく「できている点」「感謝している点」を意識的に探し、ポジティブ4、ネガティブ1を常に意識しながら、部下とのコミュニケーションを図るようにしましょう。

そもそも、重箱の隅しかつつかない上司と無気力な部下という関係が続くと、双方にとって対話が負担になるため、業務上の最低限の会話のみという状態になり、フィードバック効果の大前提にある、良好なコミュニケーションが難しくなります。

■「ほめるところがない」のは上司と人事の問題

フィードバックの8割はポジティブなものにしてくださいという話をすると、「ポジティブなことを言いたくても、ほめるところが一つもないので、ほめようがないんです」と言ってくる上司の方がいます。そして、「あの人は、本当に困りますよね」など、上司の意見に迎合する人事もいます。

しかし、はっきり言って、それは部下本人にも問題はありますが、主要因は上司と人事の怠慢であり観察眼不足です。もし最初から「ほめるところが一つもない」人材を採用したのであれば採用担当者の責任ですし、最初は能力があったのに活かせていないのであれば配属した人事と配属後の上司に責任があります。

いくら指摘しても問題行動が改善しないのであれば、陰で文句を言わず相応の対応(注意・降格・配置転換・退職勧奨)を行うことも組織として必要な対応です。部下だけを批判する前に、自分たちの責任や改善点に目をむけましょう。

■どうすれば「部下のいいところ」が見つかるのか

実際、部下の行動をよく見ていれば、「ひとつもほめることがない」という言葉は出てこないと思います。見つけようとしていないだけではないでしょうか。見つけられないのは、上司自身の観察眼が不足しているのかもしれません。

人は他人のできていないところに目を向けてしまいがちですが、だからこそ、部下のいいところを見つけようとするスタンスが必要です。

ある技術系の管理職の方から、ある部下について「仕事をお願いしても、わからないことがあるとすぐに諦めてしまう。結局、私や周りに質問してきて自分で解決しようとしない。どうしたらいいのでしょうか?」という相談を受けました。

たしかに、上司からすると自力で解決できないダメな部下ということなのでしょうが、「わからないことを自分で抱え込むのではなく、相談できる姿勢」を持っているということもできます。見方を変えれば、積極的にものごとを解決しようとしているということです。

■部下の行動を要素に分解してみる

私は、その管理職の方に、「諦めが早いのはどうかと思いますが、わからないまま業務を進めるのとどちらが良いですか?」と聞いたところ、「確かにそうだね。早めに相談してわからないことを解決しようとする点はいいところかも」という答えが返ってきました。

難波猛『ネガティブフィードバック 「言いにくいこと」を相手にきちんと伝える技術』(アスコム)
難波猛『ネガティブフィードバック 「言いにくいこと」を相手にきちんと伝える技術』(アスコム)

そこで私は、「その点はほめてあげてください」「一方で、質問をする際には、自分でも調べてみて欲しい旨は伝えてみましょう」とお伝えしました。

他の事例では、「指示されたことしかやらず、積極性が足りない」という上司には「指示されたことを着実に遂行する姿勢自体は否定すべきことではないですよね?」と聞いたところ「その通り」という回答がありました。

であれば、その点はほめて、「今後は、指示されたこと以外も自分で考えて提案して欲しい」と伝えていけば、指示を遂行する姿勢は崩さずに積極性が増えていく可能性があります。全体像として部下をダメと決めつけるのではなく、行動を要素に分解して良い行動を見ようとすれば、それまでは欠点だと思っていた行動のなかにも、ほめるべきポイントが見えてくるはずです。

「ほめるところがない」のは、「こいつはダメだ」と決めつけている上司のスタンスやバイアス(偏見)の問題であることが多いです。

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難波 猛(なんば・たけし)
ミドルシニア活性化コンサルタント
1974年生まれ。早稲田大学卒業、出版社、求人広告代理店を経て、2007年よりマンパワーグループにて勤務。人事コンサルタント、研修講師として日系・外資系企業を問わず2000人以上のキャリア開発を支援。人員施策プロジェクトにおけるコンサルティング・管理者トレーニング・キャリア研修等を100社以上担当。官公庁事業におけるプロジェクト責任者も歴任。

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(ミドルシニア活性化コンサルタント 難波 猛)

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