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「社長が不倫→即辞任」は日本だけ…アマゾンやテスラのCEOが「不倫発覚」でも解任されない理由

プレジデントオンライン / 2024年4月23日 18時15分

ウエルシア坂戸若葉駅東口店 - 画像=プレスリリースより

■ウエルシア社長が「不適切行為」で辞任

4月17日、ドラッグストア大手のウエルシアホールディングス(HD)は、松本忠久社長(65)の辞任を発表した。「私生活で不適正な行為があり、会社の信用を傷つける」ためという。業界2位のツルハホールディングとの統合へと動き出していた矢先、メディアで報道される前の発表であっただけに、まさに「寝耳に水」の出来事だった。

報道では、「不適切な行為」は不倫ではないかと目されていた。筆者は報道を目にした際に、「完全にプライベートとは言えない行為であったか、不倫以外の不祥事のあるのではないか?」と疑いを持った。というのも、不倫の事実が発覚しただけで、経営者が辞任するケースは珍しいからだ。

その後の「週刊新潮」の報道では、松本氏はウエルシアの取引先の会社の女性と不倫関係にあり、かつ会社が賃料の一部を負担する“社宅”に女性を連れ込んでいたとされている。

そうした理由であれば、辞任はやむを得ない。完全にプライベートでの行為とは言えず、「公私混同」と見なさざるを得ないからだ。

不倫に限らず、プライベートな行為によって、経営者が辞任するかしないかは、下記によって決まってくる。

1.行為の深刻度
2.経営者が所属する企業や業界の
3.業務との関係性(完全にプライベートな行為と言えるか否か)

犯罪行為、つまり刑法に触れる行為を行った場合は、当然ながら辞任に追い込まれることが多い。窃盗、傷害、痴漢行為、脅迫行為などがそれにあたる。しかしながら、不倫はそうした行為には当たらない。

「ただの不倫ではないか」と言うと、「配偶者や子供を傷つけたのではないか」と憤る人も少なからずいる。しかし、あくまでも不倫は家族の問題であって、他に被害者がいるわけでもない。会社の経営に大きな支障が出るわけでもない。

■同じ不倫でも「公私混同」かどうかで処分は変わる

育児や教育、あるいはブライダルに関係する企業や業界であれば、不倫は企業のイメージと信用の低下につながり、それが業績に影響する可能性もある。こうした場合は、辞任せざるを得なくなるのは理解できる。

さらに、同じ不倫でも完全に私的な行為なのか否かで、事情は異なってくる。ウエルシアの松本氏の場合は、取引先の女性であったこと、“社宅”を利用していたと報道されており、これが事実であれば「公私混同」と見られるし、相手の女性が所属する企業への利益誘導がはかられる懸念もある。企業経営にも悪影響を及ぼしかねないし、すでにそうしたことが行われているのではないかという疑いも生じてしまう。

辞任をしなければ、メディアからも、ステークホルダー(利害関係者)からも、厳しい目で見られ、松本氏個人だけでなく、企業のイメージダウンにもつながる。

■テスラやアマゾンのCEOは辞任していない

企業コンプライアンスに厳しい欧米においても、完全に私的な行為であれば、不倫によって経営者が辞任に追い込まれることはない。

2015年テスラモーターズ年次総会でのマスク氏
2015年テスラモーターズ年次総会でのマスク氏(写真=Steve Jurvetson/CC-BY-2.0/Wikimedia Commons)

テスラの創業者イーロン・マスクは、Googleの共同創設者であるセルゲイ・ブリンの妻と不倫をしていたと報道され、大きなスキャンダルとなったが、経営者としての進退を問われることはなかった。アマゾン創業者のジェフ・ベゾスも不倫が発覚し、同じく大きなスキャンダルとなったが、やはり辞任はしていない。

両氏ともに創業者であり、大株主でもあるという特殊事情があるように思われるかもしれないが、私的な不倫に対して欧米では概して寛容である。

一方で、経営者と従業員との間の社内恋愛はご法度で、インテルやマクドナルドなどでは、部下と関係を持ったCEOが、それを理由に解任されている。「公」と「私」は切り分けて考えるが、公私が区別できない行為については、厳しく罰せられるのが通例である。

■「報道に先駆けて辞任」の効果

不倫に限らず、メディアが騒ぐ前に先回りして辞任してしまえば、攻撃されるリスクは大きく減る。リスク管理は、まさに「先手必勝」の世界である。

アウトドア用品メーカーのスノーピークは、2022年に山井梨沙社長(当時)の不倫による辞任を発表した。他にも不倫ではないが、2022年から2023年にかけてENEOSグループの経営者が相次いで女性に対する不適切な行為によって辞任をするという事態が起きた。

これらのケースに共通するのは、メディア等の第三者によって明らかにされる前に、先回りして辞任を発表している点にある。また両者ともに、発表当初はメディアで報道されたが、大きく叩かれることもなく、すぐに鎮静化している。

人々は、地位のある人を叩き、その地位から引きずり降ろすことには興味はあるが、地位を失った人を叩いたり、さらに引きずり降ろしたりしようとは、大半の人は思わない。

「水に落ちた犬は打つな(不打落水狗)」という中国の故事がある。これは、平穏に社会生活を送る知恵であるし、島国日本においては、なおさら重要な教訓でもある。

経営者が突然辞任することによって、社内は混乱を招くであろうし、カリスマ的な経営者であれば、後継者や今後の事業への影響も大きく、後始末は大変になる。しかし、スキャンダルの部分を切り離してしまえば、後継者は、社内の体制構築に専念することができる。

■「辞任で事態収拾」は正しい方法か

しかしながら、辞任によって事態を収束させることが、果たして正しい選択といえるのだろうかという根本的な疑問は残る。

ENEOSグループの場合は、経営者の地位を利用したセクハラ行為であるから、辞任は当然のことだ。しかしながら、スノーピークの山井梨沙元社長の場合、不倫の相手は「一般男性」のようで、経営者として問題がある行動であったとは言い難い。梨沙元社長が辞任を選択したのは、女性であり、当時34歳と年齢が若かったことも大きかったように思う。

そこそこ年齢のいった男性だったら、たとえメディアで報道されたとしても、辞任に追い込まれることはなかっただろう。実際、2023年にホットヨガ最大手「LAVA」の運営会社の社長(当時63)が、不倫相手の女性と性病感染をめぐってトラブルになっていたことが週刊誌で報道されたが、現在に至っても辞任はしていない。

2021年、YouTuberのマネジメント大手の「UUUM」の創業者兼代表取締役社長(当時)の鎌田和樹氏の不倫報道がなされた。若手起業家として目立つ存在でもあったため、不倫騒動は注目され、批判を浴びもしたが、謝罪と役員報酬の返上を発表し、辞任は免れている。

ホリエモンこと堀江貴文氏は「結婚してる奴は大体不倫してる」と言っている。これは事実とは言えないと思うが、不倫している経営者は少なからずいるには違いない。不倫は決して褒められたものではないが、「不倫は辞任」がスタンダードになってしまうと、収拾がつかなくなってしまうだろう。

■コンプライアンスが社内政治に利用される時代

コンプライアンスが重視される社会になり、どんなに地位や権力がある人物でも、不適切な行為を行うと、容易に地位を追われるようになった。

では、品行方正な人間がトップに立てば、組織も健全なものになるのだろうか。

現実は、そうとは言い難い。コンプライアンスが、社内政治や社内抗争の道具として利用されるという事態も起きているのだ。

現在においては、敵対者や追い落としたい人物の秘密や弱みを探り、内部告発や週刊誌にリークを行ったり、それをほのめかしたりすることで、相手の追い落としを図る――といったことも起こっている。

2019年に日産自動車で起きたカルロス・ゴーン氏の不正追及は、同社の日本人幹部による追い落とし計画によるものと見る向きもある。不適切な行為の告発には、少なからず、社内政治や社内抗争の要素が含まれているのが実態だ。

ハラスメント行為や汚職の告発は、企業ガバナンスの強化につながるので、意味のあることではある。しかし、経営者のプライベートな部分まで探られ、追い落としを図られることは、企業経営において、果たして「健全なこと」と言えるのだろうか? 疑問を抱かざるを得ない。

■令和のトップに求められる資質

これまでは生存競争に勝利した者には、権力、富(お金)、生殖といった、多くのものを独占する権限が与えられてきた。歴史を見ても、それは世の常であったことがよくわかる。

しかし、現在においては、成功者がこれらを独占することは難しくなっている。それどころか、成功者ほどこうしたことに気を付けないと、足をすくわれて、地位と権力を失ってしまいかねない。

どこかで揺り戻しは来るのかもしれないが、昭和や平成前半のような「ゆるい時代」に戻ることはないだろう。令和時代においては、経営者に限らず、「持てる者」は、仕事面だけでなく、プライベート面でも細心の注意を払い、自身の地位、名誉、富を守らなければならないし、それができることが、トップの資質でもある。

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西山 守(にしやま・まもる)
マーケティングコンサルタント、桜美林大学ビジネスマネジメント学群准教授
1971年、鳥取県生まれ。大手広告会社に19年勤務。その後、マーケティングコンサルタントとして独立。2021年4月より桜美林大学ビジネスマネジメント学群准教授に就任。「東洋経済オンラインアワード2023」ニューウェーブ賞受賞。テレビ出演、メディア取材多数。著書に単著『話題を生み出す「しくみ」のつくり方』(宣伝会議)、共著『炎上に負けないクチコミ活用マーケティング』(彩流社)などがある。

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(マーケティングコンサルタント、桜美林大学ビジネスマネジメント学群准教授 西山 守)

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