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リトル・シムズが語る、UKラップの傑作をもたらしたディープな自己探求

Rolling Stone Japan / 2021年9月21日 18時0分

リトル・シムズ(Photo by Karis Beaumont for Rolling Stone. Styling by Luci Ellis at the Wall Group. Hair by Lauraine Bailey. Makeup by Nibras)

リトル・シムズの最新アルバム『Sometimes I Might Be Introvert』が大きな話題を集めている。本作はUKチャート初登場4位を記録。ここ日本でもSpotifyのバイラルチャート入りを果たし、2021年の年間ベストとの呼び声も高い。この堂々たる傑作はどのようにして生まれたのか。最新インタビューをお届けする。

Zoomにログインした時、リトル・シムズは午後中ずっとロンドンの道端で立ち往生していた。立ち居振る舞いからは判断しかねるが、本人は明らかに気にしていないようだった。「しょうがないね」と言って、車がパンクした経緯を説明した。

本名シンビアツ・アジカウォ、「シンビ」の愛称で親しまれる27歳のラッパーは、まるで密かに悟りを開いたかのように、はっきりとした口調で物静かに語る。音楽へのアプローチも同様だ。9月上旬にリリースされた4枚目のスタジオアルバム『Sometimes I Might Be Introvert』は、全神経を集中して本当の自分を探し続けたアーティストの長年にわたる探究から生まれた作品だ。たかが車のトラブルごときで動じるはずもない。

シムズいわく、パンデミックで自分を見つめる時間が増えたことで自らの傾向について理解を深めることができ、そこからアルバムタイトルが生まれたという。「私はもともと、かなり内向的な人間なの。内向的な人の心を読むのは難しいよね、何を考えているのか、どう感じているかわからないもの」と本人。「でも私にとって、このアルバムが他人を受け入れるきっかけになった」

たとえば、アルバムの中でもとくに印象的な1曲「I Love You I Hate You」。シムズは感情の動きを鮮やかに描き出し、計算された正確さで不在の父への思いと対峙する。”まさか人生最初の傷心の相手が自分の親だなんて”と、曲の終盤に向かって彼女は冷ややかにラップする。非常に個人的でありながら、大勢が共感する感情だ。「父についての歌だけど、同時に父のことだけじゃない」と本人。「私のこと、私の気持ち、このことが私の人生に及ぼした影響について歌っている」



内向的であることを強調しつつも、シムズは他者に対しても驚くほどの洞察力を持っている。この曲が似たような経験をした人々の心に訴える潜在力を本人もよくわかっている。「何らかの形で、この曲に共感できる人は大勢いるはず」

この曲で新たな視点を得た理由として、彼女は自らの成長を挙げている。「1stアルバムには『I Love You I Hate You』みたいな曲は絶対ありえなかったでしょうね。こういうことに向きあえるほど情緒的に成熟していなかったと思う」と本人。「当時リリースしていたら、もっと『クソ野郎』って感じになっていたんじゃないかな」。 今になってようやく、感情に影響を及ぼした過去の経験の複雑さがわかるようになったそうだ。「最近は、ああいうエネルギーも残っているけれど、こう認めている自分がいる。『多分あなたもまだ子供で、幼少期のトラウマや何かを抱えていて、私にはわからないような苦労をしていたのかもしれない。そのせいでいい父親になれなかったのかもね』って」

揺るぎない自信を手にするまで

アルバム制作では感情を深く掘り下げなくてはならなかったものの、プロセスそのものは「とても楽しかった」とシムズ。実際『Sometimes I Might Be Introvert』は、聴いていても楽しい作品だ。ここまで力を入れたアルバムだとヘヴィで、もっと単刀直入に言えば退屈だと思われがちだが、その点シムズは丁寧だ。「苦労した時もあった。自分にプレッシャーをかけて、もっといい曲を作りたいと思ったり……聞いてみたらわかると思う」と彼女は続けた。「深い話題を取り上げて、たくさん格闘しているけれど、気楽な部分もあるの」

そうした弱さと軽さの絶妙なバランスは、アルバム全編に見て取れる。「Rollin Stone」では自らのルーツに立ち戻り、キャリアの初期から頼りにしているグライムMCの力強い抑揚に乗せてラップする。曲のコーラス部分は「I Love You I Hate You」と相通じるものがあり、抑えめのトーンで”ママは頑張り屋、パパは根無し草”とラップした後、視点を自らの胸の内へと変える。”私は2人の血を受け継いだ、弱音を吐くなんてありえない”。その後もグライムMCならではの機転の効いた口八丁を展開する(”これっぽっちの金はいらない、ピザじゃあるまいし”)。



この曲は、シムズのアルバムでの仕事ぶりを示すいい例だ。彼女は重苦しい話題もしなやかに扱う。「この手のテンポ、この手のものは育ってきた環境のせいだと思う」と彼女はこの曲についてこう語る。「『Rollin Stone』は完璧な一曲。私がブレていないこと、こうした部分をいつでも掘り下げられることを示している。私自身もやってて楽しい」

さらに曲の中盤で、彼女はトーンを逆転させる。テンポが変わり、夕暮れ時にぴったりなゆったり流れるカデンツへと切り替わる。歌詞も、ファンが予想もしなかったような魅惑的な方向へ。その結果、揺るぎない自信があふれる。

「私のこういう部分を耳にした人はあまりいないでしょうね。表現方法や声の使い方をいろいろ実験したのはものすごくクールだったし、上手くいった」と本人。レコーディングしていて、『これって最高』と思った曲の1つ。間違いない」

「Rollin Stone」の後半部分のゆったりしたヴァイブのインスピレーションとして、シムズはレコーディング中によく聞いていたラッパーのGun40を挙げた。「インストでの彼の姿勢がすごく好きだった。すごくリラックスしているのに、すごく自信たっぷり。強制されている感じも、考え過ぎてる感じもないんだ」と彼女は言う。「同じようなエネルギーを表現したいと思った」


Photo by Karis Beaumont for Rolling Stone. Styling by Luci Ellis at the Wall Group. Hair by Lauraine Bailey. Makeup by Nibras. Sweater by Stüssy.

初期の作品ではJ・コールやケンドリック・ラマーなど作家気質のMCに例えられたシムズだが、彼女は常に独自の方法で感情を深くとらえてきた。過去3枚のアルバムはどれも自分を理解しようとするコンセプトアルバムだ。胸を焦がすような2019年の『Grey Area』でシムズは一目置かれる存在となったが、真実への問いかけを始めるきっかけにもなった。アルバムに溢れる実存的かつ誌的な内省は、サウンドにも脈々と流れている。たとえば「Therapy」では、”暗闇が怖い、過去が怖い/問いかけたこともない問いに答えるのが怖い”とラップする。と同時に「Offence」でのファンク風バラードなど、卓越した音楽性も披露する。このアルバムがFKAツイッグスやスロウタイ、マイケル・キヌワーカを抑えて、2020年NME最優秀イギリスアルバム賞を受賞したのも頷ける。

始めのころは、『Grey Area』の成功に見合う作品を作らなければ、というプレッシャーも少しばかりあったそうだ。「スタジオに入った瞬間、そういうプレッシャーはなくなった」と本人。「他の誰かを喜ばせるためにスタジオに入って作品を作るわけじゃない、『Grey Area』パート2を作ろうとしているわけじゃない。もうそういう立ち位置じゃないんだってね」

収録曲はたっぷり19曲。明らかに、リトル・シムズはこのアルバムで伝えたいことが盛りだくさんだ。「吸収してもらうことがたくさんあるけれど、吸収できるような形にしたつもり」と彼女は言う。

音楽的にも成長、俳優業との相乗効果も

彼女は『Sometimes I Might Be Introvert』を映画的なアプローチで制作し、映画的な要素を吹き込んだ。「少なくとも私が聞いた限りでは、インタールードとかのおかげで、すごく視覚的イメージが湧いてくるんだよね」 。これまでのアルバム同様、『Sometimes I Might Be Introvert』でもインタールードを有効に使うことで一貫したビジョンを作り上げている。今回の新作では『ザ・クラウン』でダイアナ妃を演じた女優のエマ・コリンを起用した。女優の声は聴く者をアルバムで紡がれた感情の海へと誘い、シムズの鋭敏な口調と好対照をなしている。

自主隔離中に『ザ・クラウン』を何度も見たというシムズは、高尚な「イギリスらしさ」に自分の独特のディープなストーリーを並べたらどうなるだろう、と興味を持ったそうだ。「ああいうインタールードで、何でもいいからリスナーに感じてほしかった。無意識の声が語りかけてくるようだと感じたなら、それでいい。母親にうるさく『あれしなさい、これしなさい』と言われていると感じたなら、それでもかまわない」とシムズ。「この作品では、完全に想像力に任せるような部分を作りたかった」



彼女は音楽的にも幅を広げ、新たな方向へと道を開いた。それはナイジェリア人のミュージシャン、Obongjayarをフィーチャーしたアフロビート調の「Point and Kill」にも表れている。シムズの両親は2人ともナイジェリア人。移民としてのルーツのサウンドを掘り下げ始めた理由として、彼女は人間としての成長を挙げている。「ナイジェリア人であることがクールだと言われる前から、私はナイジェリア人だった」と言って、西洋諸国で高まっている西アフリカ文化ブームを指摘する。「歳を重ね、自分自身のことやルーツについて知るにつれて、もっと掘り下げていきたいと思うようになった。本当にすごいの――私たちは王家の血を引いているんだから」

アルバムを完成させただけでは物足りないと言わんばかりに、シムズはこの1年イギリスの人気犯罪ドラマ『トップボーイ』の撮影にも取りかかった。ドラマのエグゼクティブ・プロデューサーを務めるのはなんとドレイクで、アメリカではNetflixで放映されている(彼女の役柄は、タイトルになっているトップ・ボーイの1人ダシェンが恋焦がれるシェリー役)。「今シーズンは間違いなく、以前にも増して頑張ったと思う。2ついっぺんに取り組むことができて楽しかった。この週は撮影、次の週はスタジオに入るという感じでね」と本人は語る。「いい相互作用があった。スタジオでいい仕事をした後は、『トップボーイ』でもそれに負けない演技をしようって気になるから」

この1年、音楽でも演技でも持てる力のすべてを出し切った、というシムズの言葉が本音であることは明らかだ。「今はすごくリラックスしている。多分どちらも片が付いたから。どちらも全力を出したもの」と本人。「さて、この先はどうなるんでしょう」


【関連記事】リトル・シムズが語るUKラップのリアリティ「自分を女性ラッパーとは思っていない」

From Rolling Stone US.



リトル・シムズ
『Sometimes I Might Be Introvert』
発売中
詳細:https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=11836

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