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話題の本:リアルすぎるフィクション―『黒い巨塔 最高裁判所』(講談社文庫)

PR TIMES / 2019年12月4日 13時15分

司法権力の闇を、元エリート裁判官が小説で問う!

司法の聖域”最高裁判所”は、裁判官の思想統制のための牢獄(ラーゲリ)だった。日本を動かす黒いベールの裏側がついに明かされる。



[画像: https://prtimes.jp/i/1719/2445/resize/d1719-2445-480449-0.jpg ]

単行本刊行時の著者・瀬木比呂志インタビュー(「現代ビジネス」)
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/49800

講談社BOOK倶楽部(購入リンクあり)
http://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000324361

リアルすぎるフィクション―清水 潔(ジャーナリスト)

最高裁判所―――。
皇居を見下ろす三宅坂の地に花崗岩を組み上げてそそり立つ要塞。居並ぶ裁判官は「識見が高く法律の素養がある」方々だという。一般庶民には縁もゆかりもないその施設内で、どんな立派な人々がどのような仕事をしているのか、それが漏れ伝わることはあまりない。裏舞台が赤裸々に書かれた本も読んだ記憶がない。ネットやSNSの時代にも鉄のカーテンに守られた数少ない聖域なのであろう。

『黒い巨塔―最高裁判所』(講談社文庫刊)は、そのベールの向こう側を可視化していく小説である。最高裁事務総局民事局付に異動となった判事補・笹原駿というひとりの男の目を使い、読者は聖域に侵入していくことになる。ただし、本書は架空の出来事を書いたフィクションである。笹原をはじめとする登場人物は一人も実在しない。その点は肝に銘じて読み進めなければならない。
最高裁着任早々、笹原はこれまでの職場だった東京地裁民事部との違いを上司たちから思い知らされる。

《事務総局のメンバーである裁判官たちは、裁判を行っている裁判官たちよりも一段高い存在なのであり、地裁ではそれなりに評価されてきただろう君も、もし我々の仲間に加わりたいのなら、これまでにつちかってきた考え方やものの見方を一度は御破算にし、性根を入れ替えてもらわなければならない》

エリートである裁判官の世界でも、ここ最高裁はエリートの格が違うのだ……、そんな生臭い幕開けなのである。
最高裁には十五名の最高裁裁判官からなる裁判部門と、裁判官や職員で構成される司法行政部門があり、事務総局は人事、経理、総務……などを担っているという。組織の中で人と金を握るということがどれ程の権力を握るかは敢えて語るまでもないだろう。それはつまり裁判官たちの首根っこを押さえられるということになる。

そんな環境の末席に置かれた笹原たちは息苦しい日々を強いられることになる。無理難題を押し付けられて精神を病んでいく者も現れる。
「誰もが、ここから出られる日を指折り数えながら日々を過ごしている。(略)いわば、ここは、一種の牢獄、収容所、ラーゲリなのだ」
笹原の目に映った聖域とは思想を統一させるための牢獄だったのである。

事件記者という仕事を長くやってきた私は、これまで裁判を傍聴する機会が多かった。
静寂な空気が張り詰める裁判所―――。
見上げる壇上に姿を現す法服の裁判官たち。起立、礼。厳かに流れ出すのは神の声なのか。「主文……、被告人を死刑に処する」。人の命運を定め、すっとどこかに消えていく黒服の後ろ姿。そんな判決が決められる楽屋とはいったいどんな雰囲気なのだろうか。立ち入り禁止のその先が私はずっと気になっていた。本書にはその舞台裏とも思えるような場面も描かれている。ある事件で死刑判決を避けた高裁についての最高裁の反応だった。

十九歳の少年が三人のタクシー運転手を殺害したという事件だった。地裁は死刑判決を下したが、続く高裁は無期懲役と分かれた。最高裁内部でその無期懲役の理由を伝えようとするのは首席調査官だ。対する最高裁長官は「何を言っているのか」とその説明に激昂。手にしていたファイルを机に叩きつける。傍らの事務総局事務総長がその怒りを引き取るように言った。
「死刑判決は、多ければ多いほどいい。庶民のやり場のない怒りや不安、報復感情を満足させ、それらが望ましくない方向へ向かうのを予防する効果がある」。その言葉に「わしもそう思う」と応じる長官……。

望ましくない方向……。なんとも深みを感じる言葉ではなかろうか。
瀬木氏は本書をあくまでフィクションであると強調する。もちろん具体的な話の内容はそうなのであろう。とはいえ部外者にとって驚かされるのは、一般企業の裏側にもなかなかいないような俗人が、あの荘厳な要塞の中に存在するらしいというリアリズムではなかろうか。

上司に抗議をしたことで家裁の支部に左遷された、普通の官庁ならノンキャリアに当たるある係長書記官は、内輪の送別会でその上司を名指しして息巻く「野郎、いつかぶっ殺してやる!」。
普通のフィクション作家ならまず描かないこれらのシーン。いや書けないのだ。なぜか? それは「そんなことがあるはずがない」と信じているからである。極端に荒唐無稽な話は受け入れられないと作家は知っているからだ。だが、ベールの向こう側を知り尽くしている者ならば自信を持ってギリギリまで行くことはできる。瀬木小説の強さはまさにここにある。

前述したように裁判所の裏側を知らなかった私は、いつかチャンスを見つけて裁判官に取材を試みたいと考えていたのだが、数年前にそのチャンスに巡り会えた。瀬木さんにご無理を言って三日間にも及ぶ膝詰め取材をさせてもらったのだ。ここぞとばかりに積年の疑問をぶつけるロングインタビューになった。瀬木さんの口から飛び出す言葉の驚きは今も忘れない。

中でも印象深かったのは三権分立の崩壊だ。
ご存知のように司法、立法、行政という国家の三つの権力は「三権分立」システムになっている。立法権は国会が、行政権は内閣が持っているので、万一それらが暴走した場合には、違憲立法審査権を持つ裁判所が、「権力チェック機構」としてブレーキをかける仕組みだ。だが、もしもその裁判所が政治に「忖度」したらいったいどうなるのだろうか? 瀬木さんの話を伺っているうちに、そんな現実がひたひたと迫っているような怖さを覚えたものだ。

政治や権力に忖度する裁判所の実態が、一般の人間にはにわかに信じがたい話なのだが、本書の中にも事例として読みやすく埋め込まれている。
内部を知り尽くした瀬木氏だからこそ、思い切りよく綴られていく本書が、フィクションであることをここでもう一度念押ししておきたい。何度もくどくて申し訳ないが、それほどにリアルで真に迫っているからである。
(本書巻末解説より。『殺人犯はそこにいる』著者)

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