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「全国交通安全運動」で本当に事故は減るのか…裁判傍聴マニアが「悲惨な事故は青信号で起きる」と警告する理由

プレジデントオンライン / 2024年4月9日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/taka4332

■交通違反を犯す車両を探す警察官

毎年4月と9月に「全国交通安全運動」が実施される。今春は4月6日(土)~15日(月)の10日間だ。運動の期間中、街頭の警察官が明らかに増え、違反切符を切るシーンを、普段より多く見かけるようになる。

事故防止のために交通取り締まりは行われる、厳しい取り締まりで事故は減る、なんとなくそう認識されているようだ。しかし、果たして本当なのか、警察の交通取り締まりに意義はあるのか、ちょっと考えてみたい。

私は裁判傍聴マニアでもある。事件数で約1万1000件を傍聴してきた。うち1150件ほどが交通事故の刑事裁判だ。事故はなぜ起こるのか、大きく2つのタイプに分かれるように思う。

■違法駐車、飲酒運転の車をパトカーが追跡

(1)事故って当然なムチャクチャ野郎たち

ルールなど全く気にしない。結果、何が起こるか、罪もない他者にどんな被害をもたらすか、想像する能力がない。そういう者が、世の中には確かに存在する。飛び抜けてひどいケースを1件だけ紹介しよう。

罪名は「道路交通法違反、危険運転致死傷、詐欺」。被告人(以下、A男。犯行時20歳)は、前月に60万円で知人から買った乗用車(アウディ)に弟と後輩を乗せ、居酒屋へ出かけた。店の前に違法駐車して飲酒。深夜になり、3人で車に戻って走り出した。すぐにパトカーが寄ってきた。A男はアクセルを踏み込んだ。

■まったく無関係のタクシー運転手が犠牲に

追い抜かれたタクシーのドライブレコーダー映像が、法廷内の大型モニターで再生された。深夜の幹線道路を、アウディとパトカーがまさにかっ飛んでいく。じつはA男は特殊詐欺もやっていた。受け子を派遣して現金を上位者に渡す役割で、被害総額は約3600万円。そのことも逃げる動機としてあったようだ。

先の交差点が赤信号になった。交差道路から青信号で交差点へ進入しかけた車の、そのドラレコ映像が再生された。反対側からゆっくり進入してくるタクシーの横腹へ、赤信号無視の黒い物体(アウディ)が激突。タクシーとアウディは瞬時に画面から消えた。激しい衝撃で吹っ飛んだのだ。アウディの速度は約160キロだったという。タクシーの運転手は即死した。

そのあとの様子が、巻き添え被害を受けた車のドラレコに映っていた。大破したアウディの運転席からA男が外へ。重軽傷の弟と後輩を見捨て、自身も足に傷害を負ったのだろう、ひょこひょこと逃げていく……。

求刑は懲役20年。判決は懲役17年、未決勾留日数中350日をその刑に算入。服役の期間から350日を引くという意味だ。未決算入についてはテレビ・新聞のニュースで触れられることはない。

■「いつか大きな事故を起こすんじゃないかと…」

(2)ついうっかり、不注意による事故

不注意な性格で運転には向かないような人もいる。ある交通事故の裁判で、被告人の同僚(建築関係)のこんな調書が読み上げられた。

「(被告人は)仕事は問題ないんですが、部屋は空き缶とかゴミだらけ。運転が危なっかしい。よくこする(電柱等に車体を接触させる)。いつか大きな事故を起こすんじゃないかと心配していました」

多くの運転者はそこまでひどくない。事故を起こすまいと運転する。だが、人間はそもそも不注意な生き物といえる。「ついうっかり」の瞬間がどうしてもある。何かに脇見して路側帯(歩道のない道路において白線で区画された帯状の部分)へ突っ込んだり、あるいは……。ごくありふれたケースを1件、紹介しよう。

■女性は自転車と一緒に30m引きずられた

罪名は「過失運転致死」。被告人(以下、B男)は、中年男性だ。法廷には遺族が数人いて、みな表情が重く厳しい。こういう裁判の被告人は黒スーツに暗色のネクタイが多い。けれどB男は、赤い縁取りのあるフリースに、洗いざらしのジーンズ。遺族の気持ちとか服装とか、気にしないタイプらしい。

被害者は年配女性だった。自治会の役員で、盆踊りの重要な踊り手だったという。自室に引きこもりがちな熟年者を誘い、いつも優しく笑顔だったという。ある午後、自治会の何かを印刷に自転車で出かけ、青信号の横断歩道をわたった。B男は大型トレーラーを運転し、やはり青信号で左折した。女性に気づかず衝突。転倒させ、自転車もろとも30mほど引きずった。遺族はこう述べた。

「ハネてすぐ止まれば助かったのに、怒りと悔しさ、八つ裂きにしたい。被告人には反省のかけらも感じられない。他人事のような言い訳を……今の法律で科せる最大の刑罰を与えてください!」

過失運転致死罪の「最大の刑罰」は懲役7年だ。しかし求刑は禁錮2年。判決は禁錮2年、執行猶予5年だった。赤信号無視とか違反がなく、死亡が1人なら、こんなものだ。執行猶予は要するに「おとなしくていないとヤバイ期間」であり、5年が最大だ。したがってこの判決は重いほうといえる。

※懲役より禁錮のほうが法律的には軽い。

■事故は「青信号の横断歩道」でも起こる

ついうっかり、不注意、それは人間に付きものといえる。年2回の交通安全運動で、警察官の姿を、また交通取り締まりのシーンをよく見かけ「ああ、注意しなきゃなあ」と思っても、長続きしない。ついうっかりの事故は、取り締まりでは防げないと私はつくづく思う。想像力が欠如したムチャクチャ野郎たちは、取り締まりなどそもそも意に介さないし。

じゃあ、どうすればいいのか。私は、交通事故の裁判を傍聴し始めて間もなく、ひどく驚いたことがある。裁判の法廷へ続々と出てくる交通事故の、そのほとんどは、青信号の横断歩道上で起こっているのだ。なぜ?

【図表】歩行者の死亡事故の約2割が「横断歩道横断中」に起きている
出典=警察庁交通局「令和5年における交通事故の発生状況について」

前述のとおり、ついうっかりな車が、いては困るんだけど、どうしてもいる。そして、歩行者たちは「青信号の横断歩道は聖域」とすり込まれている。洗脳されている。耳にイヤホン、手にスマホで横断する者もいる。そんな歩行者と、ついうっかりの車と、進路が重なる、そういう事故が次から次へと法廷へ出てくるのだ。

■事故の被害者にならないためにどうするか

裁判では、「被害者(歩行者)には何ら落ち度がない」とされる。一方、被告人は「横断歩道の安全を確認すべき注意義務があったのにこれを怠り……」として、相場どおりの刑罰を科されて終わる。そのくり返しだ。

失われた命は戻らない。私は残念で悔しくてならない。遺族が法廷で意見を述べることはよくあり、思い出すと涙が出てくる。

この記事がコメント欄のあるwebサイトに載れば、「悪いのは運転者だ。運転者をもっと重く処罰すればいいんだ!」「今井は被害者が間抜けだと言いたいのか!」と、私は激しく非難されるだろう。しかし言わなければならない。青信号の横断歩道は聖域とは、誤った刷り込みだ。不注意な車が突っ込んでくるかもしれない。警戒しましょう!

朝の東京駅から通勤する人々のシルエット
写真=iStock.com/Free art director
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Free art director

ちなみに私は、歩道で信号待ちするとき、頑丈な構造物の陰に身を寄せる。交差点は事故の発生率が高い。進路をそれた車が歩道へ突っ込んでくるかもしれないからだ。横断するときは、左右をきょろきょろ見回しながら横断する。

めんどくさい? 疲れる? いや、これは慣れですよ。慣れれば普通になります。あなたもいっぺん試してみてください。

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今井 亮一(いまい・りょういち)
交通ジャーナリスト
1980年代から交通違反・取り締まりを取材研究し続け、著書多数。2000年以降、情報公開条例・法を利用し大量の警察文書を入手し続けてきた。2003年から裁判傍聴にも熱中。傍聴した裁判は約1万1000事件(2023年4月現在)。

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(交通ジャーナリスト 今井 亮一)

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