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ユーイング肉腫の悪性度に関与するXBP1の同定

PR TIMES / 2018年3月19日 15時1分

~小胞体ストレス応答をターゲットとした新規治療法の開発へ~

順天堂大学医学部整形外科学講座(順天堂大学医学部附属順天堂医院整形外科)の末原義之准教授、田邊雄医員、金子和夫教授、人体病理病態学講座の齋藤剛准教授らの研究グループは、ユーイング肉腫*1において、がん遺伝子のEWS/FLI1融合遺伝子*2が制御するタンパク質の網羅的解析から、XBP1*3を中心とした小胞体ストレス応答*4が悪性度に関与していることを発見しました。さらに、XBP1阻害剤であるToyocamycin*5が高い抗腫瘍効果を持つことを発見しました。本成果は悪性度の高いユーイング肉腫の治療に大きく道を開く可能性を示しました。本研究は米国のがん治療の科学誌「Oncotarget 」オンライン版 (2018年2月9日)で発表されました。



【本研究成果のポイント】

ユーイング肉腫の悪性度にXBP1を介す小胞体ストレス応答が関与することを発見
XBP1阻害剤のToyocamycinが高い抗腫瘍効果を持つことを発見
小胞体ストレス応答をターゲットにしたユーイング肉腫新規治療法の開発に道


【背景】
ユーイング肉腫は骨肉腫に次いで小児に発生する骨軟部腫瘍(骨・筋肉等に発生するがん)で、化学療法、外科手術、放射線療法を組み合わせた集学的治療が行われていますが、初診時転移症例での5年生存率が20%以下と極めて悪性度が高いものが多く、新規治療法の開発が必要とされています。ユーイング肉腫の9割に第22染色体及び第11染色体の転座により生じるEWS/FLI1融合遺伝子が認められていることから、融合遺伝子が悪性度を左右していると考えられます。しかしながら、EWS/FLI1融合遺伝子がどのようなタンパク質や細胞内経路に影響を与えて悪性化するのかよくわかっていませんでした。そこで私たち研究グループは、悪性度を左右する因子を明らかにすることを目的として、今回、EWS/FlI1融合遺伝子が制御するタンパク質の挙動を網羅的に調べました。

【内容】
まず、EWS/FLI1融合遺伝子を含む4つのユーイング肉腫細胞株に対してEWS/FLI1融合遺伝子の発現抑制を行い、I-TRAQ 法*6による網羅的タンパク質の解析をしたところ、延べ約5600個のタンパク質が候補として挙げられました。その中から有意差をもち、かつ共通発現している89種類のタンパク質に絞り込みました。さらに、IPAシステム*7によるパスウェイ解析で主要経路のリスト化を行ったところ、EWS/FLI1融合遺伝子の影響因子として、小胞体ストレス応答経路を担う転写因子として知られるXBP1の同定に成功しました(図1)。
次に、ユーイング肉腫におけるXBP1と悪性度の関係を明らかにするため、機能解析を行いました。すると、XBP1の阻害活性をもつToyocamycin(トヨカマイシン)が、ユーイング肉腫細胞株の細胞増殖抑制能を示すことを発見しました。さらに、ヒト由来の腫瘍組織を移植したユーイング肉腫ゼノグラフトモデル(マウス)においても、Toyocamycinが腫瘍の体積・重量の両方において濃度依存的に優位に腫瘍の増大を抑制し、抗腫瘍効果を持つことを見出しました(図2)。
以上の結果より、研究グループはユーイング肉腫におけるEWS/FLI1融合遺伝子発現制御の網羅解析によるタンパク質リストの作成を通して、XBP1を中心とした小胞体ストレス応答がその悪性度と関与していることを突き止めました。さらに、XBP1阻害剤であるToyocamycinがユーイング肉腫に対して高い抗腫瘍効果を示すことを明らかにしました。

【今後の展開】
今回の結果は、悪性度の高いユーイング肉腫のEWS/FLI1融合遺伝子による腫瘍の悪性化のメカニズムの一端を明らかにしました。これは、XBP1を中心とした小胞体ストレス応答が治療のターゲットとなることを意味します。特にXBP1阻害剤であるToyocamaycinはユーイング肉腫において、高い抗腫瘍効果を示したことから、今後、臨床応用に向けてToyocamycinを含めた小胞体ストレス応答阻害剤の作用機序、副作用の解明を進め、新規治療法の開発へ繋げたいと考えています。

[画像1: https://prtimes.jp/i/21495/54/resize/d21495-54-712068-0.jpg ]

図1 網羅的タンパク質分析によるXBP1の同定
EWS/FLI1融合遺伝子の影響因子として、候補として挙がった延べ5600個のタンパク質リストから、小胞体ストレス応答経路を担う転写因子のXBP1が最も高い関連度を示した。なお、グラフ縦軸は数値が高いほど関連度が高いことを示す。

[画像2: https://prtimes.jp/i/21495/54/resize/d21495-54-973998-1.jpg ]

図2 XBP1阻害剤(Toyocamycin)による抗腫瘍効果
ヒト由来の腫瘍組織を皮下移植したユーイング肉腫ゼノグラフトモデル(マウス)を用い、XBP1阻害剤であるToyocamycin投与による抗腫瘍効果を検討したところ、投与群において高い抗腫瘍効果を示した。写真にあるように投与後13日後、腫瘍は非投与群に比べて体積比で35%と腫瘍増大を抑制した。

【用語解説】
*1. ユーイング肉腫: 小児に発生する悪性の骨軟部腫瘍。発生頻度は骨腫瘍では骨肉腫に次いで二番目に多い
*2. EWS/FlI1融合遺伝子: 第22染色体と第11染色体が転座することによって出来るユーイング肉腫に特異的な遺伝子の異常
*3. XBP1: X-box binding protein 1の略称。小胞体ストレス応答の主要な経路を担うタンパク質
*4. 小胞体ストレス応答: 小胞体ストレス(不良タンパク質の集積によるストレス)を処理すること
*5. Toyocamycin: 多発性骨髄腫や膵臓癌等他の疾患においても抗腫瘍効果が期待されている、XBP1経路を中心とした小胞体ストレス応答阻害剤
*6. I-TRAQ 法: タンパク質発現の網羅的解析技術で比較定量解析を行う方法
*7. IPAシステム: マイクロアレイやメタボロミクス、プロテオミクス、RNA-Seqなどの実験より得られたデータをもとにして生物学的な機能の解釈やパスウェイ解析を行うことができるシステム

本研究成果は、米国のがん治療の科学雑誌の「 Oncotarget 」誌のオンライン版(2018年2月9日)で公開されました。
論文タイトル: IRE1α-XBP1 inhibitors exerted anti-tumor activities in Ewing‘s sarcoma
日本語訳:ユーイング肉腫におけるIRE1α-XBP1阻害剤の抗腫瘍効果
著者(英語表記):Yu Tanabe, Yoshiyuki Suehara, Shinji Kohsaka, Takuo Hayashi, Keisuke Akaike,
Kenta Mukaihara, Taisei Kurihara, Youngji Kim, Taketo Okubo, Midori Ishii, Saiko Kazuno, Kazuo Kaneko, Tsuyoshi Saito
著者(日本語表記):田邊雄1、 末原義之1、 高阪真路2、林大久生1、赤池慶祐1、向井原健太1、栗原大聖1、金栄智1、大久保武人1、石井翠1、数野彩子1、金子和夫1、齋藤剛1
1.順天堂大学 2.東京大学
DOI:10.18632/oncotarget.24467

なお本研究は、東京大学との共同研究として、また、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED) 革新的がん医療実用化研究事業、および文部科学省科学研究費JSPS科研費 基盤研究(B) JP15H04964、基盤研究(C)JP17K08730 、 JP17K10987、挑戦的萌芽研究JP16K15670 、国際共同研究加速基金JP15KK0353による支援を受けて行われました。

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