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「メニューがタブレットだけ」ではダメ…びっくりドンキーが「木製の巨大メニュー」の廃止で気づいたこと

プレジデントオンライン / 2024年3月27日 10時15分

かつてびっくりドンキーに置かれていた木製の巨大メニュー。※現在の内容と異なります。 - 画像提供=アレフ

ハンバーグチェーン「びっくりドンキー」は、2020年から利便性の向上を目的に木製のメニューをタブレット端末に完全に置き換えた。だが、現在はタブレットと紙のブックメニューの両方をテーブルに置いている。なぜ一度は廃止した紙のブックメニューを復活させたのか。経済ジャーナリストの高井尚之さんが運営会社のアレフに聞いた――。(前編/全2回)

■なぜ「びっくりドンキー」は好きなレストランの常連なのか

ハンバーグ専門店として全国に店舗がある「びっくりドンキー」(国内店舗数343店、2024年2月末時点)は、各社が行う「好きなレストランチェーン調査」で毎回上位に入る人気店だ。国内47都道府県のうち、鳥取県と島根県を除く全国各地に店を展開し、本拠地の北海道に次いで近畿圏や首都圏でも人気が高い。

外食産業が大打撃を受けたコロナ禍当初の2020年は、外出自粛や営業時間短縮の影響で苦戦したが、同年秋以降は回復。コロナ明けの現在も好調を維持する。運営する株式会社アレフ(本社:北海道札幌市)は、「2019年の同期比で売上高は121.7%、1日1店当たり来客数は105.8%と、コロナ前よりも多くの方にご来店いただいています」と話す。

前身の店である岩手県盛岡市「ハンバーガーとサラダの店・べる」が開業したのは1968(昭和43)年だ。なぜ半世紀を超えても人気が続くのか。東京都内の繁盛店を訪れて責任者に話を聞いた。前編・後編の2回に分けて紹介したい。

■常連の客ほど、ワンプレートで頼む

「今年で創業55年となり、社内でもびっくりドンキーの特徴をあらためて整理しました。大きく5つに分けられると思います」

FC店舗運営部部長の堀雅徳さん(アレフ びっくりドンキー店舗運営本部)はこう話す。埼玉県出身の堀さんは、宝塚、加古川、八尾など関西地方の直営店店長を歴任し、現職の前は西日本店舗運営部部長を務めた。堀さんが語るびっくりドンキーの5大特徴は次のとおりだ。

(1) 創業当時から「ハンバーグ」が看板商品
(2) 料理を木の皿にのせた「ワンプレート」で提供
(3) 食材への「びっくり」なこだわり
(4) コーヒー、ビールは「自社製造」
(5) 「時間帯別に楽しめる」メニューがそろう

それぞれ簡単に説明しよう。現在、飲食店は専門型の時代だ。和食・洋食・中華の総合型で人気のファミレスもあるが、全体的には(1)のように、何かに特化した専門店が強い。

また(2)は、1つの皿にライスやサラダを盛り合わせたワンプレートで料理が提供される。競合の多くは鉄板での提供でライスやサラダは別々だ。びっくりドンキーにも鉄板はあるが注文数は少ない。「常連のお客さまほど、ワンプレートで頼まれます」(堀さん)。

(3)は、「たとえば安心・安全への追求です。ハンバーグの肉はビーフとポークですが、自社の厳しい基準で飼育された牛や豚を国内外の契約農場から調達しています。ライスは国内産で、20年以上前から農薬使用を除草剤1回だけに制限したお米を使います」と話す。

■店の名物「大きな木製メニュー」をなくしたが…

店名のように、長年、お客さんに“ちょっとびっくりしてもらう”取り組みを進めてきた。食材へのこだわりだけでなく、外観や内装もそうだ。

全店舗343店のうち、「直営店が130店:FC(フランチャイズチェーン)店が213店」と聞くが、特に西日本のFC店はFCオーナーの意向で、テーマパークのような外観も多い。

また、店内は木質材やアンティーク小物などを駆使し、ボックス席が中心だ。かつては「おもちゃ箱をひっくり返したよう」と言われた。

現在は、

① 緑の壁紙(自然のイメージ)
② ウッディーな造り(手づくりの温かいイメージ)
③ くつろぎ(どこか懐かしい装飾品)

という3テーマに基づく。随所に、ちょっとびっくりは健在だ。

なかでも、店の象徴ともいえるのが大きな木製の扉(観音開き)型メニューだ。このメニューで注文した人も多いだろう。

最も多い時で全国の320の店舗で導入されていた。だが、最近はタブレットでの注文(同社はテーブルトップオーダーと呼ぶ)に切り替えている。

「タブレットは2020年に南池袋店(東京都豊島区)に導入したのが最初です。主な目的は利便性向上で、席に座ってから料理が届くまでの時間が圧倒的に早くなりました。お客さまからは『オーダー時に店員さんが来るのを待たなくていい、細かい注文がボタンひとつですむ』『トッピングやご飯の量変更、追加オーダーなどがしやすい』という声も寄せられています」

アレフのFC店舗運営部部長の堀さん
プレジデントオンライン編集部撮影
アレフのFC店舗運営部部長の堀さん - プレジデントオンライン編集部撮影

■店側の考える便利とお客の便利が同じとは限らない

こう話す堀さんだが、「木製や紙のメニューからタブレットへ完全に切り替え」とはいかなかった。

「好評の声の一方で、『木製や紙のメニューのほうが見やすく、みんなで選びやすい』や『びっくりドンキーならではのドキドキ・ワクワク感が減った』という声も寄せられたのです。DX(デジタルトランスフォーメーション)はお客さまの便利のために行っていますが、私たちの考える便利とお客さまの便利が違っていたら、すぐに変更するべきだと考えています。そこで改善に乗り出しました」(堀さん)

一度は撤去した紙のブックメニューを、タブレット機器の近くに置くようにしたのだ。現在、タブレットの導入店では、すべての席で紙のブックメニューを設置している。

「注文時にタブレットに『人数』を入れると、おなじみの木の扉が開きメニューが出てくるなど、びっくりドンキーならではの遊び心も用意しています。まだタブレットは全店の約3割にしか導入されていませんが、一度体験していただければ幸いです」(同)

店舗に置かれているタブレットとメニュー
プレジデントオンライン編集部撮影
店舗に置かれているタブレットと紙のメニュー - プレジデントオンライン編集部撮影

■DXによる効果

タブレット導入店には同時に自動精算機も設置した。近年は多くの外食チェーン店で、注文をタッチパネル、支払いをセルフレジにするなど、DXも進めている。注文ミスが減り、レジ締め作業も短縮するなど店のメリットは大きい。

だが、長年の常連客ほど戸惑うようだ。操作に苦労する人は高齢者以外でもいる。自動精算機なら、たとえばバーコードの読み取り部分が機械によって違うのもあるだろう。

IT社会が浸透するまで年数がかかったように、ある程度の猶予期間が必要かもしれない。

「『タブレットの操作がしにくい』という声もあり、操作性についても見直しを行っています。もし使いにくい場合はお気軽に従業員にお声がけください」(堀さん)

■実はコーヒーもビールも自社製造

年に8回行う期間限定イベントも同店名物だ。最も人気が「ドンキー満喫セット」。びっくりドンキーのメニューから好きな商品を選び、自分なりのコース料理を組み立てて通常よりお得に楽しめるものだ。

今回、「学生時代からびっくりドンキーは大好きで、今でも池袋に行くたびに利用するほど。『ドンキー満喫セット』が出るとテンションが上がります」という20代女性の声も聞いた。

また、びっくりドンキーは(4)の自社製造にも注力する。店で提供するコーヒーは札幌市にある自社の工場で焙煎している。原料のコーヒー豆はグアテマラ、エチオピア、ペルー、ブラジルなどの豆だ。大手コーヒーチェーンでは「ドトールコーヒーショップ」の国内焙煎が知られているが、レストランチェーンでは珍しい。

びっくりドンキーでは、2年前には期間限定で、珈琲キャンペーンを行うなど普及に努めた。だが、まだ自社製造はあまり知られていない。

ビールは北海道小樽市の醸造所で、1516年にドイツで制定された「ビール純粋令」を基につくられている。小樽運河沿いには醸造所直営のビアレストランもある。

おなじみの楕円形ハンバーグに比べて目立たないが、自社製造の取り組みも実を結びつつある。それは先に述べた「(5)時間帯別の利用」に対応しやすいのだ。

■顧客を置いてきぼりにはしない

かつてファミリーレストランは、日付をまたいだ深夜営業も人気だった。それが利用時間帯の変化や従業員の働き方改革などで難しくなり、実施する店が減った。

びっくりドンキーでは「関町店」(東京都練馬区)が深夜2時、八王子店が3時まで営業するが、大半の店は午前0時で営業終了だ。代わって朝の8時から営業する店が増えた。

「コロナ前から深夜時間帯のご利用は減っていました。一方で“朝活”という言葉があるように朝の時間帯に注目しており、コロナ禍で背中を押されるようにモーニングメニューを導入したのです」(堀さん)

くわしい内容は後編で紹介するが、2020年4月に宮城県内の7店舗で朝8時開店に変更してモーニングメニューを導入したのを皮切りに、実施店舗を拡大させてきた。

同年には別業態の「ディッシャーズ」(Dishers)というブランドを立ち上げた。

「『びっくりドンキーに興味があっても女性1人では行きにくい』という声にも応え、ディッシャーズでは1人客用の座席も設けました。お客さまご自身でタブレット端末を使い、ひとつのお皿の中で自由にメニューをカスタマイズできます」(同社)

ディッシャーズのタブレットが形を変えて、びっくりドンキーにも導入されているのだ。だが、前述したように顧客を置いてきぼりにはしない。

びっくりドンキーの「ドンキー」はロバの意味。創業者の庄司昭夫氏が「優しいまなざしで人々の暮らしに寄り添うロバのように」という思いを店名に込めた。DXでも時に立ち止まるのはその意味だろうか。(後編に続く)

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高井 尚之(たかい・なおゆき)
経済ジャーナリスト/経営コンサルタント
学生時代から在京スポーツ紙に連載を始める。卒業後、日本実業出版社の編集者、花王情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画・執筆・講演多数。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。

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(経済ジャーナリスト/経営コンサルタント 高井 尚之)

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