主権者教育の補助教材活用―模擬選挙を通じて選挙制度を理解する機会に
政治山 / 1970年1月1日 9時0分
18歳選挙権の導入を受けて、模擬選挙に代表される主権者教育へと注目が集まっています。模擬選挙が生徒たちの政治に対する意識のハードルを下げる機会となるのと同時に積極的な市民として主体的に政治にかかわるためのきっかけとなるように、授業ですぐに使える補助教材(ワーク集)を紹介していきます。
なお、本連載で取り上げるワーク以外にも、早稲田大学マニフェスト研究所が編者となって、模擬選挙の事例及び補助教材、海外の主権者教育を紹介する書籍を刊行しています。ぜひ、ご参照ください。
選挙の基本的な事柄を知ろう
本カテゴリーに属するワークでは、選挙を使いこなしていくための基礎として、選挙制度について考えていきます。今回は小選挙区制度や比例代表制度などの選挙制度の違いを学ぶ「代表の選出方法を体験してみよう」についてご紹介します。
副教材『代表の選出方法を体験してみよう』(PDF・817KB)
https://seijiyama.jp/wp-content/uploads/2016/09/084eb32ce454b791d2deeda6abf6888d.pdf
副教材『代表の選出方法を体験してみよう』より(ページ1)
代表の選出方法を体験してみよう
衆議院議員選挙における一票の格差解消のための選挙制度改革がしばしば大きく報じられるように、選挙制度は政治家だけでなく、多くの有権者にとっても関心の高いテーマとなっています。しかしながら、どのようにして代表を選んでいくのかについては、代議制民主主義のあり方を問うものであり、様々な思想やそれを実現する方策が存在しています。
例えば、選挙制度の1つである比例代表制度についても、その議席配分のための計算方法は、国政選挙で使用しているドント式以外にも、衆議院選挙制度改革で話題となったアダムス方式など、300を超える計算方法があるといわれています。そのような中で、一票の格差是正を図っていく上では、どのような制度が望ましいと考えられるのでしょうか。このことを考えるためには、選挙制度やその仕組みへの理解が必要となります。
模擬選挙の実施は選挙制度を学ぶ格好の機会となります。日本国内で考えてみても、国政と地方政治を合わせると、様々な選挙制度が採用されていますが、なかには制度の理解に注意を要するものもあります。例えば、国政選挙で採用されている比例代表選挙の計算方法(ドント式)は、理解するためのコツを要するものとなっています。
そこで、本ワークでは、ワークシートでの計算を通して、代表者選出のメカニズムを知るとともに、その背景にある思想について考察するきっかけを得ていくこととします。
副教材『代表の選出方法を体験してみよう』より(ページ7)
主権者教育と本ワーク
選挙制度は、政党や候補者の活動方法や組織のあり方だけでなく、選挙で選出された代表によって構成される議会のあり方にも影響を与える重要な制度です。選挙制度の重要性や有権者の関心の高さは、1994年の選挙制度改革以降、たびたび衆議院の選挙制度を中選挙区制度に戻すべきだという議論が提起されていることや、一票の格差是正に向けた衆議院の選挙制度改革における計算方法に対して様々な提案が行われていること、参議院議員選挙における合区制度についても多くの議論がなされていることからも伺うことができます。その中で、国政選挙における比例代表選挙は、代表の選出方法(ドント式による議席配分)と衆議院と参議院のルールの違いなど、注意を要する点があります。
本ワークでは、自らの手を動かし、計算してみることを通して、これらの事柄への理解を深めていきます。
本ワークと選挙について
日本で採用されている選挙制度は1つだけではありません。衆議院と参議院の間でも異なった選挙制度を採用していますし、都道府県と市区町村の間でも違いが生じています。(例えば、都道府県議会議員の選挙は、かつての中選挙区制と近しいものとなっていますし、市区町村議会議員の選挙は大選挙区制となっています)
制度が異なると、投票する側である私たち有権者も、投票される側である政治家や政党も、取るべき行動が変わってきます。本ワークで、制度に対する理解を深めることで、主体的な投票をするための基礎知識を獲得していきましょう。
副教材『代表の選出方法を体験してみよう』より(ページ9)
本ワークの進め方
本ワークでは、比例代表選挙での計算方法であるドント式の計算を通して制度への理解を深めていきます。また、衆議院と参議院の比例代表選挙での違いについても、クイズを通して理解を深めます。
指導のポイント
ここしばらくの衆議院議員選挙では、小選挙区全体で集計した政党の得票率と実際に政党が獲得した議席の間の乖離を踏まえて、過大(過小)代表の状況が指摘されることがしばしばあります。しかし、これは多数代表制の1つである小選挙区制度のもつ制度的な特徴の1つでもあります。
一方で、比例代表制は小選挙区制に比べ、少ない票数で当選者を出すことができるため、少数政党でも議席を確保し、議会に代表者を送り出すことができます。しかし、その分、議会における意見の集約には時間を要することが想定されます。また、選挙区が広くなり、候補者が多くなることで、多数代表制に比べて、有権者が投票にあたって集め、分析をする情報の量が増えていくといった投票のための情報コストが高くなっていきます。
民主主義社会において、選挙は民意を集約するための重要な制度であり、時として改良が加えられていくものでもあります。様々な主体の長きにわたる取り組みの結果、18歳選挙権が実現されたように、今後も選挙制度について必要な改善が図られていく可能性は十分にあります。その際、主体性を持って制度を設計、選択していくことができるように、選挙制度の仕組みや特徴に対する理解を得ておくことが望まれます。
■主要参考文献
加藤秀治郎『日本の選挙』中公新書、2003年
川人貞史・吉野孝・平野弘・加藤順子『現代の政党と選挙〔新版〕』有斐閣アルマ、2011年
久米郁男、川出良枝、古城佳子、田中愛治、真渕勝『政治学〔補訂版〕』有斐閣、2011年
<埼玉LM推進ネットワーク事務局 原口和徳>
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