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こうしてパワハラ上司は激変した…パワハラ専門のカウンセラーが行為者の話を何時間も聴いたあと必ずする話

プレジデントオンライン / 2024年3月19日 6時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/fizkes

パワハラをする人がパワハラをやめることはできるのか。人材育成コンサルタントの松崎久純さんは「カウンセリングで行為者の性格が変わることはないが、行為者がパワハラをしなくなった例はいくつもある」という――。

■パワハラ上司は変わることができるのか

50代会社員の方からのご相談です――私の会社にもパワハラをする社員が少なからずいます。彼らがパワハラをしなくなることはあるのかと思うほど、それぞれスイッチが「入りやすい」あるいは「入ったまま」の性格をしています。こうした人材が、何らかの教育やカウンセリングによって周囲から慕われるようになる。そんなことは実際にあるのでしょうか。

私はパワハラの行為者(パワハラをする側の人)へのカウンセリングを専門に行っています。

カウンセリングをするに至った経緯については、前回の記事を参照していただきたいと思いますが、そんな私がよく聞かれる質問は、「カウンセリングを受けるのはどんな人か」と「カウンセリングでは何を話すのか」です。

それがどんな人かは、まさに質問者の方のおっしゃる「この人が変わることなどあり得るのか」と、同じ職場の人たちに思われている人たちです。

彼らは、自ら望んでカウンセリングを受けるわけではありません。

カウンセリングに申し込むのは、彼らのパワハラ行為により、退職者が相次ぐなどの被害を受けている会社です。

私は依頼を受けて、まずはパワハラ行為者の上司や関係者から話を聞きます。

行為者には、その後、カウンセラーとの面談の準備がある旨を伝えてもらい、本人が同意すれば、面談を実施することになります。

カウンセリングで行為者の性格が変わることはありませんし、それは目的としていることでもありませんが、カウンセリングを受けた行為者がパワハラをしなくなった例はいくつもあります。

■カウンセリングでおこなう6つのこと

ここでは「カウンセリングでは何をしているか」について、お伝えします。それによりカウンセリングから期待できることが、おわかりいただけると思います。

カウンセリングという言葉からは、行為者と会話をするシーンを想像されるかと思いますが、私がカウンセリングと呼んでいるものは、以下がワンセットになっています。

・行為者の上司や関係者から事情を聞く
・(可能であれば)被害者からも事情を聞く
・(行為者には伝えずに行う)行為者の職場への訪問と観察
・パワハラ行為者との面談(1回あたり3時間~6時間)が複数回
・行為者の上司や関係者への報告が複数回
・(可能であれば)被害者への状況説明

■行為者の言い分を十二分に聞く

「カウンセリングでは何を話すのか」。これは多くの方の関心のあることかと思いますが、私が行為者に話しているのは、このプロセスの一部分(=「パワハラ行為者との面談」)でのことに過ぎません。

また、パワハラ行為者との面談では、8割方の時間、(私ではなく)行為者が話をしており、私は順に質問をしていく程度で、ほとんど聞き役に徹しています。

「今日はカウンセラーの私と面談ですが、何が目的かわかっていますか」
「ご自分では、パワハラをしているという自覚はありますか」
「パワハラをしているとすれば、なぜそうなるのですか」
「やっていないとすれば、なぜそういうクレームをされていると思いますか」
「被害者だと訴えている相手について、どう思っていますか」

このような質問を投げかけ、本人の考えや言い分を十二分に聞きます。

行為者の会社生活の様子も含め、他にも尋ねる質問は数多くありますが、私が行為者に「何が正しくて、何が正しくないか」「行為者の言動の何が問題なのか」といったことを説くわけではありません。

耳を傾ける
写真=iStock.com/nicolas_
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/nicolas_

■面談は1日6時間

面談は長ければ、1日6時間ほど続けます。相当に長い時間に感じると思いますが、(当初は私自身がそう感じていましたが、)経験上、このくらい時間をかけるほうが効果的なことが多いのを知っているからです。

この間、私は徹底的に話を聞きます。

私は行為者の主張を否定することはありませんが、必要以上に肯定することも、わざとらしく行為者に寄り添うように振舞うこともありません。

私はただ、行為者の伝えたいことを正確に把握しようと努めます。

面談の目的は、必ずしも行為者の考えや気持ちを理解することではないのですが、それをすることなくして、行為者は(後述する)カウンセラーの私からのアドバイスを受け入れようとはしないからです。

面談で大事なのは、今後もパワハラ行為を続けるのは、本人にとっても得にならず、振舞い方を変える必要がある――このことを理解し、自覚してもらうことです。

面談の終わりには、本人にパワハラ行為をしないように努めると言ってもらいます。

私が説得してそう言わせるのではありません。それが自分にとって大事なことだと理解できれば、本人からそう話すものなのです。

■多くの行為者に刺さる考え方

そんなにきれいに話をまとめることができるのか。そう思われるかもしれません。

どうすれば「パワハラ行為を止めるべき」「振舞い方を変えるべき」と自覚してもらえるのか。マジックワードというほどではありませんが、多くの行為者が同意してくれる考え方があります。

もともと会社が費用を負担してカウンセリングを受けさせる人たちは、仕事の能力や取り組み姿勢については、評価のわるくない人が多く、本人たちも、今後も活躍したいと考えています。

そうであれば、職場に気に入らない相手がいても、あるいは、その人たちのせいで困ることがあっても、そんなところで「パワハラをされた」などと騒がれ、躓(つまず)いている場合ではありません――これが私からのアドバイス(の1つ)で、十分に理解してもらえるよう丁寧に伝えていることです。

長い社会人生活の中で、現在どんな立ち位置にいるのか。職場でハラスメントだと言われ、私のようなカウンセラーと顔を合わせるのは、一体どういうことを意味するのか。こうしたことを客観的に捉えるように促すのです。

聴診器と心臓の絵
写真=iStock.com/Antonio Carlos Bezerra
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Antonio Carlos Bezerra

■不愉快な顧客を担当したら

パワハラとは別の例で考えてみましょう。

あなたの担当する顧客が、いちいち嫌なことを言ってくる人で、あなたの言動について、日々重箱の隅をつつくような難癖をつけてきます。

その相手は、あなたを苛(いじ)めたいというよりは、単にネガティブな性格のようですが、あまりに不愉快です。

あなたはこの顧客が放った一言ひとことを思い出して、憎しみまで感じ、憂鬱(ゆううつ)な気分が続きます。

もう仕事を断ってしまおうか。いや、そんなことはできるはずがない。担当を代えてもらうよう上司に申し出たい。しかし、大事な得意先の担当を降りるのは、自分のキャリアにとってもよいはずがない――こんな悩みがあるとしましょう。

本人にとっては苦しい状況ですが、客観的に見れば、どうするのが正解なのかは、わかるはずです。ここでおかしな行動をとって、躓いている場合ではないでしょう。

大事なのは、その顧客の会社から継続的に受注すること、できればさらに多くの仕事をもらうことです。

簡単だとは言いませんし、我慢することが唯一の解決方法でもありませんが、本当に考えるべきことは、ビジネスのことであり、顧客の性格のわるさのことではありません。

職場での言動が問題視され、カウンセリングを受けるパワハラ行為者――ほとんどの場合、彼らも(自分ではなく)被害者のほうに非があると信じています――が考えるべきことも、この例と同じなのです。

私はこのことを行為者本人に伝えます。「簡単ではないと思いますが、これからは大丈夫そうですか」とも尋ねてみます。

■カウンセラーは聞きながら何をしているのか

複数回に及ぶパワハラ行為者との面談で、聞き役に徹していると述べましたので、そのときに(話を聞きながら)していることについても、少しお話ししましょう。

話を聞いている時間は長いのですが、私は早い段階から、相手が「どのタイプの行為者か」を見定めるようにしています。

わかりやすくするために、ここでもたとえ話を用いましょう――「麺類を大きな不快な音を立てて食べる人」がいるとします。

①麺類を大きな音を立ててすする人の中には、自分がそれをしていることに気づいていない人がいます。【わかっていない人】
②自分がそうしていることは知っていても、気にしていない。それを別に気にしなくてもよいことと思っている人もいます。【気にしていない人】
③また、その行為を不快に思う人がいることを知っていても、関係ないとばかりに、周囲がイヤな気分になるのを気にしない人もいます。【人の気持ちがわからない人】
④さらに、周囲が不快に思うことに逆切れするように、注意されても止めようとしない人もいます。【逆切れする人】
⑤(①から④のいずれかに該当し、さらに)「この人に、その行為を止めさせるのは無理」と思える。そんな相手もいるでしょう。【話してもムダな人】

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写真=iStock.com/akinbostanci
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/akinbostanci

■パワハラ行為者の5つのタイプ

パワハラの行為者もこれと酷似しています。

①自分の行為がハラスメントだと(まるで、あるいはほとんど)気づいていない人。【わかっていない人】
②パワハラ行為があっても、それは許容されることだと考えている人。【気にしていない人】
③相手が傷ついたり、周囲がどう思っても、気にしないか、むしろそれを楽しんでいる人。【人の気持ちがわからない人】
④注意をされても、それに逆切れし、パワハラ行為をやめようとしない人。【逆切れする人】
⑤(①から④のいずれかに該当し、さらに)自制ができない=パワハラ行為を止められない人。たとえば、すぐに怒り出して、言葉の暴力をふるうのを止められない。この人が「カーッとなる」のを防ぐのは無理と思える。【話してもムダな人】

(*①~⑤は、松崎久純「パワハラ行為者の分類 5つのタイプ その1」より)

目の前の行為者が、どのタイプに該当する人なのか。見分けるのは大事で、私から行為者に「ご自分ではどのタイプだと思いますか」と尋ねることもあります。

(複数に当てはまる人もいますが、)そのタイプにより、私から尋ねていく質問も変わるからです。

■「してはいけない」と自覚すれば慣れていく

ご参考までに、行為者が⑤の「自制ができない」〔=話してもムダな相手〕である場合は、(もともと上司や周囲の人は、そのことを知っているものですが、)薬(=カウンセリングの効果)が長続きしにくいため、定期的な面談が必要になりがちです。

②~④のタイプの人たちは、どうすれば音を立てずに麺類を食べられるか。すなわち、スイッチが入りそうなときに、どうやってパワハラ行為を自制するかは、おおよそ自分でわかってはいるものです。

音を立てずに食べることと同様に、それまで試したことがなかったり、思うように上手くできない。そんなことはあるかもしれませんが、「してはいけない」と自覚できれば、次第に慣れていくことが期待できるものです。

次回は、「パワハラ行為者たちが考えていることの共通点」、「彼らの性格における共通点」について考察したいと思います。

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松崎 久純(まつざき・ひさずみ)
サイドマン経営・代表
もともとグローバル人材育成を専門とする経営コンサルタントだが、近年は会社組織などに存在する「ハラスメントの行為者」のカウンセラーとしての業務が増加中。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科では、非常勤講師としてコミュニケーションに関連した科目を受け持っている。著書に『好きになられる能力 ライカビリティ』(光文社)『英語で学ぶトヨタ生産方式』(研究社)『英語で仕事をしたい人の必修14講』(慶應義塾大学出版会)など多数。

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(サイドマン経営・代表 松崎 久純)

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