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介護度を決める「主治医」は患者のどこを見ているのか…実情より軽く評価されてしまう人がやりがちなこと

プレジデントオンライン / 2024年4月8日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Nikada

介護保険制度のサービスを利用するには、介護認定を受ける必要がある。このとき、患者の介護度は「認定調査」と「主治医意見書」が非常に重要になる。高齢者の在宅医療を行っている医師の木村知さんは「『とくになにも困っていません』『なんでも自分でできます』という態度だと、実情より軽く評価される恐れがある」という――。

※本稿は、木村知『大往生の作法 在宅医だからわかった人生最終コーナーの歩き方』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

■「最近、お父さんがボケてきたみたい」

例)あなたの両親は、父親が87歳で母親が84歳。2人とも血圧の薬は飲んでいるものの、ADL(日常生活動作=編集部注)はほぼ自立。集合住宅の3階に2人で住んでいます。先日、あなたに母親より電話が入り「最近、お父さんがボケてきたみたいなの。どうしたら良いかしら」との相談を受けました。

話を聞くと、同じことを何度も言ったり、しまっておいたはずのお金を誰かに盗まれたと言ったりすることがあって困っているとのこと。加えて最近は持病の腰痛の悪化だけでなく下肢の筋力も弱ってきており、かかりつけ医への受診も、これまでのように歩いて行けなくなりつつあると言います。

このまま歩けなくなってしまったら、寝たきりになって母親だけでは介護しきれない状況は目に見えています。あなた自身も実家に住み込んだり、家に引き取ったりということはすぐには考えられません。

■まずは地域包括支援センターに相談しよう

この事例は介護を意識し始めた頃にあたります。初期段階ですが躊躇(ちゅうちょ)することなく早急にかかりつけ医に相談しつつ、並行して居住地の地域包括支援センターに連絡することに着手しましょう。

地域包括支援センターとは、いわゆる高齢者の生活を支えるための相談窓口で、介護サービスや日常生活の相談に専門の職員が応じるほか、介護保険の申請窓口としての機能を持ちます。ここに相談することが第一歩といえます。

家庭内の事情を他人に言いたくない、家庭内に他人がずけずけ入って来るのは勘弁してほしい、あるいは自分はまだ介護の世話になどなりたくない、という方も少なくないとは思いますが、事態が切迫してから動いても、すぐに介護サービスがはじめられるわけではありません。

「いま困っていること」がある場合はもちろん、今はまだ困っていなくとも「将来困りそうなこと」が見えてきた時点で、先手先手で動き出すことがとても重要です。

相談の結果、要介護認定の申請をした方がよいとのアドバイスを受けた場合は、躊躇することなく流れに乗って申請をしましょう。申請書類が受け付けられると、自宅に自治体の介護認定調査員が来訪して現状の聞き取り調査をおこないます。並行してかかりつけ医には医師の目から見た介護の必要度が記される「主治医意見書」の作成依頼が自治体から出されます。

■細かく正直に言わないと、軽く評価されてしまう

介護認定にかんする詳細はここでは説明しきれませんが、これらの調査と意見書を踏まえて、まず一次審査でコンピュータ判定がおこなわれ、その後、二次判定において、専門家らによる「介護認定審査会」のもと要支援、要介護のレベルが決定されます。つまり介護保険制度のサービスを受けるにあたっては、この認定結果を左右する認定調査と主治医意見書が非常に重要なのです。

その人の実情にあった介護認定がなされることで、居宅介護や施設介護、住宅改修さらに福祉用具の貸与や購入費の支給といった介護サービスを、一定の自己負担のもと受けることが可能になります。

ただこの認定調査の際に注意しなければならないのは、調査員を前にして取り繕わないようにすることです。身体機能や認知機能の低下を初対面の人に知られたくない、言うのは恥ずかしいという気持ちは理解できます。しかし「とくになにも困っていません」「なんでも自分でできます」などと言ってしまうと、実情よりも軽く評価されてしまい、必要かつ十分なサービスが受けられなくなる可能性があります。

■自治体の介護認定は厳しくなっている

主治医意見書を記載してくれる医師には、ふだん当事者が困っていることだけでなく、介護している家族が何に困っているのかも伝えましょう。家族が腰痛や持病などで十分な介護がおこなえず、重い負担を感じているのであれば、その具体的な事がらをしっかり伝えて記載してもらうことも重要です。

要介護度は、「介護にかかる手間」を評価するものと言えるので、当事者の重症度のみならず主介護者の介護力も、認定の際に重要なファクターとなり得るからです。

介護需要の増加にともない自治体の財政を圧迫する要介護者の数を増やさないようにする動きが、この要介護認定にも及んでいます。主治医意見書と大きな齟齬(そご)のある過度な訴えや虚偽の演技は問題ですが、認定調査の際には、どんなに些細なことでも「困っていること」「できないこと」を具体的に、一つでも多く挙げることをおすすめします。それが、より当事者の実情に見合ったサービスを組み立てていくことに繋がるからです。

要介護度は、非該当(自立)、そして介護までは必要ないが要介護状態にならないための支援が必要なレベルと判断される「要支援」が1~2、そしてなんらかの介護が必要な状態である「要介護」が1~5という8段階に分けられ、それぞれ数字の大きい方が、より重い判定となります(図表1)。

【図表1】要支援・要介護の8つの区分
出所=『大往生の作法 在宅医だからわかった人生最終コーナーの歩き方』

■認知症の症状が疑われたら、専門医の確定診断を

先ほどの事例では父親に認知症の症状も疑われるため、まずはかかりつけ医において可能な範囲で診察および検査をおこなってもらい、必要に応じて専門医による確定診断をつけてもらうことが必要でしょう。ケースバイケースですが、認知症の診断が確定すると要介護1以上の判定が出る可能性があるからです。

介護度が決まれば、担当のケアマネジャーと相談してサービスを組み立てていきます。ケアマネジャーとは自治体が認定している介護支援専門員のことです。要介護者や要支援者の相談に応じ、訪問介護、デイサービスといった介護サービス等の提供にかんする計画(ケアプラン)の作成、そして市町村・サービス事業者・介護施設等との連絡調整を担当します。

シニア男性とホームヘルパー
写真=iStock.com/byryo
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/byryo

■配偶者の負担を軽減するためでもある

このケースでは、まだ母親に大きな健康上の問題がなさそうなことから、まずはこれ以上、父親の状態が悪化しないよう身体機能を維持向上させるサービスが優先されるべきではないかと思います。

また、母親の負担を軽減させる意味でも、常時2人が顔を突き合わせている状況に少し変化をつけることも選択肢として考え得るでしょう。たとえば父親には、週に2回でも通所リハビリテーションを利用してもらうと、下肢筋力トレーニングはもちろんのこと、他者との人的交流による気分転換も期待できます。

それによって母親もひととき介護から解放されるというメリットもあるでしょう。その一歩を踏み出すことは、人によっては困難な場合もありますが、このまま引きこもってしまえば、事態が悪化することも危惧(きぐ)されます。

なにより大切なのは、あなたを含め周りの人たちが、無理強いではなくできるだけ本人たちが自発的に意欲を持って前向きに意思決定できるよう、サポートしていくことです。そうすることで当事者も介護者も、それまで見出せなかった有意義な時を過ごすことができるようになるでしょう。

■高齢者にも健康診断が必要な理由

ところで、高齢になってからも健康診断は必要なのでしょうか。基礎疾患があり、かかりつけ医に定期的に受診している方であれば、あえて受けに行く必要はないかもしれません。しかし、疾患がなくかかりつけ医を持たない高齢者については、私はとくに注意して問診するようにしています。

診察室に入ってくるところから医師側は健康診断を始めています。家族など誰かに付き添われて入ってくるのか、それとも介助なく、杖などの歩行補助具も使わず、独歩で診察室に入って来ることができるのか、これは重要な観察点です。歩行補助具を使わずともしっかりとした足取りなのか、それともすり足やよろけなどがあるにもかかわらず杖を使っていないのか、という点も注意して見ます。

また言語コミュニケーションがスムーズにおこなえるのかも確認します。話が噛み合わないときは、認知症を疑うべきか、それとも難聴なのかといった鑑別もおこないます。

そして身なり。高級品かどうかではもちろんなく、食べこぼし汚れやズボンに排泄物のシミなどはないか。もしこれらがあり、汚れや臭気が強い場合は、家庭環境に問題を抱えている可能性も考えなければなりません。そして退室時にはイスからスッと立ち上がれるのかも、転倒リスクの存在を見逃さないために注目します。

このような観察を踏まえて、身体・認知機能のあらましを把握するとともに、食事、排泄、睡眠、入浴など日常生活動作をどの程度おこなえているのか、さらには独居なのか、老老介護の状況に置かれているのか、いざとなったときに相談できる身内は近くにいるのかといった家族構成まで聴取することさえあります。

■かかりつけ医はどう選ぶといいのか

つまりまだ要介護には至らない状態ではあっても、フレイルやサルコペニアに移行しつつあることを自覚していない人を早めに発見することが、健康診断の重要な機能の一つなのです。

かかりつけ医を持たない高齢者こそ、健康診断が年に一度の極めて貴重な機会であるというのは、こういった理由によるものです。

健康診断を利用してかかりつけ医を作るという手もあります。健康診断で訪れた医療機関の医師と会話を交わして、いろいろ相談に乗ってくれそうかどうか品定めしてみるのも良いでしょう。

では、かかりつけ医はどのような医師が良いのでしょうか。私もよく聞かれます。最も重視したいのは、あなたの話をよく聞いてくれるか、そしてあなた自身もその医師の話を聞いても苦痛とならないかという点、つまり「相性」です。

話をよく聞いてはくれても、聞くだけでなんら提案がない無口な医師では意味がありませんし、逆に話したがりで一方的に説明するばかり、言いたいことも言わせてくれずに、あなたが聞き役に徹しなければならないのであれば、それは苦痛以外の何物でもありません。

医師―患者関係といっても、所詮(しょせん)、人と人とのかかわり合いです。たがいに話しづらかったり、いつも話が噛み合わなかったりするのでは、両者ともに不幸だと思います。

■相性が合わなければ、気にせず病院を変えていい

かかりつけ医と合わないと感じたらどうしたら良いでしょうか。「かかりつけ医を変えると気を悪くされないか心配」などと、相性が合わないのに我慢しながら通院を続ける必要もありません。主治医変更の理由は人それぞれ異なりますから、もし主治医を変えたいと思ったときには躊躇なく申し出ましょう。もちろん「先生とは相性が良くないので」などと、本当の理由をストレートに言う必要もありません。

「これまで通院していた曜日に用事ができてしまった」「自宅から近いところに変えたい」などを理由として挙げれば良いのです。一般的な医師であれば、患者さんから通院先を変えたいとの申し出があった場合に無理矢理引き止めるということは、まずしません。

「かかりつけ医を変えたい」と考えている人は、必ず現在の主治医に転医したい旨を伝えたうえで、転医先宛てに「診療情報提供書」を作成してもらうよう依頼してください。手間をかけるだとか、申し訳ないなどと思う必要はまったくありません。これは医師どうしで日常的に取り交わされている、ごく当たり前の書類のやり取りだからです。どうか気兼ねしないでください。

■一番やってはいけないのは「黙って変える」こと

医師の立場から一番やってはいけないと思うのは、これまで診療を担当していた医師に黙って通院先を変えてしまうことです。

木村知『大往生の作法 在宅医だからわかった人生最終コーナーの歩き方』(KADOKAWA)
木村知『大往生の作法 在宅医だからわかった人生最終コーナーの歩き方』(KADOKAWA)

外来診療をしているとお薬手帳だけを持参して、「今まで通院していた先の先生と相性が良くないので、今度からこちらで処方をお願いします」と頼まれることがたびたびあるのですが、これはこちらも困ってしまいます。患者さんからすれば、先方に言いにくいという理由があるのでしょうが、お薬手帳の情報だけでは、診療を引き継ぐにあたってあまりにも情報が少な過ぎるのです。

たしかに処方内容がわかれば同じような薬を出すことはできます。しかしその処方がおこなわれてきた経緯や既往症、主治医が今まで何に留意して診療してきたのかはまったくわからないのです。これは引き継ぐ医師にとってはもちろんですが、それ以上に患者さん本人にとって大きな不利益となってしまいます。

■「患者を取った、取られた」の恨み合いはない

とくに高血圧や糖尿病といった慢性疾患、さらに過去に心筋梗塞や脳梗塞、がんといった大きな疾患の既往歴を持つ人の場合、その患者さんの背景も把握しないまま、現在の処方をただ漫然と継続することは極めて無責任な治療とならざるを得ないばかりか、危険さえ生じさせかねません。

私が患者さんによく言うのは、かかりつけ医を変えるのは、恋愛のふったふられたとはまったく違うということです。「患者を取った、取られた」などと医療機関どうしでの恨み合いなどはありません。

そういう意味のない気遣いよりも桁違(けたちが)いに重要なのは、患者さんが診療情報とともに移動することなのです。私たち医師はその重要性を熟知しているので、患者さんが転医を希望された場合には、なんら拒むことなく診療情報提供書を転医先に書くわけです。かかりつけ医を変えたい場合は、ぜひこのことを思い出してください。

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木村 知(きむら・とも)
医師
1968年生まれ。医師。10年間、外科医として大学病院などに勤務した後、現在は在宅医療を中心に、多くの患者さんの診療、看取りを行っている。加えて臨床研修医指導にも従事し、後進の育成も手掛けている。医療者ならではの視点で、時事問題、政治問題についても積極的に発信。新聞・週刊誌にも多数のコメントを提供している。2024年3月8日、角川新書より最新刊『大往生の作法 在宅医だからわかった人生最終コーナーの歩き方』発刊。医学博士、臨床研修指導医、2級ファイナンシャル・プランニング技能士。

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(医師 木村 知)

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