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女性差別というロックの悪しき伝統を覆す、フィービー・ブリジャーズによる「ギター破壊」の意味

Rolling Stone Japan / 2021年2月12日 11時45分

2月6日、SNLでギター破壊パフォーマンスを見せたフィービー・ブリジャーズ(Instagramより引用)

先日、「サタデー・ナイト・ライブ」に出演した彼女は、ロックの世界ですっかりおなじみのパフォーマンスを体現することで、それまでの常識を覆してみせた。これぞまさしくフィービー・ブリジャーズ。激しい議論が巻き起こったが、怯む様子はまったく見せていない。

【動画を見る】フィービー・ブリジャーズの怪演、ギター破壊は4分過ぎ〜

2月6日、『サタデー・ナイト・ライブ』に出演したフィービー・ブリジャーズはパフォーマンスの締めくくりに、ステージ上でギターを壊そうとした――世紀末的な激しいフォークロックソング「I Know the End」のフィナーレにはぴったりだった。フィービーは『ロンドン・コーリング』のジャケ写さながらに、足元にスモークを漂わせ、スケルトン風にあしらわれた衣装のパールを前後に揺らしながら、Danelectro Dano 56年モデルのバリトンギターを粉砕しにかかった。だが結局ギターを壊すのは見た目以上に相当難しいことを証明しただけで、彼女は何度も何度もアンプに楽器を打ち付けた後、しまいには床に投げつけたが、ギターはほとんど無傷だった。ドラマチックな予想外の出来事だった。当然、インターネットの民は激怒した。

「このフィービー・ブリジャーズという女は、なぜSNLでギターを壊したんだ?」というツイートを皮切りに、Twitterでは週末激しい議論が巻き起こった。「曲にもたいして興味はわかなかったが、あれは余計じゃないか」。すぐさま大勢がフィービーの弁護に回った。そのうちの1人ジェイソン・イズベルさんは、問題のギターは比較的安価で85ドルぐらいだと指摘した(「Danelectroの会社にも事前に壊すことを伝えていたの」と、フィービーはイズベルさんに返信した。「そしたら、せいぜい頑張ってください、壊すのは大変ですよって言われたわ」)。

ネット上の怒りは明らかに行き過ぎだ――とりわけ彼女以前にも数多の男性たちが楽器を壊し、女性ミュージシャンがそれに倣って同じことをしたという事実を考えれば。ピート・タウンゼントは60年代初期にうっかりギターを壊したが、以来それが彼のトレードマークになり、ローリングストーン誌にギターの壊し方の手ほどきをしているほどだ。1967年のモントレー・ポップでジミ・ヘンドリックスがストラトキャスターに火をつけたのは有名な話だし、カート・コバーンはクラフト社のレトルト・マカロニチーズを食べるかのように、頻繁にギターを粉々にしていた。こうした男性陣が当時、ある程度のお叱りを受けていた可能性もあるが、今回のように上から目線で「このエディ・ヴァン・ヘイレンという男は、なぜにまたギターを壊したんだろう?」と言われたとは思えない。

ロックの伝統を覆すフィービーの存在感

フィービーの行動はすべて、ロックで語り継がれる定石を自分のものとして取り入れること――彼女はそれをずっとやり続けてきた。「Kyoto」のパフォーマンスの時に着ていたスケルトンスーツはその後も彼女のトレードマークになったが、元はといえばザ・フーのジョン・エントウィッスルが始めたものだ。2018年にジュリアン・ベイカー、ルーシー・ダカスと共にボーイジーニアスというスーパーインディーグループを結成した際には、クロスビー・スティルス・アンド・ナッシュの1969年のデビューアルバムのジャケ写を模して、3人でソファに座る写真をEPのカバージャケットに採用した(フィービーはどちらかというとニール・ヤングに近いが、このアルバム当時ヤングがまだ参加していなかったことを考えれば、彼女がグラハム・ナッシュと同じポーズをしているのは善しとしよう)。



フィービーはロックの偶像に傾倒する人々だけでなく、ロックというジャンルそのものとも複雑な関係にあった。最新アルバム『Punisher』でも彼女は容赦ない。「Moon Song」という曲ではエリック・クラプトンに喧嘩を売る一方(”「ティアーズ・イン・ヘヴン」は嫌い/だけど彼の息子が死んだのは残念”)、大好きなビートルズのメンバーにも言及している(”ジョン・レノンについて議論しているうちに/涙が出てきた”)――そして、研ぎ澄まされた稀代のソングライターとして名前が挙がるような胸焦がす悲恋の歌を書いている。こうした歌詞の裏には、まぎれもなく複雑な感情が見え隠れする。「昔からずっと、典型的なロックが嫌いだった」と、彼女本人も昨年こう認めている。「でもニール・ヤングの世界観を知ったら、ものすごく好きになった」

フィービーのファンにしてみれば、彼女の『サタデー・ナイト・ライブ』のパフォーマンスはスーパーボウル級の出来事だった。あの瞬間こそ、彼女が地味なインディーズの秀作と茶目っ気たっぷりに皮肉を利かせた個性を、全米最多のオーディエンスに全国放送で披露した瞬間だった。ロックでは昔から行われている伝統を体現しつつ、それを華麗に覆す、厚かましくも可笑しい行為だった。それ以外はたいして見ごたえのない放送で(素晴らしき司会者ダン・レヴィーにはもっとましなコントをやらせるべきだ)、あの瞬間は称賛すべき場面であり、あからさまな差別で揶揄するべきではない。

フィービーはInstagramにこう綴っている。「パフォーマンスについて素敵なフィードバックももらったわ! 次は火をつけるだけにする。それももっと高いギターをね」

【関連記事】フィービー・ブリジャーズが語る新境地、The 1975への共感、笑顔と涙のハーモニー


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