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「かゆみ」を我慢できないのと同じ…ギャンブル依存症の人の脳内で起きている「負の強化」という不快現象

プレジデントオンライン / 2024年4月2日 8時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/John Kevin

なぜ、「わかっちゃいるけどやめられない」のか? 快楽を求めて依存物にハマればハマるほど不快度が増していく依存症という病。精神依存の治療を専門にする医師・中山秀紀さんの解説からその複雑な正体に迫る――。

※本稿は、中山秀紀『スマホ依存から脳を守る』(朝日新書)の一部を再編集したものです。

■依存症の二面性とは?

依存症の正体について、見ていきましょう。

そもそも依存症の根幹となる症状は、「精神依存」と呼ばれるものです。

「精神依存」とはその名の通り、「精神的に依存する」ことですが、これには「正の強化」「負の強化」という二つの側面があります。

アルコールや違法薬物などの物質依存症は脳内報酬系モデルから論じられるようになりましたが、ギャンブルやゲームなどの行為の依存症でも同様のことが起こります。

〈正の強化〉

まずは、「正の強化」すなわち「快楽を得られるから依存物を使用する」側面から見ていきましょう。

依存症の人が依存物を使用するのは、「快楽」を得るため、という前提条件があります。快楽を得たい。気持ちよくなりたい。そのために依存物を使用することを、「正の強化」といいます。

■快楽の消失はガマンできても…

しかし、「正の強化」だけでは依存症を説明し尽くしたことにはなりません。

たとえば、依存症ではない普通に「ゲームが好きな子ども」も「快楽」を求めてゲームをしますし、依存症ではない普通に「酒好きな人」も「快楽」を求めて酒を飲みます。つまり、多くの日常的な局面において「快楽」がなくなるのを我慢することは、それほど難しいことではないのです(ただし違法薬物などによる強い快楽に関してはその限りではありません)。

もしも「快楽」がなくなるのが我慢できないのであれば、子どもたちは遊園地から帰ることができなくなってしまいます。遊園地は子どもたちにとって「快楽」をもたらし、遊園地から帰ることはその「快楽」が消失することを意味します。遊園地の閉園時間近くになると、小さい子どもが帰りたくないといって出口で泣き叫んでいるのを時々見かけますが、ある程度の年齢になると、もっと遊んでいたいと思っていても、(「快楽」がなくなることを我慢して)おとなしく帰ることができます。

この段階では、依存症は生じていません。依存症にはじつは、「正の強化」の他に、次に説明する「負の強化」が関わってくるのです。

■不快をガマンすることは難しい

〈負の強化〉

「負の強化」とは、「不快を解消するために依存物を使用する」側面です。

依存症になると、依存物を止めると「不快」になります。

この「不快」は「イライラする」、「ムシャクシャする」、「物足りない感じがする」、「空虚な感じがする」、「うつ」、「不安」など様々な形で現れます。

人は「不快」になると何とか早くそれを解消しようとして、思考・視野が狭くなることがよくあります。他の「不快」の解消手段もあるのに、慣れ親しんだ依存物を使って、「手軽」に「不快」を解消したくなります。

一般的に人は、「快楽」がなくなることを我慢するのはさほど困難ではないのですが、「不快」を長期間我慢することは難しいようです。私たちの脳は、快楽の消失は諦められても、不快を我慢し続けることは困難なのです。

歩道橋の上で途方に暮れている女性
写真=iStock.com/AH86
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/AH86

■「負の強化」は意思の力が及ばない

「負の強化」による生理的な不快さは、軽度であっても、かなりやっかいなものです。

長期間続く生理的な不快さは、「虫刺されによるかゆみ」にたとえることができます。

夏に肌を露出して外出すると、蚊などの虫に刺されることがありますよね。蚊は我々の血を盗んでいくだけならまだしも、アレルギー反応が出る唾液を置いていきます(さらに病原体も置いていくことがあります)。そして蚊に刺されて薬もつけずにそのまま放置しておくと、その後数日にわたって「かゆみ」という不快さが生じます。

そんな「かゆみ」を我慢できずに衝動的に搔いてしまう――それは、どんなに我慢強く、精神力の強い人であっても、「負の強化」を精神力で我慢し続けることは難しいことの現れでもあります。

意思の力で「負の強化」に抗うのはさほどに難しいことなのです。

「依存物を使用中の依存症の人」は、「依存症ではない人」に比べて、総じて精神状態が悪い傾向にあることが知られています。これはアルコール依存症でもインターネットやゲーム、ギャンブル依存症でも同様です。

しかし、ここで不可解なことが生じます。依存症の人は、依存物を使用するという「快楽」をたくさん得る行為をしているはずなのに、なぜ「不快」になってしまうのでしょう?

■快楽で不快さが増大する?

実際、楽しく遊びまわっている人は一見、幸せそうに見えます。しかしながら依存症の人は、依存物の使用によって快楽を得ても不快さが消えないという事態に陥ります。

なぜなのでしょう?

いくら依存物で「快楽」を得ようとしても、もともとの「不快」が強いせいでなかなか解消されないのではないか? とも考えられますが、実はそうとはいえません。

依存症の人は、半端ではない量の依存物を使用していることが多くあります。たとえば、ゲーム依存症の人であれば一日十数時間ゲームをプレイしているとか、アルコール依存症の人であれば一日あたり日本酒一升(1.8リットル)の飲酒をするなどです。そんなに「快楽」を得る活動をしているのにもかかわらず、不快さはちっとも解消されていないのです。むしろ不快さが増大するという、おかしなことが起きるのです。

スマホに没頭している男性
写真=iStock.com/metamorworks
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/metamorworks

■依存物は抗えない不快を増していく

結論からいえば、依存物は逆の作用をもたらすのです。

つまり、依存症になってしまうと、快楽をもたらすはずの依存物を使えば使うほど、依存物を使っていないときの不快度は増してゆくのです。詳しく説明しましょう。

人は「快楽」を得るために依存物を使います。「快楽」を得ることによって、より「幸福」になろうとします。

ところが依存物を使いすぎて依存症になると、依存物で「快楽」を得られる(正の強化)ものの「幸福」というゴールに至るのではなく、依存物を使わないときにはいつも「不快」(負の強化)が生じてしまうのです。

依存症の人はしばしば、依存物を使用する間は「快楽」を得られるので、それに満足して「幸福」になれると信じて使い続けます。しかし同時に、負の強化も進行していきます。そして実際には、いつの間にか、自らが依存症の負の強化によって「不快」になっていることに気づきにくくなります。

依存症の人は依存物の使用によって快楽を得ても不快さが消えないという事態に陥る
出典=『スマホ依存から脳を守る』(朝日新書)

■快楽を得ても不快になる恐ろしさ

もちろん依存物をたくさん使用することによって、たとえばアルコール依存症の場合、多量飲酒によって肝臓が悪くなる、ギャンブル依存症の場合にはお金がなくなる、人間関係が悪くなる、インターネット依存症やオンラインゲーム依存症の場合は学業成績が不振になるなど、依存症特有の悪影響によって「不快」になる場合もあります。

中山秀紀『スマホ依存から脳を守る』(朝日新書)
中山秀紀『スマホ依存から脳を守る』(朝日新書)

それらの悪影響による「不快」解消のために、さらに依存物を使うこともあるでしょう。しかし世の中には肝臓が悪いことや、お金がないこと、人間関係が悪いこと、学業成績が不振になることをあまり気にしない人もいます。そういう人たちでも、依存症の負の強化によって脳内が「不快」になると、やはりその解消のために依存物から離れがたくなってしまうのです。

要するに、依存症者の場合は、快楽をもたらす依存物を使えば使うほど、その人の不快度は増していきます。

依存症者にとっても、その周囲の人にとっても、依存物による「快楽を得られるけど不快になる」のを体感的に理解しにくいということが、この病の最もやっかいなところかもしれません。こうして依存症という病は重篤化してしまうのです。

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中山 秀紀(なかやま・ひでき)
旭山病院精神科医長
1973年、北海道生まれ。医学博士、医療法人北仁会旭山病院精神科医長。専門領域は、臨床精神医学、アルコール依存症。2000年、岩手医科大学医学部卒業。04年、同大学院卒業。岩手医科大学神経精神科助教、盛岡市立病院精神科医長を経て、10年より久里浜医療センター勤務。同年、「第45回日本アルコール・アディクション医学会優秀演題賞」受賞。19年、「第115回日本精神神経学会学術総会優秀発表賞」受賞。11年より、インターネット依存症治療部門に携わる。同センター精神科医長を経て、20年4月より現職。

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(旭山病院精神科医長 中山 秀紀)

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