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ジョン・ブライオン『Meaningless』20周年 名プロデューサーの「隠れた名作」を振り返る

Rolling Stone Japan / 2021年2月1日 17時30分

ジョン・ブライオン(Photo by Robert Gauthier/Los Angeles Times/Getty Images)

プロデューサーとしてフィオナ・アップルやカニエ・ウェスト、マック・ミラーなどを手掛け、映画音楽の世界でも長年活躍し続けてきたジョン・ブライオンだが、2001年にセルフリリースした唯一のソロ名義のスタジオアルバム『Meaningless』は、当初メジャーレーベルからお蔵入りにされたという。この傑作はいかにして置き去りにされてしまったのか。ブライオン自身と彼のコラボレーターたちの証言で振り返る。

【試聴】ストリーミングでは聞けない隠れた名作『Meaningless』を聴く

とある2000年代初頭の傑作が存在するが、ネット上ではほとんど見つからない。20年前の1月にリリースされた『Meaningless』は、音楽プロデューサーのジョン・ブライオンがソロ名義で出した唯一のアルバムだが、CD Baby等のネットショップからCDを購入するか、リッピングされた低音質のバージョンをYouTubeで探すしかない。『Meaningless』には、不安や報われぬ愛や絶望感を歌った数々の名曲が収録されている。しかし熱烈なファンでもない限り、宝石のように輝く作品を耳にする機会はこれまで全くなかったに違いない。

「彼のメロディのセンスは秀逸で、ミュージシャンとしても素晴らしい人だ」とエイミー・マンは、ローリングストーン誌に証言した。彼女は『Meaningless』の中でブライオンと1曲共作している。「彼自身がもっと曲を書いてレコードを出せばいいのに、といつも思っていた。彼はシンガーソングライターとしても素晴らしいから」



この25年間、ブライオンはプロデューサー、ゲストミュージシャン、コンポーザーとしての地位を確立してきた。彼はフィオナ・アップル(『Extraordinary Machine』)、カニエ・ウェスト(『Late Registration』)、マック・ミラー(『Circles』)らアーティストの他、映画『エターナル・サンシャイン』(2004年)や『レディ・バード』(2017年)等の音楽も手がけている。しかし90年代、ダニエル・ジョンストンやロイヤル・トラックスといった型破りなアーティストがメジャーレーベルとの契約を勝ち取る中、ブライオンのソロアーティストとしての才能が、ラヴァ・レコードのA&R担当者の目に留まった。そうして制作されたアルバム『Meaningless』は、移り変わりの激しい当時の音楽業界の犠牲となってしまう。ビートルズとELOを足したような豊かな音楽スタイルに、ストレートでユニークなメロディを持つ作品だが、「ヒット性」に欠けるということで、レコード会社にお蔵入りにされてしまった。これをきっかけにブライオンは、ソロアーティストとしての活動にやる気を失ってしまったようだ。

「少しでもレーベルの側からアルバムに対する期待感が見えれば、こちらは上手くやったんだな、と判断できたと思う」とブライオンはローリングストーン誌に語った。「仮に上手くできていたのであれば、おそらくもっと違った展開があったろう」

エリオット・スミスやエイミー・マンとの関係

ブライオンが自分のアルバムを作ろうと思い立ったのは30歳代も終わりに近づいた頃で、既に長年に渡り音楽業界でのキャリアを積んでいた。彼はザ・バッツやザ・グレイズなどのバンドでプレイしたこともあり、また多くのセッションワークをこなし、エイミー・マンらアーティストのプロデュースも行ってきた。さらに映画音楽にも能力を発揮し、1999年公開の『マグノリア』ではグラミー賞にもノミネートされた。しかしラヴァ・レコードの代理人がロサンゼルスのラーゴにあるブライトンの自宅を訪れた時、彼のソロアーティストとしての秀でた才能が浮き彫りになった。

「90年代は何となく二極化していた気がする。僕にとってそれはそれでよかった」とブライオンは言う。「90年代はある意味で、60年代に近かったと思う。”OK、誰もニルヴァーナが大成功するなんて予想もしなかったぜ”という感じでね。その後すぐにベックのようなクリエイティブなアーティストがメジャーと契約し、大いに成功した。当時の音楽業界は、”いったい何が受けるかわからないから、とにかく手当たり次第に契約しよう。ばら撒くお金はある。とにかくヒットすれば成功だ”という感じだった」



ブライオンには、ソロ名義のアルバムを作るだけの楽曲のネタはいくらでもあった。しかしそれまでは、ソロアルバムをリリースしようという気は全くなかった。彼の音楽制作はむしろ純粋な習慣であり、生活の一部だった。「楽曲作りをする人間には誰にも当てはまることだと思うが、完全なものを作れた上に、ましてやヒットさせるなんて夢のまた夢だ」とブライオンは言う。「大概は実現しない。距離を置くことと積極的に関わることの繰り返しだ。これら二つの相反する状況は、人生の中で常に起きている。たまたま僕がソロ契約して、(持っていた曲を集めて)アルバムを作らねばならなくなったのが、正にその実例だと思う」

ブライオンはアルバムの契約金で機材を揃え、自宅にスタジオを作った。ここで彼は、『Meaningless』に収録した11曲中10曲のヴォーカルと各楽器をレコーディングした。「正に理想的だった。朝起きてお茶を飲んだらパジャマのままスタジオへ行き、ドラムを叩き始める。とても快適で、その時は夢のようだった」と彼は言う。唯一「Trouble」には、彼以外にジム・ケルトナー(ドラム)、ベンモント・テンチ(ピアノ)、グレッグ・リース(ペダルスティール)の3人のミュージシャンが参加した。「Trouble」は憂鬱な霧の中に流れるオーケストラ的なポップ曲で、ブライオンの友人だったエリオット・スミスが複数回カバーしたのも頷ける。



『Meaningless』にはマンとの共作で、ブライオンが「約束を恐れる者の賛歌」と呼ぶ「I Believe Shes Lying」も収録されている。破れた恋愛をテーマにした最もファンキーな楽曲で、かつてのカップルによる絶妙なコラボレーションがよく表現されている。マン曰く、ブライオンのひらめきは素晴らしく、彼女自身は彼のアイディアを形にするのが得意だという。

「このやり方でいつも一緒にやってきた」とブライオンは言う。「どちらか一方が曲を書き始めて行き詰まると、相手に ”これどう思う?”と聴かせてみるのさ。すると必ず相手から的確な答えが返ってくるんだ。時には本当に素晴らしいアイディアを出してくれることもあるが、少なくとも立つべきスタートラインのヒントを与えてもらえる。この曲の場合、僕が曲を作って歌詞を半分ぐらい書いたところで行き詰まっていた。彼女は歌詞を読むと大笑いして、とても素晴らしい提案をしてくれた。”私たちが約束を交わした瞬間に、私たちは過ちを認めたことになる”と言う歌詞は、彼女のアイディアさ」

お蔵入りの危機、「ソロ新作」の可能性

同じくブライオンと頻繁にコラボレーションしているグラント=リー・フィリップスは、アルバムの中で最もアップビートな「Walking Through Walls」を共作した。彼曰く、実はそれほど自信家でもない二人の性格を偽り、自信満々に表現した曲だという。本作は、バーバンク(カリフォルニア州)にあるフィリップスの自宅のリビングルームで作られた。リビングルームの壁は赤色で、床にはヒョウ皮が敷かれ、ベルベットのカーテンがかかっている。そして、フィリップスの趣味であるマジックの本やポスターの多くのコレクションも飾られていた。「マジックに関するポスターはたくさんあるが、中でもフーディーニの大型ポスターは特別だ」とフィリップスは言う。ポスターには、「フーディーニは世界の手錠抜けキング。地球上の何をもってしてもフーディーニを檻に閉じ込めておくことはできない」と書かれている。「”この地球上に俺を止められるものは何もない”と言う歌詞は、フーディーニのポスターにヒントを得たんだ」とフィリップスは振り返った。

アルバムのその他の曲は一風変わった華やかさを表現している。「Ruin My Day」と「Hook, Line, and Sinker」は破局や苦悩を歌い、「Meaningless」は思い出と郷愁をテーマにしている。アルバムのラストは、チープ・トリックの「Voices」(アルバム『Dream Police』収録)を見事にカバーしている。ところがラヴァ・レコード側はシングル曲の候補がないと判断して、アルバムのリリースを中止し、権利をブライオンへ返却した。「条件さえ整えばヒットする可能性はあったと思う」とブライオンは今になって思う。「当時の状況を考えれば、トップ10入りなんてあり得ないと思っていた。だけど全く不満には感じていなかった」



結局ブライオンは2001年1月に、彼自身のレーベルであるStraight to Cut-Outからソロアルバムをリリースした。映画『ハッカビーズ』(2004年)向けの「Knock Yourself Out」をはじめとする何曲かの映画音楽を除き、次のソロアルバムにまとめるだけのソロ作品を、彼はリリースしていない。『Meaningless』に続く正式なソロアルバムの可能性について、ブライオン自身は口が重い。「これまでに1度か2度、危うく出しそうになった」と彼は言う。

本人よりも、かつてのコラボレーターたちの方が積極的だ。「未完成の曲やミックスするだけの状態の曲など、おそらくどこかに大量の録音テープが眠っているに違いない」とマンは言う。「確かラーゴの自宅で何曲か聴かせてくれて、その時に彼が、”ああ、録音してもらえばよかった”なんて言っていたから」

フィリップスも同様のコメントをしている。「僕は彼の相当なファンだ。彼はものづくりにかけては天才だ。ミュージシャンとして、彼はユニークな存在さ。レパートリーの多いミュージシャンはいくらでもいるが、ジョンの音楽はどこか別次元のものなんだ」とフィリップスは言う。「彼のソロアルバムは素晴らしい作品になるはずさ。この世にもっとジョン・ブライオンのアルバムがあって欲しいだろう?」

ブライオン自身は、最終的にリマスターしてアルバムをリリースすることを嫌がっている訳ではないという。おそらく新旧のファンに対して、よりアピールするものになるだろう。「誰かがアルバムの音をいじったバージョンを持ってきて、聴いたことがある」と彼は言う。「できれば自分が聴いて満足のいくものを作って欲しいと思う。何か本当に良いものを作りたいと思っているのであれば、それはそれで良いと思う。時間の経過とともに価値が下がる訳ではないだろう。人による表現の一部に過ぎないからね」

From Rolling Stone US.

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