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電話リレーサービス「手話フォン」を通じて考える、通信のバリアフリー化

政治山 / 2018年3月2日 11時50分

■手話フォン、羽田空港など3カ所に設置

 聴覚障害者が手話で通話できる公衆電話が広がり始めています。2017年12月3日、国際障害者デーに、日本初となる「手話フォン」が羽田空港内に設置されたのを皮切りに、その翌日には筑波技術大学内に、2018年2月5日には明石市の複合施設「パピオスあかし」に設置されました。

 それぞれ羽田空港ビルデング株式会社、国立大学法人筑波技術大学、明石市(自治体)が協力しており、文字通り産学官、マルチセクターでの取り組みが進んでいます。

日本財団の電話リレーサービス
※日本財団の電話リレーサービスは、聴覚障害者と聴者をセンターにいる通訳オペレータが“手話や文字”と“音声”を通訳することにより、電話で即時双方向につなぐサービスです(日本財団電話リレーサービス・モデルプロジェクトHPより)。

■情報のバリアフリーは心のバリアフリー

 とはいえ、聴覚障害者に対する情報保障は十分ではなく、制度面でも多くの課題が山積しています。例えば地方議会。2015年の統一地方選挙で東京都北区の議会議員選挙に立候補し当選した斉藤りえさんは、選挙運動や議会活動を通じて多くの不便に直面してきたと言います。

 そこで今回は、情報/コミュニケーションのバリアフリー化を目指す日本財団ソーシャルイノベーション本部公益事業部の石井靖乃部長と、心のバリアフリーを提唱する斉藤りえ北区議会議員にお話をうかがいました。

石井部長と斉藤区議
石井靖乃日本財団ソーシャルイノベーション本部公益事業部と斉藤りえ北区議会議員

■被災した障害者に対するケアは不十分

【石井氏】 日本財団は色々な支援事業を行っていますが、ここ数年、聴覚障害者の支援には特に力を入れてきました。その重要性を痛感したのは東日本大震災で、聴覚障害者に対するケアがなかなか間に合いませんでした。

 高齢の聴覚障害者の中には、学校などには行けず、家族に支えられ、小さなコミュニティで暮らしてきた人も少なくないという現実には驚きましたし、その人たちはそれまで福祉的な支援を受けておらず、震災によってそのコミュニティを失った障害者には、どのような支援が必要なのかさえ分からなかったのです。

 そういった体験を通じて、手話を使える環境の整備をはじめとした、情報とコミュニケーションのバリアフリー化が必要だとの思いを強くしました。

■手話言語条例と手話フォン、政府が後押しを

――ここ数年で、手話言語条例の制定も進んでいますね。

【石井氏】 はい。手話言語法の制定を目指して、全日本ろうあ連盟と連携して各自治体における手話言語条例の制定を推進しており、2月8日現在で、15県、100市、12町で成立しています。

――手話の推進や電話リレーサービスの普及は、政府が支援すべきとお考えですか?

【石井氏】 そうですね。政府はもちろん、企業も取り組むべきと考えています。例えば交通インフラ面のバリアフリー化は、国土交通省や鉄道会社、バス会社などが協力して進めてきました。手話フォンも総務省とNTTなどの通信事業者が通信などソフト面のバリアフリー化として、もっと積極的に取り組むべきです。「公衆電話」といいながら、誰もが使える仕様になっていません。ユニバーサルデザインに変わっていくべきだと思います。

手話言語条例マップ
手話言語条例マップ

■「分からない」が分からない、を減らしていく

――ソフト面のバリアフリーというお話がありましたが、議員として心のバリアフリーを提唱してこられた斉藤さんは、どのようにお考えですか?

【斉藤氏】 まず、手話フォンの取り組みはぜひ多くの方に知っていただきたいと思います。明石市の事例も素晴らしいですし、北区でも同様のことができないか、積極的に働きかけていきたいです。聴覚障害者への情報保障は、まだまだ整備が必要です。

 私が議員になったばかりの頃は、議場で誰がどのような発言をしているのか、まったく分かりませんでした。何に困っているのか、何が「分からない」のか分からない、といった具合で、議会の制度や運営において、聴覚障害者の議員活動が想定されていなかったためです。今では音声をテキスト表示するタブレットが設置されていて、委員会などの発言内容をリアルタイムで見ることができます。音声認識の精度は70~80%程度で、微妙な言い回しやニュアンスは分からないことが多いので、議論に追いつくのに難しい側面もありますが、そんな時は同僚議員がサポートしてくれます。

 課題は山積みですが、私が議員として活動を続けることで、変わってきた面もあります。例えば、私が使用しているタブレットは傍聴人にも貸し出しができるのですが、議会のたびに聴覚障害の人が傍聴に来てくれます。それまでは議会に来ても配布資料以外の情報を得ることができなかった人たちが、タブレットを用いることで不完全とはいえリアルタイムに議論の内容を知ることができます。

斉藤りえ区議

■聴覚障害者の地方議員は、全国で3人

――身近に当事者がいることで変わっていく、というのは大きいですね。聴覚障害をもつ地方議員は、何名ほどいらっしゃるのでしょうか?

【斉藤氏】 私と同じ時期に当選した明石市議の家根谷敦子市議、ちょうど1年前に埼玉県戸田市に誕生した佐藤太信市議と私とで、3人です。

――全国には3万3千人ほどの地方議員がいますから、まだ0.01%にも満たないわけですね。ところで聴覚障害者で手話を利用する人はどれくらいいらっしゃるのでしょうか?

【石井氏】 聴覚障害で障害者手帳をお持ちの方が約36万人、うち手話の利用者は6万人ほどと言われています。

――手話以外ではどのようなコミュニケーション手段を用いているのでしょうか?

【石井氏】 筆談や口話など、複数のコミュニケーションを交える人が多いです。

 明石市ではタブレットを試験的に聴覚障害者に貸与していて、福祉サービス等にアクセスしてオンラインで手話のサポートを受けることができます。これは手話言語条例を初めて制定した鳥取県でも実施していて、県が9割補助、利用者が1割自己負担でタブレットを購入し、手話通訳を派遣する団体に県が業務委託しています。これまでは利用者がFAXで依頼して、自宅などに来て手話通訳をしてもらっていたところが、遠隔でのサポートが可能となり双方の負担を大きく軽減することができています。

石井部長と斉藤区議

■手話フォンから認知拡がる電話リレーサービス

――鳥取県も明石市も、素晴らしい取り組みですね。設置からふた月ほどですが、羽田空港や筑波技術大学の手話フォンはどれくらい利用されているのでしょうか?

【石井氏】 羽田空港には12月3日に設置して、1月20まででいったん集計しました。利用者数は50件で、1日1件ほどとなっています。筑波技術大学は障害者のための大学ということもあって聴覚障害の学生も多く、羽田空港の倍ほどの利用状況となっています。

 実際にはスマートフォンなどで電話リレーサービスのアプリをダウンロードすれば、場所を問わずに利用することができるため、サービスを知るきっかけとしての役割が大きいと感じています。

(この取材をサポートしてくださった手話通訳士の方によると、電話リレーサービスは多い日だと1日に500件以上の利用があるそうです)

――最後にお二人から、一言ずつお願いします。情報/コミュニケーションのバリアフリー化を進めていく上で、重要なことは何だと思いますか?

■当事者だからこそ、選挙も議会も変えていきたい

【斉藤氏】 私が議員活動を続けることで、周囲の理解が深まり、制度を変えていくことに繋がると思います。例えば、いまの選挙制度は障害者に対するケアが不十分です。選挙運動は街頭演説や宣伝カー、電話による投票依頼など情報伝達手段が限られていますし、障害者の投票環境も整ってはいません。

 誰でも、どこでも情報に触れることができ、投票できるようにしていきたいと考えています。

■人の温かみの伝わるコミュニケーションを

【石井氏】 情報/コミュニケーションのバリアフリー化は障害者だけの問題ではありません。自分のことではないと考えるのは誤りで、当事者の方とコミュニケーションを取りたいと思う方、双方の問題なのです。

 だからこそ、電話リレーサービスは障害者のための福祉事業として厚生労働省が進めるのではなく、すべての人が利用する通信事業を監督する総務省が取り組むべきなのです。これから、音声認識ソフトの制度も上がり、技術革新が進んでいくと思います。それでも、テクノロジーは完全ではありません。本当の意味でのバリアフリー化は、人の温かみを伝えるものであってほしいと願っています。

石井部長と斉藤区議

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