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ハブの毒は、人間の口で吸い出せ…奄美でハブを40年研究した男が解説「医者も知らない本当に有効な応急処置」

プレジデントオンライン / 2024年3月21日 14時15分

ハブ=2022年10月1日、鹿児島県奄美市 - 写真=時事通信フォト

毒蛇のハブに咬まれたら、どう対処すればいいのか。東京大学医科学研究所で40年間ハブの研究をしてきた服部正策さんは「一刻も早く傷口から毒を吸い出してほしい。誤って飲んでしまっても問題はない」という――。

※本稿は、服部正策『奄美でハブを40年研究してきました。』(新潮社)の一部を再編集したものです。

■ガイドラインには書いていない「ハブ毒への対処法」

そうはいっても咬まれてしまうかもと心配する人もいるはずだ。「咬まれちゃった、どうしよう」とパニックになるのを避けるためにも、本土から奄美に遊びに行く前の心構えとして、「咬まれたときのマニュアル」を知っておきたい人もいるだろう。

まず、医学生が教わる標準的な緊急搬送のガイドラインによると、毒蛇の応急手当は一括りにされている。

咬まれたら何もせずに体を温めて病院に行け。

なぜ体を温めるか。これは凍死したらいけないかららしいのだが、奄美では全く参考にならない。なにせ年間の平均気温は20度を超えるのだ。奄美で凍死する可能性は北極で熱中症に罹る可能性より低い。

そして、ここまで読んでくれたあなたはおわかりのように、毒蛇といってもいろいろな種類がある。毒の成分も、咬まれたときの危険度も違えば対処法も異なる。治療法についても、ガイドラインでは毒蛇に合った血清を打てとしか書いていない。

だから、あなたがハブに咬まれ、その場に標準的な医学生が居合わせたら、何もせずに体を温められ、病院に搬送される。奄美であろうと同じだ。そして、病院でハブに詳しくない医者に診察されたら、ハブに対して万能薬とは言えない血清を打たれるだけだ。

「奄美のお医者さんはみんな詳しいでしょ」と思われるだろうが、そんなことはない。医者が最初の診察を誤ったばかりに後遺症に苦しんだ例は少なくない。

服部さん。奄美で約40年ハブの研究をしてきた。
画像提供=新潮社
服部さん。奄美で約40年ハブの研究をしてきた。 - 画像提供=新潮社

■焦らず、慌てず、吸い出す

それでは、経験の乏しい医者におかしな治療をされないためにあなたはどうすべきか。

ハブの毒性を覚えているだろうか。ハブの毒は成分が複雑で量も多い。入った毒を全て血清で中和はできない。

だから、まず、毒量を減らす必要がある。とりあえず、洗って吸い出すに限る。腫れてきたら、患部がパンパンになって毒液を外に出すのが難しくなるので、「あっ、咬まれた!」と思ったら、焦らず慌てず、吸い出す。それから119番に電話する。

病院に運ばれても、ハブ治療に詳しい医者は同じ対応をするはずだ。咬まれたところを切開して、毒を洗い出して、血清を注射する。後は自然治癒に任せるしかない。最初の数日は患部が腫れて痛いが、1週間程度で日常生活に支障はなくなる。

治療が遅れれば遅れるほど、ハブ毒が作用して回復にも時間がかかる。

最近は治療法も普及してきているが、毒を洗い出さない医者も未だにいる。

■歩行できなくなってしまった知人

私の徳之島の知人は、夜中に寝ているときに家に侵入してきたハブに咬まれてしまった。病院に行ったものの、「あなたは昔、1回咬まれてるから、免疫があるからね」と抗生物質を注射するだけ。慌てたのがこの知人本人だ。私が日頃からハブの治療については、うるさく話していたから夜中に泣きながら電話をかけてきた。「服部さん、ちゃんと治療するように説得して」。

私もそれは危険な対応だなと思って、電話越しに、「切開して、傷口を洗ってから血清を打って下さい」と伝えたが、いかんせんその医者は経験がない。全くわからないから治療の手順を勉強して、ようやく治療に入った際には咬まれてから6時間くらい経っていた。それくらいの時間があればハブ毒は体のあらゆるところに作用してしまう。

その知人が以前に咬まれた際には、日曜日に咬まれて、その週の金曜日には涼しい顔で猟(ハブ獲り)に出ていたが、その時は半年くらいまともに歩けなくなってしまった。いかに初期対応を間違えてはいけないかがわかるだろう。

ハブの抜け殻
画像提供=新潮社
ハブの抜け殻 - 画像提供=新潮社

■毒は飲んでも問題ない

「その場で吸い出せ」と言われても、どうやって吸い出すんだろうかと疑問に思った人も多いはずだ。

結論から述べると、口で吸い出すのが最もポピュラーだ。

一昔前は「ハブ毒を吸い出す時に、虫歯があると歯が全部抜けます」と公然と言われていた。虫歯があったら、吸わない方がいい、もし毒を吸い出したらその場で吐けと文書にまでなって流通していた。

もちろん、そんなことはない。それどころか、おススメしないがハブ毒はごくりと飲んでも問題ない。

私は子供向けのハブ対策の啓発講座で「ハブに咬まれた人が周りにいたら吸い出してあげてね」と話すが、子供にしてみれば「毒を吸い出すなんて怖い」と感じるようだ。もっともだろう。大人ですら一昔前は飲むどころか口に含むだけでも危険と平然と警告されていたのだから。

そうした不安を払拭するためにも少し前まで私は子供たちの前で毒を舐めていた。あるときは歯科医院で抜歯した翌日に「おじさんの歯からは血が出ていますが、大丈夫ですよ」とシャーレに毒を落とし、ペロリとしても問題ない姿を見せていた。

■なぜ飲んでも大丈夫なのか

マングースバスターズの隊員向けに勉強会を開いたときにも、シャーレに絞った毒を私が舐めてみせたら、隊員の西真弘さんが残りの毒を「俺も俺も」と飲み干していた。彼はアレルギー性の皮膚炎持ちだから「大丈夫かよ」と眺めていたが、特に何も起きなかった。結果良ければ全てよしといっていいのかはわからないが。

ハブ捕り名人の南竹一郎さんはもっとすごくて、ハブから毒を絞りに絞って、1匹分を飲み干した。なんでそんな飲み方をしたのかは詳しく覚えていないが、飲んだら翌日に胃が焼けるように痛くなったとこぼしていた。

服部正策『奄美でハブを40年研究してきました。』(新潮社)
服部正策『奄美でハブを40年研究してきました。』(新潮社)

南さんが胃痛になったことと、ハブの毒を人が飲んでも平気なこととは大きく関係がある。ハブの毒がなぜ飲んでも問題ないかは解明されてはいないが、有力な仮説があるのだ。

人間の胃液や腸液を思い浮かべてもらえればわかりやすいだろう。

消化酵素は食べ物を消化するが消化管の粘膜に作用しない。粘液が中和するから、消化酵素は食べ物を溶かしても自分の口の中や胃や腸は溶けない。

ハブ毒も唾液腺が進化した消化酵素だ。だから、ハブ毒を飲み込んでも喉元に刺激を感じるだけで人体に変化は起きないのではないか、と推論を立てられる。

■ハブ捕り名人が胃痛になったワケ

ハブ毒は飲んでも大丈夫だし、皮膚に付いても何も起きないけれども、眼球のように皮膚の下に形成された組織に毒が入ると、つまり目に入ると咬まれた時と同じ症状が起きる。このことも仮説を裏付ける。

とはいえ、人間でも自分の胃の粘膜を自分の胃液が消化してしまってバランスが崩れる場合がある。みなさんもご存じの胃潰瘍だ。南さんがハブ毒を飲んで、胃が痛くなったのも、おそらく胃が炎症を起こしていたのだろう。

南さんは大酒飲みだった。酒が大好きで、飲んでいる人数が多くても私と二人でも、つまり誰とであろうと、焼酎の一升瓶が空になるまで眠らない人だった。ハブ毒をガブ飲みしたことで飲み過ぎによる胃の不調がわかったというわけだ。

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服部 正策(はっとり・しょうさく)
農学博士
島根県生まれ。東京大学農学部畜産獣医学科卒業。東京大学医科学研究所の奄美病害動物研究施設に2020年3月まで約40年間勤務。専門は実験動物学、医動物学。ハブの生態、咬傷予防、ハブ毒インヒビターの研究や、ワタセジネズミ、トゲネズミなど野生哺乳類の研究、実験用霊長類を使用した感染防御実験などを行ってきた。休日や夜間の野生動植物の観察がライフワークで2024年3月現在も続けている。著書に『マングースとハルジオン』(伊藤一幸との共著、岩波書店、2000年)がある。退官後は、島根県の山間部で農業をしながら、奄美の自然を伝える活動や著述に勤しんでいる。

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(農学博士 服部 正策)

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