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「楽天モバイルに移れる人は今のうちに移ったほうがいい」楽天が生き残れなければ、日本の家計は大惨事になる【2023下半期BEST5】

プレジデントオンライン / 2024年3月19日 6時15分

三木谷浩史氏〔写真=Universitätsarchiv St.Gallen (HSG)/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons〕

2023年下半期(7月~12月)、プレジデントオンラインで反響の大きかった記事ベスト5をお届けします。ビジネス部門の第4位は――。(初公開日:2023年11月14日)
楽天グループは12月1日からSPU(スーパーポイントアッププログラム)の還元率を変更することを発表した。経済評論家の鈴木貴博さんは「今回の改定には楽天の生き残りをかけた戦略が打ち出されている。楽天グループの収益の足を引っ張っている楽天モバイルの加入者を増やすことが狙いなのだ。実は、日本経済にとっても重要な意味がある」という――。

■「楽天の生き残り」をかけた戦略が見える

経済評論家の鈴木貴博です。12月1日から楽天のSPU(スーパーポイントアッププログラム)がまた改定されます。今回もネット上では「改悪だ」という声が上がってきました。

楽天のポイントが改定されるたびになぜか私にテレビ取材の依頼が入るので、そのたびにしっかりとチェックするのですが、今回の改定については楽天の戦略がしっかりと打ち出された改定だったというのが私の分析です。キーワードは楽天の生き残りです。

そして今回の記事ではもうひとつ別の問題提起もさせていただきます。楽天が生き残るかどうかということは日本経済にとって重要な意味を持つという話です。以下、楽天ポイントが日本経済とどう関係するのか、一連の話を知っていただきたいと思います。

まずこの記事の前半では楽天SPUの改定について、その戦略を説明します。今回の改定は一部の顧客が「改悪だ」と訴えたと同時に、別の一部の顧客が「逆にポイントがかなり優遇されるようになった」とその改定を歓迎している点が特徴です。

■楽天市場のヘビーユーザーにとっては「改悪」

ひとことでまとめると改悪されるのは楽天プレミアムカードの加入者と楽天市場のヘビーユーザーです。楽天プレミアムカードの会員は還元率がこれまでの4%から2%へと低下するうえに、ポイント還元額の上限が5000ポイントとこれまでの3分の1に下がります。

楽天市場のヘビーユーザーはダイヤモンド会員になっていることが多いのですが、そのダイヤモンド会員でかつ楽天モバイルの加入者はポイント還元率が3倍から4倍に増えます。しかしその一方で、上限がこれまでの7000ポイントから2000ポイントへと大幅に下がります。

計算してみるとこれらの改定でポイントが下がるのは月6万7000円以上買い物をする会員からのようです。楽天市場で毎月多額の買い物をして、ざくざくと楽天ポイントを稼いできた会員が大幅なポイント減になってしまうわけで、その意味で「改悪だ」と声高に叫ぶ気持ちは理解できます。一方で、この改悪が戦略的だと感じられる点は、それでもヘビーユーザーが楽天経済圏から離脱するほどの被害ではないことです。

たとえば楽天プレミアムカードの年会費は1万1000円なので、新しいルールでも年間上限で6万ポイントまで稼ぐことができます。すでに楽天経済圏にどっぷりと漬かっているユーザーなら得をしていることに変わりはありません。楽天のダイヤモンド会員にしても今後も年間2万4000ポイントが獲得できるという点では同じです。

■楽天モバイルの利用者が大幅に得をする設計

一方で今回の改定で得をする人たちがどのようなグループかというと、ひとことで言えば楽天モバイルの利用者が大幅に得をするようになります。私がその典型ですが、楽天モバイルの契約者でダイヤモンド会員以外のいわゆる楽天市場のライトユーザーの場合、これまでの還元率は2%でしたが、12月からは還元率が4%になります。

楽天市場では買い物をするたびにベースとして1%がポイント還元されますから、楽天モバイルに入ると自動的に合計5%までポイント還元されることになります。その4%分の上限が2000ポイントということは月5万円の買い物で上限に達するのですが、ライトユーザーである私の月間のインターネット通販利用額は2万円前後なのでこの点でも上限に触れることはありません。

しかも会員の実人数という点では12月からの改定で得をするライトユーザーの数の方が、損をするヘビーユーザーよりも圧倒的に人数が多いわけで、その意味で今回の改定では「改悪だ」と叫ぶ楽天ヘビーユーザーの声がかき消される傾向が生まれました。

オンラインショッピングのイメージ
写真=iStock.com/Abdullah Durmaz
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Abdullah Durmaz

■一部のヘビーユーザーより、500万人の楽天モバイル会員をとった

結局のところ「楽天モバイルを契約すると楽天経済圏でとても得をするようになった」と歓迎するユーザーの数が多いのが今回の改定の特長です。楽天モバイルの契約数はじわじわと増加していて今年8月に500万回線を突破しました。

楽天モバイルが巨額の赤字を生むという現在の状況では、楽天グループが限られたポイント原資を誰に振り向けるかは生き残りのためには大きな意味を持ちます。今回の改定は、一部のヘビーユーザーが怒りを表明しようとも、それよりも500万人の楽天モバイル会員から感謝の声があがる仕組みにしようという改定です。戦略的な意味としては、楽天モバイル加入者が増える方向に力学が働きますから、企業戦略として考えれば合理的な改定です。これがこの記事の前半の結論です。

さて、ポイント改定にそのような意味があるとして、その裏にもうひとつの論点があります。楽天が生き残るかどうかという大問題です。この記事の後半では、この楽天問題が日本経済にとって重要な意味を持つということをお話ししたいと思います。

■楽天モバイルへの巨額な投資がグループの足を引っ張っている

楽天モバイルへの巨額な投資は楽天グループ全体への収益の足を引っ張り続けています。この状況が好転するためには楽天モバイルの加入者が増加する以外に方法はありません。

この視点で言えば、良いニュースが2つあります。一つは楽天モバイルが悲願のプラチナバンドを獲得したことです。現在楽天モバイルが使っている周波数帯はビルの中などには電波が届きにくいという欠点があります。実は楽天モバイルはこれまで基地局に巨額な投資をしてきた結果、都市部であればかなりつながりやすくなってきています。かつてのお試し無料の時代に、楽天モバイルをサブ機として使ってみて「つながらないな」と感じて解約したユーザーが一定数いたのですが、その前提は大幅に変わっています。

現在、楽天モバイルがつながりにくいと感じる人たちは、オフィスの自分の席がビルの奥側にある人や、自宅の自室がマンションの内側にある人などで、この欠点がプラチナバンドの獲得で今後は緩和されていくことが期待されます。

iPhone
写真=iStock.com/grinvalds
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/grinvalds

■楽天グループ苦境の原因は「大手3社の大幅値下げ」

もうひとつの追い風はライバルである携帯3社が新プランでそれぞれ値上げを試みていることです。そもそもの楽天グループの苦境の原因は、菅政権が推進したスマホ価格の大幅な値下げでした。それまで大手3社の基本プランは月額7000円だったところを、総務省の指導の形でそれぞれ2980円前後という格安プランを導入させたのです。

楽天モバイルは月間利用ギガ数が無制限で上限2980円(税抜)という低価格が売りだったのですが、その強みが菅政権の政策によって消滅してしまいました。ところがこの値下げプランは大手3社にとってもダメージがあったようで、各社「実質値上げ」をしています。3社が値上げ方向にプランを揺り戻す動きが強まれば、楽天モバイルの価格優位が再び力を持つようになります。

このようにプラチナバンドの獲得と、大手3社の実質値上げは楽天モバイルにとっての追い風になってはいるのですが、結局のところ500万回線の契約数が倍の1000万回線へと増えていく道筋が見えない限り、このままでは楽天グループは経営破綻するリスクを抱えているというのも真実です。

■アマゾン値上げを牽制する「楽天」の存在

ではもし楽天グループが経営破綻するようなことがあれば何が起きるのでしょうか。確実に起きることは、さまざまなネットサービスの大幅な値上げです。

たとえばアマゾンプライムの年会費です。アマゾンプライムの年会費は今年8月、それまでの4900円から5900円へと値上げされました。アマゾンの送料が無料になるプライム会員にとって、値上げは打撃ではあるのですが、実は海外のアマゾンプライム会員の年会費と比較して日本の年会費は激安な設定になっています。

アメリカのアマゾンの年会費は139ドルで、これは1ドル=150円のレートで換算すれば年額2万850円に相当します。日本の年会費が3分の1よりも少ない理由は何かというと、アマゾン本社から見れば日本に楽天市場が存在することがその最大の理由です。アメリカと同じようにプライム会費を2万円に値上げすれば、アマゾンを離脱する会員が大幅に増加するでしょう。その受け皿として楽天市場が存在することを考えると、アマゾンは安易に価格を値上げするわけにはいきません。

アマゾンプライムの年会費が低く抑えられていることで連鎖的に起きているのは海外のサブスクサービスの低価格化です。アマゾンビデオの視聴者が直接のライバルとなるネットフリックスは、スタンダードプランの月額利用料を990円に抑えています。ネットフリックスはアメリカではスタンダードプランの月額は15.49ドルで円換算すれば月額約2300円ですから、日本の価格は半額以下に設定されていることになります。

音楽のサブスクのスポティファイも同様で、アマゾンミュージックの価格が安く設定されていることから日本ではスタンダードなプランの月額は980円。これに対してアメリカでは10.99ドル(約1650円)とやはり割高です。

ヘッドフォン
写真=iStock.com/eclipse_images
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/eclipse_images

■楽天経済圏が崩壊するとき、値上げラッシュが起きる

このように楽天市場が存在することでアマゾンが牽制され、アマゾンの低価格のおかげで他のサブスクが牽制されるという構造が、わたしたち日本人のネット生活を快適にしています。

スマホ料金も同じで楽天モバイルが存在することで、携帯3社があそこまで格安な携帯プランを用意することになったわけで、楽天モバイルがなくなってしまえばスマホプランは以前に戻ることはなくても月額4000~5000円の水準に逆戻りしてしまうでしょう。

私は本業の戦略コンサルタントとしては実は一度も楽天グループと仕事をしたことはありません。むしろ他の携帯キャリアやサブスクサービスの仕事をしてきていて、その意味で楽天グループの存在はこれまで目の上のたんこぶのような存在に感じてきました。

その立場であらためて楽天が存在するという構造について考えると、日本経済全体から見れば壊れないほうが庶民へのメリットは大きいのです。あくまで中立の立場でお伝えすると、楽天モバイルに移ることができる人は、いまのうちに楽天モバイルに移ったほうがいい。そうしないと日本のネット生活を裏で支えてきた楽天経済圏というエコシステムは、いつ崩壊するかわからない。そしてそれが崩壊するときは、他社のサブスク料金が一斉に値上がりし始めるときなのです。

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鈴木 貴博(すずき・たかひろ)
経営コンサルタント
1962年生まれ、愛知県出身。東京大卒。ボストン コンサルティング グループなどを経て、2003年に百年コンサルティングを創業。著書に『日本経済 予言の書 2020年代、不安な未来の読み解き方』『「AIクソ上司」の脅威』など。

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(経営コンサルタント 鈴木 貴博)

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