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なぜ「洗剤を食べるチャレンジ」が大流行したのか…P&Gの「食べないで」ツイートが逆効果になったワケ

プレジデントオンライン / 2024年4月4日 13時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Juanmonino

人はなにかを禁止されると、かえってそのことが気になり、やりたくなってしまう。一体なぜなのか。ペンシルベニア大学のジョーナ・バーガー教授は「人間は本能的に自由を取り戻そうとする作用が備わっている。心理学的には『心理的リアクタンス』と呼ばれるものだ」という――。

※本稿は、ジョーナ・バーガー『THE CATALYST 一瞬で人の心が変わる伝え方の技術』(かんき出版)の一部を再編集したものです。

■人間には「反発システム」が生まれながら備わっている

心の変化を妨げる主な障害のひとつに、「心理的リアクタンス」がある。「心理的リアクタンス」とは心理学の用語で、「何かを選択する自由が外部から脅かされたときに生じる、自由を取り戻そうとする反発作用」という意味だ。

人間は押されたら本能的に押し返す。ミサイル防衛システムと同じように、こちらに向かって飛んでくるミサイルを検知したら、自動的に反撃に出る。人間には、自分を説得しようとする力に反発するようなシステムが生まれながらに備わっている。

このシステムの作動を阻止するのがカタリスト(変化の触媒)の役割だ。こちらが相手を説得するのではなく、相手が自分で自分を説得するように持っていく。

■アメリカで流行した「洗剤食いチャレンジ」

ひとつの例を挙げよう。

2018年はじめ、プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)社はPR上のちょっとした問題を抱えていた。

P&Gが販売していた、固形のタブレット「タイド・ポッド」を、人々が食べるようになったのだ。

いわゆる「タイド・ポッド・チャレンジ」は、最初はジョークとして始まった。洗剤の入ったプラスチックのパッケージは、鮮やかなオレンジと青の渦巻き模様で、見るからにおいしそうだった。それに大きさもちょうど一口サイズだ。

アメリカの風刺新聞「ジ・オニオン」に「洗剤ポッドがあまりにもおいしそうだから食べることにした」という冗談記事が掲載されると、本当にタイド・ポッドを食べ、その動画をネットに投稿することが若者の間で大流行した。

そこでP&Gは、販売元の会社として当然の対応をした。洗剤を食べてはいけないと警告を出したのだ。2018年1月12日、タイドはこんなツイートをした。

■「禁止」ツイートが逆効果に

「タイド・ポッドの正しい使い道は? もちろん洗濯だ。それ以外の使い道は存在しない。タイド・ポッドを食べる? 絶対にダメ!」

さらにダメ押しが必要だと思ったのか、P&Gはアメリカンフットボールのスター選手ロブ・グロンコウスキー(愛称グロンク)を起用して短い動画を作成した。

「タイド・ポッドは食べても大丈夫ですか?」という文字に続けてグロンクが登場し、カメラに向かって人差し指を振りながら「ノー、ノー、ノー、ノー、ノー」と言う。

しかし残念ながら、これで事態は収拾がつかなくなってしまった。

グロンクの動画が公開されると、洗剤の誤飲で病院に担ぎ込まれる人も急激に増加したのだ。

動画が投稿されてから2週間足らずの間に、パック型洗剤を飲んだり吸い込んだりして病院で治療を受けたケースが2倍になった。さらに数カ月後になると、過去2年分を合わせた数の2倍にまで増加したのだ。

つまり、タイドの対策は完全な逆効果だったということだ。

■「警告」が「推薦」の言葉になってしまう

このタイド・ポッド・チャレンジ騒動は特殊な例だと思うかもしれないが、むしろ一般的な現象の一例だと考えたほうがいいだろう。

つまり、禁止は得てして逆効果になるということだ。

たとえば、認定されない証拠は参考にしてはいけないと言われた陪審員は、むしろその証拠に引きずられて判断する。お酒を飲んではいけないと言われた大学生は、かえってお酒が飲みたくなる。そしてタバコは体に悪いと言われ続けると、かえって興味がわき、将来喫煙者になる確率が高くなるのだ。

こういった状況では、警告はむしろ推薦の言葉になる。10代の子供に「あの人とデートしてはいけません」と言えば、その人にますます夢中になるだろう。人は何かを禁止されると、かえってそれがやりたくなることがある。

■自由が与えられた入居者、選択の自由がない入居者

1970年代の終わり、ハーバード大学とイェール大学の研究チームが、禁止が持つネガティブな効果についての研究を発表した。

研究チームは、アーデン・ハウスという地元の老人ホームと協力し、ある簡単な実験を行った。入居者を住んでいる階ごとに分類し、ある階に住んでいる入居者には、かなり広範囲にわたる選択の自由を認める。

自由な階に住んでいる入居者は、部屋の家具や内装を自分で選べ、家具の配置を換えたければスタッフにやってもらうことができる。自由時間の使い方も、他の入居者に会うかどうかも自分で決められる。それに苦情や要望を伝えれば、きちんと対応するということも知らされている。

彼らの自由はそれだけではない。箱に入った鉢植えの植物を見て、自分で世話をしたい植物をその中から選ぶこともできる。もちろん世話をしないという選択肢もある。また週に2日は夜に映画を観ることができるのだが、実際に観るかどうか、もし観るならどちらの日に観るかは自由に決められる。

別の階の住人も同じような環境で暮らすのだが、選択の自由は与えられない。部屋の内装は、入居者の居心地を第一に考えてスタッフが決める。部屋には鉢植えの植物が置いてあるが、世話はスタッフの仕事だ。そして映画を観る曜日も決められていて、観ないという選択肢はない。

■人間には自由と自主性が必要

しばらくしてから、研究チームは入居者の追跡調査を行った。

その結果、両者の違いは予想以上に大きかった。自由を与えられた入居者は、より快活で、行動的で、認知能力も高かったのだ。しかしさらに驚くべきは、その長期にわたる効果だ。

18カ月後、研究チームが2つのグループの死亡率を調査したところ、自由を与えられたグループの死者はもう1つのグループの半数以下だった。どうやら、自分の人生を自分で決めることができるという感覚には長生き効果があるようだ。

人間には自由と自主性が必要だ。私たちは、自分の人生や行動をコントロールできるという感覚を求めている。単なる偶然や、他者の気まぐれに左右されるのではなく、自分で選びたいと思っている。

その結果、人は自主的に行動する権利を手放すのを極端に嫌うようになった。選択の自由によって幸福度が下がるとしても、それでも選択の自由があるほうを選ぶほどだ。

■「禁断の果実」は甘みが増す

先ほど紹介した老人ホームでの選択権の研究を見れば、P&Gがタイド・ポッドのキャンペーンで失敗した理由がわかるだろう。人間は選択肢や行動を制限されるのを嫌う。自分の行動は自分で決めたいという強い欲求があるのだ。

この大切な自由が奪われそうになると、人は本能的に反発する。何かをしてはいけないと言われるのは、個人の自主性に対する侵害に他ならない。自分の行動は、あくまで自分の意志から生まれていなければならないのだ。

そのため、人は自分の自由を奪う存在に反発する。いったい何の権利があってこの私に命令するのか。運転中にメールを打つのも、立ち入り禁止の芝生で犬の散歩をするのも、私の自由ではないか。私には自分のやりたいことをやる権利がある!

自分の行動を自分で決める能力が奪われると、あるいは奪われそうになるだけでも、人間は大きな警戒心を持つ。そして、自分のコントロールを取り戻す方法の1つが、禁止された行動をあえて行うことだ。運転中にメールを打ち、立ち入り禁止の芝生で犬を放し、そしてあろうことか、洗剤パックにあえて噛みついたりするのだ。禁止されていることをするのは、主導権を取り戻す簡単な方法でもある。

運転中にメールを打つこと自体は、それほど楽しいことでも、どうしてもやりたいことでもなかったかもしれない。しかし禁止されることで、なぜかやりたくなる。禁じられた果実は、さらに甘さが増す。なぜかというと、それを食べるという行為には、自主性を取り戻すという意味もあるからだ。

何かを禁止すると、心理学の世界で「心理的リアクタンス」と呼ばれる現象を引き起こす。心理的リアクタンスとは、自由が奪われた、あるいは奪われそうになっていると感じるときに生まれる不快な状態だ。

■相手に選択肢を与える

変化を仲介する1つの方法は、相手に進む道を選ばせることだ。目的地はあなたが望む場所なのだが、そこまでの行き方は相手に決めてもらう。

子供がいる人なら、この方法を日常的に使っているだろう。小さな子供に特定の食材を食べさせようとする努力はたいてい失敗に終わる。ブロッコリーや鶏肉がそもそも好きでないのなら、むりやり食べさせようとしてもさらに抵抗されるだけだ。

そこで賢い親は、子供に選択肢を与えるという方法を選ぶ。

「どっちを先に食べたいかな? ブロッコリーにする? それともチキンにする?」

選択肢を与えられた子供は、この状況で主導権を握っているのは自分だと感じることができる。「ママもパパもむりやり食べさせようとしていない。食べたいものを自分で選べるんだ」

AとBを比較する女性
写真=iStock.com/metamorworks
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/metamorworks

■子育てにも採用面接にも応用できるテクニック

しかしママとパパは、選択肢を決めることで、最終的な決断に影響を与えている。小さなリザは、めでたくママとパパが食べてほしいと思うものを食べた。ただ食べる順番を自分で選んだだけだ。

子供を病院に連れていって注射をしてもらわなければならないときは、「右腕にしてもらう? それとも左腕がいい?」と尋ねる。子供に寝る準備をさせたいときは、「先にお風呂に入ってから歯を磨く? それとも先に歯磨きをしてからお風呂にする?」と尋ねる。

この「誘導型の選択」と呼ばれるテクニックを使えば、子供にある程度の選択の自由を与えながら、親は望みの結果を手に入れることができる。

これは親だけでなく、採用面接を担当する上司も使えるテクニックだ。求職者は、条件の交渉をするのは当然だと思っている。だからどんなにいい条件を提示されても、必ずそれ以上の条件を望む。

そこで賢い上司なら、求職者に交換条件を提示する。休暇を1週間増やしたいのなら、年俸を5000ドル安くする。年俸を1万ドル増やすなら、持ち株をその分だけ減らす。

これで求職者は、自分にとって重要なものを自分で選ぶことができる。その結果、条件を決める過程に積極的に参加した気分になれるのだ。おそらく「交渉したい」という欲求も満たされることになるだろう。

ここで大切なのは、求職者がどちらを選んでも、上司にとっては望み通りの結果になるということだ。上司も求職者も交渉に満足できる。

これが「メニューを提供する」というテクニックだ。何でも自由に選ばせるのではなく、こちらが決めた選択肢の中から自由に選んでもらう。

■「自分の意志で選択した」という気分が大切

人に何かをさせようとすると、相手は必死になって抵抗する。それが悪いアイデアである理由を並べ立て、他のことをしたほうがずっといいと力説する。とにかく、相手の提案にそのまま従いたくない。

しかし、ここで複数の選択肢を提示すると、状況は一変する。

提案されたことの問題をあげつらうのをやめ、どの選択肢がいいか考えるようになるのだ。あら探しよりも、自分にとってベストの選択肢を探すことに夢中になる。さらに自分で選ぶことで「意思決定の過程に参加した」という気分になれるので、最終的にどれかを選んで契約が成立する可能性が高くなる。

■「何でも反対する妻」の反論を止めた方法

ある友人は、妻に意見を求められてアドバイスするのだが、何を言っても否定されると嘆いていた。「ディナーはどこへ行く?」「週末の予定はどうする?」という妻の問いに、「メキシコ料理がいいな」「日曜に近所でやっているフェスティバルはどう?」などと答えると、妻はいつも反対する。「メキシコ料理は先週も行ったじゃない」、あるいは「日曜はずっと外にいると暑いと思う」などと答えるのだ。

友人はこれをやられるといつもイライラする。「絶対に反対するのに、なぜわざわざ僕の意見を尋ねるんだ」と彼は言う。「まるで反論するためにわざとやっているみたいだ」

ジョーナ・バーガー『THE CATALYST 一瞬で人の心が変わる伝え方の技術』(かんき出版)
ジョーナ・バーガー『THE CATALYST 一瞬で人の心が変わる伝え方の技術』(かんき出版)

そこで彼は、戦術を少し変えることにした。提案を2つに増やしたのだ。たとえば「メキシコ料理がいい」と答えるのではなく、「メキシコ料理か寿司がいいな」と答える。または近所のフェスティバルだけでなく、好きなテレビ番組の録画を一気見するという選択肢も加える。つまりメニューを提供するということだ。

すると、妻からの反論はぴたりと止まった。提案のどちらかには必ずケチをつけるが、少なくとも1つの提案には賛成するようになったのだ。

夫からの提案が1つだけなら、賛成するのは夫の言いなりになるのと同じだ。しかし提案が複数あれば、妻は自分の意志で選択することができる。これは紛れもなく彼女の選択だ。

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ジョーナ・バーガー(じょーな・ばーがー)
ペンシルベニア大学ウォートン校マーケティング教授
国際的ベストセラー『インビジブル・インフルエンス 決断させる力』(東洋館出版社)の著者。行動変化、社会的影響、口コミ、製品やアイデア、態度が流行する理由を専門に研究する。一流学術誌に50本以上の論文を発表。「ニューヨーク・タイムズ」紙、「ウォール・ストリート・ジャーナル」紙、『ハーバード・ビジネス・レビュー』誌などに寄稿した記事も人気を博している。Apple、Google、NIKE、ビル&メリンダ・ゲイツ財団などをクライアントに持つコンサルタントでもある。これまで数百の組織とともに働き、新製品の浸透、世論の形成、組織文化の変革などを実現してきた。『ファスト・カンパニー』誌の「ビジネス界でもっともクリエイティブな人々」に選出され、その仕事は『ニューヨーク・タイムズ・マガジン』誌の「年間アイデア賞」で複数回取り上げられた。

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(ペンシルベニア大学ウォートン校マーケティング教授 ジョーナ・バーガー)

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