「会議の資料をコピーしておいて」では上司が現場で青ざめるだけ…"ゆとり世代"への正しいお願いの方法
プレジデントオンライン / 2024年5月13日 17時15分
■ゆとり世代(20歳~37歳付近)【原則】責任を感じさせない
ゆとり世代はなぜ出世が嫌いなのか
ゆとり世代(1987〜2004年生まれ)は、それより上の世代とはまったく異なる職業観を持っています。バブル世代は働けば働くほど儲かったから、氷河期世代は潜在的な失業への恐怖心から、仕事中心の人生を歩んできました。しかし、ゆとり世代にとって、仕事は日常の一部です。
「え、残業ですか? すみません、今日は習い事があるので帰ります」
「昇進は辞退します。役職が付くと責任が大きくなるじゃないですか。そういうの、重いんですよね」
なぜこのような差が生まれたのでしょうか。それは彼らが受けてきた教育と世相に理由があると思われます。ゆとり世代は、02〜11年の義務教育を受けました。詰め込み型教育の反省から授業時間が大幅に削減され、体験学習や調べ学習など点数のつかないカリキュラムが新設されました。
人はみんなが自分らしくあっていいという個を尊重する育て方をされた人たちに「社会人なんだからこれくらいはあたりまえ」「仕事なんだから黙ってやるべき」といった理屈で何かをやらせるのは無理があります。自分ではない誰かを物差しにされたり、競わされたりするのがとにかく苦手なのです。他人を出し抜き自分が有利になることに罪悪感を覚える人も多いようです。
■ゆとり世代に軽蔑される上司の特徴
バブル世代は金を稼いでカッコイイ車に乗りたいとか、おしゃれをして遊びに行きたいとか、高級な店でおいしいものを食べたいといった欲望が、仕事を頑張るモチベーションでした。
一方ゆとり世代は、車にもブランド品にも大した興味を示さず、仕事が終われば家に帰ってゲームをし、休日は趣味の仲間と遊んだり近所を散歩したりするのを楽しみにしています。物心ついたときから景気は右肩下がりですを熟知しているのです。
氷河期世代は社会に出た直後に失う怖さを目の当たりにしたので、職やお金に対する執着心がありました。しかし、ゆとり世代は失われた状態からスタートしたのです。会社を頼って人生をすり減らしても報われない、自分が損をするだけという考え方です。
もともとお金のかからないシンプルなライフスタイルを実践しているし、その気になったらフード配達でもスキマバイトでも稼げる手段はたくさんあります。だから「この職場で消耗するのはたくさんだ」と感じたら、あっさり辞めてしまうのです。
また、ゆとり世代は男女雇用機会均等法施行から20年を経て社会に出てきた世代であり、男女平等を知識ではなく常識として理解している人たちです。バブル・氷河期世代が油断するとつい口を滑らせてしまう「男だったら」「女にしては」などのステレオタイプやジェンダー差別がにじむフレーズに、強い違和感や拒否感を抱いています。
そうした評価や言葉に対して、ゆとり世代が真っ向から反論してくることは少ないでしょう。自分の価値観を理解しない人を相手に議論をしても意味がないと思っているからです。しかし、心は静かに離れていきます。生ぬるい返事をしながら心の中で軽蔑し「考え方がキモイ。キライだ」と思われる。そうなると、関係修復は困難です。
■ゆとり世代を動かす最大のテーマとは
しかし、ゆとり世代にはこれから職場の中心となってもらわなければ困ります。ガツガツはしていなくても、仕事のできる優秀な人もたくさんいます。どう話せば彼らのモチベーションに火をつけることができるのでしょうか。
ゆとり世代を突き動かすテーマは“共感”です。
「このプロジェクトは君に任せよう。思う存分、やってみたらいい」
「責任は重大だが、これに成功すれば昇進や昇給で有利になるぞ。私からも強く推してあげるから」
などと言われても、ゆとり世代はまったく嬉しくありません。むしろ《なんで自分がそんな重たい仕事を背負わされなきゃならないんだよ》と、迷惑がるでしょう。
けれども、次のような大義を前面に示した言い方をしてみると、まったく違った反応になるはずです。
「このプロジェクトは、会社はもちろん、取引先にも顧客にもメリットがある。成功すれば皆を笑顔にできるんだ。あなたが引き受けくれたら、私も大いに助かるんだ。困ったことがあったらいつでも相談に乗る。どうだ、みんなで一緒にやってみようじゃないか」
ポイントは、「この仕事が顧客を喜ばせ社会を良くしていくんだ」という共感を呼ぶことです。コンプラ意識の強いゆとり世代は、共感によってやる気を持って仕事に取り組みます。
ゆとり世代は大学全入時代を過ごしています。人によっては競争を避け、人生で一度もファイティングポーズを取ることなく社会人になっています。そのため、競争を前にするとどうしても尻込みしてしまいます。けれども、ビジネスが競争の世界であることは変えようのない事実ですから、慣れて勝つ喜びを覚えてもらうしかありません。マイルストーンを区切って小さな成功体験を重ね、達成の喜びを全員で共有できるようにすると効果的です。
■「君がリーダー」ではゆとり世代は動かない
「5人のチームでやってほしい」「2人でリーダーになって、このプロジェクトを進めていってください」などと、責任を一人に背負わせない配慮もあっていいでしょう。ゆとり世代にとって、責任はやりがいを感じるものではなく、面倒なものでしかありません。
逆に「部下にまかせた以上はあれこれうるさく口出ししない」といった配慮はいりません。納期、手段、手順、役割分担、チェックポイントなど、なるべく詳細かつ丁寧に伝えましょう。
バブル世代が若手の頃に上司にあれこれ言われるのは「なんだ、まかせたと言ったくせにいちいちうるさいな」「信用していないのか」と苦痛だったかもしれませんが、ゆとり世代は自らの判断で動くのが苦手なのです。
ゆとり世代とそれより上の世代では、常識や価値観が大きく異なります。「会議の資料をコピーしておいて」というような指示をすれば、人数分、ホチキス留めをして、会議までに参加者が座る席に配っておくとバブル世代は考えるかもしれません。しかし、ゆとり世代の場合、データで共有すれば問題ないと考えるため、指示を出した上司のぶんだけ印刷することもありえます。「15分以内に、5人分、片面で印刷して、机の上に配っておいて」などというように、細かく指示を出しましょう。
■ゆとり世代の個性を生かそう
ゆとり教育の功罪については、今も各方面でさまざまな議論がされています。人生の充実について考える人が増えたのを社会の成熟と見る意見がある一方、ビジネスの現場では「仕事に対してガッツのない若者が増えた」「自ら動こうとしないから、物足りない」といった否定的な評価も聞かれます。
しかし、世相や教育の影響は傾向として見られるだけで、絶対的なものではありません。あなたの会社のゆとり世代にも、強いリーダーシップを発揮して仲間をグイグイ引っ張る人物はいるはずです。実際ゆとり世代は、他の世代より個性が多様な印象もあります。
個々の性格を見極めて抜擢し、機会を与え才能を伸ばすのも上司たる者の大事な役割です。これぞと見込んだ若手には、ゆとりの殻を打ち破る手助けをしてあげてほしいと思います。
※本稿は、雑誌『プレジデント』(2024年5月17日号)の一部を再編集したものです。
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組織学習経営コンサルタント
株式会社パジャ・ポス代表取締役、NPO法人Are You Happy? Japan 代表理事。1965年神戸市生まれ。日本大学卒業後、金融会社を経て、ソニー生命保険に入社。わずか2年で「全国トップ20」の成績をあげる。その後、マーケティング会社、通販会社の経営を経て、ドクターシーラボ、ネットプライスなどの社長を務める。年商3億円の企業をわずか4年で120億円にするなど、さまざまな企業の上場、成長に貢献し「成長請負人」と呼ばれる。現在は数社の社外取締役を務めつつ、コンサルタントとして一部上場企業からベンチャー企業まで200社以上を指導。
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(組織学習経営コンサルタント 池本 克之 構成=渡辺一朗 撮影=宇佐美雅浩 イラストレーション=竹松勇二)
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