スロベニア、リトアニアにも抜かれた日本の平均賃金。それでも日本経済が賃上げだけでは救われない深刻な理由
集英社オンライン / 2023年8月3日 10時1分
円安が進むとともに、円の購買力も年々、低下の一途をたどっている。平均賃金でも日本は韓国、イスラエルに続き、スロベニアなどの中東欧諸国に次々に抜かれている。国民の高齢化、人口減少に歯止めがかからない日本は国際社会の中でどう生き残っていくべきなのか。元日銀で第一生命経済研究所首席エコノミストの熊野英生氏の「インフレ課税と闘う!」より一部を抜粋、編集してお届けする。
スロベニア、リトアニアにも抜かれた日本の平均賃金
円安が進んで、輸入物価が急上昇している。これは、円の購買力が低下して、ドルと交換できる円の数量が増えるという「交易条件」の悪化が起こっているということでもある。交易条件の悪化は、日本で働いて稼いだ給料で、どのくらいの輸入品が買えるか、という購買力の低下をも示している。
OECDは、2021年までの平均賃金の34か国の国際比較データを示している。これはドルベースで換算してある。日本は、2021年は34か国中で24位である。順位が下位の方にあることは今に始まったことではないが、1991年から見ると時間とともに順位が落ちていることがわかる。
1991年13位(23か国中)、2000年18位(34か国、以下同)、2010年21位、2015年24位、2021年24位である。この間、2013年に韓国に抜かれた。2018年にはイスラエルに抜かれた。驚くのはOECDに加盟した中東欧諸国に次々に抜かれていることだ。2016年にはスロベニア、2020年にはリトアニアに抜かれている。
中東欧のOECD加盟国の平均賃金を見ると、日本に接近する国々として、ポーランド(2021年の日本との差17.1%)、エストニア(同18.3%)、ラトビア(同22.0%)、チェコ(同22.3%)が挙げられる。これらの国々には追いつかれる可能性がある。
このランキングの前提になる為替レート(購買力平価)は、2021年1ドル102.1円で計算されている。仮に、為替レート(実際のレート)が2023年に130円になると、日本のドル建ての平均賃金は、27%ほど低下する。すると、ポーランドなどの中欧や東欧の国々にも抜かれてしまう。
日本のランキングは、為替次第でもっと低くなる。日本の賃金が円安によって割安になるのを見ると、「安い日本」もここまで来たかと思わせる。
イタリア、スペインほか平均賃金が増えない国の共通点
では、日本を抜いていく中東欧の国々と日本の違いは何であろうか。それは、円安もあろうが、成長する国と成長しない国の違いである。残念ながら、日本は成長が止まった状態が長く続いて、平均賃金が追い抜かれた。
OECD加盟国の平均賃金の推移を見ると、ほかにも日本と同じように平均賃金が増えない国があることに気づく。イタリア、スペイン、ポルトガル、ギリシャである。南欧諸国の4か国は、日本に似ている。
日本と南欧4か国の共通点は、まず政治的基盤の類似性が挙げられるが、それを除くと人口高齢化率が高いことである。日本は世界一で28.7%(直近2022年12月29.0%)。それに続き、イタリア(23.6%)、ポルトガル(23.1%)、スペイン(20.3%)となっている。
この高齢化率は、その国の平均年齢とも重なる。日本は、全人口の平均年齢(中央年齢)は48.4歳(2020年)で、世界一である(国際機関の比較データでは、55.4歳のモナコが1位で、日本は2位というものもある)。
平均年齢が上がると賃金が下がる理由は、賃金の低いシニア労働者が多く労働参加していて、その人たちが非正規形態、あるいは自営業で働いていることの反映だろう。同じようなことが、南欧諸国にもきっとあるのだろう。
翻って、日本は、人口が減少しているからこそ、生産性を引き上げて同時に平均賃金も上げなくてはいけない。そうしなければ、人口×一人当たり所得=総所得は増えていかない。生産性とは、「稼ぐ力」だ。
しかし、人口減少と同時に起こっている高齢化は深刻だ。人件費に占める7割強の部分は、中堅・中小企業である。この中小企業こそ、従業員の高齢化が進んでいる。従業員が高齢化しても、その中小企業が年々、生産性を上げられるように、政府は、成長戦略を考えなくてはいけない。
文/熊野英生 写真/shutterstock
インフレ課税と闘う!
熊野 英生
2023年5月26日発売
1,980円(税込)
四六判/344ページ
978-4-08-786138-9
もはやインフレは止まらない!
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30年以上、ずっとデフレが続いた日本も例外ではなく、ここ数年来、上昇してきた土地やマンションなどの不動産ばかりでなく、石油や天然ガスなどのエネルギー価格が高騰したため、まずは電気料金が上がった。さらに円安でも打撃を受け、輸入食品ばかりではく、今や日常の生鮮食品などの物価がぐんぐん上がりだした。2021年までのデフレモードはすっかり変わり、あらゆるものが値上げされ、家計にダメージが直撃した。
これからは、「物価は上昇するもの」というインフレ前提で、家計をやりくりし、財産も守っていかなければならない。一方、物価の上昇ほどには、給与所得は上がらず、しかもインフレからは逃れられないことから、これはまさに「インフレ課税」とも言えるだろう。
昨今の円安は、海外シフトを進めてきた日本の企業にとってもはや有利とは言えず、エネルギーや食料品の輸入が多い日本にとっては、ダメージの方が大きい。日本の経済力も、かつてGDPが世界2位であったことが夢のようで、衰退の方向に向かっている。日銀の総裁も植田総裁に変わったが、この金融緩和状況はしばらく続きそうだと言われている。
しかし日本経済が、大きな転換点に直面していることは疑いもない。国家破綻などありえないと言われてきたが、果たして本当にそうなのか?
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